産前産後休業(産休)ののち、育児のため「育児休業(育休)」を取得する女性は8割以上といわれています*1 。
育休取得後に待っているのは職場への「復職」。期間は出産時期にもよるため人それぞれですが、ある程度長期にわたり業務から離れたこと、子供優先の生活で社会との分断を感じやすいことなどから、復職に対して不安やナーバスな気持ちを抱える方も少なくありません。そういった気持ちが「焦り」や「過剰な責任感」に繋がり、頑張り過ぎてしまうことも。
二度の産休と育休を経て働くブロガー・おたまさんも「仕事と育児」の両立を焦り過ぎてしまい「反省」することが多かったそう。そんなおたまさんに、自身の経験から学んだ「育休復帰後に息切れしないための働き方」について寄稿いただきました。
育休から復帰する人は、長く休んでいたことの申し訳なさや焦り、責任感などから「頑張り過ぎる」ことがあるように思います。私もそうでした。
私は第1子を産んだあと、1年間の育休を経て職場に復帰しました。復帰時は「1年も休んだ分を早く取り戻さなければ」「育児を理由に仕事に身が入っていないと思われたくない」「子どもには仕事で疲れている姿を見せたくない」と無意識のうちに思っていたようで、職場ではまるで育児などしていないようにふるまい、子どもの前ではまるで仕事などしていないようにふるまおうとしていました。
その結果、分刻みスケジュールや睡眠不足が原因で子どもにイライラをぶつけてしまったり、引き受け過ぎてしまった仕事が予定通りに進まず同僚に迷惑をかけてしまったり。そんな私を見かねたのか、同じく育休取得経験がある先輩から「初めから飛ばし過ぎると、後で息切れして辛くなるよ」とアドバイスをもらったこともありました。自分なりに「仕事」と「育児」の両立を目指していたつもりですが、思い返せば反省することも多いです。
今回は上記のような紆余曲折を経て1歳と3歳の2人の男の子を育てながらフルタイムで働く私が、二度の復帰で学んだ「育休からの復職で頑張り過ぎないためのヒント」を書いてみたいと思います。
【目次】
- 上司や同僚には「分からない」ことを素直に伝える
- 保育園スタートは「慣らし保育」「お迎えの余白」に注意
- 家族とはしっかり話し合って
- 自分の人生の責任は自分にある。でも感謝も忘れず
- 仕事と育児の両立に悩んだら
上司や同僚には「分からない」ことを素直に伝える
復帰後、どれくらいのスケジュールでどれくらいの仕事量をこなせるか、上司や同僚と相談される方は多いかと思います。しかし、どれだけ仕事ができるのかは、子どもに左右されがちです。
小さい子どもはまだ免疫がほぼなく、保育園という初めての集団生活でさまざまな病気をもらってきます。子どもが体調を崩しやすいかどうかはその子の体質によるため、復帰の時点ではどれくらい仕事ができるかが「分からない」んです。そして、どんなに健康な子どもでも、どんなにきちんと健康管理をしても予想外のことが起きるのが子育てです。
深夜の授乳を続けていたり、夜泣きで起こされたりで満足に睡眠が取れず、自分が産前と同じ体調ではないケースもあります。子どもが保育園でもらってきた風邪に感染して夫婦ともにダウンすることも……。
「職場復帰はうれしいし、頑張りたい気持ちは強いんです。でも、保育園に通うと風邪をひいたり熱を出したりして頻繁にお迎えが必要になる子もいるようです。私の子どもがどのくらい体調を崩すのか、私にも現時点では分からないんです」
というのが復帰時の私の正直な気持ちでした。そして面談でこれをそのまま上司に伝えたところ「様子を見ながら、無理せずに慣らしていきましょう」と言ってくれて、とても心強かったことを覚えています。
責任感が強く、仕事を頑張りたいという気持ちが大きい人ほど、弱みを隠して頑張ろうとしがちなため、こういった素直な気持ちを伝えることにためらいがあるかもしれません。しかし私は「こんな懸念要素がある」「私はこれを不安に思っている」と意識的に自分の弱みや不安を見せることで、復帰後の仕事がやりやすくなるのではと考えました。また、子育て経験のない方や、たまたまご自分のお子さんが丈夫だった子育て経験者からすると「子ども次第で仕事が左右される」という感覚がピンと来ない方もいます。そういう方に向けて「分からない」ことが多いということをしっかり伝えておくのも大事だと思います。
私の場合は、迎えてくれる上司や同僚が「お子さんどう?」「保育園、初めてだと泣かれて大変でしょう」と声をかけてくれたからこそ「そうなんです、今朝も大変でした……」と素直に弱音を吐けた部分も大きいです。弱みを見せられる心理的安全性、大事ですよね。私も今後、同僚が育休から復帰してくる際には、おせっかいにならない程度に声をかけていきたいなと思っています。
復職時にお菓子を配るのはあり?なし?
同僚とのお付き合いに関連して、ちょっと余談です。職場復帰時に「菓子折り」を用意すべきかどうか悩む方も多いかと思います。私は、職場復帰の初日に大箱でお菓子を持参して「お久しぶりです」「戻ってこられてうれしいです、頑張ります」「よろしくお願いします」など挨拶をして回りました。前時代的な風習というご意見もあるようですが、お菓子を渡す際に個々人にお礼を伝えやすいですし、相手からも「戻ってきてくれて助かるよ」「お子さんの写真見せて」「頑張り過ぎないで」というふうに声をかけてもらえるのでうれしかったです。
ただ「子どもの顔写真つきお菓子を配られてちょっと微妙な気持ちになった」という話も聞いたことがあるので、配るものに関しては少し配慮があると良いのかなと思います。
保育園スタートは「慣らし保育」「お迎えの余白」に注意
さて、復職とセットで考えなくてはいけないのが「保育園」です。大変な保活を経てようやく入園を果たしても、そこはゴールではなくスタート。今回は私の経験から、初めて保育園に通わせる前に知ってほしい「慣らし保育」と「お迎え時間の余白」の2つについてまとめました。
慣らし保育は「できれば2週間」
「慣らし保育」とは、子どもと親に保育園に慣れてもらうための期間のこと。これまでほとんどの時間を家庭で過ごした子どもにとって「保育園で長時間過ごす」という環境の変化はとても大きなストレスとなります。そのため、初日は短時間からはじまり、少しずつ預け時間を長くして慣らしていきます。
そして、しっかり慣らし保育期間をとり、徐々に新しい環境に慣れさせてあげることは、突然死の予防にもつながるという一説があります。
とある研究結果に、保育園での乳幼児の突然死がもっとも多いのは預け始めの1週間~1カ月で、そのうちの30%が預け始めから1週間以内に起きているというデータがあります。その原因の一つが「新しい環境でのストレス」とされているそうです*2。また別の調査研究では、保育園でSIDS(乳幼児突然死症候群)を発症した子ども31名のうち67.7%は「当日の体調が悪かった」という報告*3もあり、特に低月齢の子どもは「体調が悪い日は預けない」のが重要だと考えられます。
保育園や子どもの年齢によって慣らし保育の方針は異なりますが、一般的には「1週間」とし、あとはそれぞれの子どもの様子や親の仕事の都合に合わせて調整する保育園が多いようです。一例として、我が家がお世話になっている保育園の方針は下記の通りでした。
- 月初からフルで復帰しないといけない人もいるため義務付けてはいないが、ストレスや不安で体調を崩す子もいるため「推奨」とする
- 初日は2時間、2日目は3時間……と、少しずつ時間を延ばすほうが、子どもの負担が少ない
- 子どもが体調を崩すと結局仕事を休むことになるため、保護者にとっても慣らし保育をしておいたほうが安心
- 慣らし保育の期間はできれば2週間
私は第1子の入園の際は慣らし保育の重要性についてきちんと認識しておらず「1週間くらいかな」と思っていましたが、保育園から「できれば2週間」と言われたので素直に従いました。その後「慣らし保育は突然死予防のためにも重要」と知り「ああしっかり2週間とって良かった……!」と思いました。
慣らし保育の重要性を多くの人に知って欲しくてTwitterやブログにも投稿したところ、たくさんの反響がありました。
【同僚が育休から復帰してきた!という方へ】
— おたま@男子二児の母 (@otamashiratama) 2020年4月2日
「慣らし保育」=「突然死予防週間」だと考えて下さい。絶対に必要な期間です。
【育休から復帰した方へ】
職場に遠慮せず、慣らし保育はできれば2週間以上。お子さんの体調が少しでも悪い/違和感のある日は保育園に預けないことを強くお勧めします。
そして慣らし保育は、24時間休みのない育児と家事から1日数時間でも解放される貴重な機会。仕事用の服を買いに出かけたり、美容院に行ったり、本を読んだり、友達と会ったり、自分をメンテナンスして仕事への準備をする期間でもあります。職場や職種にもよるかとは思いますが、可能であれば急いで復帰せず、自分と子どもを大切にする期間にしてほしいなと思います。
お迎えは「15分の余白」を心がけて
余白、大事です。
例えば、保育園に子どもを18時までに迎えに行く必要があるとします。このとき「17時25分の電車に乗れば17時55分に保育園に着けるから、会社を17時15分に出よう」などと「ギリギリの行動」を追求してはいけません。
退勤間際に話しかけられることもあれば、電車が遅延することもあります。自分もハラハラするし、18時に間に合わなくて保育園に電話するのは、お迎え対応で忙しい時間帯の保育士さんにも申し訳ないです。
何度も何度も退勤からのお迎えを繰り返して身にしみたのが、できれば「15分」の余白を持つこと。上記の例なら、17時に会社を出るイメージです。何事もなくお迎えを完了し15分余ったら、子どもとのんびり歩いて家に帰れば良いんです。
家族とはしっかり話し合って
復職時の職場や保育園での対応を記してきましたが、最後に伝えたいのは「家族との話し合い」についてです。
最近は、仕事と育児の両立が「女性だけの問題」ではなく「子育て当事者全員の問題」として議論されるようになってきました。私も仕事と育児を両立するには家族の連携が重要だと考えています。一方に負担が偏ったり、相手の負担をイメージできていない状態だときつい。復職前からきちんと話しておくことが必要だな……と、自分の反省を踏まえて思っています。
緊急連絡先は「誰」にする?
私の反省点の一つは「保育園からの緊急連絡先を勝手に自分にしてしまった」ことでした。
復職してから実感しましたが、子どもが熱を出してお迎えが必要になったとき、最初に連絡を受ける人に負担が偏りがちです。なぜなら「(1)自分で迎えに行く」「(2)病児シッターなどの手配をする」「(3)パートナーに迎えを依頼する」などの選択肢を業務中に検討・判断し、必要に応じて各所に連絡を取る必要があるからです。そして、多くの場合は(1)になりがちです。
保育園からの緊急連絡先を夫にするか妻にするか、正解があるわけではありません。大事なのは夫婦でどうするのかを話し合い「緊急連絡先が自分になったらどんな生活になるか」を両方が想像すること。
私は第1子のときに「夫が連絡を受けたり、迎えに行ったりするのはムリだろう」と、夫に相談せず私の携帯を連絡先にしてしまいました。当時の仕事状況だと、たとえ話し合ったとしても最終的に緊急連絡先は私になったと思いますが「夫婦で決める」のが大事だったなと反省しています。
病児保育は使う? 使わない?
もう一つ話し合ったほうがいいのが、病児保育や病児シッターについてです。
「子どもが病気になって保育園に預けられないけれど、どうしても仕事に穴を空けられない」という状況で頼りになる病児保育や病児シッターですが、絶対に使わなければならないものではありません。「子どもが病気の時は自分で世話をしたい」と考える人がいるのは当然ですし、私の周りにも「仕事は替えが効くけれど、子どもの母親は私しかいないのよ」と病児保育を使わない宣言をしている友人がいます。
大事なのは「自分と家族がどうしたいか」をきちんと考え、話し合っておくことだと思います。病児保育を使わないのであればそれでいい。子どもの体調不良時の選択肢は「病児保育やシッターを使う」以外にも「妻/夫が仕事を休む」「近くに祖父母がいれば助けてもらう」「妻/夫が在宅勤務で自宅保育する」などいろいろあります。ひとつに限定する必要はなく、我が家もこれらの選択肢を組み合わせて対応しています。個人的には、1~2日の在宅勤務×自宅保育であれば「なんとかできる」という実感です(新型コロナウイルス感染症の影響で自宅保育が長期化したときはきつかったです……)。
話し合った上で病児保育を使いたいと思うのであれば、復職前に見学や利用登録などを済ませておくことをオススメします。施設ごとにルールが異なりますし、予約の埋まり具合も施設によって全然違います。
他にも1日のタイムスケジュール、家事や育児の割り振りなど、家族で話し合ったほうが良いことはたくさんあります。復職前、復職後にかかわらず、家族とは積極的に話し合いの場を設けてみてください。
自分の人生の責任は自分にある。でも感謝も忘れず
今回は「復職時に息切れしないためのヒント」を書き出してみましたが、復職後も「第2子が欲しいけどタイミングはどうしよう」や「多少睡眠時間を削っても仕事の成果を出したい」など、生活・仕事それぞれにいろんな悩みが湧いてくると思います。
そんなとき私は、以前女性の先輩から言われた「自分の人生の責任は自分で取るしかない」というアドバイスを思い出します。仕事のために第2子を諦めても、仕事のために睡眠時間を削って健康を害しても、会社も上司もあなたの人生の責任は取ってくれません。特に心身の健康はとっても大事です。
私自身、1回目の職場復帰から1年もたたずに2回目の産休に入りました。職場に迷惑をかけることが気がかりで、2回目の産休を上司や同僚に伝えるのはなかなか勇気が要りましたが、先輩の言葉に支えられました。
そして2回目の産休を勇気を持って打ち明けた際は、皆さん暖かく祝福してくれたので、「復帰したらまた頑張ろう」「私も同僚が家庭の事情で仕事を抜けるときは全力でサポートしよう」と思いました。自分の育休中、仕事を引き継いでくれる人、フォローしてくれる人がいるはずなので、「ありがたいな、この恩は自分も今後返していこう」という気持ちを持っておくことは大事だと思います。
いろいろ書きましたが、私もまだ試行錯誤の毎日です。育児と仕事の両立は大変なことも多いですが「育児が仕事の息抜き」にもなるし、「仕事が育児の息抜きになる」こともあります。
これから復職する人には自分を犠牲にし過ぎないでほしいな、頑張り過ぎないでほしいなと思います。私も、息切れしないように、育児も仕事も楽しんでいきたいです。
仕事と育児の両立に悩んだら
著者:おたま
編集/はてな編集部
*1:「令和元年度雇用均等基本調査」事業所調査結果概要によると83.0%(男性は7.48%)
*2:乳幼児もストレス!? 保育園預けはじめに注意 | 乳幼児 | NHK生活情報ブログ:NHK(2018年03月09日)より
*3:保育預かり初期のストレスとSIDS危険因子の関係について - 研究室(2013年12月 6日)より