子育てをしながら働く中では、以前のように「自分の好きなこと」に取り組むのはなかなか難しいもの。時間や金銭、心理的なハードルを感じ、諦めてしまうケースもあるでしょう。
今回は、結婚・出産を経て一度は諦めた「海外旅行」という趣味を“子連れで再開”したおはるさんに、再開してどんな変化や気づきがあったのかを、旅の思い出とともに振り返っていただきました。
仕事を辞め子どもができ「もう海外旅行には行けない」と思っていた
私は小学5年生の子どもと地元・福島で暮らしながら、東京の企業で事務職をしています。仕事は基本リモートワークですが、週に1度は出勤する必要があり、ここ6年ほどは首都圏と地元を行き来する生活です。
もともと私は、海外旅行が大好きでした。
しかし20代前半に結婚・出産し、仕事も辞めたため、自由に海外旅行に行けるような時間やお金の余裕がなくなりました。手に職もないし、再就職したとしてもフルタイムで稼ぐのは難しそうだし、配偶者はそもそも旅行に興味なし。また海外旅行に行ける日なんてもう来ないんだろうな……と半ば諦めて暮らしていたのです。
ところが子どもが1歳に満たない頃、離婚して再就職したことをきっかけに、ひとり親として育児と仕事をどうにか両立させる傍ら、長期休暇には子どもと一緒に海外旅行をする生活が始まりました。
ただ、最初から「離婚後は絶対に海外に行こう!」と意気込んでいたわけではありません。離婚後に再就職した職場がまとまった休みを取りやすく「これだけ休みがあるなら海外旅行に行けてしまうのでは?」と考えたのがきっかけです。
また、結婚していた当時、配偶者に「海外旅行に行きたいなら子どもが大きくなってから、費用は自分でパートで稼ぐように」と言われたことで「もう二度と海外には行けないんだな……」と悲しい思いをしたため、その反動もあったと思います。
「子どもはまだ小さいけれど、離婚したことでせっかくやりたいことを自分で選択できる自由とお金を手にしたのだから行ってしまおう!」と、勢いのまま航空券を取りました。
年々距離を伸ばしていき、旅先で子どもの成長も感じるように
もちろん、過去の海外旅行とはまったく勝手が違う「1歳の幼子を連れた旅行」というものに不安を感じなかったわけではありません。特に最初の行き先選びには慎重になりました。
最初の行き先は、近場で比較的治安が良い台湾。1歳児を連れた長時間のフライトに不安があったのと、アジアなら出産前にも何カ国か訪れていて慣れていた、というのが決め手になりました。
この台湾旅がスムーズにいったので、翌年以降も休暇中に一番安く取れる航空券を検索しては、アジアを中心に巡っています。
そんな今までの旅の中で、特に印象的だった旅先をいくつか紹介します。
2015年(1歳):台湾
子どもが1歳半になった頃、子連れ旅の最初の地として選んだ台湾。
公共交通機関が発達しており、“穏やかな東京”のような雰囲気。日本と同じようにベビーカーを押しながら、街歩きや小籠包店巡りを楽しむことができました。海外にいながら、日本と変わらないぐらいリラックスして過ごせることに拍子抜けしたのを、今でも強く覚えています。
子連れの海外旅行で、ネックになりがちなのが食事です。特にアジア圏では香辛料が効いていたり、クセが強かったり、子どもが食べられなさそうな料理も多いのですが、台湾では小籠包などの優しい味付けの料理が豊富。わが子は偏食気味なのですが食事面でのハードルが低く、とても助かりました。
これが「子連れで海外に行ってもなんとかなる」と自信がついた最初の旅でした。
2017年(4歳):ウズベキスタン
2〜3歳でさらにアジア圏を回って子連れ旅の経験値が蓄積されてきたので、前々から憧れていたイスラム圏まで足を延ばしてみようと、ウズベキスタンへ。
当時はガイドブックの『地球の歩き方』にもあまり情報が載っていなかったため、個人旅行をした方のブログを参考にするなど、情報収集には苦労しました。
シルクロードの砂漠を440㎞ほど車で移動しなければならないのに、そのための車が事前手配できず、現地での移動手段に不安を抱きつつの渡航でしたが……。実際に行ってみるとタクシーが(許容範囲な価格で)チャーターできることが分かり、拍子抜けするほど快適に過ごせたことが印象に残っています。
当時4歳になったばかりの子どもは、まだ言葉が通じないことを気にせずに誰とでも遊べる年頃だったので、行く先々で現地の子どもに話しかけては遊びに誘い、笑い声を上げながら一緒に走り回っていました。
適当な軒先に座り込み、露天商をしている現地の子どものお母さんと一緒に子どもたちの様子を眺めながら過ごした穏やかな時間は、今でも忘れられません。あれは子連れ旅だからこそ得られた思い出だったな、と思います。
2019年(6歳):アイスランド
この頃から「行ける場所」ではなく「行きたい場所」を旅先に選べるようになってきました。
アイスランドは、どこまでも続く荒涼とした風景が特徴的な火山と氷河の島。おもちゃで遊んだり、電車に乗ったりするのに夢中な6歳の子どもが全力で楽しめる国かといわれればそうではなかったと思います。
でも、海岸に流れ着いた氷河に触れてみたり、熱湯が地面から何メートルも勢いよく噴き上がる間欠泉を眺めたり、あちらこちらに湧いている天然の露天風呂や地熱で温められた温水プールに一緒に入ったり、毎日キャンプ場で自炊したりと、今までになくアウトドア要素が入った旅だったため、その点は楽しんでくれていたように思います。
6歳ともなると、行く先々で「こうしたい」という主張をしてくることも増え、お互いのやりたいことと楽しいと思うことを擦り合わせていく必要性を感じ始めたのも、この頃でした。
2024年(11歳):モロッコ
2024年は、長年「行きたい」と思っていたモロッコに、ついに訪れることができました。
子どもが思春期に差しかかる中で「お母さんよりお友達と過ごした方が楽しい」という価値観の変化が顕著になってきています。「いつまで一緒に旅行できるか分からないから、今のうちに一緒に行きたい、見せてあげたい場所に行っておこう」と考えたこともあり、モロッコを行き先に選びました。
夜明け前にラクダに乗って砂漠に向かったことや、砂丘でのバギーライドなどの体験は楽しめたようでしたが、子どもは嗅覚が過敏なので、革製品店やスパイスを多用した飲食店の半露店が建ち並び、ゴミも多い旧市街の街歩きなどでストレスを感じる部分も多かった様子。楽しめるものの噛(か)み合わなさに、いよいよ親子旅の終わりを感じたタイミングでもありました。
しかし、機内食や飲み物のオーダーを自分で(英語で)対応したり、長距離バスが駅で停車している隙に一人で水を買いに行ったりする頼もしい姿が見られて、親として感動する場面も。
日常の慌ただしさの中で見落としがちな子どもの成長をしっかり見ることができたという点でも、思い出深い旅となりました。
海外旅行は、国内旅行とは勝手が違う場面も多いです。小さな子どもを連れて見知らぬ土地に行く以上は、どんな旅であっても、事前の下調べを怠らないようにしています。同時に、子どもに何かがあったらすぐに対応できる行程を組み、無理をしないことを大前提にしています。
それでももちろん100%安全というわけではなく、予想できないトラブルもたくさんありますし、第三者に安易におすすめできることではありません。
これまでは子ども本人も海外旅行を楽しんでくれていたようで、先生などから「今までの旅先での出来事をとても楽しそうに話してくれます」と聞いたこともありましたが、今後はどうなるか分かりません。
それでも私は、その年齢の子どもとしかできない体験や思い出を積み重ねることができたこの10年を振り返ってみて、あらためて「子どもと一緒に海外旅行に行く」という選択ができてよかったと感じています。
正社員の道もあったが「海外旅行と両立できる働き方」を選んだ
私が子連れでの海外旅行を続けられているのは、今の職場・働き方によるところが大きいです。
もともと、今の仕事は産後の社会復帰の第一歩として選んだ非正規雇用。一度は転職を決め別の企業で正社員になる予定だったのですが、上司の計らいにより今の職場で正社員に近い労働条件へ変更してもらえることに。
職場の理解と柔軟性がある今の仕事を続けることが、自分のやりたいことと仕事を両立する上でベストな選択だと考え、非正規雇用のまま勤め続けることを選択しました。
いくら働きやすい環境とはいえ「来年はどうなっているか分からない。ひとり親で決して金銭に余裕があるわけでもない。こうして旅行に行ける環境に居られるのも今年が最後かもしれない」という不安はあります。
ですが、それゆえに「やりたいことはやれるうちにやる」ための行動力を持てている実感もあるので、結果として自分にとっては良い選択だったのだと思っています。
毎年「多少無理してでも行けるときに行く」という言葉を胸に、海外旅行に行く決断をしています。これは海外旅行という身の丈に合わない浪費をしようとする自分への言い訳でもあるけど、同時に自分を鼓舞する言葉でもあります。
実際、コロナ禍で海外旅行はおろか国内旅行もままならなくなった時も「でも、その都度やりたいことはやり切ったから、悔いはないな」と素直に思えました。この先また環境が変わっていくことがあっても、このマインドを持ち続けていければいいなと思っています。
子育てをしていても、自分の「今」を楽しんでいい
SNSで旅の様子をつぶやいていると、よく行動力を褒めてもらうことがあります。私が自分の気持ちに忠実に、やりたいことを行動に移せているのは「もう二度と海外には行けないんだな」と感じていた期間があり「今、目の前にある自由や時間が当たり前ではないのだ」と常に意識するようになったからだと思います。
私の場合は、たまたま上司が私の生き方に理解を示してくれたこと、離婚後に地元に帰ってからずっとサポートしてくれている家族がいることなど、さまざまな幸運が重なったからこそ、今があります。決して、自分一人の力だけでやりたいことができているわけではありません。
それでも、自分で働いて得たお金で旅行に行くたびに、子どもと旅に出るという選択肢を自分で掴み直せたことや、選択肢を選ぶ権利が自分にあると実感できることをうれしく感じます。そしてその幸せが、日常を生き抜いていくための大きな活力にもなっています。
子どもの親である以上、もちろん子どものことが最優先だけど、だからといって自分の人生がなくなったわけではありません。
慌ただしい子育て生活の中で、自分のことはつい「いつか」と後回しにしがちだけど「いつか」が来る保障なんてない。だからこそ、自分の手で掴み取れる「今」の自由をめいいっぱい謳歌(おうか)したい。そう思わずにはいられないのです。
編集:はてな編集部
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