みなさんこんにちは! ライターの藤間です。

ライターといえば、記事を書くほかに、さまざまな方とお会いし、お話を聞くことも大切な仕事。この仕事をはじめて7年目になる私も、そろそろ人と話すことがうまくなってもいい頃だと思うのですが……ぜんぜん上達しません。

というのも、取材でお会いするのは初対面の方ばかり。つい緊張して聞くべきことを忘れてしまったり、妙な沈黙をつくってしまったりして、相手に気を遣わせてしまうんですよね。

でもライターでなくても、ほとんどの仕事で、初対面の方との会話が必要になるシーンは出てくるはず。文字でのコミュニケーションが多くなった現代において、「対面だと緊張してうまく話せない」と悩むビジネスパーソンは、結構多いのではないでしょうか……!?

そこで今回は、“しゃべりのプロ”である「活動写真弁士(かつどうしゃしんべんし)」の山崎バニラさんにインタビュー! アニメ『ドラえもん』ジャイ子役の声優としても活動するバニラさんの声を、耳にしたことがある方も多いのでは?

活動写真弁士とは、無声映画(活動写真)上映中に、画面の横で登場人物のセリフや物語の内容について紹介する専任解説者のこと。映画のテンポをキッチリ守りながら、大勢の観客の前で軽快なしゃべりを展開する活動写真弁士さんなら、人とうまく話す方法も知っているかもしれない……!

話を聞いた人:山崎 バニラ(やまざき・ばにら)

2001年、無声映画シアターレストラン「東京キネマ倶楽部」座付き弁士としてデビュー。独特の声で大正琴やピアノを弾き語る独自の芸風を確立。2022年からはフラメンコ用カスタネット(パリージョ)も取り入れる。声優としてもアニメ『ドラえもん』ジャイ子役ほか、出演作多数。宮城県白石市観光大使。著書に『活弁士、山崎バニラ』。

 

BGMや効果音も自分で演奏! 弾き語り型の活動写真弁士

「第38回東京国際映画祭」にて『山崎バニラの活弁小絵巻2025』を上映中のバニラさん。作品の内容に合わせて、BGMや効果音を楽器で演奏したり、登場人物のセリフを代弁したり、物語のあらすじを紹介したりと、一人でさまざまな役割を担う

藤間「バニラさん、上映お疲れ様でした。 私も今回初めて“活弁”を観させていただいたのですが……めちゃくちゃおもしろかったです!」

バニラ「ありがとうございます。私のように大正琴やピアノ、カスタネットなどの生演奏を同時に行う“弾き語り”型の弁士はほかにいないので、活動写真弁士としてはかなり特殊なのですが……楽しんでもらえたのならよかったです!」

藤間「バニラさんの語りや演奏はほんとうに自然で、鑑賞中何度も、今観ているのが無声映画だということを忘れてしまうほどでした。すごい職業ですね……!」

バニラそもそも活動写真弁士は、明治から昭和の初期にかけて、映画にまだ音がついていなかった時代に生まれた職業です。

当時の映画は“動く写真”という意味で『活動写真』と呼ばれていて、スクリーンの横ですべての役を演じ分けて語り部を担当していたのが『活動写真弁士』。初期の頃は演劇のように複数の弁士が掛け合いをすることもあったようですが、その後、1作品につき1人が担当するようになりました。

実は、弁士は全盛期には時の総理大臣よりもお金を稼ぐほど、人気の職業だったそうで! 各映画館に専属の活動弁士がいたので、全国に7000人以上存在したといわれているんですよ」

藤間「すごい! 今や映画に音がついているのは当たり前の時代になりましたが、現在活動写真弁士として活動されている方は、バニラさん含め何人くらいいらっしゃるのでしょうか?」

バニラ「落語協会や講談協会のような同業者の団体がないので、正確な人数はわからないのですが、日本で20人ぐらいじゃないかと言われていますね」

藤間「やはり、すごく少なくなっているんですね。そもそもバニラさんは、なぜ活動写真弁士になろうと思われたんですか?」

地声もかわいらしいバニラさん

バニラ「私はバブル崩壊後の“就職超氷河期”といわれる時代に大学を卒業したんですが、就職活動をがんばっていたのに、ほんとうにどこにも受からなくて。もともと『あなたは声変わりしなかったの?』といわれるほど地声が特徴的だったので、周囲からは『その声のせいで落ちたんだ』と言われましたけど(笑)。

それで就職はあきらめて、在学中にミュージカル研究会に所属していたこともあり、舞台の世界に飛び込もうと思ったんです」

藤間「最初は舞台志望だったんですね」

バニラ「とはいえ、オーディションも落選続き。そんな頃、無声映画専門のシアターレストラン『東京キネマ倶楽部』が鶯谷にオープンするのに合わせて、活動写真弁士のオーディションが開催されているのを見かけたんです。それで思いきって公開審査を受けてみたら、私のこの声がすごくウケて。それが活動写真弁士になったきっかけですね」

藤間「この職業については、もともとご存じだったんですか?」

バニラ「ほとんど知りませんでした。オーディションを受けてみるまで、活動写真弁士が自分で台本を書いているということすら知らなかったんです」

藤間「上映中の台本までご自分で作成されているんですね⁉︎ 仕事が多すぎる……!」

バニラ「そうなんです。台本をつくるのはほんとうに大変で、オーディションに受かった後もかなり苦労しました。私がこの仕事に就くことに反対していた父が、私が書いた台本があまりにもつまらないと言って、代わりに全部書いてくれたこともあるくらい(笑)。

話す時間を少しでも減らすため、祖母が昔通販で買ったまましまい込んでいた“大正琴”を演奏してみようと思いました。しかし、父に弾き語りを提案されたのです」

藤間「バニラさんのスタイルは、お父さんがきっかけ!」

バニラ「父はもともと人間工学の教授として大学で教鞭をとっていた、『右脳と左脳をいっぺんに使えば、楽器を使うのとしゃべるのと同時に行えるはずだ』と、より公演を面白くする策として、楽器を同時に演奏することを提案してくれたんです。

私は暗示にかかりやすいタイプだったからか、ほんとうに難なく弾き語りできるようになりました」

藤間「(天才だ……)ちなみに楽器は独学で習得されたんですか?」

バニラ「母がピアノの先生をしていた影響で、ピアノはある程度弾けたんですよ。ただ、大正琴は独学で学んだので、大正琴ならではの数字譜は読めませんでした。弾き語りに関しては誰に教わったわけでもないので、結果として独自のスタイルになってしまっていて。時々『誰かほかの人もやってくれないかなぁ』なんて思うけど、なかなかあらわれない(笑)」

藤間「やりたいと思ってもなかなかできることではないからだと思います!」

 

マルチタスクすぎ⁉︎ 活動写真弁士の仕事

藤間「スクリーンを横目にタイミングを確認しながら、ナレーションやセリフをしゃべり続け、BGMを演奏したり効果音を差し込んだり……。上映中のバニラさんはすごく忙しそうでしたが、頭のなかが大変なことになりませんか?」

バニラ意外と頭のなかは冷静で、観客の方の反応を見たり、アンテナを張っていますよ。観客の方が大笑いしていると、セリフを読んでも聞こえなくなっちゃったりするので調整しなくちゃならないし、何かトラブルがあったら対応する必要があるので」

藤間「マルチタスクすぎる。ちなみに、今までにどんなトラブルがありましたか?」

バニラ「映像が途中で切れてしまったりといったフィルム上映ならではのトラブルには、何度か遭遇していますね。そういうときは映写室から再びGOサインをもらうまで、何かフリートークをしてお客さんを楽しませなくてはならなくて。いつも不測の事態に備えたトークテーマは一応用意しています」

藤間「どんなときでも観客を楽しませようという努力を感じます……!」

藤間「今回上映されていた『一寸法師 ちび助物語』(1935年)、『少年美談 清き心』(1925年)、『チャップリンの冒険』(1917年)もそうですが、無声映画って100年近く前につくられたものがほとんどですよね。古い映画を上映するにあたって、大切にされていることはありますか?」

バニラ「無声映画って、そのまま音なしで観ると、すごく進み方がゆっくりに感じたりするんですよね。今の方ってタイパを大切にされてたりするし、あまりそういうペースに慣れてなかったりするので、退屈させないよう構成には工夫を凝らしています

私の公演は音楽も効果音もつくので、余計にテンポ良く観えるかもしれないのですが、あえて演奏も語りも止めて無音の瞬間をつくり出したりして、観客の方に『あ、そういえばこれって、無声映画なんだった!』と思い出してもらうのも、なかなか楽しいです」

藤間「物語の展開を説明したり、登場人物のセリフを読んだりするほかに、作品の解説やキャストの情報などの小ネタも織り交ぜられていましたよね。すごく興味深かったですし、勉強になりました」

バニラ「古い作品は、いろいろと情報があったほうがおもしろいだろうと思い解説しているんですが……。公開からあまりに時間が経っている作品って、参考文献を見つけるのがすごく大変なんですよ。

たとえば『少年美談 清き心』の場合、途中でフィルムが飛んでいる箇所もあるし、ただ鑑賞するだけでは作品のあらましや面白さは理解しきれない。原作者の子孫の方に話を聞きに行ったり、関連する書籍を読んだり、きちんと作品について解説するための裏取りは欠かせません。『活動写真弁士の仕事の9割は調べ物なんじゃないか?』と思うくらいです(笑)」

藤間「同じ作品でも、活動写真弁士さんによって語られる内容は異なるのでしょうか?」

バニラ「ぜんぜんちがいますよ。人それぞれおもしろいと思うポイントや、物語の解釈が異なったりするので。例えば、脱獄犯となったチャップリンの逃亡劇を描いた『チャップリンの冒険』では、ラストにチャップリンは“捕まった”ととらえる人と、“逃げ果せた”ととらえる人がいますし、弁士の解釈によって語りの内容も変わります。

あとは、私は物語の外から登場人物に話しかけるメタ的な演出が好きなのですが、登場人物たちの会話のみのスタイルの人もいます。同じ作品でも活動写真弁士によってかなり印象が変わるので、おもしろいですよ」

藤間「ほかの活動写真弁士の方と交流されることもあるのでしょうか?」

バニラ「ありますよ! 他の公演もよく観に行きますし、とくに今年は全国の活動写真弁士が集結するイベントが開催されたりしていたので、ほかの方と話せる機会が多くて。すごくわきあいあいとしていて、楽屋なんかもにぎやかなんですよ。

『きょうの台本おもしろかったですね』と言われたら、ポンと現物を見せちゃうくらいカジュアルな関係です」

2025年9月、早稲田大学大隈講堂「無声映画 活弁上映会」にて、澤登翠ら12名の弁士が声色の掛け合い活弁を披露

藤間「そこまで距離が近いとは、意外な感じがします」

バニラ「それぞれみんな苦労していて、努力していることをわかっているからこそかも。今の時代、待っているだけじゃ活動写真弁士の仕事は来ません。だから片岡一郎弁士はフィルムを発見する偉業を成し遂げたり、坂本頼光弁士は今や寄席に引っ張りだこです。

『活動写真弁士という仕事を続けていきたい』『この業界を盛り上げたい』という想いをもっているから、お互いに尊重し合えているんじゃないかな」

藤間「いい話だ……。今後、さらに新しい世代の弁士さんが増える可能性も、大いにありそうですね!」

バニラ「実際、活動写真弁士という職業は、ちょっとだけ盛り返してきているんです。今はスマホでも気軽に映画が鑑賞できるけれど、よりライブ感が味わえる映画の楽しみ方として再評価されつつありますし、現在25歳の尾田直彪弁士のような、Z世代の方も出てきています。これからもっともっと活動写真弁士の世界が盛り上がって、弁士それぞれに仕事が行き渡るようになったらいいなと思っています」

 

人前でうまく話せるようになるためには、どうすればいい?

藤間「今日お話しているだけでも、バニラさんってやっぱりお話するがうまいなあと思います。活動写真弁士のお仕事以外でも、人に何かを伝えたり会話をする上で、意識されていることはありますか?」

バニラ「伝える上で大切にしていることは、目を見て話すこと!

藤間「たしかに、インタビューの最初から感じていました!」

バニラ聞き手としても、相手の目をしっかり見ているだけで、ちゃんと聞いているということが伝わりますよね。私には9歳の娘がいるんですが、担任の先生から『授業中にこちらの目をしっかり見てくれているので、ちゃんと聞いているんだということがわかります』と言われましたよ」

藤間「ちなみに、一対一でなく、複数の人と会話するときや、大勢の前でプレゼンやスピーチしたりする際に、うまく話せるコツはありますか? 人数が多くなると、どうしてもより緊張してしまうのですが……」

バニラ「たぶん“大勢”ととらえるから緊張してしまうんです。人数が増えても、同じように、一人一人に目を向けると少し緊張がほぐれますよ。

実は私は劇場でも、前説のときには観客席を明るくしてもらって、お一人お一人の顔が見られるようにしています。人数が多くても、一人ずつに目を向ければ、『その方に向けて話している』気分になれると思います」

前説中のバニラさん。遅れて入場する観客にも目を向け、「ゆっくりでいいですよ」と声をかけたりしていた

バニラ「ひとつ知っておいてほしいのは、私もそう見られがちなタイプなんですが、『この人、話すのが得意なんだなあ』と思われている人も、実は人知れず努力しているかもしれないということ。実は私が前説で話していたことだって、その場のアドリブのように見えて何度も練習して覚えたものなんですよ」

藤間「そうだったんですか! 英語とスペイン語で流暢な挨拶まで披露されて、すごく余裕を感じるな〜と思っていましたが……」

バニラ「あの挨拶だって、家で家事をしているときや、買い物の行き帰りなんかに何度もくり返して覚えたんですよ(笑)。自分で書いた台本も、上映中は忙しくてページがめくれなかったりするので、内容を忘れてしまわないように反復練習しています。

頭が覚えていなくても身体が覚えているかもしれないと思って、鉛筆を口にくわえているとイメージしたまま台本を読んで、頬の筋肉に内容を覚えさせたりね」

藤間「すごすぎる!」

バニラ「何かを覚えないといけないときは、ジョギングしながらとか、家事をしながらとか、作業をしながら練習するのがいいんですよ。頭だけで覚えようとするよりも、身体に入ってくる気がします」

藤間「なるほど〜。私もよく仕事で話さなきゃいけない内容を忘れてしまったりするので、真似してみようかな」

バニラ「でもね、個人的には、『話すのが苦手な人は、そのままでもいいじゃない』という想いもあって……。仕事上『うまく話せるようになりたい』と思うシーンがあるのはいいことだと思いますが、無理に『克服しないと!』と悩まなくてもいいと思うんです」

藤間「というと!?」

バニラ「人前で発言するのが苦手だったとしても、それって悪いことではないでしょう? その人にはその人なりの良さがあるし、ほかに得意なことだってあるはず。すべての人が出役になる必要はなくて、裏方の存在も大事ですから。もし悩んでいる人がいるのなら、失敗を恐れすぎなくても、悩みすぎなくてもいいんだよということを伝えたいです」

藤間「たしかに、人前でうまく話せなくなる理由のひとつに、自分自身が『失敗したくないと思っている』というのもあるかもしれません……!」

バニラ「私の仕事も、さまざまな分野のプロフェッショナルの方がいることで成り立っているし、それぞれの得意を生かして、お互いを肯定しながら、適材適所で活躍できる世の中になったらいいですよね」

藤間「なんだか心が軽くなりました……。バニラさん、本日はありがとうございました!」

 

おわりに

今回は活動写真弁士の山崎バニラさんに、弁士というお仕事についてや、「うまく話せる方法」についてお伺いしましたが……意外にも「うまく話さなきゃと悩みすぎなくてもいい」というマインド面のアドバイスをいただきました!

もしかしたら、人と会話したり、人前で話したりする際に自分を緊張させていたのは、「失敗しちゃいけない」という自分自身からのプレッシャーだったのかも?

私も今後は気負いすぎず、まずは「目を見て話すこと」「話すべきことを事前に反復しておくこと」を大切にしてみようと思います!

取材協力:第38回東京国際映画祭
編集:吉野舞
撮影:番正しおり

<告知情報>「山崎バニラの活弁大絵巻2026 ~弁士25周年~」
2月28日(土) 14:00開演/13:30開場
こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ(新宿南口徒歩5分)
https://www.spacezero.co.jp/information/147859

■演目
『活動写真ことはじめ』2025年制作 自作動画
『大学は出たけれど』大正琴弾き語り
『ロイドの初恋』ピアノ&カスタネット弾き語り

作品提供:マツダ映画社

■チケット:12月1日(月) 10:00発売開始 全席指定¥2,500/高校生以下¥1,500 ※4歳以上入場可 ※本公演は〔こくみん共済 coop 組合員価格〕対象公演です

■チケット取扱 ・CNプレイガイド ・ローチケ(Lコード:31845) ・イープラス

■主催・お問合せ:スペース・ゼロ 03-3375-8741(平日10:00~17:30)

■制作:(株)スペース・ゼロ