
首里城からこんにちは、ライターのISOです。

突然ですが、皆さんはPodcastを聞いていますか?
お笑いに英会話、経済学に歴史やカルチャーまで、幅広い分野の猛者たちによるトークから、いろんな情報をインプットできる音声コンテンツ=Podcast。ジャンルの種類や視点が多種多様なうえ、通勤中や作業中など気軽に「ながら聞き」で楽しめるのがその魅力です。
いろんな番組を聞いてもっと思考の引き出しを増やしたい……と思いつつ、今やあらゆる番組がひしめきあうPodcast戦国時代。無数の番組のなかからどれが自分に合うかなかなかわからない。同じ悩みに頭を抱えている人もきっといることでしょう。そんななか、僕が好きで聞いている数少ない映画Podcastがあります。
それが「沖縄と映画と社会と」、略して「沖映社」。

https://open.spotify.com/show/0Z188I8e78XjrJ653OjtdZ
映画Podcastは考察や解説、批評を主とするものが多いなか、「沖映社」は映画に内包された社会性について、沖縄出身者の目線で語るという非常にユニークなもの。
たとえば、アメリカで勃発した内戦をジャーナリスト目線で描く『シビル・ウォー アメリカ最後の日』という映画の回では、内戦の同盟軍をオール沖縄にたとえたり、分断から前回の沖縄選挙に繋げて語ったりとその視点は唯一無二。
社会派と呼ばれる作品を多く扱うために作品選びも他と被らないし、スマートフォンアドバイザーのモバイルプリンスさん(以下、モバプリさん)と元新聞記者の物書きである真栄城潤一さん(以下、潤一さん)という、ふたりのMCも実に個性的。
僕が書いた記事に触れてくれていたことがきっかけで聞き始めたのですが、自分にはなかった独特な切り口で映画を解体していくのが面白く、いつの間にかヘビーユーザーになっていました。
それにしても、一体なぜ、このふたりは映画を介して社会を語るのか。
Podcastを始めた経緯や社会課題に切り込む理由、沖映社が目指すコミュニティについてなど、詳しくお話を聞いてきました。
<この記事のハイライト>
・映画を自らの体験に手繰り寄せ、沖縄目線で語るPodcast
・男性同士がシラフで語れる場で、雑談を通じて映画を咀嚼する
・沖縄出身のふたりが不平等について発信する理由
・音楽家にダイニングバーまで、いろんな縁と支えでつくられる沖映社
・「好き」を仕事にせず、誰にも開かれたコミュニティとして続けていく
映画を自らの体験に手繰りよせて、沖縄目線で語る

ISO:まず「沖縄と映画と社会と」略して「沖映社」ってどんなPodcastなんでしょうか?
潤一さん:毎回Podcastの冒頭で説明してますが「さまざまな映画作品に社会性を見出し、時にはこじつけ、感想や見どころなどについて沖縄出身の二人からの視点で語る番組」です。要は映画を“ダシ”に社会や政治の話をちゃんとしていこうと。といってもお堅い感じではなく、あくまで沖縄の生活者としての目線で語り合っています。
モバプリさん:語りすぎて、たまに映画本編よりも長いエピソードになっていることがあります(笑)。 あとは、映画からメッセージを読み取ろうとしすぎて「いかん、これ以上は陰謀論めいたことになってしまう」と冷静になったり。
ISO:町山智浩さんの「アメリカ流れ者」やポップカルチャー情報サイトIGNがやっている「IGN JAPAN 銀幕にポップコーン」など、いろんな映画Podcastがありますが、スマートフォンアドバイザーと元記者・現ライターの組み合わせってかなり独特ですよね。もともとPodcastに馴染みはあったんですか?
潤一さん:僕はラジオで音声コンテンツを摂取していたので馴染みはありましたね。宇多丸さんの存在は大きいですが、最初に触れた映画批評家である町山智浩さんの影響もあります。
ISO:宇多丸さん&町山さんがきっかけで映画批評に触れた人は多いですよね。
モバプリさん:ただ我々は映画を生業にしているわけじゃないので、あくまで感想から広げていく。批評や解説はほかのPodcastがすでにやっているので、僕らは映画を観て自分たちの社会や体験とどう結びつくのかを考える。さらに「沖縄で考えると?」と、ややこじつけ気味で話す。それが楽しいんですよ。
権威主義的な大統領が指揮する連邦政府と、カリフォルニア州とテキサス州の同盟軍による内戦が勃発したアメリカ。4人のジャーナリストは、敗色濃厚な大統領に取材を行うためワシントンD.C.へ向かうが……。衝撃の戦争ロードムービー

ISO:社会的な目線で映画を選んで語るPodcastってありそうであまりないですよね。それを主軸に作品を選ぶと再生数が期待できないからなのか。
モバプリさん:確かに取り扱ったなかでも、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』や『ラストマイル』のような話題作はPV数が露骨に多いですからね。だからPV数を狙った作品選びもできそうだとは思いつつ、沖映社はあくまで「社会的」という部分に重きを置いて数字は気にせずやっています。
ISO:ふたりが『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を太平洋戦争の反省と家父長制という角度から語っていたように、話題作でも社会的な視座がある作品もあるけど、「社会派」と呼ばれる作品はどうしてもミニシアターのほうが多いですもんね。再生数を気にしてばかりだと、なかなかそういう作品をセレクトできなくなりそうだし。
モバプリさん:仕事であれば最低限意識せざるを得ないとは思いますが、僕らはそうではないので。収益化も考えていませんし。
潤一さん:自由に語るために始めたのに、何かを気にして言葉を紡ぐようになったら本末転倒ですから。
男同士がシラフで語れる場所の重要性

ISO:ふたりはどういう関係なんですか?
潤一さん:もともと顔見知り程度の関係だったんですが、Webメディアの懇親会で一緒になったときに映画話で盛り上がりまして。宇多丸さんのラジオファン同士と、ルーツ的に近いものもありますし。仲良くなったのはわりと最近です。
ISO:そこからどういう経緯でPodcastを?
モバプリさん:もとから映画好きではあるんですが、仕事や子育ての状況次第で映画を大量に観る時期と全然観られない時期があって。でもどうせなら習慣として映画を観たいし、きちんと咀嚼して考えたいと思っていたんです。そんなときに話題になったのが是枝裕和監督の『怪物』でした。
郊外の町で起きた子ども同士のケンカが、やがて社会を揺るがす事態へと発展していく……。同一の出来事を三人の視点から描く是枝裕和監督作品
モバプリさん:それで潤一さんを誘って観に行ったんです。観賞後、喫茶店で2時間くらい話が盛り上がって、そのなかで自分のなかでの理解も深まった。前から一緒に何かしたいなと考えていたこともあり、「この会話をPodcastにすればいいのでは」と思って沖映社を始めることにしました。
潤一さん:以前noteにも書いたんですが、男同士がシラフで社会のことについて語れる場所は大事ですからね。そういう意味でも良い機会だなと思いました。

ISO:つい飲み会になりがちですけど、茶飲み話も意外と深いところまでちゃんと話せますよね。Podcastというプラットフォームを選んだ理由は?
潤一さん:動画や記事に比べて、シンプルに制作が楽だから(笑)。手間をかけたくないので、僕らは収録したものを基本的に編集せず、録って出しなんですよ。
モバプリさん:ふたりとも宇多丸さんのラジオが原体験としてあり、映画を語る=ラジオという感覚だったということも大きいです。
ISO:「さまざまな映画に社会性を見出し沖縄目線で語る」というコンセプトはどのように生まれたんでしょうか?
潤一さん:意識して社会の話をしようというより、どちらも社会や政治のことに興味があるので、僕らが揃うと気付くとそういう話になっているんです。しかも沖縄からエンタメと社会を組み合わせて発信している人ってあまりいないなと思って、ならそれを主軸にしようかと。
ISO:「沖縄と映画と社会と」略して「沖映社」というタイトルはどのように決めたんですか?
モバプリさん:すんなり決まりましたね。「伊集院光とらじおと」に影響されたのかもしれない。
潤一さん:那覇市に「沖映通り」って通りがあるんですよ。沖縄が本土復帰する前は、映画を上映するためにはフィルムを輸入する必要があったんです。本土に行くのにもパスポートが必要だったから。その輸入会社や劇場があったということで名付けられたのが沖映通り。だから沖映社って過去にあるかもな……って思って調べたんですが、なかったので即採用しました。
沖縄とフェミニズム。不平等に対する意識は応用がきく

ISO:家父長制や「有害な男らしさ」のような悪しき価値観やフェミニズムに関するお話を番組内でよく話していますが、そういった題材には昔から興味があったんですか?
モバプリさん:僕は以前、芸人の「せやろがいおじさん」とその週にあったことを喋るYouTubeのラジオ番組をやっていたんです。そこでも男同士で真面目に社会問題について語り合うということはやっていたので、それが大きかったかもしれない。
潤一さん:僕は記者時代、とりわけ警察担当だったときの経験が大きいです。
2016年に起きた米軍属の元海兵隊による女性強姦殺人事件を最初から追っていたんですが、普通は「なぜ女性が夜に出歩いているだけでそんな目に遭わないといけないのか」と思いますよね。でもSNSなどでは「夜に出歩くほうが悪い」と理不尽なことをいう輩が大勢いる。
そういう状況を目の当たりにして以降、フェミニズムに関する本をよく読むようになりました。
モバプリさん:フェミニズムやジェンダー平等に対して意識が高い人が男女問わず若年層に増えていると感じるんですが、そういった不平等に対する考えっていろんなことに応用がきくと思うんです。
「沖縄っていろいろ押し付けられているけど、それは個人にいろいろ押し付ける家父長制と一緒だよね」というように。だから僕たちは他の不平等について発信するし、逆に格差や差別に問題意識を持つ若い子たちが沖縄について発信してくれているなということも、最近は特に感じます。

ISO:本土の人と話をしていて、映画の捉え方が違うなと感じることはありますか?
モバプリさん:潤一さんとも意見が異なることがあるように、沖縄の人同士で話していても皆感想は違うので、「本土だから」というのは特に感じません。
映画って2時間もの間、自分からは遥かに遠い人物の感情にも入り込めるじゃないですか。危うさを帯びることもあるけど、それがエンタメの力だと思うんです。だから自分と境遇は違っても、共通点を見出すことはできる。
潤一さん:でも着眼点は少し変わるかも。たとえば『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で鳴り響く戦闘機の爆音に聞き馴染みがあったり。いろんな映画に出てくる米軍車両も見慣れていますしね。それは沖縄の人なら言語化していなくとも皆感じていると思います。
モバプリさん:確かに『トップガン マーヴェリック』の冒頭で、トム・クルーズが無茶をして戦闘機を墜落させる部分がギャグとして描かれていたのには腹が立ちましたね。
潤一さん:沖縄近海でしょっちゅう起こっていることですからね。
モバプリさん:あと以前、米軍基地から有害物質を含んだ泡が基地外に流出したという事件があったんです。
どうやらコロナ禍の最中、国外から基地に来て隔離されていた米兵たちが、士気高揚のため格納庫でBBQをしたらしくって。その煙に消火剤の泡が出てきたけど、誰も止め方がわからずあたふたするだけだったとか。それを聞いてから、僕は映画で“最強の米兵”という描写を観ても「本当かよ」と疑ってます(笑)。
ISO:めっちゃアメリカっぽいエピソード。

潤一さん:本土の人と映画の感想を話していて大きな違いを感じることはないけど、沖縄を描いた作品に違和感を覚えることはありますよね。映像作品をつくるにしても、たとえば沖縄市・コザの街並みを映すだけでも歴史や米軍の影響は無自覚に入り込むんですよ。
エンタメとして消費することが悪いとは思わないけど、そこは自覚したうえでつくってほしいとは思います。
モバプリさん:もちろん沖縄の人でも考え方にグラデーションがあるので受け取る人にもよりますが、「沖縄のリアル」というキャッチコピーで売り出されている作品を期待して観たら、大事な要素がすっぽり抜けていると感じることもありますよね。
潤一さん:社会問題に切り込んでいます、という顔でエンタメとして搾取するのが一番質が悪いです。
ISO:個人的な印象ですが……沖縄が題材の映画って作り手もターゲットも年齢層が高めですよね。
潤一さん:そもそも沖縄を扱う作品ってドキュメンタリーばかりなんですよ。マイノリティが自分たちをエンパワーメントするためにつくる作品って属性に関わらずあると思うんですが、沖縄からそういう作品はなかなか出てこない。
僕はアート系の人とも仕事をすることがあるんですが、沖縄のアートも映画同様にドキュメント的なものが多く表現が少ないと感じています。
ISO:それはなぜなんでしょうか?
潤一さん:良くも悪くも沖縄を背負いすぎてたり、戦争や戦後間もない頃の苛烈な時代を知っている上の世代からの「もっと沖縄を表現すべき」という重圧に押しつぶされていく人が大勢いると思うんですよね。
特に今の沖縄には30〜40代で活躍している表現者は多くない。でも20代以下の世代は僕らとまったく違う感性で沖縄を捉えている感じがあるので、映画にしてもアートにしても新たな表現者が出てくるのではと期待しています。
機材はHYのプロデューサーが寄贈⁉︎ 元芸人と元バンドマンのPodcastが目指す今後とは
あわせて読みたい
この記事を書いたライター
奈良県出身。メインジャンルは映画。雑誌やWEBメディア、劇場パンフレットなどで映画評やインタビューなどを執筆。時折ラジオにも出没。映画以外には風呂、旅行、猫、アメリカ、音楽、デカ盛りも好き。経費でアメリカに行きたい。 note:https://note.com/iso_zin_


































