「小1の壁」という言葉をご存じでしょうか? 子供が小学校に入学すると、保育園やこども園、幼稚園に通っていた頃に比べて、主に仕事との両立が難しくなることを指す言葉です。
多くの学童保育や放課後クラブには「延長(保育)」がないにもかかわらず、子供が小学生に上がるタイミングで時短勤務が使えなくなる企業も少なくありません。そうしたことから働き方の変更が必要になる、なんてことも。また学習面のサポート、行動範囲や交流関係が広くなるがゆえの安全面・心理面のケアなど、親の参加・フォローが必要なことも増えてきます。
だからこそ、仕事との両立はうまくいくだろうか、子供は学校生活にスムーズに慣れるだろうか、勉強や友人関係のフォローはどのようにしたらいいか……とさまざまな疑問や不安を持つ保護者の方も多いのではないでしょうか。
そこで既に小1の壁を経験した3名の方に、実際に困ったことや意外と大丈夫だったこと、働き方の変化などについて詳しくお話を伺いました。
※取材はリモートで実施しました。
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お迎えの時間に間に合うか不安だった
ゆるりさん(以下、ゆるり) 私は少し不安を感じていました。一番は子供のお迎えの時間が早くなることです。わが家が通っていた保育園には19時までの延長保育があったのですが、学童保育は18時半までで。とにかくお迎えに間に合うかどうかが心配でした。それに加えて、私もパートナーも土曜日に半日から1日の出勤をすることが多く、夫婦ともに勤務が入ると土曜日も学童に行かせる必要があります。子供の休日が少なくなってしまうので、ストレス面も気にかかりました。
まおさん(以下、まお) 私もお迎えに間に合うかどうかが一番心配でしたね。あとは子供のケア、勉強のフォローをしっかりできるかどうかも少し不安に思いました。
りゃんさん(以下、りゃん) 私は上の子が小1になる時はパート勤務だったので帰宅が早く、しかも「なんとかなるか」と考える方なので、ほぼ不安はありませんでした。知らないからこそ心配していなかったとも言えるかもしれません(笑)。
りゃん 上の子の小学校入学時は私がパート勤務だったので、私も夫も働き方を変えることはなかったです。でも、その2年後に転職して正社員になったら急に激務になって……。そのタイミングで大幅に働き方や子供との関わり方を変えてもらいました。
その後、下の子が年長の頃に再び転職しました。時短ではなくフルタイム勤務ですが、定時帰宅ができる職場環境だったので、下の子の小学校入学時はしっかり関わることができましたね。
ゆるり 夫婦ともにテレワーク等が難しい職種なのと、フルタイムの管理職ということもあり、立場上すぐに勤務形態を変えるというのは不可能でした。ただ、パートナーは両立が無理になったら転職をしようと思っていたそうです。
まお 子供が小1になるときは会社員でしたが、特に大きく働き方を変えることはなかったです。保育園よりも迎えが早くなる分、少し時間を前倒しして仕事をするようにしたくらいです。もともとパートナーは仕事の都合上、早く帰ることは難しかったので、それまでとあまり変わりませんでした。
仕事との両立は大変になる? 長期休みの対応は?
ゆるり やっぱり学童の終了時間に間に合うよう子供を迎えに行くのが大変でしたね。たった30分とはいえ、保育園より早くなった分さらに大変に。
うちは保育園の頃からですが、毎朝、家を出るときにどちらが迎えにいくのかを確認していました。車通勤なんですが、渋滞にはまったときは本当に間に合うかどうかハラハラしましたね。迎えに行く日に仕事のトラブルでどうしても帰れなくなりそうなときは、すぐに連絡して交代します。パートナーの実家が近いので、いざとなったらお願いできるんですが、できる限りは何事も自分たちでやりたいと思っていて。
まお たった数十分の差がすごく大きいですよね。私は電車通勤でしたが、何度全速力で学童へと走って向かったことか。特に小1のときはまだまだ事故などの安全面も心配で、一人では帰らせたくなくて。うちは周囲に頼れる親族がいないので、私のお迎えが遅れたとき、保護者仲間に一緒にいてもらったことがあります。
りゃん 保育園のときは保育園だけで完結していたのが、小学校に上がると学校・学童・習い事と、それぞれの状況を把握するのが大変だったなと感じます。
あと、上の子は学童に行くたびに「宿題をしない」などと怒られることも多くて。上の子の勉強をしっかり見ようにも、下の子はまだ小さかったので目が離せないし邪魔をするし。保育園と学童は隣接していたんですが、2人を迎えに行って帰宅してから、プリントや宿題の確認などをするのはしんどかったです。一方、下の子のときには一度経験して見通しがつけやすくなったのでずいぶんラクに感じました。
りゃん 準備は大変ですね。学童保育でやる課題として、無料でダウンロードできる学習プリント「ちびむすドリル」などから印刷したりしていました。また下の子は計算が苦手だったので、長期休暇のときは学童に行く前に100マス計算のような計算トレーニングをやってました。毎日毎日ノートに問題を書いたり、丸付けをしたり……。
まお それはえらい! うちは小学校1〜2年生の頃は、学校で出た宿題こそ少なかったので学童で終えるようにしていましたが、「低学年だし、まだいいか」とあまり何もせず。ちょっと仕事の忙しさにかまけて手抜きし過ぎていました。
ゆるり うちも学校の宿題は、学童でする習慣を身に付けるようにしました。また、それだけだと少ないと思ったので、長期休暇などには学童で通信教育の問題集や市販の問題集もするようにしていましたが、他の子の邪魔が入って思うように進まないことが多々ありました。そんな時は、無理にやるように言うと子供にストレスがかかるので、勉強は「できれば」程度にとどめましたね。
ゆるり 夫婦ともに学童に行く日をなるべく減らしたいというのがあったので、週5〜6日は学童に通わないといけないところを週2〜3日にできるよう、パートナーとお互いに休みをずらす調整が一番大変でした。子供の長期休暇の時は、有給休暇をかなり使いましたね。
まお 私も同じです! 毎日、朝から夕方まで学童に通い続けることで子供がしんどくならないかが心配だったので、私の母に10日ほど滞在してもらったり、私が夏休みと有給休暇と土日を足して連続10日ほど休んだり、夫にも少し休むようにしてもらったりして、なるべく春・夏・冬休み期間に子供が学童へ通う日数を減らしました。
学童がとても混雑しているところだったし、外遊びの時間が短く、やることが決められていたからというのが大きいのかも。
ゆるり 学童の環境にもよりますよね。うちも狭いところにたくさんの子供がいたので、長期休暇のときに一日中いるのは大変だろうと思いました。
りゃん 私の仕事は夏が繁忙期なので、平日に学童を休むのは難しくて……。ただ、あまり混雑していなかったので、その点はよかったです。
まお 長期休暇はお弁当作りも大変じゃなかったですか? 小2になってから、保護者会でお弁当を注文できるシステムになりましたが、うちの子はあまり好きじゃなく、結局作ることになりました。
りゃん うちの学童は別料金ながら給食が出るところなので、その点はラクだったんですよ!
ゆるり 子供が1年生のときにPTAの役員になりましたが、平日の日中に活動があったので、半休を取るか、仕事の外出の用事を組み合わせて調整していました。なので、職場にもPTAや学校行事のことを事前に伝えるようにしていましたね。
りゃん うちは保護者参加の会が多い保育園だったので、それに比べると、比較的対応しやすいように感じました。学校行事は運動会は土曜日にありましたが、ほかは基本平日ですね。今はコロナの影響でイベント系が中止になっていますが、基本的にパートナーが参加してくれています。
まお 地域や学校によっても違うと思いますが、私の場合、負担感は保育園時代とあまり変わらないように感じました。保護者会が年3〜4回、参加行事は1〜2回といった感じで。授業参観や行事などは、パートナーと交互に行くようにしています。また、保育園からの保護者仲間、小学校からの保護者仲間がいると、何かに出られないときに安心です。誰かとは同じクラスになるのでお互いに情報交換したり、フォローしたりしていますね。
ゆるり 授業参観は、学校での様子が見られる数少ない機会なので大変というよりも楽しみにしていましたね。できるだけ二人とも見に行くようにしていました。特に授業参観はスケジュールが早めに決まっていることが多かったので、休みの調整はしやすかったです。どうしても仕事でいけないときは話し合ってどちらかが行くようにしています。夫婦でお互いの譲れるスケジュール、譲れないスケジュールの優先順位をつけるよう配慮し合いました。
保育園時代よりもすごく負担が増えた、という感じはあまりなかったのですが、どちらかというと家庭訪問、懇談の日程が直前まで分からないことが多かったので、そこは少し大変だったかもしれません。
ゆるり どうしても仕事で遅くなると分かっているときは、事前にパートナーにお迎えや世話を頼むなどして調整し、残業する日と早く帰る日のメリハリをつけるようにしました。ただお互いに子供の迎えに行けない日がぶつかると、ちょっと険悪になることも(笑)。
あと、うちは家事も子育ても、あえて分担を決めないスタイルです。夕食は早く家に着いた方が作り、他の家事もできる方がやってきました。子供の準備物や宿題も同様です。つまり、力を合わせて全てのタスクを終えないと、夫婦どちらも休めないんですよ。
りゃん 分担を決めなくても、両方がきちんとやって偏らないところがいいですね。
まお 「無言の圧力」もありますもんね。怠けているとお互いにジロッと見たり(笑)。
ゆるり そうなんですよ。どんどん機嫌が悪くなるのが分かるときがあります(笑)。ただ子供の勉強だけは、昔私が塾で教えていたのもあって、率先してみるようにしてきました。
りゃん あるあるですね(笑)。うちは上の子が小1のときはパートだった私が多く負担していましたが、その後の転職で私が激務だった時期は夫が多く負担してくれました。下の子が小1のときには、私は現職に変わって定時帰りになりましたが、家事などは分担制です。
夫の実家が近いのですが、ゆるりさんと同じくできるだけ夫婦二人で頑張りたいというのがあるので、我慢せずにお互いに意見を言ってケンカしながらお互いの言い分を聞いてきたことで、うまく分担できるようになったと思います。
まお 子供が小1の頃は会社員だったので、どうしても仕事で遅くなる時は、事前に夫に話してスケジュールを調整してもらい、交代していました。それでも難しいときは、遠方の実家から私の母に来てもらったこともあります。
家事や子育ては、今も平日は私が多く担当するので、そのぶん休日は夫が多く担当することでバランスを取るようにしてきました。週末の習い事への送迎も、ほとんど夫ですね。これは、私がフリーランスになった今も同じです。
大変なこともあるけれど、子供も成長していくから大丈夫
まお うちの子は入学前、通い慣れた保育園や日々お世話をしてくれた先生方と離れることに不安を感じていましたが、事前に申し込みに行った学童で、保育園の先輩たちに「早くおいでね」と大歓迎してもらったり、私たち親も前向きなことを話すようにしたら和らいだみたいで。実際に通い始めるとすごく楽しそうでホッとしました。
でも、入学したばかりのときは疲れているようだったので、とにかく早く寝かせるようにしていましたね。今は22時〜22時半くらいと遅くなりましたが、当時は21時くらいでした。
あとは子供は子供なりに日中は外で頑張っているので、夜は楽しく過ごせるようにしたくらいでしょうか。心の満足も大切なので、短時間でも親子で一緒に遊んだり、夕食時にはよく話を聞くようにしたり。そうすれば友達と仲良くできているか、勉強についていけているか、悩みがないかなどの確認もできます。これは今も続けています。
りゃん うちの子は特に小学校入学について不安に思っている様子はありませんでしたが、やはり子供の話をなるべくよく聞くことを大事にしてきました。ぽろっと不満や悩みを話すことがありますから。あとは早寝早起き。田舎ゆえに学校が遠く、朝ごはんも早めに食べるので、しっかり食べさせることも意識しています。小1のときだけでなくて、ずっとですね。
ゆるり うちの子も、不安などはなさそうでした。小学校入学時も今も、うちの一番は「生活リズムを崩さないこと」です。寝る時間は21時半。その目標に向けて、子供にも協力してもらって全てを調整していきます。寝る時間を決めておけば、しっかり眠ることができて朝は自然と起きることができますし、学校生活もしんどくなりにくいだろうと思うからです。どうして早く寝るべきなのかは、子供にもよく話して、一緒に協力してもらうようにしました。
一同 子供自身にもチームの一員として協力してもらうの、すごくいいですね。
ゆるり 子供自身が協力してくれないと難しいですからね。それから我が家でも、学校だけでも大変なのに、そのあとすぐに学童へ行くと1日の大半をルールで縛られている状態なので、家にいるときはできる限り自由にさせるようにしました。勉強は少ししましたが、自宅に帰ってからの時間は「解放してあげる時間」といった意識で接するようにしていました。
まお 地域によっては小4から学童がなくなり、勉強も少し難しくなることから「小4の壁」という言葉もありますよね。うちの子は小2の途中から友達と約束して一人で出かけられるようになったこともあり、小3になる前に学童をやめましたが、最初は留守番をさせるのが心配でした。でも、鍵を閉めたりなど、意外にもきちんとできて一安心。同時に本人の希望で、塾やサッカースクールなどにも通うようになりました。
ゆるり 習い事などのサポートも出てきますよね。うちが利用している学童は小6まで通えるのですが、小2の途中からは学童内でやっている切り絵クラブだけ通っています。あとは、市がやっているバトミントンクラブに通い出したので、その送迎をしています。
それからやはり学年が上がると、勉強内容が複雑化していくこともあり、家庭学習の時間の確保が一番不安なポイントでした。家に帰ってすぐは家庭学習の時間、とルーチン化することに根気強く取り組んでいます。
りゃん うちは勉強面は苦手が見えたときに、そのままにならないよう一緒にやったりしています。そして、うちの地域の学童も小6までで、上の子は長く通ったんですが、下の子は平日の学童は小2でやめ、今は土曜日だけ。平日は鍵を持ってひとりで帰宅し、そのうち1日は自分でスイミングスクールに通っています。ただ、どうしても時間を見ずにゲームしてしまうようで、echo dotのAmazonアレクサアプリで時間のリマインダーを設定しています。
ゆるり そうですね。ただ、うちの子は途中でやめましたが、やっぱり学童があることで、共働きで仕事が続けられました。安心して預けられる環境があることは非常に心強かったです。それに、学年を超えた交流もできるので、学校で知っている子がいっぱいいるという面も学童のメリットではないでしょうか。
りゃん 確かに。うちの息子は家では一番下なので、つい甘やかしてしまうのですが、学童だとなにかのリーダーだったり、お楽しみ会の司会だったりをすることもあって。学年が上がるにつれてお兄ちゃんらしさが出てきた、と学童の先生方には言われました。
ゆるり 子供が小学生になると、息抜きのためにも、勉強のためにも「時間の確保」が一番大切になります。うちは学童で宿題を終えるようにしたのがよかったかもしれません。
また夫婦が同じ方向へ向いていること、お互いが当事者であることをいかに認識できるかということで、ストレスが大きく変わってくるかと思います。どちらかが「手伝う」という気持ちでは、少なくとも我が家ではうまく続けていけなかったでしょう。さらに子供と一緒にいるときはできる限りコミュニケーションをとって、密度の濃い時間を過ごすようにするのがおすすめです!
りゃん お子さんの小学校入学という大きな節目を迎えられる親御さん、心配もあるでしょうが大丈夫です。彼らの世界が広がっていく、大きな1歩でもあります。そして、少しずつ手も離れていきます。そのぶん自分の時間が取れるようになりますし、仕事もしやすくなると思います。
まお 子供が成長していくと、身の回りの世話の負担は減っていきますよね。
りゃん そうですね。ただ、昔は深夜まで働いても平気でしたけど、やはり子供がいるとそれなりに時間は必要になります。仕事が忙し過ぎてそもそも時間がとれない、という場合は、私のように転職したり、働き方を見直してみてもいいかもしれません。
まお 多くのお子さんは小学校という新たな環境にワクワクすると同時に、少し不安に思う部分もあるのではないでしょうか。ですから自信がつくよう成長した部分を褒めたり、小学校が楽しみになるような声かけをしてあげるといいのではと思います。
小学生になると、何事も親が介入するのは難しくなりますし、友達とのトラブルも起こるので、周囲の人に自らの意見や状況を穏やかにはっきりと伝えたり、交渉したりできるように、子供の自発的な発言に耳を傾けたり、先回りせずに説明や交渉を促すといいかなと思います。
あとは規則正しい生活でしょうか。子供が心身ともに健やかに楽しく生活できること自体が大切ですし、それがまわりまわって親の仕事がスムーズにいくことにも繋がると思います。
ゆるり 心配し過ぎず、子供を含めた家族全員で優先順位を決め、同じ方向を見て協力しあって進んでいけばきっと大丈夫だと思いますよ!