こんにちは、ライターのISOです!

間違えました。

シーサーにこの背景。そう、沖縄に来ました!!!!

いつか取材で沖縄に行きたいと願っていたけれどまさか叶うとは。これが引き寄せの法則というヤツなんでしょうか…。

もちろん遊び目的ではなく、取材をしたかった場所があるんです。それが那覇市にある映画館「桜坂劇場」!

ここは沖縄の映画好きと話をすると、必ず話題にあがる映画館なんです。その絶対的な理由の一つが圧倒的な作品の充実っぷり。試しにHPを見てみてると、2024年末〜年明けにかけての上映プログラムがこちら。

https://sakura-zaka.com/#live-event

多っ!! この時期は約20作品が上映中。これを4つのスクリーンで回しており、話題の作品からリバイバル作品、知る人ぞ知る一作まで隙がありません。

さらにライブイベントやワークショップ、沖縄語(ウチナーグチ)学校も開催。加えて雑貨や古本、焼き物などの沖縄クラフトを扱う「ふくら舎」や、がっつり食事もできるカフェ「cafe さんご座」も併設しています。ここでなら一日中過ごすのも楽勝そう。

 

大手傘下ではないミニシアターでありながら、どうしてこれだけ多くの作品を上映し、幅広い分野に取り組んでいるのでしょうか?

いったい桜坂劇場とはどういう場所なのか。支配人である下地久美子さんに伺いました。

 

あらゆるお客さんを大切にしたら作品数が日本最多級に  

「壁に上映スケジュールが掲示されていますが、改めて桜坂劇場って上映作品数がとんでもなく多いですよね。今日だけで23作品も!」

「改装をして2024年11月からスクリーン数を3つから4つに増やしたんです。だから作品数も前より更に増えていますね」

「作品数でいけばシネコンを含めても全国イチじゃないですか」

「どうなんでしょう。でも負けたくないなとは思ってます(笑)」

「そしてジャンルの幅もすごく広い。たとえば東京だと特定のジャンルや作風の作品に特化した劇場が多い印象ですが、桜坂では話題のヒット作から自主制作映画、日活ロマンポルノまで扱っているとか」

東京のミニシアターの特色を全部混ぜたような存在になれたらなと。アート系から派手な大作、血みどろのスプラッターやアニメなど、それぞれ好きなジャンルのある人が『桜坂は私が好きな作品をやってくれる』と思ってくれるようなラインナップを常に考えています

「都心と地方でエンタメにおける格差も大きいなかで、あらゆる作品を上映してくれる映画館の存在は本当にありがたいですよね。僕の地元では観たい映画をほぼやっていなかったので、桜坂の存在がすごく羨ましい」

「それはすごく意識していますね! 沖縄に住んでいる方が『私の観たい映画はどうせ沖縄ではかからない』と思ってしまわないようにしたいんです」

「ありがたすぎる! ラインナップを観ていると、桜坂劇場が沖縄におけるミニシアター系映画の受け皿となっているのがわかります。大ヒット中の『侍タイムスリッパー』も上映していたり」

「『侍タイムスリッパー』はうちでもすごい人気でしたね。皆観ながら大笑いしていて、出てくるお客さんもすごく楽しそうなんですよ。このカフェスペースで映画を語る会が発生していたり(笑)」

「良い話! カフェスペースがあるのも特徴的ですよね」

「大きい映画館だとなかなかゆっくりできないところも多いですが、うちでは観終わったあとに映画について会話してほしいなと思って。だからカフェスペースで感想を語っているお客さんたちを見ると嬉しいですよね」

「地域の憩いの場としても機能しているんですね」

「作品選びは誰がやられているんですか?」

「私です。作品のジャンルや規模感、反響などを見つつ、バランスを考えながらラインナップと上映時期、タイムテーブルまで考えるようにしています」

「映画鑑賞料金にも驚きました。年間会員(※)がすごくお得で、僕が近所に住んでたら毎日来るかも!」

※一般会員は2000円で入会可能

「物価は上がってますけど、皆の生活は決して楽になっていないじゃないですか。日常を忘れるために映画を観たいのに、『2000円も払わないと日常を忘れられないの?』って私自身も思いますし。せめて会員料金くらいはお手頃価格で、と思っています」

「確かに気軽に行ける趣味ではなくなりつつありますよね」

「そうなんです。でも映画は庶民のための娯楽であって欲しいし、会員になれば習慣性も生まれるかもしれません。映画を楽しんでくれる人が増えることで、文化を育てるお手伝いができたらなと」

 

映画を観るだけでなく、沖縄の文化を再発見する場に

「桜坂劇場ではライブやお笑いイベントも開催されていますよね」

「もともと桜坂劇場は『映画館ではなく劇場である』というコンセプトでオープンしたんです。だからライブを開催して、ショップやカフェも併設するというスタイルは最初からでした」

「『映画館ではなく劇場』。桜坂劇場のスタンスが胸にストンと落ちました。2階にはスクリーンに加え、たくさんの焼き物が売られてありますが、それも元からなんですか?」

「もともと2階には中古レコード屋さんが入っていて、そこが撤退した2011年に沖縄クラフトを扱い始めました。焼き物は沖縄クラフトの中の一つです」

「レコードは映画との繋がりも強いので分かるんですが、なぜ映画館に焼き物を?」

「代表も私も焼き物好きなんですよ。沖縄の焼き物は『やちむん』と呼ばれる伝統工芸品で、あまり作家性には注目されませんが、つくる工房や作者によって全然違うんですよね。だからちゃんとセレクトして作家ごとに分けて置けば、沖縄の人も伝統的な焼き物に対する再発見があるんじゃないかなと。それで始めました」

「沖縄の人たちも、自分たちの文化を知るきっかけになるように」

「きちんといいものをセレクトすれば、焼き物の知識がなくても良さは伝わっている気がします」

「置いているのは基本的に沖縄のものばかりなんですか?」

「最初は沖縄の器ばかり置いていたんですが、最近は全国のものも取り入れたいなと思ってセレクトしています。沖縄で修行した県外出身の人が地元の土で作った、やちむんの流れを汲んだ県外の焼き物を扱ったり」

「焼き物だけでなく1階で売られている雑貨も魅力的だし、古本のセレクトもすごく面白いですよね」

「古本のセレクトは代表の趣味が出ていると思います。例えば漫画ならジャンプに載っていたようなものではなく、それのルーツになったような流れを感じ取れる作品が多いんじゃないかなと」

「最高のカルチャースポットだ。パンフレットを手にとって試し読みできたり、映画のサントラが買えるのも嬉しいですね」

「先日の改装のときに大きな棚を作ったり、カフェスペースの壁を壊して解放的にしたり、居心地の良い場所になってほしくていろいろ試行錯誤しています」

「映画とカフェとショップがシームレスに繋がっているから、これまで興味なかったカルチャーにもしれっと手が伸びちゃいそう」

「それは狙っていますね。ここから趣味が広がっていけば絶対に楽しいので!」

 

桜坂劇場のルーツは「芝居小屋」

「桜坂劇場が誕生したのはいつなんですか?」

「桜坂劇場が開業したのは2005年です。ただこの建物が出来たのは1952年で、もともと『珊瑚座』という芝居小屋だったんです。芝居小屋といっても芝居だけをやっていたのは最初の一週間くらいで、すぐ映画も上映するようになったそうですが」

「なんでそんな急な方向転換を?」

「芝居は生モノですし、運営が大変だったからかもしれませんね。その点、映画はフィルムさえあれば何回でも上映して良い素晴らしいメディアですから(笑)。珊瑚座では早い段階から映画と芝居の両立をしていたそうで、1953年には『桜坂琉映館』に改称しました」

「その柔軟な切り替えっぷりは見習いたい」

「聞いた話だと、役者が映画上映中に登場して芝居を披露することもあったとか」

「元祖3D映画じゃないですか!」

「もともと沖縄にはものすごい数の劇場が建てられたと聞いたことがあります。一時は200館以上あったとか」

「そうなんです。映画は儲かる産業だったんでしょうね。戦後、みんな生きるのに精一杯だった時代にたくさんの映画館ができたようなので、きっと人々が活力をもらうため映画を必要としていたんだと思います。当時はドルが使われていて、紙幣がドラム缶いっぱいになるくらい劇場の売上げもあったそうですよ」

「沖縄の映画文化はバックグラウンドがかなり異なりますよね。米軍基地がすぐ近くにあり、アメリカとの距離が近いからなのか」

「確かに沖縄には独特の文化や嗜好があると思います。たとえば沖縄では『エクスペンダブルズ』(2010)が全国的に見ても異例の大ヒットを果たして、東京の配給の人も驚いたりしていましたし」


最強の傭兵軍団の活躍を描くアクション映画。シルベスター・スタローンが監督・脚本・主演を務め、錚々たるアクションスターたちが出演する

「なぜ『エクスペンダブルズ』が…?」

「なんででしょうね。でも気持ちはなんとなくわかりますし、私も観て最高だなぁと思いました」

「ブルース・ウィリスやシュワちゃんをはじめ、アクション俳優が勢揃いで派手な作品ですもんね」

「建物は芝居小屋のときからあまり変わっていないんですか?」

「骨組みはそのままですが、何度か改装はされています。芝居小屋の時は1スクリーンに千人くらい入るような設計だったんです。桜坂琉映館は1986年に『桜坂シネコン琉映』としてリニューアルされて、その時に2階を増築したりスクリーンを増やしたりしたそう。そこは桜坂劇場が始まる前の2005年まで続いていました」

「前の映画館を、桜坂劇場が継いだのはどういう経緯なんでしょうか?

「桜坂劇場を運営している株式会社クランクの代表が、中江裕司という京都出身の映画監督なんです。大学進学で沖縄に来て以降、沖縄を拠点に映画を作ったり上映会の企画をしていた流れで、桜坂シネコン琉映とも交流があって。閉館の際にそこの社長から、何かここでできないかと相談を受けたそうです」

「前の社長からパスがあったんですね」

「公的な利用はできないかなと画策したそうですが難しかったようで。でもこのまま街から映画館をなくすわけにはいかないと、中江をはじめ有志でお金を出し合って会社を作り、桜坂劇場として新しくオープンすることになりました

「街のためを思って作られた劇場なんですね。地域に根ざし、愛されている理由が分かりました」

 

私欲からのバイト応募、そして支配人へ

「下地さんはどんな映画が好きなんですか?」

「フランシス・F・コッポラ監督が大好きなんですが、特に『ゴッドファーザー』(1972年)ですね。もう数え切れないくらい観てます。展開が分かっていても毎回『こう来るのか』と感動するんですよ。あと最近の映画ならビクトル・エリセ監督の『瞳をとじて』(2023年)が最高でした」

 

ニューヨークを牛耳るイタリア系マフィアの壮絶なドラマと絆を描く、映画史に残る傑作

「どっちも滅茶苦茶わかるなぁ。原体験となる映画は何だったんですか?」

寅さんです。うちの家族は正月に『男はつらいよ』 シリーズを観るというのが恒例で、ここにも寅さんを観に来てたんです。あと多感な時期に『さらば、わが愛/覇王別姫』(1992年)を劇場で観てすごく衝撃を受けました」


「フーテンの寅」こと車寅次郎が各地で騒動を巻き起こす人情喜劇。山田洋次監督×渥美清主演による、日本を代表するシリーズ映画

「セレクトが渋い…! やはり映画が好きだったから桜坂劇場で働き始めたんですか?」

「2007年にアルバイトとして入社しましたが、もともと映画が大好きで映画館で働きたい……という訳ではなかったんです。当時私は『何でもできるからやりたいことが決まるまでは適当でいいや』という謎の自信があった27歳で(笑)。『ビックになるぞ〜』とか言いながら県外で季節労働なんかをしていました」

「意外な経歴」

「私は下地イサムさんという宮古島出身のミュージシャンが大好きでして。イサムさんはここでライブをよくやっていたので、私も帰省した時に見にきたんです。その時に桜坂劇場の会報誌を読んで、流れでHPも見たらアルバイト募集中だったんですよ。それで『ここで働いていたらイサムさんに会える』と思って応募しました」

「私欲すぎる!」

「でもいざ働くとなったらイサムさんとお会いしたり、ライブの打ち上げに参加したりしても意外と分別をもって対応できるタイプだったみたいで(笑)」

ゲストで来た方々のサインが壁にびっしり

「バイトから支配人に成り上がったのもすごいですね」

「支配人といっても、すべてを一任された訳ではなくて『支配人を出せ』と言われたら出ていくみたいな役回りですよ(笑)。全然、支配はしていませんから。でも会社の取締役としても経営責任は負っていますし、仕事の量もかなりあるので重圧はありますね」

「かなりの規模の劇場ですし、映画選びや調整も担当するとなると滅茶苦茶大変ですよね」

『沖縄の劇場』という芯となる部分は大事にしつつ、やはりビジネスとして会社のことを考えないといけないですからね。スタッフの教育や働き方の管理もしないといけないし。あと焼き物の仕入れとかも」

「焼き物の仕入れもやってたんだ…。その中でやりがいを感じるのはどんな時ですか?」

「やっぱりお客さんが喜んでくれると嬉しいですよね。この間、井浦 新さんが舞台挨拶のため桜坂劇場に来てくれたんです。そしたらお客さんも朝から行列をつくって待ってくれて。店内はパニックでしたが、新さんに会えたお客さんの幸せそうな顔を見てたら本当にやってよかったなって。最近は劇場でそんな行列をなかなか見ないから」

 

映画文化を育む場所でありたい

「仕事量も多くプレッシャーも大きいと思いますが、映画館を維持する上で特に苦労していることは?」

お客さんが来ないこと!

「それはどの映画館も共通の叫びですね……。コロナによるパンデミック以前まで回復しないという話はよく聞きます」

「うちはもともとシニアのお客さんが劇場を支えてくれていて、大ヒットする映画もその世代が中心だったんです。でもパンデミックで途絶えてから、その層が戻ってきていない」

「全国的に同じ話を聞きますがなぜなんでしょうね」

「一度、足が遠のくと『なくても生きていける』となるのかもしれませんね。寂しいけれど。あと習慣化していたものをやめて、また始めてという変化の連続は年齢的に大変なのも理解できます」

「逆に、パンデミック以降でポジティブな変化はないんですか?」

「最近、東京のミニシアターで45歳以上くらいのマダム層が戻ってきたという話を聞いたんですが、うちでもその層が増えてきてるんですよ。マダムはお一人でご覧になることは少なくて、ご友人数名で連れ立ってご来場されて、鑑賞後もカフェで『泣かないで〜』とか盛り上がってくださったり。嬉しいですよね」

「確かにマダム層はファンになってくれれば、全力で応援してくれるイメージがあります!」

「でもやはり次の世代に映画文化を広めていくことも必要ですよね。映画好きになるまでいかなくとも、まずは観てほしい。映画を観る習慣のある人が増えれば、きっと映画業界は発展していくと思うので。だからスタッフの若い子にも話を聞きつつ、日々あの手この手で若い層を映画に引き込もうとしています」

「そのために会員料金も死守してくれている訳ですね。桜坂劇場が沖縄の映画好きに信頼されている理由が分かりました」

「信頼してくれている分、もっと来てくれてもいいんですけどね(笑)」

「最後に桜坂劇場の今後の目標はありますか?」

「まずは継続すること。今や配信の時代だけど、きっとこれからもうちを必要としてくれる人はいると思うので、しっかり応えていきたいなと。あとは新しいことにも挑戦していって、次の世代の映画好きが育つのに役立つ場所でありたいですね。ここで映画をたくさん観た子が映画監督になったりしたら最高です」

 

取材を終えて

桜坂劇場の幅広いスタンスは、培われてきた歴史と働く人たちの熱意が合わさってできたもの。地域の人々が協力してスタートした場所だけあり、沖縄の映画好きを大切にして育てていきたいという意気込みがひしひしと伝わってくる取材でした。

きっとこの映画館で育った若者が将来、映画業界で活躍するに違いありません。いやはや、桜坂劇場の近所に住む人が羨ましい!

ライブやイベントも面白そうなものばかりなので、今度は個人的に訪れてみようと思います。皆さんも沖縄を訪れた際にはぜひ訪れてみてくださいね。これまでに知らなかったカルチャーとの出会いをくれるかもしれませんよ。

取材協力:桜坂劇場
X:https://x.com/sakurazaka2005/
Instagram:https://www.instagram.com/sakurazaka.theater/

撮影:本永創太