子どもを持つ共働き家庭が知っておきたい「防災」の知識について、東日本大震災で被災した経験を持つ、イラストレーターで防災士のアベナオミさんが紹介します。
地震などの災害時、学校や職場などバラバラの場所にいる家族が安全に避難するためには、それぞれがどう行動するか、子どもの安全をどう確保するか、家族間で事前にルールを決めておくことが大切だそう。
家族の連携をスムーズにするため、「防災の日」などの機会に確認しておきたい「防災対策のチェックリスト」と、非常食や防災グッズを見直す際のポイントを教えていただきました。
こんにちは。宮城県出身・在住のイラストレーター、アベナオミです。夫と共働きで、子どもは中学生・小学生・幼稚園児の2男1女です。
私たち家族は、長男が1歳7カ月の時に東日本大震災で被災しました。私はその経験から2016年に防災士の資格を取得し、防災対策の大切さを広める活動を続けています。
実は宮城県は、約30〜40年周期で「宮城県沖地震」が発生する場所で、私も小中学生の頃は毎年のように防災教育を受けていました。大人になってからも「防災対策をしないと」という意識はあったものの、子育てと仕事で忙しく過ごす中ではつい後回しに。
そうして防災対策が不十分なまま迎えてしまった「3.11」。適切な避難行動は取れず、私は津波が近くまで来ていることを知らずに車で子どもを迎えに行こうとしていました。偶然が重なり津波には巻き込まれなかったものの、一歩間違えば命が危なかったのです。
共働きでお子さんがいる家庭では「子どもは保育園、親はそれぞれの職場」と、災害時に家族がバラバラの場所にいることが少なくありません。私は東日本大震災での経験から、「事前にしっかりと防災時のルールを決め、家族みんながそのルールを守り、行動すること」が何より大事だと痛感しました。
今回は、わが家の経験を踏まえて「災害時に家族がバラバラの場所にいても適切に対応するための備え」についてご紹介します。見ながら話し合えるチェックシートも用意したので、ぜひ9月1日の「防災の日」をきっかけに、夫婦や家族で防災対策について話し合ってみてくださいね!
東日本大震災では「子どもの引き渡し」のトラブルが多数
東日本大震災が起きた時、私が最も課題に感じたのは「子どもの引き渡しのすれ違い」でした。
地震が発生した「2011年3月11日(金)14時46分」は、家族が会社や学校、保育園などバラバラな場所にいるタイミング。また多くの小学校で翌日に卒業式を控えており、たまたま5時限で下校させる学校も多かったのです。
そのため、地震発生直後に多くの保護者が子どものお迎えに向かう中、あちこちでこんなことが発生しました。
- 大地震直後の混乱で、なかなか子どもの預け先にたどり着けない
- 夫婦で連絡が取れず、2人ともがお迎えに行った結果、行き違いになる
- ママ友が良かれと思って、自分の子どもと一緒に近所の子どもも引き取って帰宅。その子の保護者がお迎えに来たら子どもが学校におらずパニックに
- お迎え途中で保護者が津波の被害に遭う
他にも、バスで送迎中の幼稚園児や、保護者への引き渡しを待っていた小学生と教員が津波に巻き込まれるなど、痛ましい出来事がたくさんありました。すれ違いを生まないためには、誰がお迎えに来るのか、誰に引き渡すべきなのか、学校・保育園などと保護者が「子どもの引き渡し」についてしっかり連携を取れていることが何より大事です。
そこで家族間の連携をスムーズにするために、防災の日に家族で話し合ってほしい「防災対策のチェックリスト」を作成しました。
それぞれの項目の詳しい解説は以下で紹介します。
「防災対策のチェックリスト」を家族で確認しよう
1.子どもの「引き渡し」について確認
まず確認したいのが、学校や幼稚園・保育園の災害マニュアル。特に子どもの「引き渡し」についてどんなルールになっているかをあらためて確認しておきます。災害マニュアルは年度の始まりなどに共有されていることが多いです。もし手元に残っていない、分からないということがあれば学校や園に確認をしましょう。
また首都圏に住んでいる場合、東日本大震災のときに「帰宅難民」が大きな課題となったため、「大規模災害発生時にはむやみに移動を開始せず、会社など施設内に待機させること」が重要視されています*1。首都圏に住んでいる方は、職場の待機についてのルールなどもあわせて確認しておきましょう。
2.「夫婦どちらが子どもを迎えに行くか」を決めておく
オフィスから学校・園までの距離、それぞれの職種(医療関係者や公務員はすぐに職場を離れられないことが多い)などから、「災害時、夫婦どちらが子どもを迎えにいくか」を検討しておきます。災害直後の道路は大渋滞が予想され、公共交通機関もストップするので、徒歩や自転車などでお迎えが可能かも確認しておきましょう。
万が一2人ともダメだった場合に誰が行くのか、祖父母、おじおば、親戚、信頼できる友達などに頼れるかも検討します。
なお、職場から徒歩で長距離移動する場合に備え、スニーカーやミニライト、水と非常食になりそうなお菓子、非常用トイレなどもポーチにまとめて、職場に常備しておくのがおすすめです。
3.小学生以上なら「どこに避難するか判断する“地点”」を決める
時間帯によっては登下校時や通塾時など、子どもだけで被災するケースもあります。その際に「家・塾・学校のいずれに行くのか/戻るのか」を適切に判断するのは、子どもだけでは難しいです。そこであらかじめ、安全を考慮して家と学校・塾のルートの中で「ここまで来ていたら家に行く/塾・学校に行く」という“地点”を決めて、子どもに伝えておきます。実際にそのルートを一緒に歩きながら確認するのもいいでしょう。
4.ハザードマップで、自宅避難の可否や危険なエリアを確認
災害時は不安やストレスが大きいため、安心感や快適さを考慮すると、やはり自宅避難ができるのがベスト。あらかじめハザードマップで自宅周辺が危険エリア(津波到達エリア、土砂災害警戒区域など)に該当していないか確認し、自宅避難が可能そうか見ておきます。また、子どもの預け先周辺、お迎え時に通る道路などもチェックしておきましょう。
ハザードマップや自宅の築年数・耐震性などから、避難所を利用する必要がありそうであれば、場所や名称も確認しておきます。
周辺の危険ポイントを確認する中では、わが家が一番備えなければならない災害は何か?(地震なのか水害なのか) を見極めることも大切です。
5.「家族が今どこにいるか」を共有する習慣付けについて話し合う
災害時は基本、インターネット回線やモバイル回線が使えず、連絡が取りづらくなります。だからこそ、普段から「どこに行くか、誰と会うのか」などを家族で共有し合う習慣を付けておくのが大事です。スマホを持ち歩かない幼児や小学生には、位置情報を把握するGPSサービスを利用する方法もあります。アベ家の場合はAppleの「AirTag」を幼稚園児の通園バッグと、小学生のランドセルに入れて活用しています。小学生ならちゃんと登校できたかどうか、下校し始めたかどうかを確認できるので、非常時に限らず普段から重宝しています。
これらの内容を話し合い、あらかじめ「災害が起きたときに家族みんながどう動くか」をルール化すること、そして実際に災害が起きた場合はそのルールをみんなが必ず守ることが重要です。連絡手段がない中でイレギュラーな行動を取るのは、命の危険を生む場合があります。
自分がルールを守るのはもちろん、「家族がルールを守ってくれる」と信用することも大事。普段から家族の信頼関係を築いておくことが、命を守る行動につながります。
非常食は「いつもの味」でOK。安全のためには普段の「片付け」もポイントに
「防災の日」は、非常食や防災グッズを見直すきっかけにもなります。以下もぜひ、試してみてください。
1.「食べ慣れた味」をローリングストック
非常時の食料といえば非常食をイメージする人が多いでしょう。しかし、“非常食”という食べ慣れないものを食すことで自分たちが被災した現実を直に感じ、気持ちが落ち込んでしまうことが。また、食感や味が口に合わないな~と感じることも結構あります。大人ならまだがまんして食べられるかもしれませんが、子どもは、例え他に食料がない災害時であっても、食べ慣れていないものは食べてくれない可能性があります(実際、わが家の長男は食べてくれなくて困りました)。
なので子どものいる家庭では、災害時の食事であっても「食べ慣れた味」や「好きなもの」を用意するのが重要。食べ慣れた食品をローリングストック*2して、在庫ゼロにならないように注意します。
おすすめは「1個新品を開けたら次のストックを買う」サイクルを習慣にすること。特に、普段ほとんど自炊をしない人は、日持ちするレトルト食品などを多めに備蓄しておくといいでしょう。
トイレットペーパーやティッシュ、おむつなどの生活用品も同じようにローリングストックしておくのがおすすめです。
2.水と火力を備えて「調理できる環境」を作っておく
停電で冷蔵庫が使えなくなったとしても、食品を順序よく食べることができれば、ロスを最小限に抑えることができます。そのために必要なのが、水と火力。水はケース買い・ウォーターサーバーなどで十分確保し、カセットコンロ、バーベキューコンロなど、ガスが止まっていても火が使える道具をそろえておけば普段と近い調理が可能です。少量の食材なら、ロウソクで加熱するチーズフォンデュセットも使えます。
できるだけロスを抑える「食べる順序」は下記を参考にしてみてください。
- 災害初日は、まず肉や魚などの傷みやすい生鮮食品に火を通して調理
- 翌日からは加工食品や野菜などを使う。溶け具合を見て冷凍食品も消費。この時、冷凍食品を冷蔵庫に移動させることで保冷剤の代わりにもなる
- 冷蔵庫が空になったら、レトルト食品や乾物、缶詰などを消費していく。これらを食べ切って初めて、非常食の出番
忘れてはいけない「トイレ」問題。必ず専用の処理グッズで対策を
防災対策というと食品の備蓄ばかりを心配しがちですが、実は空腹よりもつらいのが「トイレ」。数時間おきに家族の人数分だけ増えていく排泄物はどう工夫しても処理が難しく、最も困るのが臭いの問題です。
そこでおすすめしたいのが、「非常用トイレ」「簡易トイレ」など防災用品コーナーで販売されている専用の商品をストックしておくこと。これらは排泄物の臭いが漏れないように加工されているので、使用後はゴミの収集が再開するまで自宅で保管できます。
大人1人で1日5回を目安に家族の人数分、できれば1週間から10日分は最低でも準備しておくのがいいでしょう。まとめて買うと少々高いので、少しずつ買い足すのもおすすめです。
モノが落ちてこない「セーフティーゾーン」を作る
大きな揺れで家具が倒れたり、モノが落ちたりしてケガしないよう、普段から「片付け」の習慣をつけてなるべくモノを減らしておくことも立派な防災対策になります。わが家もガラス戸の付いた戸棚など壊れやすいモノは手放し、ペン立てやメイクボックスなどの「落下したら散らかりそうなもの」、電子レンジや電気ポット、炊飯器などの「落ちたらけがにつながりそうなもの」は、耐震ジェルマットで固定しています。
また、普段家族が過ごすリビングなどを、安全を確保できる「セーフティーゾーン」に設定するのもおすすめ。とっさに動くことのできない小さな子どもや高齢者でも、その場にいるだけで安全が確保されます。
ポイントは、次の3つ。
- 1.真上に照明器具がない
- 2.周辺に倒れてきそうな背の高い家具がない
- 3.窓ガラスから離れている
わが家の場合はリビングにセーフティーゾーンを作っており、大きな地震が発生したらその場にある座布団で頭を守り、うずくまって揺れが収まるのを待ちます。
2022年3月16日の夜、「福島県沖地震」が発生し、最大震度6強を観測しました。わが家では震度5強でしたが、自宅の被害はほとんどなくキッチンで落ちたのはみかん1個だけ。子どもたちは子ども部屋のベッドの上のセーフティーゾーンにいたため、けがをすることもなく無事でした。「片付け」と「セーフティーゾーン」のおかげで、大きな地震の際にも安全を確保できたのです。
いつ発生するか分からない大地震に備えるというのは、なかなかやるきっかけがつかみにくいものです。だからこそ「防災の日」などをきっかけにして、ぜひ家族で話し合う機会を設けてみてくださいね。
編集:はてな編集部
共働き夫婦の子育て、うまく連携するヒント
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*1:「72時間一斉帰宅抑制」と言われ、救命・救助の妨げになったり帰宅難民による群衆雪崩が起こったりするなどの二次災害の防止を目的としている。参考:大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン
*2:「購入→備蓄→消費」を繰り返す備蓄方法。普段から食べている食材を少し多めに買っておき、いざというときの備蓄にも回すようにする