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冗談のつもりが本当にリングデビューしてしまった――プロレスラーとしても活躍する声優・清水愛さん

清水愛さん
専門学校に在学中に声優デビューし、その後15年以上ずっと第一線で活躍している声優の清水愛さんには、なんとプロレスラーとしての顔もあります。声優とプロレスラー、まったく違う2つの職業をどのように両立させているのでしょうか。仕事を始めたきっかけから、働く上での工夫、今後の人生プランまで、余すところなく語っていただきました。

コンビニの店員とすらまともに話せなかった学生時代

清水愛さん(以下、清水) 今回は私の働き方に関するインタビューなんですよね。このテーマでの取材ってすごく新鮮です。私、「働くぞ!」と思ってお仕事をしている感覚とは少し違うんですよね……。

と、いうと?

清水 うーん……。「好きな表現活動をして、それが評価してもらえたときにお金をいただける」と言ったらいいのかな。なので、「仕事」という言葉に対して私たち役者が持っている印象は、世の中の働く人たちとはもしかすると全然違うのかもしれません。私、なるべくなら働きたいですもん。SNSで「仕事行きたくない」「休みたい」「クリスマスなのに仕事だ」といった嘆きを見かけることがありますが、「家で一人でいるよりお仕事で誰かと会えるほうがいいじゃん!」とか思ったりします。

芸能の仕事ならではの感覚ですよね。一般人でもフリーランスで働く人は同じように考えていると思います。

清水 そうですね。相手に求めていただけることありきの職業ですので、お仕事に呼んでもらえないと働けない。そもそも、なろうと思っても必ずしもなれるとは限らなかったり、お金を稼ぐぞ、と思って選ぶ職業でもなさそうですよね。

清水愛さん

清水さんは声優とプロレスラーの二足のわらじで働かれていますが、それぞれどういった経緯で始められたのでしょうか?

清水 声優に関しては、なりたくて夢見ていたというわけでは全然ないんです。もうそれ以前の問題で、子どもの頃からものすごく引っ込み思案で、コンビニの店員さんとすらまともに話せなくて。「温めますか?」「お箸つけますか?」と聞かれるだけで、「…………は……はぃ……」と赤面してしまっていました。

それで、高校を卒業するときに、このまま大人になるわけにはいかない、と思って地元の専門学校の声優コースに入学することにしたんです。声優の勉強を何年かすれば、ハキハキ喋れるようになるはずだ、と。

そうだったんですね。半ばリハビリのために……。

清水 そうです。自己啓発のためでした(笑)。なりたい職業云々ではなく、まずはまともに喋れるようにならなきゃ、ちゃんと人間として生きていけるようなスタートラインに立ちたい、と。私は怠け者なので、養成所や劇団ではなく、専門学校を選びました。養成所だと毎日レッスンがあるわけではなく週1回だけとか、週3回あったとしても1コマ2時間とかのところが多くて。だったら、強制的に朝から夕方までみっちり授業が詰まっている専門学校に身を置いて、人と喋る勇気やテクニックを培うほうが私には合っているなと思ったんです。

結果、授業がすごく楽しくてのめり込んでいき、運よく事務所所属のチャンスをいただけたわけですが、当時の私からしたら、コンビニの店員さんとも話せないような人間が、まさか将来的に人前に姿を晒すような職業に就くことになるとは……です。

役という仮面をかぶることで「喋っていいんだ」と思えた

実は声優の仕事がすごく向いていたってことですよね。

清水 私の場合、引っ込み思案だったのが逆によかったのかもしれません。たぶん、自分の中に「表現したい。本当は話したいけどうまくできない」と鬱屈したものがたくさん溜まっていたんですよね。それが、台本をもらって役という仮面をかぶることで、その溜まって圧縮された感情をセリフに乗せて爆発させることができるんだと思います。

逆に役を通しての表現ではなく、自分自身をさらけ出すタイプのお仕事はすごく苦手でした。

例えばどんな仕事でしょう?

清水 若い頃、ドラマCDのおまけトラックとして、キャスト一人一人が例えば「学生時代の思い出を語る」といったプライベートなインタビューを収録することが多くて。そういうのがもう、本当ーっに苦手で! 役というフィルターがあればいくらでも、何でも喋れるんです。私がこの役を担当すると決まっていることで、自分は喋っていいんだ、と思えます。でも、それがない状態で、私自身を生身でポンと置かれたら、一体私の話すことに関心を持ってくれる人なんかいるのだろうか……とがんじがらめになってしまって。最近では、こんな私の境遇にも共感してくれる人がいることがわかって平気になったのですが、当時はつらかったです(笑)。

たしかに声優といえば裏方というイメージがありますが、最近ではイベント出演や雑誌に掲載されるなど前に出るタイプの仕事も増えている印象があります。

清水 私の学生時代(2000年頃)は、林原めぐみさんなどが歌の活動を含め活躍されていましたが、それ以前は今ほど声優さんたちが前に出る仕事って多くなかったように思います。声優雑誌にグラビアが載ったり、握手会やイベントに出たりといったお仕事が増えていったのは、私がデビューした頃くらいからですかね。

先ほど「すごく引っ込み思案だった」とおっしゃっていましたが握手会やイベントなど、ファンとの距離が比較的近いような仕事は、ストレスにはならなかったですか?

清水 ステージに一人きりで喋るのは今でもすごく緊張しますが、サイン会や握手会など、ファンの方と直接会話するイベントは当時からずっと大好きです。みなさん「好き」という気持ちを持って会いに来てくださるので、愛の告白をされているような感覚になります。

なるほど、引っ込み思案とはいえ、人とのコミュニケーション自体はお好きなんですね。

清水 そうですね。あと、突き詰めていくと、私は人から必要とされたかったんですよね。声優の仕事をしていると、普通に生きていたら絶対に出会えないような遠くに住んでいる人にまで私の声が届いて、「声を聞くと元気が出ます」といった感想をもらえたりするんです。一瞬でも誰かの役に立つことが嬉しくて、自分の存在価値を感じられる。お仕事をいただくことについても同じで、依頼をいただけるのはつまり、「あなたの声とお芝居が必要なので、あなたがこの台本を読んだ上で、この日、この時間、このスタジオに来てください」ということなんです。

これって私じゃなければダメってことなので、私自身が求められているという実感を持てます。ちょっと闇が深いかもしれないんですけど……。スケジュールにお仕事が入っていると、「あ、ちゃんと居場所がある。私、存在していていいんだな」って(笑)。自分の価値を他者に求めるのは、よくないこととは思うんですけど、こういう性格なんですよね。

清水愛さんのお仕事必須アイテム

声優の仕事で声を張り上げるシーンがある日は、コンビニで売っているチキンの揚げ物を食べるのだそう。「脂っこくて喉が潤うので、声の伸びがすごくよくなるんですよ」と清水さん。多色ボールペンも、台本チェックには欠かせない必須アイテム

冗談のつもりが本当にプロレスラーになってしまった

プロレスの仕事についてはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?

清水 プロレスラーになったのは、本当にひょんなきっかけだったんです。プロレス観戦にハマり、プライベートの時間をすべてプロレスに費やすくらいプロレス漬けの生活を送っていたときに、プロレスイベントの出演依頼をいただいて。告知をするときに、「ついにリングデビューします!」と冗談で書いたんですよ。別にイベントに出るだけで、リングで戦うわけでもないのに。

でもそうしたら、なんと主催者さんが乗り気になってくださったんです。知り合いのプロレスラーさんたちも「やるんだったら教えてあげるよ」とか、「コスチューム作るなら紹介しますよ」と言ってくださって。あれよあれよと雪だるま式に話が大きくなってしまって、本当の意味で“リングデビュー”できることになっちゃったんです!

清水愛さん

白無垢をイメージしたリングコスチューム

単なる冗談が本当のことに!

清水 短期間だったけど必死に練習して、どうにか試合をして、その日は怪我なく無事終わりました。1回きりのお遊びでしょ、話題作りのためでしょ、と結構言われたりしたんですけど、体を動かすのがすごく楽しくって。「ちゃんとやりたい」と思って改めて練習をするようになって、今に至ります。

声優としての清水さんのファンの方からはどのような反応をされましたか?

清水 「ケガをするんじゃないか」とかなり心配されました。今まで美少女キャラやおとなしい性格の役を多くやってきたからなのか、素早く動けなさそう、どんくさそう、おっとりしてそう、と思われがちで。実際はそんなに運動が苦手なわけじゃないんですけどね。プロレスに限らず、自分の素を出そうとすると、意外、とか、イメージと違うって言われることが多かったかもしれません。

素の清水さんは、おとなしいキャラでも、おっとりしているわけでもないということでしょうか?

清水 そうなんです。とか言いつつ、見た目に関しては自分自身が考える「好みの女の子像」があって、自分を着せ替え人形にしていた節があります(笑)。前髪ぱっつんの黒髪ロングでサイドには「触覚」がないと嫌で、ゴスロリを好んで着ていました。これもよく「事務所命令」「媚びている」など言われたのですが、そんなこと全くなくて。単に自分の好みでした。そういったルックスの面ではファンの方と好みが合致していたんですが、中身がみなさんの想像とかけ離れていて……。

だから、昔は特に、ファンの方々の思うイメージに自分を押し込めるように頑張っていました。キャラのイメージを崩さないようにしよう、とか、男性の影は見せないほうがいいのかな、とか。別に自分を偽ってよく見せようとか、自己犠牲の精神とかそういうつもりじゃなくて、相手に喜んでもらえるのが一番、と思っていて。

素を出せなくてしんどい、よりも「喜んでもらえる」というほうが優先度が高かったんですね。

清水 完全にそうですね。そのせいか、私のことをMだと思って「俺ドSなんだよねー」というタイプの男性に好意を持っていただきがちでした。実際は私、全然Mじゃないんですよ。「Sはサービス・察しのS、Mは満足のM」と言いますけど、相手が望むようなサービスをしたいという気持ちが強いので、根っこはスーパードSだと思います。

声優とプロレスラーを両立するためのやりくり

兼業の工夫についてもお聞かせください。声優もプロレスラーも、毎月働く日が決まっているわけではなくスケジュールが不安定な職業だとは思いますが、どのように両立していますか?

清水 時間のやりくりの面では、フリーランスで働いている今はスケジュールを全て把握することができるので、調整しやすいですね。事務所に所属していた頃は「この日はお休みかな」と思っても「明日の仕事は○時に、場所はどこどこです」と前日に連絡が来たり、逆に仕事があると思って空けておくと直前に「なくなりました」と連絡が来たりします。「この日に仕事が入るorなくなる」というのは自分で逐一問い合わせる必要があるんですよね。フリーランスだとそういった事務所とのやり取りが必要ないため、この日はプロレスの試合だから、翌日に収録は入れないようにしよう、などと柔軟に対応できます。

清水愛さん

リングコスチュームは、清水さん自らデザインしているのだそう

試合の翌日に収録を入れないようにしているのはなぜでしょうか?

清水 単純に体力が……というのと(笑)、以前プロレスの試合で男性の強い蹴りを思いっきり顎に2発もらってしまったことがありまして。プロレスって基本的には顔面攻撃NGなんですが、食らっちゃったんです。慌てて病院に行ったんですが、口の片側がうまく動かなくなってしまって……。翌日に声優のお仕事が入っていたので、どうしよう……って青ざめました。そのときはどうにか乗り切りましたが、今はより気をつけるようにしています。健康面や体調面に気を配るのも大切な仕事ですからね。自分でできることとして、フリーランスということを生かし声優とプロレスラー、それぞれのお仕事でベストを出せるようなスケジュールを可能な限り組むようにしています。

試合のとき、気をつけていることもあるのでしょうか。

清水 喉を潰されたら死活問題なので、どうしてもそこを守ろうとする戦い方になってきます。ただ、ほかのプロレスラーの皆さんもそれぞれどこかしらケガをしていて、そこをかばいながら戦っていることもあるので、そういう意味では同じだと思っています。

出産や子育てをしたら、仕事復帰したくても席が空いているとは限らない

最後に、声優兼プロレスラーとしての今後のキャリアプランについてはどうお考えでしょうか?

清水 この間、大会の最中に男性のプロレスラーさんが「もうすぐ妻が出産なんです」と報告しているのを聞いて「出産前後でも、男性は試合ができていいなぁ〜」ってうらやましく思いました。

たしかに、女性はどうしても働く上で、子どもを産むかどうか問題が付いて回りますよね。

清水 19歳から声優をやらせていただきつつ、途中でプロレスもやりたいと思って業界に飛び込んだのが32歳。今が36歳。ずっと大好きな仕事をさせていただいて幸せですし、ついつい自分のやりたいことを優先させてしまってきたのですが、昔から「子どもを産むなら2人欲しい」という夢があって。でも、今は「何ヶ月先に仕事が決まっているから……」と、どんどん先延ばしになってしまっているんですよね。もし、「今なら仕事が落ち着いている」というタイミングがあったとしても、そのときに運よく妊娠できるとも限らないですし。安静にする必要があるのは産む前後の1週間だけ、とかだったらいいのに!

わかります。妊娠期間が約10ヶ月もあって、その後しばらくは子どもから目が離せない時期が続くのは、働きたい人にとってはあまりに長すぎますよね。

清水 また、子どもを授かったとしても、子育てが落ち着いた後に声優やプロレスの仕事に戻ってこられる席があるかというと、その保証はありません。声優です、と再び名乗れるのかと思うと不安ですね。どんどん新しい人も出てきますし、出産や子育てが落ち着いたときには、私の戻れる場所はなくなっているかもしれません。体力があるうちに出産や子育てをすることを考えたら、できるだけ早いほうがいいのはわかってはいるのですが……。

難しい問題ですよね。「これが正解」というのもないと思います。特に、“お仕事をいただく立場”である芸能やフリーランスで働く女性にとって、永遠の課題だと思います。

清水 ですよね。もしも60歳や70歳で産めるのならば、まだまだ先延ばしにしてしまうかもしれません。でも、現実ではそうもいかないと思うので、正直どうすればいいのか自分の中で答えは出ていないです。なんて言いつつ、産むことができたらそれはそれで、子育てのほうが向いているかも! とか思っちゃうかもしれないですけどね。

清水愛さん

取材・文/朝井麻由美
撮影/関口佳代

お話を伺った方:清水愛

mii

日本工学院専門学校演劇俳優科声優コース出身。声優業の傍ら、プロレスラーとしても活躍中。声優としての主な出演作に、『おねがい☆ツインズ』(小野寺樺恋役)、『舞-HiME』(美袋命役)、『エル・カザド』(エリス)などがある。事務所所属を経て、現在はフリーで活動中。直近の活動情報として、2017年11月6日に朗読イベント「謎解きR.P.G.」、2017年12月8日〜12日に劇団あかぺら倶楽部「行かせてッ!〜沢井一太郎の憂鬱〜」、2017年12月29日〜30日:「Frontwing LIVE 2017 -First Flight-」に出演予定。

Twitter:@aitter_smz
Instagram:@aitter_smz
ニコニコ生放送:清水愛チャンネル 毎週水曜23時より乙女ゲーム実況生放送中

次回の更新は、11月1日(水)の予定です。

編集/はてな編集部