副業(複業)やフリーランス、テレワークなど、少し前と比べると「働き方」の選択肢が増えてきたように思える昨今。自分も、これまでと違う働き方はできないかな? と興味を持ち始めた人も少なくないのではないでしょうか。
でも、今までと違う働き方に興味はありつつも、実際に自分はどんな働き方ができるのか、どんなポジティブな変化があるのかは漠然としたイメージしかない……それによって、なかなか一歩を踏み出せない、なんてことも。
フリーランスのエンジニアとして働きながら、久留米で喫茶店を営業しているツキシマさんは、フリーランスになったタイミングで自分にどんな働き方ができるのか考えた結果、あえて「暇なコーヒー屋」を目指した複業をすることを選択しました。
一見全く異なるように思える2つの仕事ですが、ツキシマさんの中ではエンジニアの仕事と喫茶店の仕事をしたことでの「相乗効果」を感じているようです。今回、なぜツキシマさんが複業として喫茶店を選び、かつ「暇な」喫茶店を目指したのか、喫茶店を始めたことでどんな変化があったのかを寄稿いただきました。
「ツキシマコーヒー」っていうコーヒー屋をやってます
ツキシマでーす。
暇なコーヒー屋を始めて2年くらいがたちました。
今はコーヒー屋のマスターとフリーランスのエンジニアを同時進行でやっていますが、続けていくうちに、系統の違う仕事をするメリットって結構大きいんじゃないかと考えるようになりました。
最近は副業(複業)やテレワークを認める企業が増えるなど、働き方の選択肢が多様になってきているように感じます。でも、中には今までの働き方を変えるのはなんだか大変そうであったり、副業をしようにも本業と近いことじゃないとできなさそう……と二の足を踏んでいたりする人もいるんじゃないかなと思います。
そんな中で、意外に自分のような働き方に興味を持ってくれる人が多いので、なぜ暇なコーヒー屋を始めたのかと、その同時進行で働くことのメリットを書いていきますね。
東京で働いていたとき感じた「なんとなくの不安」
コーヒー屋をやる前は東京の外資系企業で、主にプログラミングとかエンジニアリングを教えるエンジニアとして、いろんな会社や研究所とかに数日間(長くて数週間)出張しては知識やらノウハウやらを教える仕事をしていました。
仕事も楽しくないことはないし、年収もいい。良い同僚も多く素敵な会社だったので、ずっと勤めててもよかったんですが、働くにつれ、徐々になんとなく感じる不安も出てきました。
例えばこの仕事でダントツの成果なり売上を上げたとしましょう。確かに、その瞬間、自分の評価や年収は向上しそうですが、もし自分がこの仕事を延々と続けて、定年を迎える年齢になったとしても、この仕事しかできない、世間を知らないただの偏屈な爺さんになってしまうんじゃないかとか考えたり。
また、私が仕事で主に使ってきたプログラミング言語やプログラミング環境は、日本だと自動車業界の制御システム開発や家電業界の組み込みシステム開発などに多く使われていて*1、最先端の研究開発でも長年利用されています。
これだけ聞くと安泰に見えますが、意外に界隈は変わりやすいので、いつかこのプログラミング言語が廃れた瞬間に、自分は何の技能もない人になってしまいます。ニッチな言語の中の特定の分野にだけ強く、他に応用が効きづらい一点突破エンジニアだったこともあり、ある日突然できることがなくなってしまうかもしれません。
そして、当時やっていた仕事は面白いと感じていたものの、10年も続けるとマンネリ感は否めませんでした。また、地方出張の多さや拘束時間の長さで自分の時間が取りにくかったこともあり、会社勤めをしながら副業できるような環境でもありませんでした。
さらに、もし将来的に家族の介護が必要になったとして、その当時の仕事内容しかできないエンジニアでは潰しが効かないんだろうな、という漠然とした将来の不安もあり、これらの不安な気持ちを抱く中で、新しいことに挑戦しないといけないのかな、という気持ちが募っていくようになりました。
出張先で出会った「暇そうな喫茶店」の存在と、思いついたアイデア
もともと一度はフリーランスとして働いてみたい、という思いは以前からありましたが、漠然とした不安感や、新しいことに挑戦するなら早い方がいいはずだ、と、40歳を前にして思い切って会社を辞め、フリーランスで働くことを決めました。
そして、せっかくなら喫茶店(コーヒー屋)をやってみよう、と思ったアイデアもこの頃です。
仕事で出張するときは、出張先でいろいろな喫茶店に行ってモーニングをいただいたり、Wi-Fi を借りて仕事をしたりしていました。日本各地の喫茶店を巡っていると、とっても辺鄙(へんぴ)な所で暇そうに営業している喫茶店がそこそこ多く存在することに気が付きます。
もし自分がこのコーヒー屋のマスターだったら、自分の好きなコーヒーを飲みながら、この暇な時間でプログラムを書いたりいろいろできるなーなんて考えていました。
コーヒー屋とエンジニアリングの仕事でそれぞれ7時間ずつ(合計14時間!)を別々にやるんじゃなくて、暇なコーヒー屋のマスターには暇な時間があるはずなのでどっちも同時にやっちゃうというアイデアです。
せっかくフリーランスで働くのなら、エンジニアの仕事とコーヒー屋のマスター、両方やってみてもいいのでは? と、本格的にコーヒー屋オープンに向けて動き出すこととなりました。
ただ、開店する前後で、いくつかの問題がありました。
1. 物件の家賃が高い問題
東京だとコーヒー屋をやるだけでも賃料とか敷金とか諸々の諸経費が高すぎました。ネットで物件を探してみると久留米の団地が安くて良さげだったので、思い切って移住することに。
フリーランスになるタイミングで場所に縛られない働き方をしたい、ということは事前に家族とも話し合い了承を得ていたため、実現することができました。余談ではありますが、東京に住んでいると気が付きませんでしたが、地方の市町村は移住者を求めていてウェルカムな所が多いように感じます。
2. 店内内装も結構高い問題
椅子とかテーブルとか凝りだすとキリがないですし、一通り揃えちゃうと結構な値段になるので、とりあえず家電とか以外はたくさん持ってたレゴブロックで作りました。
安上がりですし、飽きたら壊して再構築できるので一石二鳥ですね。
3. 人が来すぎて暇じゃなくなる問題
ここが一番重要です。
いざコーヒー屋を始めてみると、うっかり油断すると店が混んじゃって暇じゃなくなるということが分かりました。
暇じゃなくなるとエンジニアの仕事が圧迫されるので、あえて店の宣伝をしないようにしたり、コーヒーの値段を近隣の相場よりちょっと高くしたり、売り切れたらサッと早仕舞いしたり、駐車場が一切ないアピールをしたりしてなんとかお客さんが来すぎないような状態になるようコントロールできるようにしました。1日に近所の人が5人来るくらいがちょうどいいと感じています。
これらの「暇なコーヒー屋」を作る上で実際やったことや工夫したことは、こちらでも紹介しています。
掛け持ちで同時に仕事をすることで気付いた、意外な「相乗効果」
コーヒー屋に関する準備を優先していたため、しばらくエンジニアの仕事をストップしていましたが、開業し少し落ち着いたタイミングでフリーランスエンジニアとしても仕事を募集してみると、ありがたいことに少しずつ仕事が来るようになりました。
暇なコーヒー屋のメリットとして、飲食店経営を知ることができるとか、好きなコーヒーが飲めるとか事前に想定してたメリットはもちろんあったんですが、コーヒー屋を始める前には考えていなかったエンジニアリングとコーヒー屋を同時にやることでの相乗効果もありました。
1. 不規則になりやすいフリーランスエンジニアの生活リズム向上
フリーランスだと極端な話いつ仕事をしてもいいので、夜中とか変な時間に仕事をしたりしがちなのですが、コーヒー屋がいくら暇だとしても開店時間に人が来ちゃうかもしれないので朝は起きないといけません。
そのため、開店準備の時間には間に合うよう起きるようになるし、コーヒー屋の暇な時間で仕事をするようになるので自然と規則正しい生活を手に入れられました。
そして決まった時間にワンちゃんが散歩しにコーヒー屋に来るので、ちょうどいい息抜き時間も確保できます。
2. エンジニアリング環境の向上
会社員時代、外出先で仕事をする必要が出たときにカフェを探すこともありましたが、店内が混んでいて長居できるような雰囲気でなかったり、PCを開くのに低いテーブル席しか空いてなかったり、一回外に出てしまうともう一回コーヒーを買わなきゃいけないので粘って滞在したこともあったりしました。
が、今考えるとマナー的にも気持ちの上でもよくなかった気がします。
自分のコーヒー屋であれば集中できる環境を自分用にカスタマイズできるので、普段はコーヒー屋の空いたテーブルだったりスタンディングのテーブルだったりで仕事をしてますが、静かな環境でのミーティングとかが必要な時は和室を使ったりして自由に過ごせます。
それに、コーヒーを淹れているときなど、別の作業をしている時にアルゴリズムのアイデアが湧く(ただ根を詰めてもアイデアは出ないのだ)こともしばしばです。
3. エンジニアリングの仕事から繋がる、コーヒー屋へのいい効果
エンジニアの性質なのか、なにかとアウトプットをする習慣があるんですが、YouTubeとかでコーヒー屋だけじゃなく近所の適当な出来事だったり、身近なものをプログラミングで解析したりしてアウトプットをしていると、そのアウトプットをきっかけにコーヒー屋を知ってくれる人も出てくるようになりました。
クリエイティブな人や、一緒にイベント・企画をしたい人、お互いにとって学びになる人、この地域や団地が大好きな人達がコーヒー屋に集まってくれるようになり、中には、こうしたお客さんをきっかけにエンジニア以外の仕事までもらえるようになりました。
「暇なコーヒー屋」を始めたことによって、今までやってきたエンジニアリングとは畑違いの仕事でしたが、それ故に学びは多かったですし、考えてもいなかったプラスの相乗効果があったと感じます。
何か新しい仕事を始めよう、と思ったときに本業のスキルを活かせそうだったり、これまでやってきた業務に近い仕事を選ぶと確かに手軽ではありますが、まったく違うものでも、良い影響が得られることは発見でした。
また、自分の場合は、コーヒー屋で稼ごうというスタンスというよりも(実際に、コーヒー屋での収入は賃料などの経費でほぼ相殺されています)、エンジニアリングの仕事と同時にやることで自分用の快適な仕事環境を作れたというのが一番の大きなメリットになったんじゃないかなと思っています。
プラスの収入源を得るための副業や複業、という視点で本業とは別の仕事を始めてみるのも選択肢の一つ。別の仕事を始めるにしても、これまでの経験と地続きの仕事をする、というのも選択肢としてあると思います。
でも、何か新しい発見や楽しみを見つけるために、これまでやったことのない仕事をできる範囲で始めてみたりすることで、自分のように思いもよらない相乗効果が得られることもあります。
自分の今の働き方はなかなかレアケースだと思いますが、「暇な〇〇屋」を始めてみる、というのも一つの選択肢としていいんじゃないかなーなんて考えております。もちろん、副業や複業をするのがさまざまな事情から難しい、という人もいらっしゃると思いますが、今回の記事が「何か今までとは違う働き方ができないか」を考えてみるきっかけになれば幸いです。
編集:はてな編集部
働き方を見つめ直したくなったら
著者:ツキシマ
*1:アメリカでは航空宇宙分野とか金融工学、ロボティクスなどに多く使われていますね