みなさん、私、最近ヨーグルトがでかい気がしてるんです。

なんだかスーパーでちらちら視界に入ってきてるなあとは思ってたんですけどね、SNSで知人が「おいしい!」と書いててようやく認知しました。でかいヨーグルト流行ってますね。

こういうパウチに入ったやつです

なんでヨーグルトでかくなったんや……と思って買ってみまして。1000円を超えてくる値段なので期待しながら食べてみたら、「ソ、ソフトクリームみたい……!」としっかり(衝撃を)食らってしまいまして。

写真右が「リッチモ」

それで一体どういう商品なのか話を聞いてみたくなったんです。というのは、衝撃を食らったヨーグルト「リッチモ」を作っているメーカーが、「フジッコのおまめさん♫」というフレーズのCMで有名な「フジッコ」。

あのフジッコがなぜヨーグルトまで手がけてるのか、そしてリッチなヨーグルトがなぜこんなに増えてるのか聞いてみたら、背景にあったのは伝説めいた長寿の旅でした。

話を聞いた人:フジッコ株式会社ヨーグルト・デザート事業部の敷田加寿美さん

 

リッチモってありますね

──なんかスーパーにでっかいヨーグルトがあるなあとは思ってました。フジッコさんは『リッチモ』というのを出されてるんですね。

敷田:2025年の9月の下旬に発売したばかりなんですけれど、パッケージが大きいので目に入りやすいですよね。

そもそもパウチ系の大きいヨーグルトの先駆けは「岩泉ヨーグルト」さんという風に聞いてるんですけど、岩手県のメーカーさんが発祥だそうです。

よく見るパウチの「岩泉ヨーグルト」「湯田ヨーグルト」はどちらも岩手県の会社

──あー、パウチっていうんですね。袋状の。じゃあジャンルとしてできあがりつつあるんですね、パウチ系ヨーグルト。

敷田:今、品揃えを増やされてるスーパーさんが多いですね。

 

ヨーグルトは朝を脱出するポテンシャルがある

──どういう流れでこの『リッチモ』を作ろうとなったんですか?

敷田:パウチタイプの商品自体はもっと前から試作はしてたのですが、本格的に開発を始めたのは3、4年前ですね。ヨーグルトって、朝食の一品や朝食後のデザート代わりみたいな形で食べられることが多いんですけれども……。

──あっ、たしかに朝の記憶しかない! ヨーグルトって食べ物の中でも変わったポジションにありますね。

敷田:朝の健康のために召し上がる方が圧倒的に多いですよね。でも、ヨーグルトはもっといろんなシーンで食べていただけるポテンシャルがあると我々は思ってまして。そこで好きな時に好きなだけ出せて召し上がっていただけるパウチタイプに注目したんです。

──今、自分の行動を振り返ってめちゃくちゃ納得しました。よくあるカップタイプのヨーグルトって、取り皿とスプーン両方を出してこないといけないからめんどくさいんですよね。

パウチタイプはスプーンが無くても直接出せて楽だから、ちょこちょこ食べてました。ソフトクリームみたいで毎食後のデザートとして。

この口栓から直接お皿に出せる

敷田:その手間をより手軽にしようというのがパウチタイプ開発の理由の1つでした。

「ソフトクリームみたい」っておっしゃっていただいたのは「まさに」なんです。パウチの口栓から絞り出すところから、ちょっとエンタメ性というか、ワクワクしていただけると思うんですね。

このもっちり感! よくあるヨーグルトにはない質感です

──あー、なるほど! これがスプーンだとそんなに盛り上がらないというか。うにゅにゅにゅ、うわー、ソフトクリームみたい!って思ってたんですね。

敷田:そうなんですよね。パウチでも出し口が細いと、そういうクリーム感のある見た目にならないので、もっちり感のある見た目になるように開発しています。

──うわ~、よく考えられてますねえ。それで私は「うわ、ソフトクリームみたい!」って思ったんだから、きっちりハメられてますねえ(笑)。

お皿に盛ってもこんもりとなる

──これってみなさんどうやって食べてるんですかね?

敷田:そのままが一番召し上がり方としては多くて。

──あ、そのまま! 意外と硬派ですね。

敷田:あとははちみつとかシロップ系とかですね。フルーツと一緒に召し上がったりですとか。クリーム代わりにパンケーキやケーキを一緒に召し上がられたりも。

弊社では従来のレギュラー商品である「カスピ海ヨーグルト」のファンコミュニティを運営してるんですけれど、元々「カスピ海ヨーグルト」のプレーンタイプも生クリーム代わりに使ってらっしゃる方もけっこういらっしゃったんですよ。

イチゴにヨーグルトも合いますね

──ちょっと驚きが多くて、戸惑ってしまいました(笑)。ヨーグルトってファンコミュニティがあるんですね。敷田さんはどうやって食べられるんですか?

敷田:私自身はそのままが一番好きですね。

 

根本にはガチガチの健康志向がある

──私の驚きの大きいところは……なんか思ってたよりもみなさんそのままの味、つまり無糖で食べてるんだなあ、というところじゃないかと。

敷田:それも、リッチモを発売した理由なんです。ヨーグルトって、砂糖をたくさん入れたらいくらでも美味しくなるんですね(笑)。でもやっぱり健康を考えて無糖で食べたいお客さんもたくさんいらっしゃるのでは、と考えてるんです。

無糖でもデザートのように美味しさを楽しんでいただけるヨーグルトを作りたいというのが動機の一つですね。

──あ、そうなんですね! 「ソフトクリームみたい!」と浮かれてましたが、思ったよりも健康を目的とした商品なんですね。

敷田:健康っていうところを突き詰めると、無糖でもスイーツのように美味しく食べられるのが一番喜んでいただけるというか、今、世の中に少ないところなので。

──あ、突き詰めてらしたんですね、健康ガチ勢というか……。

 

そもそもなぜフジッコがヨーグルトをやってるの?

──フジッコは塩こんぶとか「おまめさん」のイメージだったので、ヨーグルトを出しているのに驚きました。

敷田:はい、よく言われます(笑)。

フジッコ本社のエントランスにある「フジッコ丸」はフジッコのイメージを載せて出港する

──ですよね!(笑)今日来るとき、会社のビルに「カスピ海ヨーグルト」って文字が見えまして。「カスピ海ヨーグルト研究所」ともどこかで見ました。

敷田:研究所というと建物が一つあるみたいですけど、この本社の中のフロアの一つでして。機能性の研究も続けてます。

──……あの、すいません。そもそも「カスピ海ヨーグルト」って、なんなんでしたっけ? よく聞いた気がするんですけど。

敷田:いま、京都大学の名誉教授などをされてる世界の長寿食の研究で有名な家森幸男(やもり ゆきお)さんという方がいらっしゃるんです。その家森先生が1980年代にWHOの協力で世界中を回り、長寿と食の関係を調査されてたんですね。

──え、……私の頭に浮かんだのは始皇帝の不老不死を探した徐福伝説なんですけど(笑)。そんな伝説みたいな人が。

敷田:そうですね(笑)。家森先生はその調査中で、カスピ海と黒海に囲まれたあたり、ヨーロッパの東部のコーカサス地方に行かれたんです。

家森幸男さんの著書『「長寿食」世界探検記』(講談社/2000年刊)などに顛末が記されている

──地図を見ると、ウクライナよりもまだ東なんですね。アジアに接したところだ。

敷田:そこを巡られた時に、100歳を超えるお年寄りの方が元気に暮らされていたそうなんです。それで家森先生が調査してみると、現地では朝晩と手作りヨーグルトをたくさん召し上がってらっしゃったことがわかったと。それがルーツですね。

──へえ、すごい、100歳超えた人がバンバンいる村でヨーグルト食べてたら、絶対これや~ってなりますね。

家森幸男さん、そしてこの粘度は…!(写真提供:フジッコ株式会社)

※『「長寿食」世界探検記』によると…
コーカサス地方(ジョージア、当時はソ連内)はそもそも長寿で有名な場所なので、家森さんの長寿を巡る旅もここを訪れました。すると実際に100歳を越えたお年寄りたちが「たくさん」集まってくれたんだとか。長寿の秘訣を彼らに聞くと「昼から赤ワインを飲むこと」と言うんだけれど、どうやら彼らは朝晩に自家製ヨーグルトをどんぶり一杯飲んでいたそうなんです。家森さんが持ち帰って研究するといつまでたっても腐らない。このヨーグルトに免疫物質が高まる効果があることがわかったそうです。

「長寿のためなら死んでもいい」と書かれていたり、自分たちで寄付を集めてWHOに寄付したお金で研究に行っていたり、『「長寿食」世界探検記』はぶっ飛んだ家森さんのエピソードがどんどん出てくるおもしろい本でした。大豆と魚を食え、特に大豆、とはっきり特定の食品を推す結論が書かれてて驚きます。

敷田:このヨーグルトを研究しようと日本に持ち帰られて、長寿食として日本中で広めたいと思われた時に、家森先生からフジッコに協力の依頼があったんです。なので現地では「カスピ海ヨーグルト」とは呼ばれてないんですけど、日本で発売する際にこういう名前になっています。

フジッコの社屋にも「カスピ海ヨーグルト」の文字

敷田:ちなみに、当時コーカサス地方から持ち帰られたヨーグルトは、牛乳があれば常温で増やしていけるヨーグルトだったんです。

──あ、そうだ、それで流行ったんですよね。ありました、ありました。自分で増やすという話が。家のこたつとかに入れてやるんですよね。

敷田:でも、人から人に手渡しで、生もののヨーグルトを広めていくのは衛生的な懸念がありますよね。別の菌が混入したりするとダメになってしまいますので。安全に広めるには、とフジッコに協力要請されたのが最初なんです。

種菌初期パッケージ。欲望がまったく感じられない見た目(写真提供:フジッコ株式会社)

──これは売れるぞ、商品化だ!って出自ではないんですね。

敷田:というよりは、健康に役立ててほしくて広めたいと。コーカサス地方から持ち帰ったヨーグルト自体は先生がお知り合いの方にお渡ししたりして、徐々に広まっていったそうなんですけども。

──ファンタジーみたいに言えば、謎の健康研究者が探してきた伝説の薬ですよね。それが「カスピ海ヨーグルト」の出自……。で、その末裔が今これなんだ。

 

2000年代に流行した「カスピ海ヨーグルト」がリッチモとして

敷田:その後、フジッコでは家森先生が持ち帰られたヨーグルトから「クレモリス菌FC株」という乳酸菌を分離して、凍結乾燥して粉末にしました。それで安全に広められるようになったんです。

90年代にフジッコにヨーグルトが家森先生から株分けされて、10年ぐらいして種菌が出来上がったと聞いてますね。

──じゃあ、「カスピ海ヨーグルト」ブームは2000年代ですね。

敷田:はい、常温で家で手作りできるヨーグルトということで主婦の方を中心に広がったそうです。

──ここにあるような製品は、どういう経緯で生まれたんですか?

敷田:ヨーグルトとしてそのまま食べられるものがないかというご要望もありまして。当時、百貨店の催事で、出来上がりのヨーグルトを作って出したりしたそうなんですけど、お買い求めに来られる大行列になったと聞いてまして。

──うわー、ブームだから。本家の味を知りたいと。

敷田:他の県からもその百貨店に買いに来られて、3日分の在庫が当日のお昼ぐらいになくなってしまったとか。そこまでの反響だったそうですね。

──へえ~! 日本中がなぞのヨーグルトに沸いてたんですね。

敷田:それで今でも「昔流行ってましたよね」とよく言われるんです。

──そして今でもコーカサス地方に伝わる菌が受け継がれている。

敷田:一般的には同じヨーグルトの中にも複数の菌がいますし、当時のフジッコがそのヨーグルトの中から選抜した菌が「クレモリス菌FC株」という菌でして。

──いや、そうですよねえ、菌ですよね。今ここにその時の長寿村の菌はあるけど、本家はどういう発展していくかはわからないですしね。

 

ヨーグルトの味作りとは?

──そもそも菌ってどういう基準で残していくんですかね。おいしさですか?

敷田:おいしさと機能性と両方ですね。当時は酸味の少なさとかも基準にしてたそうです。

ヨーグルトの味を決めるのも乳酸菌しだいですね。「リッチモ」は「カスピ海ヨーグルト」の乳酸菌である「クレモリス菌FC株」と別の乳酸菌を掛け合わせてまして。組み合わせや配分もそうですし、何℃で何時間発酵させるかみたいなところで、全く食感が変わってくるんです。

いろんな組み合わせを研究して、研究した結果今こうなってます。

『「カスピ海ヨーグルト」・プレーン』もパッケージに「とろぉ~もっち」と書いてるので、そもそも「カスピ海ヨーグルト」自体がもっちりしてるようだ

──なるほど。「リッチモ」だと、どういうところを目指すんですか?

敷田:「リッチモ」は食感と味の2点ですね。

──え、ヨーグルトに食感ってそんなに大事なんですか?

敷田:もっちり重たいものができればいいというわけではなく、もっちりしているのに口どけはかるく。召し上がった方も「もちもちふわふわ」と表現してくださることが多いです。

私も開発チームに参加してたんですが、まさにそこを目指して作ってました。もっちりしてるけど、ちゃんと空気を含んだような食感になってるんですよ。

──ヨーグルトに空気が入ってるんですか。

敷田:そういうイメージってあんまりないですよね。ギリシャヨーグルトとかだと本当に密度が高いというか、重ための食感だったりすると思うんですけど。それとは違った、もっちり感もありながらもちょっと空気が含まれていてふわっとする、ちょっと不思議な食感があるんです。

どうぞ召し上がってみてください。

 

ヨーグルトって食感が大事!?

──あっ。あー、あー、あー、わかりました。ふわーっと消えていきますね(笑)。おもしろ。

敷田:一番のこだわりなんです。食感としてもっちり、満足感があるのに、口どけがいい、重たくない。

──いや、以前食べたときには知らずにバクバク食べてました。ヨーグルトに口どけとか、重たいとかあるんですね。いや、ふしぎだなあ。「もっちり」には満足感があるんですか?

敷田:そうなんです。もっちりしていると食べた感があると言いますか、満足感をしっかり感じていただけるんです。

──へえ~、なんででしょ。「液体/固形」っていうこととは別なんですよね。

敷田:ですね。固形量は同じでも食感が違うことによって「食べてるな~」っていう満足感があるんです。その食感が一番こだわったところですね。

──こだわりの食感と味の、味の方は?

敷田:一般の「カスピ海ヨーグルト」は生乳だけなんですけど、クリームと生乳で作ってます。お砂糖を入れなくても、ほのかなミルクの甘みでスイーツ代わりになるような。生クリームの代わりにちょっと召し上がっていただけるような、そんな配合になってますね。

──あー、『リッチモ』の「リッチ」部分ってことですね。それでソフトクリームみたい、って言ってたのか。なんか、不思議な世界に迷い込みました。いや、ありがとうございました!!

 


なんだあのでっかいヨーグルトは、と気になって話を聞いてみたら、その先にあったのは健康の扉でした。ヨーグルトって食品なのにすごく不思議な立場にあるものですね。そして日本中が健康ヨーグルトに沸いた時代……そんな熱狂は形を変えて、現れてくる。

いや、私たちの食卓にあるのはそうしたことの連続なんだとは思いますが、深堀りするとおもしろい世界が広がってますね。

 

取材協力:フジッコ株式会社

・フジッコ『リッチモ』特設サイト
https://www.fujicco.co.jp/richmo/
・「カスピ海乳酸菌」研究所
https://www.fujicco.co.jp/caspi-laboratory/?utm_campaign=fpa&utm_content=fpa_caspi-laboratory

編集:友光だんご