
ライターの小林です。今年、僕は35歳にして初めて金髪にしました。

金髪になって、ちゃっかりキメてる僕
いざ金髪にしてみると、気分が変わるものですね。髪を染めて初めて保育園に娘を迎えに行ったときには、園児たちが「金髪が来たぞ!」と集まってきて人気者になる経験もしました。
一方で、悩んでいるのがスタイリング剤。剛毛・多毛に、ブリーチによるダメージが加わって髪の毛はパサパサに。ワックスだと上手くセットできないので「とりあえずウェットなスタイリング剤にすればいいか」とドラッグストアに行ってみると、ジェル、ウォーターワックス、グリース、ヘアゼリー、グロス……もう種類が多すぎて何が何だか!
昔って、ワックスかジェルくらいじゃなかったっけ? こんなにスタイリング剤がある中で何を選べばいいの〜!
そこで、今回はジモコロ編集長・友光だんごを連れて、おしゃれ美容室が建ち並ぶ渋谷へ。

話を伺ったのは、渋谷で5店舗の美容室を展開するLECO代表の内田聡一郎さん。

実は内田さん、僕が中学生のときに一世を風靡したファッション誌『CHOKi CHOKi(チョキチョキ)』で“おしゃれキング”と呼ばれる読者モデルとして絶大な人気を誇っていた憧れの人。胸の高鳴りが止まらない中、取材がスタートしました。
話を聞いていくうちに、次第に話題はスタイリング剤から、美容師さんとの関わり方にまで発展。その一部始終をご覧ください。
「カリスマ美容師ブーム」期に多様化したスタイリング剤

写真左から内田さん、ライター・小林、編集・だんご
「あの、何で今こんなにスタイリング剤って増えているんですかね? 昔はワックスかジェルくらいしかなかったような……」
「シンプルに言うと、メーカーが差別化を図った結果なんですよね。たしかに昔はワックス、ジェル、ポマードくらい。でも、そこから後発で商品を出そうとすると、何かしら差別化しないといけない。そこで、呼び方すら変えて新しいカテゴリの商品として提示してきているんです」
「と、すると、中身はそれほど大きな差異はないけれど、呼び方が違うスタイリング剤も出てくる……?」
「正直なところ、そういう商品もあるかもしれないですね。その結果、消費者側からしたらなんでこんなにたくさんの種類があるの? という状態に感じてしまうという」

「ちなみに、そうやってスタイリング剤の種類が増えてきたのって、いつ頃なんですか?」
「あくまで僕の肌感ですが、2000年代〜2010年代じゃないかなと思うんです。つまり、美容全盛期。もっともヘアカタログが世に出ていた時代ですね」
「ヘアカタログ、当時はたくさんありましたね! まさにその頃、僕も内田さんが登場していた『CHOKi CHOKi(チョキチョキ)』を貪り読んでいました」
「カリスマ美容師ブームみたいなことも言われていましたよね」
「あの頃に美容産業がぐっと盛り上がって、市場がつくられていったと思うんです。
消費者の側は、髪に対する感度が高くなり、『スタイリング剤にもこだわりたい』というニーズが出てきた。美容師の側は、望むヘアスタイリングを表現するにはドラッグストアで買える市販のスタイリング剤では物足りなくなってきた。そこで、美容室でしか基本は購入できない『サロン専売品』というジャンルも登場しました」
「僕の学生時代はスタイリング剤を美容室で買うヤツがおしゃれというムードがありましたね……あれも美容全盛期の流れだったのか」
美容師は「スタイリング剤のソムリエ」?

「ちなみにサロン専売品って、市販のスタイリング剤と何が違うんですか?」
「当然ながらセット力や質感、キープ力など、それぞれのバロメータが市販品よりも優れていることがひとつ。あと、とにかく種類が多いです」
「種類が多い?」
「たとえば、同じメーカーでも市販品では1種類しか出していないカテゴリに、サロン専売品では5種類くらい出しているところもあります。つまり、それだけきめ細かいニーズに合わせてスタイリングできるということ」
「でも、それだけ細分化されていたら、ますます自分にどんなスタイリング剤が合っているかわからなくなりそうな……」
「だからこそ、美容師がいるんです。美容師は“スタイリング剤のソムリエ”だと思ってください」


「スタイリング剤のソムリエ!」
「世の中には、いろんな優れたスタイリング剤があります。美容師は、その細かな差異を理解した上で、その人に合った一点を選んでおすすめすることができますから」
「たしかに、自分に合うスタイリング剤は、髪のプロに選んでもらった方が安心だよなぁ」
「美容師としては、美容室でスタイリングした髪型を、翌日以降もお客さん自身で再現してもらいたいじゃないですか。となると、そのために最適なスタイリング剤は、担当した美容師がわかるはずなんです」
「昔の『ワックスか、ジェルか、ポマードか』みたいな時代から選択肢が圧倒的に増えた分、上手くいけば自分にぴったりなスタイリング剤が見つかるけれど、一方で自分に合っていないスタイリング剤を使ってしまう人も増えていそうですね」
「そうなんです。実際にその髪質に、そのスタイリング剤はちょっと違うかもといったケースはよくあるんですよね。だからこそ、僕たちもお客さんに合ったスタイリング剤を選ぶ精度を上げるサポートができたらと思っています」
美容師には、見栄を張らないのが吉

「ここまでの話って、スタイリング剤だけじゃなくて、美容師選びにも通じることだと思うんですよね」
「と、いいますと?」
「2000年代〜2010年代の美容全盛期って、理想のヘアスタイルがかなり画一的だったと思うんです。少なからず流行があって、アイコンとなるモデルがいて、『このヘアカタログの、この髪型にしたい!』というオーダーばかりでした。
でも、今はヘアスタイルの流行がない。『自分に合う髪型にしたい』というオーダーが主流です」
「たしかに『平成っぽい髪型』って何となくイメージできるけど、『令和っぽい髪型』ってないですね……」

「さらに美容師も、SNSの登場で、技術や実績があればサロンの看板がなくとも直接お客様とつながることができるようになりました。実際にサロンに所属せず、フリーランスで活動する人も増えています。つまり、『個人対サロン』だったのが『個人対美容師』になっているんです」
「すると『自分に合うスタイリング剤は何か』だけでなく『自分に合う美容師は誰か』を考えないといけなくなっている……?」
「そうですね。自分にピンポイントで合う美容師が見つかるチャンスは増えたものの、一方でSNSでの発信力と施術の技術が噛み合っていない美容師がたくさんいるのも事実です。人目を引いて、集客することばかりに気を取られ、担当したお客様とトラブルになってしまうケースも増えているんですよね。
『簡単!20秒ヘアスタイリング』みたいな動画がSNSでよく流れてきますけど、これは絶対に無理じゃないかなって思っちゃうものもあります(笑)」

「となると、自分に合う美容師さんを見つけるのって難しそうだなと思ったんですが、どうしたらいいんですかね?」
「ひとつは、ちゃんとコミュニケーションを取ることでしょうか。美容室に行って『こういう髪型にしたい』と画像を見せて、『じゃあそうしましょう』とすぐにならないのが理想です」
「そうなんですね⁉︎ もっと細かく注文しちゃっていいってことですか?」
「そうです。なぜその髪型にしたいと思っているのか、今日の服装は普段のファッションと違うのか、なぜ数ある美容室からここを選んできたのか、なぜこれまでのヘアスタイルを変えたいと思っているのか……その人に合うヘアスタイルを提供するため、僕たち美容師はいろんなことを考えてから施術に臨んでいます。
だから、より精度を上げるための情報として、お客さんからいろんなことを教えて欲しいんです」
「そこまで考えてくれていたんですね。知らなかった。もっと気軽に色々言っていいんだ」

「コミュニケーションを通じて理想のイメージをすり合わせられた結果、プロの視点から見て、用意してきた画像よりもお客さんに合うヘアスタイルを見つけられるかもしれませんから。そうした会話の際に、スタイリング剤の相談もしてもらえたら、僕たちは全力でお答えしますよ」
「カットやカラーが終わってスタイリングしてもらうとき『普段、どんなスタイリング剤使ってますか?』という会話がありますよね。あそこでつい見栄を張って、普段あんま使っていないスタイリング剤を言っちゃうことがあるなぁ」
「めっちゃありました。あそこは相談のチャンスだったのか……」
「お客さんが最も求めているのがコスパなら、全然それでいいんです。『ヘアセットはしたくない』でも構いません。それに合わせて、美容師が髪質に合ったリーズナブルなスタイリング剤を教えたり、極力スタイリング不要なヘアスタイルを提案したりできますから」
「そこまで腹を割って言ってもいいんですね」
「もちろんです。僕たちは明日からお客様が本当にできること、実際にやってくれそうなスタイリングを一番提案したいんです」
ヘアスタイルは、自分と美容師との共同作業で成立する

「話を聞いていると、お客さんである僕たち側が美容師さんに委ねすぎてもよくないんだなって思いました」
「普段のライフスタイルや『こうしたい』という考えをちゃんと伝えてもらえることで、初めて美容師側もパフォーマンスを発揮できると思うんです。
美容師が切ろうが染めようが、あなたの髪は、あなた自身のもの。そこに意思を持ってもらいたいんです。美容師は、それをかたちにするお手伝いをしているに過ぎません」

「髪を切ることって、実は、自分と美容師さんとの共同作業なんですね」
「はい。自分に合うヘアスタイルになりたいと思うなら『こんなムードが素敵だと思う』『こういう印象が欲しい』といった美意識を持つこと。そして、そんな姿を手に入れようとすること。それが理想なんです。努力すれば、必ずできますから。そして、やりやすい努力の方法を僕たちが考えます」
「なるほど。『カリスマ美容師に全部お任せしたら、なりたい自分に変身!』みたいなことは、あまり期待しない方がいいかもしれないですね」
「そうですね。マイルールを持っていたり、意思が強かったりする人の方が、『これは腕の見せどころだ』と、僕たちも一段ギアが上がります(笑)」

内田さんが開発アドバイザーを務める、アリミノ社のスタイリング剤「dance」シリーズ
「ただ、そこまで上手く自分の意思を言語化できない場合ってどうしたらいいんですかね?」
「こうしたい! という具体的な要望じゃなくても、『こういうのは好みじゃないかも』くらいの小さな違和感でも大丈夫です。それをヒントに少しずつコミュニケーションを取りながら、しっくりくるスタイルを一緒に探していけばいいので。
初回はまだお互いの理解が深まっていない状態。何回か髪を切って、コミュニケーションを重ねれば重ねるほど、自分に合うスタイルに近づけると思います。僕もカットの前のヒアリングはすごく重視しているので」
「これまで髪を切るとなると、美容室に行くときの『点』でしか考えていなかったなぁ。手に入れたスタイルを翌日以降どう維持するか、定期的に美容師さんとコミュニケーションを深めていくかという『線』で考えると、どんどん自分がなりたい姿に近づいていくのかもしれないですね。そうなると、美容室で得られる力って大きそうだ」
「そうだと思います。美容師って、お客さんにとってのメンターみたいな存在にもなれると思うんです。
美容室では『こんなヘアスタイルにしたい』の裏側にある、心の内面を話すことにもなるじゃないですか。身内でも友人でもないけれど、たまにじっくり会話する人。そんな絶妙な関係性だからこそ、話せることもあるはず。
1〜2カ月に1回、そんな会話の時間を取って、外見もアレンジする。そうすると、当然気分も変わるはずなんですよね。『美容室でヘアスタイルを変える』ことの力を舐めちゃいけないと思うんです」

「たしかに数年に1回はるばるパワースポットに出かけるよりも、1〜2カ月に1回定期的に美容室に行った方が、もしかしたらいい気分でいられるかもしれないですね。今日はありがとうございました!」
おわりに
年を重ねる中で、僕自身、美容室に行く楽しみが増しています。
辛いことがあったとき、山奥の美容師さんのところに行って、風景を楽しみながら髪を切ってもらったら気持ちがスッキリしたこと。たまたま学生時代に住んでいた街に出張する機会があった際、当時担当してもらっていた美容師さんに10年ぶりに髪を切ってもらって、思い出話で盛り上がったこと。
単に「髪を切る」以上の価値が、美容室に行くというイベントにはありました。美容師さんとのコミュニケーションを育むことで、きっと人生の楽しみは増えていくのでしょう。
中学生だった約20年前、ファッション誌を通じて僕に美意識を与えてくれた憧れの美容師さんから、大切なことを教わった取材でした。
撮影:番正しおり
編集:友光だんご





































