芸人とロボットエンジニア、2つの顔を持つカニササレアヤコさんが「熱くなれる瞬間」

カニササレさん

芸人のカニササレアヤコさん。平安装束をまとい、笙(しょう)という雅楽器を用いたネタをひっさげ、2018年は『R-1ぐらんぷり2018』決勝にも進出した若手の注目株です。

そんな芸人としての活動のほか、ロボットエンジニアとしての顔も持つカニササレさん。活動の傍ら、会社員として現在も週5で働いています。

どちらも本業であり、それぞれに楽しさがあるというカニササレさんに、2つの道を歩むに至った経緯、両立を叶えるための職場選び、さらには多忙な中でもやりたいことをやりきるための心得などについて伺いました。

両立のため、独学でプログラミングを始める

芸人でありロボットエンジニアでもあるというカニササレさんですが、普段の大まかなスケジュールを教えていただけますか?

カニササレアヤコさん(以下、カニササレ) 基本的には会社員として週5日フルタイムで勤務して、終業後や休日などを中心に芸人として活動しています。平日に番組収録やイベントがあるときは有給休暇をもらって、という感じですね。

芸人としてのお仕事も少しずつ増えていると思いますが、両立が厳しくなってきていませんか?

カニササレ それまであまり使わなかった有給がまだ残っていますし、上司が融通をきかせてくれるので、今のところはなんとかなっていますね。とても恵まれた職場環境だと思います。実は現在の会社は2社目なんですが、芸人の活動や趣味を続けていくために、休みがとりやすそうな会社に転職したんです。

休みがとりやすそうな会社って、どう見分けるんですか?

カニササレ 私の場合は転職活動のときに「残業時間」と「社員さんのSNS」をチェックしました。転職サイトなどで「月平均残業時間20時間以内」を検索条件に入れて、ある程度のめぼしをつけます。で、そこで働いている人たちのSNSなども分かるようであれば見て。長期休暇で海外旅行をしているなど、余暇を充実されているような人が多ければちゃんと休める会社なんだなって、個人的に判断していました。

カニササレさんは、早稲田大学文化構想学部を卒業されていますよね。文系ご出身で、なぜエンジニア職を選んだのでしょうか?

カニササレ あまり時間に縛られず、比較的フレキシブルに働けるイメージがあったからです。エンジニアなら芸人とも両立できるんじゃないかなって。独学で勉強したり、高校の同級生でプログラミングができる子がいたので、教えてもらったりしていました。

カニササレさん

会社員モードのカニササレさん

では、1社目からエンジニア職で?

カニササレ そうです。ただ、1社目は副業が禁止だったんですよ。大学時代の就活は「とりあえず食い扶持を得よう」と、受かったところに入ればいいやという感じで決めてしまったんです。だから芸人の活動をあまり大っぴらにはできなくて……。大学時代から所属していた芸能事務所も辞めました。

「お笑い」は一番熱くなれるもの。でも、エンジニアも続けたい

2社目に転職してからは、芸人としてバリバリ活動を始めたんでしょうか?

カニササレ いえ、当初はせいぜい半年に1回お笑いライブに出るくらいでしたね。好きでやっていることなので「売れたい」とかもあまりなくて、趣味でもいいかなって。そんな感じでゆるっと活動してたんですけど、大学時代のお笑いサークル仲間が「面白いんだから自信もちなよ!」と背中を押してくれたこともあって、2018年のR-1に出ることにしたんです。

それで、いきなり決勝進出。勝ち上がっていくときの心境は?

カニササレ もう信じられなくて、嬉しいよりも驚きのほうが強かったです。決勝進出が決まったときは夢の中にいるんじゃないかと……。

カニササレさん

着替えていただきました

2018年はR-1以降、憧れの番組だったという『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ)にも出演するなど、芸人として飛躍への足掛かりをつかみました。

カニササレ 中学生の頃からお笑い芸人を目指してやってきて、いろんな種を蒔いてきたのがようやく実り始めた感じがします。自分の中で一番熱くなれるのがお笑いなので、このまま少しずつ芸人の仕事の比重を増やしていけたらいいなと思っています。ただ、会社員としての仕事も芸人も、どちらも本業だと考えているので、可能な限り両立していけたらいいですね。

会社ではロボットエンジニアとして、「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発を行っているとのことですが、具体的にはどんなお仕事なのでしょうか?

カニササレ ペッパーに言わせたいこと、やらせたい動きをプログラミングして送り込む、「ペッパーの脳内を操る」仕事です。

なるほど。ロボットエンジニアはどんなところが魅力ですか?

カニササレ 最先端の技術に関わることができ、さまざまな新しいガジェットの情報が入ってくるのが魅力ですね。あとは、エンジニアって内にこもる職業と思われがちなんですけど、コミュニケーションロボットを作るのって「人に向いている」仕事なんですよ。

ペッパーがときどき変なことを言って、それに反応することで思わぬコミュニケーションが生まれる。そんなふうに誰かと喋っているシーンを想像しながら、ペッパーに何を言わせるか考えるのも楽しいです。

ちなみに、2017年にご結婚されていますが、パートナーはカニササレさんの芸人と会社員の両立について、どんな反応ですか?

カニササレ 応援してくれていますね。夫は日本人なんですけどイギリス育ちで、イギリスでは芸人(コメディアン)ってすごく地位が高くて尊敬されているみたいなんです。だから、当初から『芸人すごいじゃん!』という感じで好印象でした。夫は「女性のお笑い芸人がブスとかデブとか、美人とか、そういうのを求められるような時代はもう終わるから、君がその筆頭になればいいよ」と言ってくれています。

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「お笑いサークルが面白かった」から早稲田大学へ

幼少期のことをお聞きしたいのですが、雅楽や平安時代をモチーフにした“雅”なネタから察するに、もしや高貴な家柄なのではないかと……。

カニササレ 全くそんなことはなくて(笑)、父は教師で母は専業主婦という家庭で、特別に裕福だったわけではありません。雅楽に関しても私が小学生の頃に母が「篳篥(ひちりき)」という雅楽器を趣味で始めて、それに影響されて笙に興味を持ったのがきっかけです。音がとにかく素敵なんです。

ただ、やりたい習い事は何でもやらせてくれる両親でした。当時習っていたのは、ピアノ、書道、ドラムやスポーツチャンバラなどですね。今もそうですが、色んなことに興味を持つ子どもだったみたいです。

「お笑い」も、その一つだったんでしょうか?

カニササレ いえ、実は小さい頃はお笑いを熱心に見ていたというわけではなかったんですよね。

では、芸人を志すようになったきっかけは?

カニササレ 中学校の文化祭で友達とコンビを組んで漫才をやったのが凄く楽しくて、それからずっと続けている感じですね。高校生になってからもお笑いの大会に出たり、お笑い研究会を立ち上げたりして。月1回のライブと、年2回の大会のために漫才やコントのネタを作り続けていました。

当時、同じ舞台に立っていた人の中には、現在プロとして活躍されている芸人さんもいるとか。

カニササレ はい。M-1グランプリ14代目王者・霜降り明星の粗品さんがピンでやられていたり、「平成30年度NHK新人お笑い大賞」で優勝したGパンパンダさんなどがいて、阿佐ヶ谷の舞台とかに一緒に立っていました。今活躍されている方は当時から格が違いましたね。

中でも私が衝撃を受けたのは、同い年のパーマ大佐。それはもう、引いちゃうぐらい面白かった……。当時は現在メインでやられている歌ネタではなくフリップネタをやられていて、すごくしゃべりが達者なのでものすごくウケてました。2018年のR-1の予選のとき久しぶりに再会できて、嬉しかったです。

その後、早稲田大学に進学されます。進学先に早稲田を選んだ理由は?

カニササレ お笑いサークルが一番面白いと思ったからです。「お笑い工房LUDO(ルード)」という有名なサークルで、尊敬する1つ年上のGパンパンダさんも所属されていたので、追いかけていこうと。

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大学選びもお笑いが基準だったとは……。

カニササレ 両親や先生は、私がお笑い芸人を目指していることに対して思うところがあったかもしれませんが、「とりあえず早稲田に行くならまあいいか」という感じでしたね。

早稲田の「LUDO」はメディアで活躍する芸人も多数輩出していますが、やはりレベルは高かった?

カニササレ すごかったです。高校時代とは比べものにならないくらい。Gパンパンダさんはもちろん、みんな面白くて。個人的に好きなのは、後輩でまだ学生なんですけど「ホットパンツマン」です。私が尊敬する、なかやまきんに君さんと同じ系統で、ずっと笑って見ていられる、平和で明るいお笑いなんですよね。

ホットパンツマン……チェックしてみます。ちなみに、カニササレさんは当時どんなネタを?

カニササレ 私は……かなり迷走してました。ラーメンズさんかぶれの世界観コントみたいなのとか、雑学を面白く教えます、みたいなフリップ芸とか。あとは、中性洗剤の被りものをして酸性洗剤と混ざる「中性洗剤コント」とかですかね。伝わらないですよね……(笑)、すみません。

その後、自分にしかできないネタをやろうと思って雅楽や「笙」を取り入れてみたらわりとウケがよかったので、それからキャラが定着しました。

今日もお持ちいただいていますが、ネタで使われている「笙」ってかなり高価なものなんですよね。

カニササレ 一番安いので10万円くらいです。これとは別にもう1本あって、そっちは母が大学の入学祝いにプレゼントしてくれました。「入学祝い、イタリア旅行と笙とどっちがいい?」と聞かれて、迷わず笙を選んだくらい好きですね。笙は聴くのも吹くのも楽しいんですよ。時々演奏会などにも出演しています。

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笙を吹くカニササレさん

趣味が多いと、毎日楽しいことだらけ

カニササレさんは学生時代からすでに「学業とお笑いの両立」を実践していたんですね。当時から忙しいのが普通というか、苦にならないタイプだったんでしょうか?

カニササレ そうだと思います。お笑い以外にアルゼンチンタンゴ音楽サークルの幹事長もしていたので、けっこう忙しかったですね。アルゼンチンタンゴが週3回、お笑いサークルが週1回、大学2年生からは芸能事務所のお笑い養成所にも通い始めました。

ただ、ずっと休みなしでやっていたら体力が持たなくなってしまって……。以降は月に1~2回は何もせず家でダラダラと過ごすようになりました。今も毎月必ず、何の予定も入れない日をあえて作るようにしています。意識して休まないと、気付けば予定をびっしり詰め込んでしまうので。

趣味も本当に多彩ですもんね。笙やタンゴ演奏以外にも、ピアノ、バイオリン、登山や乗馬もやられるとか。

カニササレ 趣味が多いと、毎日楽しいことだらけなんですよ。毎月のように何かしらの趣味のイベントがあるので、あれも行きたい、これも行きたいとなってしまうんです。だから、趣味がこれ以上増えたらちょっと危ないですね。

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人生を全力で楽しんでいる感じがして羨ましいです。では、最後に芸人、エンジニアとしての今後の目標を教えてください。

カニササレ 芸人としては、ものまねをさせていただいている雅楽師の東儀秀樹さんにいつかお仕事でお会いできたら嬉しいです。演奏かバラエティか、いずれかの形でご一緒できたらと思います。エンジニアとしては、いつか自分でロボットを開発したいです。プログラムだけじゃなくて、物理的なハードの部分からアイデアを出してイチから作ってみたいですね。

あと、これは完全に趣味なんですけど、いつか「笙」を自分で制作したい! 以前に笙の職人さんにお会いして内部を見せていただく機会があって、それ以来ずっとやってみたくて。聴く、吹くだけじゃなくて自分で作れたら最高に楽しいな、と思っています。

取材・文/榎並紀行(やじろべえ)
撮影/小野奈那子

お話を伺った方:カニササレアヤコさん

カニササレさんプロフィール1994年、神奈川県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。フリーの芸人を経て、現在はサンミュージックに所属。「R-1ぐらんぷり2018」ファイナリスト。特技はプログラミング、ロボットエンジニアリング、絶対音感で何でもすぐ弾ける。趣味も多彩で、笙やピアノ、バイオリンからモンゴル乗馬までこなす。
Twitter:@Catfish_nama

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次回の更新は、2019年2月6日(水)の予定です。

編集/はてな編集部