突然はまったプロ野球が、仕事で悩む日々に寄り添ってくれた。選手が教えてくれた「調整」の大切さ

甲子園球場で飲んだビール

夢中になれる「趣味」は、働くモチベーションをにつながるなどポジティブな効果をもたらすことがあります。しかし忙しい日々の中では「趣味」を見つけるきっかけがつかめない、ということも少なくないはず。

ブロガーのいちこさんは、2022年、それまで全く関心がなかったという「野球」にはまったそう。詳しく知るにつれ、面白さを知るだけでなく、働く上で影響を受ける場面も増えたといいます。

新しい趣味との出会いと、それが日々にどんな変化をもたらしたのか、働きながらどんなふうに野球を楽しんでいるのかをつづっていただきました。

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社会人になってからずっと、私にとって仕事は「嫌いではないけれど、家に帰ったら忘れたい」ものでした。そのせいか、常に「趣味」に軸足を置いた生活をしてきたような気がします。

しかし2020年、新型コロナウイルスの流行によって生活は一変。楽しみにしていたイベントが次々と中止になったことで「趣味」と距離ができ、人にも会いにくく、自宅が仕事をする場所になったこともあって、うまく気分転換できない時期が続きました。

そんな状況で「もう自分は何かにはまることなんてないのかも」と弱気になっていたのですが、2022年、突然「プロ野球」にはまったのです。

私は生まれてこの方、スポーツに縁のない人生を送ってきました。逆上がりはできない、二重跳びは数回しかできない、という子ども時代を過ごしたことによってスポーツ自体に苦手意識が芽生え、サッカーのW杯はおろかオリンピックすら見ていなかったほど。プロ野球なんて自分には一生、縁がないものだと思っていました。

しかし一度興味を持ってみると、それまで抱いていた、少し近寄り難いようなイメージはあっさりと覆されていきました。特に「WBCで活躍するような選手も常に絶好調なわけではなく、不調を乗り越えて今があるのだ」と知ったことは、仕事やプライベートで追い詰められていた時期の私を支えてくれました。

今回は、スポーツが苦手だった私がなぜ野球にはまり、今どんなふうに野球と付き合っているのか、野球にはまったことで仕事観にどんな変化があったのかをご紹介します。野球をよく知る人には今さらな内容が多いかもしれませんが、駆け出しファンの浮かれぶりを笑っていただければと思います。

「野球の解像度」が上がるにつれ、どんどん面白くなった

きっかけは2022年、友人がはまっていたドキュメンタリー本『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋)を読んだことです。

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平著 文藝春秋
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』
鈴木忠平著 文藝春秋

落合博満さんの中日ドラゴンズ監督時代を描いた本ですが、手に取った時の私は「落合さんの名前は聞いたことがある」程度。現役時代のチームも、引退後に監督をしていたことさえも知りませんでした。

しかし読み進めるうち、描かれる選手の多様な魅力、そして落合さんの、監督就任会見でリーグ優勝を目標に掲げ(!)、監督就任1年目からチームを5年ぶりのリーグ優勝に導き(!!)、さらに4年目となる2007年には53年ぶりの日本一を達成する(!!!)という有言実行力にすっかり夢中になってしまいました。

そして本に登場する選手や落合さんの関連本を読み漁っているうちに「プロ野球の試合を見てみたいな」と思うようになったのです。

ただ、『嫌われた監督』に登場する選手は、すでにほとんどが現役を引退していました。どこをきっかけに見ていけばいいのか迷いつつ、とりあえずスポーツ配信サービスのDAZNに加入して、野球好きな友人たちの話を聞きながら気になる試合を見るように。興味を持った途端に、友人たちが何の話をしているのか分かるようになったのは楽しい驚きでした。

球場観戦にも興味が湧いたのですが、GW頃に手術が必要な病気が見つかったこともあり、2022年の球場観戦は結局一度だけ。当時は初めての入院と手術を前に気持ちがふさぎがちでしたが、退院して10日後くらいには愛知県で開催された落合さんの講演会に行き、夢中でメモをとりまくっている自分がいて、われながらたくましさを感じました。

そして、今年こそは球場に通いたいし、応援するチームを決めたい! と意気込みスタートした2023年。シーズン開幕前のWBCを見ていると、昨年の間に少しずつでも配信観戦をしていたおかげで知っている選手が増え、格段に解像度が上がっていることに気付きました。

知っている選手が活躍していると、試合を見るのも楽しい。そんなわくわくした気持ちのまま3月末のプロ野球シーズン開幕を迎え、気になっている選手がいるチームから見ているうちに、あっさり応援するチームが決まりました。

そんなわけで、現在は阪神タイガースを応援しています。

阪神タイガースのユニフォーム
左から入場者プレゼントのユニ、ファンクラブ入会記念グッズのユニ、最初に自分で買ったユニ。

2023年最初の目標だった「阪神の試合を球場で見たい」「甲子園球場で阪神の試合を見たい」も、友人がチケットを取ってくれたおかげでかないました。

甲子園球場の入り口
念願の甲子園球場

選手たちから学んだ「いいときもあれば悪いときもある」ということ

スポーツに縁がなかった私ですが、野球に関する用語やルールについては、小説や漫画、アニメなどの作品を通してなんとなく知っているつもりでいました。しかし実際に試合を見るようになると「これってそういう意味だったのか!」という発見の連続。

例えば、背番号の4は「4番バッター」を表すわけではないということ。よく聞く「サヨナラ」という言葉でイメージしていたのは「ホームラン」でしたが、ヒットやエラーであっても、その時点で試合終了となるケースを「サヨナラ」と呼ぶこと。

最近では、投手がよくやる「アロハ」や「キツネ」みたいなポーズについて「みんながんばっていこう!」みたいな意味なのかな? と思っていたら「ツーアウト」のサインだと教えてもらって驚いたりしました。

実際に観戦を始めて特に新鮮に感じたのが「1軍・2軍のメンバーは、毎日のように出場選手登録・登録抹消によって入れ替えられている」ということでした。

例えば日本代表に選ばれるような選手でも、常に絶好調なわけではなく、けがをしたり、調子が悪かったりするときは2軍(ファームと呼ばれていることの方が多いようです)で調整をしていることを知ったのです。

もちろん、ファームにいる理由は選手によってさまざまで、主目的は育成なのだと思います。ただ、どんな選手にとっても「調整をする」ということは重要な日常の一部なのだと知り、どこか勇気づけられるような気持ちにもなりました。

選手たちがよく話す言葉に「いいときもあれば悪いときもある」というものがあります。それを聞いて私も「ダメなときがあるのは当たり前、うまくいかないときは、まず自分の調子を整えよう」と思えるようになりました。

個人的にちょうどWBC〜シーズン開幕の頃は仕事が忙しく、帰宅しても仕事のことで頭がいっぱいで、生活サイクルも乱れて体調も崩しがちでした。しかし「帰宅したら野球が観られる」ことを楽しみにしているうちに、再び仕事と生活を切り分けられるようになってきたのです。

冒頭にも書いた通り、私にとって仕事は「嫌いではないけれど、家に帰ったら忘れたい」もの。この切り替えが自分の、特にメンタル面での健康に重要だったのだとあらためて気付きました。

思えば、野球選手の本はビジネス書として扱われていることが多いし、落合さんの講演会では毎回、質疑応答コーナーで仕事へのアドバイスを求めている人がいます。最初はこれらを少し不思議に感じたのですが、今では自分も折に触れて選手の言葉を思い返したり、選手の境遇から自分の働き方に思いをはせてしまうこともあったりして、こういう側面も野球の面白さの一つだなと思っています。

横浜スタジアムのビール
球場では必ず撮るビールの写真。横浜スタジアムにて

野球は、老若男女、多様な応援スタイルを受け入れてくれる

「野球にはまって最も驚いたのは、「シーズン中、全てのチームが基本週6で試合をやっている」ということでした。

毎日のように楽しみがあるのはうれしい。でも、全部の試合を見るのは正直難しい。

そんな悩みを抱えつつ、とりあえず帰宅したらライブ配信を見る、ということを続けているうちに、野球はずっと見ていなくても実況などの音声だけである程度分かる、つまり家事などの作業をしながらでも観戦できるものなんだと気付いて、自分のペースで楽しめるようになりました。

だからこそ、野球は長らく多くのファンの生活に寄り添ってきたのかもしれません。現在は配信が主ですが、これがかつてはテレビやラジオだったのでしょう。

仕事帰りの電車内には自分以外にもスポーツナビ(スポーツ実況アプリ)を見ている人があちこちにいて、彼らも私も、帰宅したら夕食を取りながら野球を見る生活をしているのだな、と勝手に想像して親近感を覚えています。思えば、関東で生まれ育った私が関西のチームのファンになったのも、配信が当たり前の時代だからなのかもしれません。

甲子園球場で見た試合
甲子園球場で見た試合

そんな配信での観戦が日常だとしたら、私にとって球場観戦はまだまだハレの場です。

実際に球場に行ってみると、幼児からお年寄りまで、本当の意味での老若男女が観戦に来ています。観戦スタイルも、外野で思い切り応援する人、ビール片手にのんびり観戦する人、写真を撮る人、球場グルメを楽しむ人などさまざま。

最初は「野球のことを全然知らないのに球場に行っていいんだろうか」なんて思ったこともありましたが、すぐに「これだけ多様なファンがいるのであれば、きっと私も自分なりのスタイルで大丈夫だろう」と思うことができました。野球のそういうところに、多くのファンを抱えてきたジャンルだからこその懐の深さを感じています。

現在の私はようやくチケットの取り方を理解し、だいたい月に2~3回、球場観戦できたらいいかなと思っているところ。しかし何しろ応援するチームが定まって初のシーズンなので、終盤にそれでがまんできているのかは、これを書いている時点ではよく分かりません。ただ、これからも自分なりのペースで応援していきたいと思っています。

少しでも「知ってみる」ことで、世界が広がる

野球を見ていると時折、これは得難い、特別な瞬間なんだ、と感じることがあります。

9回の逆転劇だったり、何年もやってきた選手の「初サヨナラ」だったり、けがからの復帰だったり、ルーキーの満塁ホームランだったり。

思えば私が阪神を応援するようになったきっかけも、自分が入院する前には調子が悪そうだったチームが、退院後にはクライマックスシリーズ進出を争っていたことにぐっときてしまったからだと思います。

選手たちの誇らしそうな、うれしそうな顔、老若男女が入り乱れた観客席で交わされるハイタッチ。そんな、さまざまなことが一気に報われるような瞬間に触れるたび、心の中に宝物を積み上げたような気持ちになります。歳を取ってもきっと、この宝物を取り出しては、あの年のあの選手はすごかった、なんて振り返るのでしょう。

今私がこんなふうに野球中心の生活をしているなんて、3年前の自分に言っても、きっと信じません。

ただ、興味がなかったものも少し「知ってみる」ことで、見え方ががらりと変わる可能性があるよ、というのは今後も忘れずにいたいなと思っています。

今からすでに、初めてのオフシーズンが怖いです。

編集:はてな編集部

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著者:いちこ

いちこさん

会社員として働きつつ、はてなで19年日記を書き続けています。ポテトチップスのファン活動もしています。

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