趣味=将来の保険? 劇団雌猫に「推し事」も「仕事」も楽しむ秘訣を聞いてきた

劇団雌猫のかんさんユッケさん

好きなものがあるから仕事もがんばれる。そんな「趣味」を糧に日々仕事に勤しむ方も少なくないように思います。

仕事と趣味、どっちも頑張る女性たちのリアルな声を収録した『本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術-』(中央公論新社)の著者・同人サークル「劇団雌猫」の4人(もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケ)も、仕事をしながら各々の趣味やサークル活動を全力で楽しんでいます。

今回は、劇団雌猫メンバーのかんさん、ユッケさんに、多岐にわたる活動を続ける「劇団雌猫」のこと、仕事と趣味の両方を充実させるためのメソッド、また、「趣味を持つこと」そのものについてのお考えなどを伺いました。

話題になった同人誌『悪友』は完全にノリから生まれた

4人組オタク女子グループとして、書籍出版や連載を行っている劇団雌猫。趣味もお仕事もバラバラなみなさんですが、結成のきっかけは何だったんでしょうか?

ユッケ 出会ったのも人によってバラバラなんですよ。かんと私は、一番最後に会ったよね。4人そろって最初に会ったのは、確か神保町のクラフトビアマーケットだった。

かん 懐かしい~! めっちゃ覚えてる!

ユッケ 2014年くらいだよね。その頃から「推し事*1」が変わった雌猫メンバーもいて……。私も当時は2.5次元ミュージカルのファンだったんですが、今はジャニーズ事務所の「美 少年」というグループを推しています!

かん 私はK-POPと宝塚が推しジャンルで、最近は2015年に韓国でデビューした男性グループの「SEVENTEEN」のために渡韓*2することもあります。基本的に劇団雌猫メンバーは各々好きなものについて、好きなように語っていますね(笑)。

ユッケ そうそう。LINEしたり、飲みに行ったりしたときは、大体、順番に好きなことをばーってひたすら喋っている(笑)。そもそも「劇団雌猫」って、最初はただのグループLINEの名前だったんですよ。みんなでミュージカル『テニスの王子様』のライブを見に行ったときに劇中に登場する跡部様(跡部景吾)が観客に「雌猫共」と煽る姿が素敵過ぎて、「私たちも跡部様みたいになりたい!」と盛り上がり、勢いでグループLINEの名前を「劇団雌猫」にしました(笑)。

かん そのときは今みたいな活動をするとは全然思ってなくて、いわゆる「いつメン」みたいな感じでしたね。

劇団雌猫は、さまざまなジャンルに愛情とお金を注ぐ女性たちの消費活動をつづった同人誌『悪友 vol.1』(2016年12月頒布)がきっかけで、一気に話題になりましたよね。

ユッケ 『悪友』を作ったのは、完全にノリでした。そのときちょうど転職をしたメンバーがいて、年収や待遇の話をしていたら「ぶっちゃけ、みんな貯金ある?」という話題になって。みんなで貯金額を暴露していったんですけど、当時私とかんは貯金が全然なくて(笑)。

かん 謙遜じゃなく、本当に「ゼロ円」だった(笑)。貯金の話をしているときに、「こういう貯金の話って、ゲス過ぎて対面では友達に聞けないよね」「じゃあ匿名で、オタクにお金について寄稿してもらったら面白いんじゃない?」という話になって、『悪友 vol.1』を作ることになりました。

ユッケ それを、予想以上にたくさんの方が手に取ってくださったんです。そこから書籍化やWebメディアへの執筆、イベント登壇などいろいろなご依頼をいただくようになって。

『悪友 vol.1』を元に書籍化された『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話』(小学館)

毎週の「LINE定例会」で進捗を共有

活動が多岐になった今、案件をスムーズに進めるために何かしていることはありますか? 例えば、作業ごとに細かく役割分担しているとか。

かん うーん、私たち、きっちりした役割分担はしてないんですよね……。「この案件はこの人がメインで動かす」という振り分けはしているんですけど。

ユッケ ただ、連絡はまめに取り合っています。基本、LINEグループでの雑談はずっとしていて、仕事でスマホを見られないときは、100件くらい通知が溜まっていたりして……。

かん 女子高生みたいにずっと喋っているよね。そのやりとりの中から、書籍や企画のネタが生まれることもあります。そのほかにも、何かアイデアが必要な案件があればガッとブレストすることもあるし……。あと、毎週決まった時間にLINEで定例会をしてますね。

対面で話し合うのではなくて?

ユッケ はい、定例会もLINEでやっています。話し合いたいことは増えたんですが、やっぱり普段は各々仕事をしていて頻繁に集まるのは難しいので。みんなでグループLINEに集まって、進捗を報告したり、話し合いをしたり……。

かん でも結構ゆるいんです(笑)。「今日は疲れてるから無理」という日はやらないときもあります。例えばコミケ後とかね(笑)。

ユッケ その定例会で「今、本業が忙しくてヤバい!」みたいな相談もするようにしています。だから最悪進捗が遅れても、手が空いている人が「じゃあ私が代わりにこれやっておくね」みたいなこともよくあります。

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ビジネスコミュニケーションの基本とも言われる報告・連絡・相談をしっかりされているんですね。かなりお忙しいかと思うのですが、劇団雌猫の活動は「仕事」という感覚ではないのでしょうか。

かん 仕事の定義って人それぞれだと思うんですけど、私は「仕事=事業として規模の拡大を目指していくもの」だと思っています。でも劇団雌猫の活動に関しては、規模を拡大しなきゃとは思ってないし、拡大するための活動もしていない。だから仕事か、と聞かれるとちょっと違うかもしれません。もちろん、お金をいただいて何かをすることもあるので、そこの責任は全うするようにはしていますが。

ユッケ 私も、私たちの趣味の範囲で、時間や労力はかかるけれど楽しくできるご依頼だけを受けているので、「仕事をやっている」という感覚はないですね。あくまでも「活動」?

かん 「推し事」で活動を欠席するのも、事前連絡があればOKですし(笑)。

ユッケ 今年の3月に劇団雌猫が登壇したイベントも、私は推し事で欠席しました……「美 少年」のコンサートの千秋楽と被ってしまって……。チケットも当たっていてどうしても行きたかったので、LINEで「ごめんなさい」って謝って。

かん いつ自分が同じ立場になるか分からないので、みんな快く送り出します(笑)。

推し事とも両立できるのは素晴らしい!「楽しく活動できる」ということが大事なんですね。

かん 4人の中で誰か一人でも嫌なことはやらないでおこう、という空気はありますね。

ユッケ 誰かが熱烈にやりたい案件があった時に、他のメンバーに熱くプレゼンすることはありますが、逆にみんながイマイチ乗り気にならないな、と思っていることを、我慢してまでやろうとはならないです。「じゃあ、やめやめ」って。

4人それぞれ、得意分野を生かす

みなさん劇団雌猫の活動に加えて、本業のお仕事もされていますよね。忙しいなか、何か働き方について気を付けていることはありますか?

かん 私、「土日には働かない」ってマイルールがあります! 本業、劇団雌猫の活動問わず、土日には仕事を入れない。イベントなどは仕方ないこともありますが、基本的に土日の昼間は休みます。

オンとオフを切り替えるのは大事ですよね。

かん もともと切り替えるのが下手なんですよ。ずっと仕事してしまうので、「ずっと仕事できない仕組み」を作ることで解決してます。ユッケさんはどう?

ユッケ 劇団雌猫結成時は会社員だったんですが、独立してフリーランスになったので、働き方は変わりましたね。会社員時代は長時間労働で、昼前に出社して深夜1時2時まで働くことも多かったけど、今は自分でスケジュールを立てられるようになりました。それはいいことかなと。

フリーランスになったことで、何かデメリットもありましたか?

ユッケ 仕事量は会社員時代の8割くらいになりました。当然その分収入も減ったんですが、人間関係のストレスもなくなったので……まぁいいかなと思っています(笑)。勤めていたときは、日中に劇団雌猫関連のメールやLINEをチェックする時間もなかったんですよ。でも今はそういうこともなく、ずいぶんラクになりましたね。

劇団雌猫さん

本業と劇団雌猫の活動、どちらもしやすくなったんですね。本業と副業、本業と趣味……など、両立のコツを模索している方は多いと思います。

かん 両立というか、本業でやっていることが劇団雌猫の活動に生きることはめっちゃあるんですよ! ユッケさんは本業で紙媒体の出版に関わったことがあったから、書籍化のときはすごく頼りになりました。校正記号を駆使したゲラチェック、めっちゃかっこよかった!

ユッケ ありがとう(笑)。かんは交渉が得意だよね。私は厳しい条件を出されても「まぁ頑張ればいいか」とそのまま受けちゃうタイプなんですが、劇団雌猫の活動では、かんがちゃんと交渉してくれる。

かん 本業で発注側に立つことが多いから、相手がその条件を出した思惑を見透かしてる(笑)。

各々培った得意分野が生きているんですね。

かん 私が「うわ、これ苦手だな~」って思うことは、他の3人のうちの誰かが得意なんですよ。ひらりささんは個人でイベント登壇する機会が多かったから、司会がうまくて助かってるし……。

ユッケ もぐもぐさんは、「劇団雌猫」思念の中枢!って感じ(笑)。我々がなんとなく感じていることの言語化が得意というか。

かん そうやってそれぞれ得意なところを生かしています。

ユッケ 本業で「やれるのは当たり前」だと思っていたスキルが、他の人からすると「すごい」と言ってもらえることだったんだ、という発見もあるよね。

かん 劇団雌猫の活動を通して多少なりとも友人の仕事っぷりが垣間見えるというのも個人的にはいい経験だよな〜と思います。

趣味を作ることは、将来へのリスクヘッジにもなる?

本業はオタクです。書影

今回出版された『本業はオタクです』は、「仕事も趣味も楽しむ」というスタンスの一冊ですよね。同じようにアクティブに趣味を楽しむために働く人がいる一方で、「趣味がない」ことにコンプレックスを持っている人もいると思うんです。そういう人について、率直にどう思いますか?

ユッケ うーん……。働く目的が必ずしも趣味でなくてもいいと思うんですよね。私は趣味のために働いているけど、「キャリアを積み上げたい」でも「貯金したい」でもいい。それでも毎日、ルーティンをこなしているだけに感じてモヤモヤするっていう人は……YouTuberになればいいんじゃないかな。

!?

かん え、それは動画を配信するってこと?

ユッケ うん。私、最近OLさんのルーティン動画にハマってるんですよ。平日夜19時に帰ってきて、自炊をして、お風呂溜めて、お風呂に入って、スキンケアして寝る……っていう、日常を紹介する動画がたくさん投稿されているんです。

たしかに「モーニングルーティン」や「ナイトルーティン」など、たくさんのルーティン動画がアップされていますよね。「GRWM(Get Ready With Me)」といったお出かけ前の準備動画などもじわじわ注目されているように思います。

ユッケ その「ルーティン」を毎日やれるのって、個人的には本当にすごいことだと思うんですよ! 当たり前にやっている人からしたら「普通じゃん」と思うかもしれないんですけど、普通じゃないです。私にはできないですし。

かん たしかに。

誰でもできるルーティンだと思っていることが、本当はすごく特別なことかもしれないっていうことですね。かんさんはいかがですか?

かん うーん……。私は、無理矢理にでも、仕事以外の楽しみを見つけた方がいいんじゃないかな? と思うんです。

ユッケ どうして?

かん これからは100歳まで生きるのが当たり前になるって、よく聞くじゃないですか。例えば60歳で定年を迎えたとしてもあと半分近く人生が残ってるって考えたら、好きなものが何もないとめっちゃ苦しいと思うんですよね……。

ユッケ 定年後、ロスみたいになる人もいるっていうよね。

かん そうならないためにも、早い段階で「自分から趣味にハマりにいく」のも、長い目で見たときに後々のモチベーションにつながると思うんですよね。生きるのに必要なお金を貯めるだけじゃなくて、生きがいにもなるような趣味のストックも貯めておくといいんじゃないかな。

なるほど、保険的な意味もあるんですね。

かん そうそう。老後のためだけじゃなくて、今に対するリスクヘッジでもありますけどね。例えば韓流の推しが熱愛発覚したときも、宝塚にも同時にハマっておけば、ショックを受け過ぎない(笑)。

ユッケ 確かに、逃避先がたくさんあるのはいいよね(笑)。

その逃避先にする趣味は、どんなものでもいいですしね。例えばガジェットだったり、旅行だったり……。それって、具体的にどうやって見つけるのがいいんでしょうか?

ユッケ なんだろう……。難しいよね。

かん 「衣食住」に関することは、日常で選択の機会があるはずなんですよ。だからその3つのうち、どれかを趣味にしてみるのがいいんじゃないかな?

ユッケ その中だと、食が一番手軽かな。

かん 他の二つに比べてお金をかけず楽しむ選択もしやすいし、料理なら人にふるまえるしね。そうか~、だから、定年後、急に蕎麦を打ち始めたりする人の話とかを聞くのかも。

かもしれません(笑)。「趣味は長生きの保険」、心にとめておきたい言葉ですね。

劇団雌猫さん

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著書『本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術-』発売中

書影

「いつもオタク現場にいるあの人、一体なんの仕事をしているんだろう?」

仕事と趣味、どちらも充実させているリアル女子のおしごと事情をインタビューで紹介してきたWeb連載「オタ女子おしごと百科」が書籍化。『浪費図鑑』でおなじみの劇団雌猫が、日々趣味と仕事の両方にいそしむオタク女子たちにインタビューし「仕事とオタ活の両立」の工夫や、知られざる「オタ活に向いた仕事」も徹底取材しています。

さらに、本書ならではのオリジナル要素として、悪友たちが実践している働き方のアンケート調査結果や、悩める悪友のためのキャリアコンサルタント・西尾理子先生のお話も収録。仕事とシュミ、どっちも頑張る女子のための、新しい働き方指南本です。

お話を伺った方:劇団雌猫

むらたえりか

平成元年生まれのオタク女4人組からなるサークル。インターネットで知り合い意気投合した4人が、インターネットでは語られない「周りのあの子」への純粋な興味から、2016年冬に同人誌『悪友』シリーズを作り始める。トークイベントなども開催し、趣味と仕事に精を出す「浪費女子」たちから支持を得ている。
Twitter:劇団雌猫@本業はオタクです。 (@aku__you) | Twitter

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構成/芦屋こみね
撮影/関口佳代
編集/はてな編集部

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*1:好きなもののために行う活動全般のことを指す。ただし、明確な定義はなく、人によって使い方のニュアンスが異なることも

*2:韓国に行くこと