「頼ること」をためらわない。発達障害・知的障害児を育てる吉田可奈さんに聞く、仕事と療育の両立


吉田可奈さんは、フリーライターとして働きながら、健常児の長女・みいちゃんと発達障害・知的障害をもつ長男・ぽんちゃんを育ててきたシングルマザー。2020年には親子3人での日々をつづった著書『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』(以下、『うちの子、へん?』)を出版されています。

吉田さんの著書タイトルにもなっている「うちの子、へん?」というキーワードに、ドキッとする方も少なくないのではないでしょうか。子どもが成長していくにつれ、もし何らかの障害が分かったとき、子どもとどう向き合っていくか。それに伴うライフスタイルの変化、今の仕事を同じように続けられるのかなど、不安は尽きないはずです。

そこで今回は、子どものケアと仕事をどのように両立してきたのか、長男・ぽんちゃんが3歳から小学校に入学するまで通っていた「療育」のことなど、当事者である吉田さんに聞きました。

※取材はリモートで実施しました

まだ社会の理解が浅かった「発達障害」を当事者目線で発信

『うちの子、へん?』では、発達障害・知的障害をもつぽんちゃん、お姉ちゃんのみいちゃんと過ごす日常が描かれています。この本はどのような経緯で作られたのでしょうか。

吉田可奈さん(以下、吉田) あるwebメディアのコラム連載で、息子・ぽんちゃんの障害が判明したときのことを書いたときに、当時の担当編集の方から「発達障害や知的障害児の育児について連載してみないか」と打診があったのがきっかけです。

それから「障害児の子育て」をテーマにした連載をスタートし、一冊の本にまとまったのがこの『うちの子、へん?』になります。

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

ぽんちゃんの障害が分かったときの「自分のせいかも」という後悔や戸惑いもストレートに書かれていますが、何よりも「不安や葛藤もあるけれど前向きに生きていこう」という吉田さんのポジティブさを感じます。

吉田 ぽんちゃんが生まれた2010年ごろはまだ、「発達障害」という言葉を聞いたことはあるけれどもよく知らないという人が大半だったように思います。

また、我が子に障害があることを知らされた親に対するフォローも少なかったんですよね。今でも議論されていることではありますが、発達障害や知的障害は「治る」といわれていたり、障害児向けの専門教材がいくつも出回っていたり。私もぽんちゃんの障害が分かったときに同じ境遇のママさんから「息子さん、発語がないの? 〇〇先生のところに行けばよくなるよ」なんて言われたことがありました。

でも、障害は100人いれば100通り。Aさんには合う方法だけど、Bさんには合わないなんて当たり前にあることで、万人に効果のある「治療法」なんてないと思っていて。そういった誤解や偏見、そして障害児を育てることへの不安が、私が体験談を語ることで少しずつでもやわらいでいけばいいなと思い、連載をしていました

保育園で指摘された「発育の遅れ」から、発達の遅延が判明

ぽんちゃんの障害が分かったときのことや、どのように行動していったのかを教えてください。

吉田 ぽんちゃんの場合は、1歳の頃に保育園の先生から「小さいね」と言われたのが最初のきっかけでした。二人目の子だったこともあってあまり体重や健康面について細かく気にかけることがなくなっていたんです。

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

でも「小さい」と言われたことがすごく気になって、その日のうちにかかりつけの小児科へ足を運びました。それから1年ほど、食事に栄養剤のようなものをプラスして様子を見ることになりましたが特に改善が見られず、発語もなかったため、2歳のときに大きい病院へ行って検査を受けました。

関係のありそうな検査は全て受けましたが、結果は「異常なし」。でも、健常児なら長女と同じように育っているはず……。モヤモヤした気持ちはありましたが、このときに「ぽんちゃんには障害があるかもしれない」と腹をくくったような気がします。

そこからどのようなアクションを?

吉田 その後の3歳児検診で他の子との違いをはっきり認識しました。検診時に、保健師さんに専門的な教育支援などが受けられる療育センターへ通うのを勧められたので、検診後すぐに問い合わせて予約をとりました。予約は半年待ちでした。

半年待ち……。すごく長い期間ですね。

吉田 この半年の間に、自分に何かできることはないか? と市役所の方に尋ねましたが、特にないという回答でした。ただ、療育センターの方から「保育園に通っているのはすごくいいこと」と言っていただけて。発語がないこと以外は健常児と変わらず、よく笑う元気な子。保育園で集団生活に参加していることもプラスになるし、お姉ちゃんがいることもいい刺激になっている。他の子と同じように生活をさせることが一番だと言われたので、私は変わらず仕事をしながら保育園に通わせていました。

3歳の時点で健常児との発達の違いが顕著になっていたこともあって本格的に療育を受けることになり、週に2回、午前中の時間を療育にあてることになりました

仕事の量はキープしながら、週に2回の療育に通う日々

そもそも「療育」とはどういったものなのでしょうか。

吉田 明確な定義はないようですが、障害のある子どもやその可能性のある子どもがそれぞれの発達や特性に応じて受ける専門的な支援を指すのが一般的なようです。療育が受けられる機関としては、医療機関や児童発達支援センターがあり、そういった場所が「療育センター」と呼ばれることもあります。

具体的にはどのようなことを?

吉田 子どもによってかなり異なるので、ぽんちゃんの場合についてお話ししますね。ぽんちゃんは3~5歳まで週2回、6歳では月に2回、療育に通っていました。内容は、発達検査の結果や先生との問診で決まっていきます。

ぽんちゃんは週に1回ずつ、「言語聴覚療法」「作業療法」と呼ばれる療育を受けていました。ひらがなの読み書きを練習している子もいるようでしたが、ぽんちゃんの場合は発語がないので読み書きの訓練などはなく、積み木を重ねたり、紐にボタンを通したりといった内容が多かったように思います。

ほかにはトランポリンや、ペットボトルを使ったボウリングのように手足や体全体を使ったり体幹を鍛えたりする活動が取り入れられていました。いずれも「遊び」の延長なので、本人は楽しんで取り組んでいたと思います。

我が子が障害の診断を受けたとき、療育と仕事を両立できるのか不安を感じる人も多いと思いますが、吉田さんは何か仕事の仕方を変えたところはありましたか?

吉田 あらかじめ、療育に行く時間帯には予定を入れないようにしておきました。療育は8時半からで、医師の診察があるときもだいたい11時くらいには保育園に預けて、午後から仕事。ぽんちゃんが小学校に上がるまでこのスケジュールでした。

療育との両立にあたり、仕事をセーブせざるをえないと感じた場面はありませんでしたか?

吉田 離婚していたこともあって「とにかく稼がなきゃ!」という気持ちの方が強かったので、両親と保育園のサポートを受けながら、仕事量を減らさずに働き続けることを優先して考えました。ただ私の場合、フリーランスということもあり、調整はしやすい環境だったと思います。

勤務時間が決まっている会社員だと、両立が大変なケースもありそうですね……!

吉田 会社員の方や実家が遠い方は「それは難しい」と感じるかもしれませんが、今、リモートワークやフレックス勤務が推奨されるようにもなっていますよね。これって、子どものケアにもすごくつなげやすいんじゃないかなって。

通勤に費やす時間が減った分、通院がしやすくなったり、パパが療育に付き添うこともできたり。親二人で分担できると、負担も減らせるのではないかという希望もあります。

働き方をある程度調整できる環境であれば、保育園も利用しながら療育と仕事を両立できそうですね。ただ物理的には可能でも、「仕事より子どものケアを優先すべきなんじゃないか」「仕事をやめてずっと一緒にいてあげた方がいいのかも」と悩んでしまう人もいそうです。吉田さんはそういった葛藤はありましたか?

吉田 療育は関係なく、私も「子どもを保育園に預ける」という選択をしたときから罪悪感をすごく感じていました。私の母は昔気質で「こんなに小さいうちから預けるなんてかわいそう」と言うタイプでしたし。しかも離婚もしていて、それは私が決めたことで……と、がんじがらめになってしまって。

でも、その悩みを保育園の先生に打ち明けたら「私たちは保育のプロなんだから、子どもたちのことを一番に考えていますよ。プロに任せて、しっかり仕事してきなさい!」って。その言葉のおかげで、働き続けることへの後ろめたさは薄れていった気がします。

『うちの子、へん?』のコラムでは、最相葉月さんの「障害のある子どもを育てることと、女性の夢がバーター取引であってはいけない」という言葉も紹介されていましたね。

吉田 ぽんちゃんは就学後は支援学校に入り、療育は卒業して放課後等デイサービスを利用しています。そうなると一日の流れは小学校と学童保育を利用している子と同じで、親も健常児の親とほぼ同じように時間を使えるようになります。障害の程度にもよりますが、送迎や長時間の付き添いが必要なのは保育園や幼稚園の間だけでした。だからこそ、自分のやりたいことや仕事は手放さずに最初の数年をしのげれば……と、実体験を経て感じています

<放課後等デイサービス>
主に6歳~18歳の障害を持つ就学児童が対象。授業の終了後又は休校日に児童発達支援センターなどの施設で利用できる福祉サービス。

「言葉にする」「発信する」ことで、我が子の障害を受け入れていけた

療育と仕事を両立する忙しい毎日の中で自分の気持ちを整理していくのは、大変さもあったのではないかと思います。ご自身がいっぱいいっぱいにならないように、何か心がけてきたことはありますか。

吉田 ぽんちゃんのことを隠さず、周りになんでも話すようにしました。離婚のときもそうでしたが、自分の近況をついあれこれ話してしまうんですよね(笑)。

例えばどんなふうに話していたのでしょうか。

吉田 6歳を目前に、ぽんちゃんに「表出性言語障害」の診断が下りて、のちに発達遅滞とともに知的障害もあると判明しました。その日は、長くお付き合いしている女性シンガーソングライターの方の取材があって……。顔を合わせたとたんにこらえきれず「ねぇ、聞いてもらってもいい?」って、取材に入る前にぽんちゃんの話をして、それで緊張の糸が切れてわんわん泣いてしまって……(笑)。

でもそうやっていろいろな人に話しながら自分の気持ちを言葉にしたり、感情を出したりすることで、どんどん「当たり前のこと」になっていったというか、怖くも恥ずかしくもないと思えるようになっていったように感じます。

他人に話すと同時に、自分の気持ちも整理されていったというか。

吉田 思えばそれが、私がぽんちゃんの障害を受け入れていく“障害受容”のプロセスだったかもしれません。取引先の出版社の方などにもぽんちゃんのことをよく話していたので、事情を分かってくださる方も多くて、仕事との両立の面でも助けられました。

仕事相手に家庭の悩みを話すのは勇気がいりますが、吉田さんの場合、正直に話すことが働きやすさにもつながったんですね。

吉田 あとは、長女とよく遊んでいる友達に自閉症の子がいて、その子のママにぽんちゃんのことを相談したのも大きなステップでした。著書にも書きましたが、ひとしきり今抱えている不安を話したらその人が「よし、逆手にとろうか」って(笑)。すぐに市役所で療育手帳を取得しよう、行政のサービスで使えるものはどんどん使おう、と、ポジティブな言葉をたくさんかけてくれて。

同じ境遇で、同じ経験をしてきた人だからこその言葉には確かに励まされそうです。

吉田 サークルのようなものもあるし、身近に同じ境遇の人がいない人は参加してみるのもよいかもしれません。ただ、中には価値観の合わない方もいるので、SNSでもリアルでも、合わない人とは上手に距離をとる必要もあると感じます。同じ目線や温度感でいられるママ友がいたことは、私が恵まれていた点かもしれません。

苦しいとき、誰かに頼ることをためらわないでほしい

『うちの子、へん?』を読んでいると、吉田さんのポジティブな考え方・生き方に勇気づけられる一方で、「でも私はこんなに前向きになれない……」と自分と比べてしまう人もいるのかなと思って。

吉田 私も、もちろん不安になることはあります。同じ境遇のママ友と話していても、みんな将来への不安を感じていますし、「自分がいなくなったら、この子は……」というのは共通の悩みです。思い詰めてうつになってしまったり、「いっそ、この子と一緒に……」なんて、最悪の想像をしてしまったりする人もいます。

でも、先のことって考えれば考えただけ不安なんですよね。健常者であるみいちゃんも、私自身も、明日は何があるか分からない。そう考えたら「今日を楽しく生きたい」って。すごくバカみたいかもしれないけど、今日を楽しめて、明日も楽しく生きよう! って一日を終えられたら、それを積み重ねていけたら。そう思うようになってからは、私も娘も、息子もポジティブに過ごせるようになりました。

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』より

当たり前ですが、いろんな葛藤、悩みを乗り越えての今なんですよね。

吉田 ぽんちゃんに障害があると分かってからは、私自身すごく強くなった気がします。ベビーカーを押していると通りすがりの人から「邪魔なんだよ」と言われたりすることもあったので、金髪にしたりゴツいアクセサリーをつけたりして、周囲を威嚇していました(笑)。心ない人に攻撃されれば「何がダメなんですか?」と反撃することもありました。

シングルマザーとして生きていくと決めたときに「この子たちは私が絶対に守るぞ」と思ったのが、攻撃的な形をとって表れていたのかもしれません。

確かに、見た目を変えたら攻撃されなくなったというのはよく聞きます。でも、本当は頑張って強くならなくても生きていける世界がいいですよね。

吉田 みんながみんな強くならなくていいと思うんですよ。弱くても、誰かに助けてもらうことが一番大事だと思います。例えば療育センターや病院、役所、友人、SNS……。「私はすごく困っている、助けてほしい」と、SOSを出すことをためらわないでほしい。

私もそうなのですが、ほとんどの人は誰かに頼られると「何とかしてあげたい」「助けたい」って思うんですよね。信頼できる人に助けを求めることが、今苦しい人にとってはとても大切なことなんじゃないかなって。助けてもらったら、次は自分が助けよう……。そういう気持ちで、一人ひとりが大切な人を大切にしていけるようになればいいなと思います。

取材・執筆:藤堂真衣
編集:はてな編集部

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お話を伺った方:吉田可奈さん

吉田可奈

エンタメ系フリーライター。作詞家。シングルマザー。14歳、12歳(知的障がい)の子育て中。著者本「うちの子、へん?」 「シングルマザー、家を買う」発売中。
Twitter:@@knysd1980

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