「今は1人の子育てで精一杯だけど、やっぱりきょうだいがいた方がいい?」
“正解”がないからこそ、第一子を育てている中で、2人目以降をどうするか悩んだ経験がある人は少なくないでしょう。いざ2人目を育てたいと決意しても、妊娠出産は思い通りにいかないことが多く、体力やお金、年齢などがハードルになることも。
また、自由な時間が限られ、仕事にも影響が出やすい共働き家庭の場合、なおさらその悩みは大きくなりがち。
そこで今回は、それぞれ一人っ子、2人・3人きょうだいを育てながら働く3名に、「子どもの人数はどう決めた?」というテーマでお話を伺いました。
みなさん、仕事と両立する難しさ、夫の病気や自身の産後うつ、不妊治療など、それぞれの事情を抱えながら、「選択ひとりっ子」「2人」「3人」と子どもの人数を決断してきたそうです。
※取材はリモートで実施しました。
<<参加者プロフィール>>
「理想の子どもの人数」と、収入や不妊といった「現実」の間で揺れ動く気持ち
ぽけこさん(以下、ぽけこ) 私は結婚したのが20代前半だったので、出産や子育ての現実をよく知らないまま、「30歳までに2人くらい子どもが欲しいなあ」と漠然と思っていました。
でも結婚してすぐに、夫が病気になってしまって。その後、夫は6年間の闘病生活を送り、私もパワハラで苦しんでいた職場を離れるという変化があったので、夫婦揃って落ち着いたタイミングでやっと子どもをつくることを考え始めました。
とはいえ夫は長い闘病生活のあとですし、私も当時は専業主婦で、収入面が不安定だったので、育てるとしても「1人」だねと夫婦で話していました。産後「きょうだいがいた方がいいのかも?」と迷うこともありましたが、いまは一人っ子を選択しています。
とぅえこさん(以下、とぅえこ) 私自身が3人きょうだいなので、独身の頃は「きょうだいは多い方がいい」と思っていたんですが、結婚して現実が見えてきてからは「2人くらいかな」と考えていました。
ただ実際に子どもを産んでみたら、仕事との両立を含めとにかく子育てが大変で、軽度の産後うつになってしまって。もともとは3、4歳差くらいで2人目が欲しいなあと思っていたのですが、精神的にも体力的にも経済的にもやっぱり無理かも、と決めきれず、結局、8歳差で2人目を出産しました。
ぽにさん(以下、ぽに) 私も夫も3人きょうだいなので、結婚した当初から「3人欲しい!」と思っていました。でも1人目ができるまでの道のりが長くて……。
30歳で結婚して、すぐに妊活を始めたもののなかなか授からず、4年ほど不妊治療をして流産も経験しました。ああもう無理かもなあと諦めかけていた矢先に1人目を妊娠したんです。
出産後、仕事復帰してすぐに思いがけず2人目を妊娠して。1歳8カ月差だったので、てんやわんやでもう大変過ぎて! それでも私は、どうしても3人欲しかったんですよね。二度目の流産も経験しましたが、6歳差で3人目が生まれてきてくれました。
2人目への葛藤や不妊治療を経て「子どもの人数」を心に決めたとき
ぽけこ 出産前に夫婦間で「一人っ子」と同意していたものの、娘が2歳になった頃に周囲でベビーラッシュがあったこともあり、私の気持ちが揺らいだんです。「また自分の赤ちゃんを抱っこしたいな」って。娘のベビー用品も「もしかしたら2人目が……」と思うとなかなか手放せなかったですね。
それから、一人っ子だと「2人目は?」と聞かれることが多くて……。「一人っ子」を選ぶことに理由が必要な気がして、妙な後ろめたさがありました。
とぅえこ 私も2人目を産む決断に至るまでは、息子の同級生が一人っ子だと安心したり、ほかの家庭を見て2人きょうだいをいいなと思ったり、ぐらぐら揺らいでいましたね。
ぽけこ 娘が3歳半の頃に新型コロナで保育園が休園になり、2週間娘と自宅で過ごしたことで、私、子育て向いていないかも? と改めて気付いたんです。わがままにイライラしてしまったり、遊びに付き合うのが苦痛だったり……。そんな自分のことも嫌で。
やっぱり私に2人育児は無理だ! と思ったタイミングで、ちょうど引っ越しの予定があって、捨てられずにいたベビー用品を思い切って手放したんです。モノを捨てたら気持ちもすっきりして、やっと自分の中にあった“2人目へのモヤモヤ”が晴れました。
とぅえこ うちは8歳差兄弟で、その間ずっと悩んでいたわけですが、2人目をつくる背中を押してくれたのは、実父の死です。
夫とは自分の親が亡くなった悲しみを共有できなかったけど、自分のきょうだいとはわかち合えたんですよね。そのときに「このままだと息子は私たちの死をひとりで受け止めないといけないかもしれない」「もしきょうだいがいたら、その悲しみをわかちあえるかも」と考えました。
夫はもともと子どもの人数にこだわりがなかったので、私の年齢や仕事のタイミングを考慮して、自分で決めたタイミングで2人目が欲しいと伝え、合わせてもらいました。
ぽに そうですね。1歳8カ月差はさすがに大変過ぎた……のですが、それと同時に子どもが生まれる度に幸せが増えているとも感じていたので、気持ちは揺るがなかったです。とはいえ、年齢や金銭的な悩みもつきまとうなかで、「3人目」を決断するのは難しいとも思います。
ちなみに、さっきぽけこさんが「周りから2人目は?と聞かれる」とおっしゃっていましたが、子どもが3人いても、4人、5人産んでいる方から「もう1人どう?」と話しかけられることがあります。
常につきまとう「育児と仕事の両立」への不安をどう捉えるか
ぽに ありましたねえ。私はいわゆる“お堅め”な企業の研究職に就いているんですが、結婚と同時に異動した部署は年上の女性が多く「(出産は)順番だからね」と言われました。いま思うと完全にNGな発言ですが、10年近く前はそういう言動や空気がまだ当たり前にあったんですよ。
1人目のときは職場の理解が浅くてしんどかったし、働き盛りの30代後半だった2人目のときは、プロジェクトリーダーなども任されていたので、責務が重くて大変でした。
実家が遠い共働き家庭なのに、夫は海外出張に行くし、私は国内出張に行くし、当時どうやって生きていたのか謎です(笑)。それくらい目まぐるしかったですね。
ぽに そうですね。3人目の妊娠を機に、とあるプロジェクトリーダーから降りたんです。周囲から期待されているプロジェクトで、成功すればキャリアにとってもプラスになると分かっていたので、とても葛藤がありました。でも、最終的にはずっと望んでいた3人目を無事に迎えることができて、これでよかったんだと思えるようになりました。
とぅえこ 私も古い気質の日本企業に勤めているので、1人目を産んだ13年前は、妊娠を伝えた途端、昇進の話が白紙になりました。子どもを産むこと、複数回産休育休を取ることがキャリアに影響するのが“当たり前”のような空気がありましたね。私が産後うつになったきっかけは、そういった仕事へのプレッシャーや不安もありました。
でもそこから8年たった2人目のときは空気が変わっていて、子どもがいる人でも昇進するし、育休も取りやすくなっていました。ただ、私はそれぞれ2年ずつ育休を取っているので4年のブランクがあるのですが、実際には育休を取得した期間以上の差が生じているように感じます。
ぽに 分かります……! 私、職場では子どもが3人いることをあまり言わないようにしていて。いまは公に「子どもを産むこと」や「そのために休むこと」への嫌味を言うのはNGだし、10年前よりも社会は優しくなっているとは思いますが、やっぱり「3回も育休を取ったんだ」と思われたくない意識があるんです。
そういう、周囲に対して「負けるもんか」と気を張って巡ってきた仕事のチャンスをつかみにいくスタンスと、「仕事と育児の両立、お手上げです」と諦観して手を抜くスタンスが共存していますね。
ぽけこ 私は20代の頃は派遣や契約社員として働いて、妊娠出産したときは無職だったので、おふたりのような“キャリア”がほとんどなくて。フリーランスで仕事を始めたのも、24時間子どもと一緒の生活がしんどくて、子どもを保育園に預けたいという気持ちが強かったからなんです。
ただ、わが家は今のところ「一人っ子」を選択していますが、もし2人目を産むとなったら、私はフリーランスなので育休・産休の手当てがないですし、夫の会社も小規模で人員に余裕があるわけではないので、代わりに育休を取得してもらうのも難しそうで……。
育児に欠かせない「お金」の問題。みんな、どうやって対策してる?
ぽに 3人きょうだいだと、切実な悩みですね……!第3子は保育料が無償になる自治体とそうでない自治体があって、私が暮らすエリアでは、3人目でも年の差があると有償かつ減額措置もなくて……。想定外に大きな支出で、痛いどころじゃないです。お金はかかりますよ、ホントに!
とぅえこ わが家も年の差きょうだいかつ2人目は高齢出産なので、今の制度だと2人目が高校生のときに夫も私も定年になっちゃうかもしれなくて。大学進学を見越すとすごくお金がかかるのに、収入がなくなってやっていけるのか不安です。
ぽけこ 私は逆で、専業主婦時代に1人目を生んだので、その後ダブルインカムになったことが「もう1人いけるんじゃ?」と悩むきっかけの一つになりました。
ぽに 3人目が生まれてからは、しっかり考えないと破産する!と焦って、月に1回、夫と一緒にエクセル上で資産の棚卸しをするようになりました。2人とも理系の研究職で数字が大好きなので、数値で具体的にシミュレーションしてどうのこうの話していますね。
少額ですが、2014年から「NISA」を夫婦で、「ジュニアNISA」も子ども3人分しています。
とぅえこ すごい……!うちは退職後が心配なので、給与が上がっても生活レベルは上げないように気をつけています。あとは、固定費を下げるために最近車を手放しました。
ジュニアNISAなどの投資もやっておけばよかったと思うんですが、仕事や育児で手一杯で、なかなか手が回らなくて。ひとまず将来を見据えて、こつこつ貯蓄をしています。
ぽけこ 私はフリーランスということもあり、仕事をした分だけ収入が増えるので、ひとまず今は「自分で稼ぐ」ことを頑張りたいなと思っています。
思い描いた通りにいかなくても、きっと大丈夫。それぞれの子育てのかたち
ぽけこ 20代の頃は、みんな“普通”に子育てしてるから私にもできるものだと思っていたんですよ。でも実際に娘が生まれて、子育て向いてないなあと思うことが多くて、なんで私はできないんだろうって責めるような気持ちがあったんです。
Instagramで発信を始めてから、自分だけじゃなくて、向いてないと思いながら子育てしている人たちがいることを知って。人には向き不向きがあって、子育ても同じだと、できない自分を受け入れたらすごく心が軽くなりました。
現時点では一人っ子だけど、また数年後に気持ちが変わるかもしれない。年齢のリミットはありますが、そのときはそのときだと思っています。
とぅえこ 2人目を産みたいと思ってからなかなか授からなかったので、思い通りにならないことは実感しています。思いがけず2人目育児が楽しかったこともあり、もっと早くに2人目を産む、と決めていたらもう1人産めたかも、と後悔のような気持ちもありますね。
ぽに 私、1人目がなかなかできなかったので、半ば諦めて、夫と世界一周旅行を計画していたんですよ。子どもができないから、その分自分たちの好きなことをしちゃおうって、見積もりも取って。そんな最中に1人目が生まれて、世界一周は白紙に。
子どもができなかったら、私はとことん時間もお金もかけて、自分の好きなことをやっていたと思います。いまは出費が半端ないので世界一周なんて考えられない。でもその分、3人の子どもたちからたくさんのハッピーをもらっているので、いいんです。
ぽけこ 一人っ子だと思う存分抱っこしてあげられるし、「アイスが食べたい」と言われても悩まず買ってあげられる。ソフトクリーム1つ400円ならいいけど、2つ800円だと躊躇(ちゅうちょ)しちゃう性格なので(笑)
「甘やかすのはよくない」と考える方もいるかもしれませんが、園では集団生活ができているようなので、うちは「それでよし」としていて。
私は、七五三や季節のイベントといった行事ごとをちゃんとやりたいタイプで、日常の中でも、極力子どもに手をかけてあげたいという気持ちも強いから、そういった思いを叶えやすいのが一人っ子のよさかなと思います。
とぅえこ うちも長男が一人っ子の期間が長かったのでそのよさは感じていましたね。ただ2人目を生んだ今は、次男が生まれる前まで全部思い通りだった長男が理不尽さを経験するのは、彼の成長にもつながっているんじゃないかなと思うようになりました。
それに私は、子どもが1人増えて幸せが2倍どころじゃなくて、100倍くらいになったと感じているんです。それまでなんでこんなに悩んでいたんだろうと思うくらいに。1人目と比べて、2人目の子育ては楽でした。
とぅえこ 1人目は親もとにかく手探りだったけど、2人目からは慣れてくるから、ですかね。うちは8歳差なので、長男が結構戦力になるんですよ。
ぽに 歳が近い2人育児は全然楽じゃないですからね(笑)。6歳差の3人目は、上の子たちが戦力になるので余裕がありました。
ぽに 3人きょうだいでよかったと思うのは、親の愛情やプレッシャーが分散されることですね。1人目が生まれた頃の私は、息子の一挙手一投足に一喜一憂していて。たぶん子どもに介入して、口うるさい“教育ママ”になってたと思うんです。
でも2人目、3人目と生まれると構っていられなくて、ひとりひとりに対して100%の子育てをしているつもりでも実際は68%くらいで……。それでも「まあいっか」と思えるようになって、逆に肩の力が抜けたというか。
子どもたちに「いちばん好きな人はだれ?」って聞くと「弟!」「お兄ちゃん!」と答えるんです。お母さんじゃないんだ〜って寂しい気持ちもありますが(笑)、子どもたち同士で仲良くやっている。私が手をかけてあげられない分、自立心が育っているし、子どもたちの社会ができているんですね。子どもたちといい距離感を保てることも、私にとっては結果的によいことなのかなと思います。
取材・執筆:徳 瑠里香
イラスト:ナカニシヒカル
編集:はてな編集部