みなさんこんにちは。旅する編集者の藤本智士です。相変わらず日本全国を旅するぼくですが、こういう巨大モニュメントってよく見かけませんか?

こういった、でっかいデコポンとか、

でっかいフグとか、

でっかいマグロとか、

原寸大ぽい(わかんないけど)恐竜とか!

 

これらはすべて、ぼくが旅の途中で出合った巨大モニュメントたちなんですけど、いったいどんな人がつくっているのか、考えたことってありますか?

実は最近、こういったFRPという素材を使った巨大モニュメントを制作している人の存在に触れたんです。

しかもその方は、熊本県天草市にある御所浦島(ごしょうらじま)という島に住んでいて、島のなかで黙々とこれら巨大モニュメントたちをつくり、島の人たちに「島のミケランジェロ」と呼ばれているというからもう気になって仕方ない!

ということで、御所浦島まで行ってインタビューしてきました。

ちなみに御所浦島は、1997年に恐竜の化石が見つかったことから「恐竜の島」「化石の島」と呼ばれていて、付近で産出した恐竜などの化石を展示する博物館が2年前にリニューアルしたばかり。

島の玄関口である御所浦港では、さっそく島のミケランジェロによる、ティラノサウルスの頭部が迎えてくれました。

なんか、こわいけど!

話を聞いた人:松永 英也(まつなが・ひでなり)

熊本県天草市御所浦町出身・在住。株式会社アクアマリンまつなが代表取締役。福岡でデザインを学んだ後、祖父の代から続く家業を継ぐために帰郷。造船や水槽、船舶部品製作で培った技術を活かし、FRPを使ったモニュメント製作を25年前から手がけ、これまでに500体以上を製作。北海道から奄美大島まで全国各地に作品が点在する。独学で編み出した造形と唯一無二の色彩表現から、「島のミケランジェロ」と呼ばれる。

 

木の船→水槽→モニュメント。親子3代でサバイブしてきた

藤本 ここが松永さんの工房なんですか?

松永 そうです。祖父の代から続く造船所なんですけど、時代の流れとともに造船業が下火になっていったので、いまはモニュメントの製作を主な仕事にしています。

藤本 スタートは造船業なんですね。

松永 はい。なので、船のボディに使われるFRPの扱いには慣れているんですよ。

藤本 FRP。

松永 FRPは水に強い素材で船や水槽に使われるんですけど、巨大モニュメントも大抵野外に置かれてるじゃないですか。

藤本 だから同じ素材を! なるほど!

※FRP……ガラス繊維などの繊維素材に樹脂を染み込ませて固めることで、軽くて強度を高めた繊維強化プラスチックのこと。プラスチックの軽さと繊維の強さを組み合わせた素材で、船や水槽のほか幅広い製品に使われている。

松永 もともとは祖父が戦後、ここで木船をつくっていたんです。父の代に引き継ぐあたりからFRPの船をつくるようになったんですが、木船と比べてFRP船は、あまりにも質が良くて壊れないんです。

藤本 木船は修理したりなんだりで、お仕事が豊富にあった。

松永 はい。木は腐るから腐った部材の交換が必要だったけど、FRPは腐らないので。さらに大手メーカーが天草に工場をつくったこともあって、造船業がいよいよ下火になりました。そこで父の時代には料亭の生け簀だったり魚市場の水槽だったり、造船をしながら水槽をつくる方向に変わっていったんです。

藤本 へえー! 料亭やお寿司屋さんで生きた魚が入れられてるやつ、よく見ますね。

松永 わたしが御所浦に帰ってきた当時もなんとなく水槽の仕事をしていたんですけど、正直、あまり楽しくなくて。それでモニュメントのほうに。

藤本 おじいちゃんは木船、お父さんは生簀や水槽、松永さんはモニュメント。親子三代で職種が自然に変化していったんですね。

松永 危機を乗り越えるために、ですね。

藤本 それこそ、家業を継がない選択肢はなかったんですか?

松永 親は引き継がなくていいと言ってたんですけど、わたしは長男の使命感もあり、御所浦が好きっていうこともあって帰ってきたんです。

藤本 しばらく外に出られてたんですか?

松永 高校から熊本市内に行って、卒業後は福岡の九州デザイナー学院に通いました。昔から絵を描くのが好きで。親がデザインとかが好きなら、そっちの世界に行ったらいいんじゃないかって。それで、3年ぐらい福岡でデザイナーをして帰ってきたんです。

藤本 デザイナーをしてたんですね。納得。

松永 公園のデザインとか、店舗のデザインとか。

藤本 その世界もおもしろかったんじゃないですか?

松永 おもしろかったですね。でも、田舎が自分には合ってたんです。

藤本 この町で暮らしたい気持ちがあったんですね。

松永 はい。この町でできる仕事を考えたときに、まだ若かったので、家業を継ぐことしか頭になくて。こっちに帰ってきて2年くらいは、水槽を言われるがままつくっていたんですけど、おもしろみを感じなくて。

藤本 作業という感じになっちゃいますよね。

松永 そうです。ちょうどその頃、島で恐竜の化石が出て「恐竜の島」として観光を頑張ろうという機運が高まっていたこともあって、飲みの席で友達が「船とかつくれるんなら、恐竜をつくればよか」って言ったんです。その言葉に「ああ、たしかに」と思ってしまって。

藤本 その友達、めちゃくちゃナイスですね。

松永 その人は冗談交じりに言ったんだろうけど、わたしは水槽つくりに飽きていたっていうのもあったし、デザインもやっぱり諦めきれなかったので。そこで合致したんです。

 

「やってみたらできちゃった」FRP造形の肝は、色のリアルさ

藤本 それで恐竜をつくってみようと思って、まずどうしたんですか?

松永 最初に、ディズニーランドとかユニバーサル・スタジオ・ジャパンとか、一流のものを見に行きました。田舎の御所浦でつくるならば、日本一を目指さないと仕事が来ないと思ったので。

当時はまだ若くて、すごく自信に溢れてたから、そういうところで恐竜のモニュメントなんかを見て「これならいけるな」と思っちゃって。

藤本 すご!(笑)若気の至りというか、若者らしくてめちゃいいエピソード。

松永 まだ25歳ぐらいでイケイケだったので(笑)。それで帰ってきて、試作品をつくってみたら、やっぱりできたんです。

藤本 できちゃったんだ!

松永 小さめの恐竜なんですけどね。今から25年くらい前ですね。

藤本 それは試作だから、誰にも頼まれてないのにつくったってことですよね?

松永 そうです。最初は口で言うだけじゃ誰からも頼まれないかなと思ったので、試作品をつくって、当時の御所浦町(※現在は合併して天草市)に寄付しました。

右の小ぶりな恐竜が松永さんが初めてつくった試作品。現在は天草市の本渡港のフェリーターミナルに飾られている

藤本 最初からこれだけのものをつくれたのは、ほんとにすごいな。

松永 FRPを使った造形は、造船や水槽でこれまでもやってきましたから。その試作品を見て「これだけのクオリティのものをつくれるのであれば」と依頼を受けてつくったのが、御所浦のバーガーショップの前にある、トリケラトプスです。

松永さんが25歳のときに初めて依頼を受けて製作したトリケラトプス

藤本 いやあすごいな。「これならいけるな」とか思っちゃうって、大抵やってみたらできなくて反省みたいなエピソードなのに。ガシガシできちゃうってもう、漫画の主人公のエピソードじゃないですか。

松永 それまでつくってたのが水槽とかだったんで、とにかく楽しかったですね。

藤本 そもそもFRPって、どんなものなんですか?

松永 FRPは繊維強化プラスチックと言って、ガラス繊維のシートに樹脂を染み込ませて乾かすと、カチカチになるんです。それを何層も重ねるとかなりの強度になるんですが、三層重ねたのがこれです。

藤本 うわー、すごい! 化石みたいだ。

カチカチ!

松永 わたしが製作するモニュメントは、造形は発泡スチロールでつくって、そこにガラス繊維シートを貼って、液状の樹脂を噴きかけて、ローラーで貼り付けていってつくるんです。

藤本 張り子みたいな感じなんですね。

松永 そうやって造形ができたら、塗料を塗って完成まで持っていきます。これはフグをつくっているときの写真なんですけど。

藤本 わー、あのフグだ! そうそう、実はあの巨大フグモニュメントの場所に連れて行ってくれた知人が「このフグをつくっているのが、島に住む松永さんってかたなんですよ」って教えてくれたんです。

ぼく、日本中を旅するのでいろいろこういうモニュメント見るんですけど、このフグにはほんとうに感動して。

松永 ありがとうございます。

藤本 それでぼく、松永さんの作品のどこに惹かれてるのか考えたんですけど、造形はもちろん、やっぱり色だなと思ったんです。色のリアルさというか。

松永 そうなんです!っていうのもおかしいですけど(笑)、たとえばオレンジでもオレンジ色の塗料を塗るのではなくて、白、黒、赤、青、黄色と混ぜてつくるところから始めるんです。なので、たぶん誰にも真似できない色だと思うし、わたしも「一緒の色をつくれ」って言われてもつくれない。このフグは400色ぐらいつくりました。

藤本 400色!この色をどれぐらい入れる、みたいなレシピとかもないんですか?

松永 ないです。もう頭の中で。

藤本 色の重ね方も難しそうだなと思います。

松永 そうですね。下地がずっと透けてくるので最初が肝心です。たとえば緑を目指したときに、ちょっと青が強かったら黄色っぽい青を噴き付けて重ね合わせていく。それで色に深みが出るんです。

藤本 まさに職人芸ですね。

 

北海道から奄美大島まで、全国に広がる松永さんのモニュメント

藤本 御所浦の恐竜じゃないですけど、いろんな地域で、その土地の特産品とかを巨大モニュメントにしてPRしてたりするじゃないですか。でも、ただ巨大ってだけじゃなくて、ここまでその造形とか色とかに惹きつけられるものって、そんなにないと思うんです。

それこそ去年、奄美大島に行ったときにマグロのモニュメントに出会って、それもすごく印象に残ったりしたんですけど、そんなの稀で。

松永 それって、これですか?

藤本 えっ?!!! これです!!!

松永 これもわたしがつくりました。

藤本 マジでーーーーーー!!! ヤバい。てかぼく見る目あるな!!!

松永 (笑)。うれしいです。

藤本 県外からも依頼がくるんですね。

松永 県外、多いですね。北海道から、南は奄美大島。このクロマグロが最南端です。

藤本 そうだったんですね。これまでにトータル何体ぐらいつくってるんですか?

松永 正式に数えてはないけど、500は超えてます。御所浦だけで50ぐらい、天草では100は十分超えてるかな。

藤本 25年で500体ですか!すごい!どんな姿をどんな角度でつくるのかとかは、松永さんが全部考えるんですか?

松永 そうです。発注で提示してもらうのはモチーフ、設置する場所、予算くらいで、あとの案はこちらで考えています。そのときにわたしは、ミニチュアをつくって確認するっていうことをやらないんですよ。

藤本 製作に入る前にクライアントと方向性の確認はしないんですか? やり直しがきかなそうなのに。

松永 それをすると良さが出てこないと思ってるんで。

藤本 アーティストの考え方!

松永 つくりながら、「もうちょっと尻尾を曲げたほうが躍動感が出るな」とかって出てくるんですよ。でも最初にゴールが決まっていると、そこに寄せていく作業になっちゃうから、出来としてよくないものになってしまうんです。

藤本 うわー、おもしろい! やっぱり、もう、作品ですね。

松永 つくり始めた頃はある程度、正面や側面を確認してからつくってたんですけどね。いまはわざと、ラフスケッチで、寸法がわかるようなものだけを提出するようになったんです。

藤本 それ、もう巨匠の仕事じゃないですか。実績があるから任せてもらえてる感じですよね。

松永 ​​そもそも田舎ですし、依頼してくださる方も、モニュメントの製作を頼むことってそうあるわけでもないので、「具体的な造形はお任せします」って頼み方になるんです。

となると、わたしも一つひとつにこだわりを持ってつくる。そうやって恐竜をつくったりタコをつくったりしてたら、「あれはいい! すごい動きがある!」って感動してくれて、それが信用につながっていったと思っています。

藤本 想像以上のものがあがってきたときの驚きというか。

松永 やっぱりできたときのお客さんの喜びっていうのがありますよね。でも、トラブルを防ぐためにミニチュアを先につくって検討しちゃったら、それがない。今のものづくりはそこら辺がちょっと欠けてるのかなと思います。

リスクを負わないためにそうしてるんだろうけど、わたしはミニチュアをつくって検討する時間があるなら、ものをつくる時間に使いたいんですよ。

藤本 そうですよね。わかります。取材や編集というのも同じことが言えます。

松永 御所浦の仕事は特にそこを任せてくれるから、それができるんです。

藤本 だからこその、あの躍動感なんですね! 信頼関係というか、ある意味ほったらかしてくれるというか(笑)。

松永 そうそう。やっぱりつくる人は自由にしたいんでね。ミニチュアをつくって、その寸法を測って、そのとおりにつくることは喜びでもなんでもない(笑)。

藤本 なんか昔の作家とパトロンみたいな話ですね。

松永 わたしはもう、そっちよりの人間なんで。ちょっと物語を加えたいなっていうのがあるんです。天草にあるデコポンも、剥いたのにしたいってわたしが提案したんです。

藤本 どう考えても手間がかかるじゃないですか。それを自分でそっちのほうがいいと。

松永 そうです。丸いものはどこにでもある。丸のままでも「美味しそう」とは思うけど、「わあ、美味しい!」って食欲が最高潮になるのは、剥いて中が見えた瞬間なのかなと思って。

有明のタコをつくったときも、リアルすぎて気持ちわるいって最初は言われたけど、今では「それが味になって、どんどんよく見えてくる」って言われて。そういうのが一番うれしい。

藤本 松永さん、まじでミケランジェロっす。職人でもあり、作家ですね。

松永 そうですね。もしもわたしがどこかに修業に行って、つくり方を習って、そのまま持ってきてたら、こうはならなかったでしょうね。

 

巨大フグを船で運ぶ!「いかに最大限の提案をできるか」を意識

藤本 ところであのフグのモニュメントとかもそうですけど、この島でつくるってことは、当然、設置のために何かしらの方法で運ばないといけないですよね?

倉岳町にある全長約8m、幅約5mの無毒トラフグのモニュメント。製作期間は約3か月!

松永 道路の場合は、高さが2.8m、幅が2.5mを超えると運べないっていう制限があるんですよ。だから奄美大島のクロマグロとか、大きなものは、分割して納品して、現地で組み立てて仕上げるんです。ただ、あのフグの依頼に関しては、「あ、船で運べるな」と思ったんです。船で海を渡れば、高さと幅の制限もなくなる。

藤本 作業場から出すことさえできれば。

松永 そう!なので、できるだけ大きくつくりましょうって提案したんですよ。大きくつくるとインパクトも全然違うから、話題にもなるし、費用対効果も出てくるんでと。
工場から出せるギリギリの幅でつくって、桟橋を外してフロートの上に乗せて、船で運びました。

 
 
 
 
 
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藤本 うわー、最高!

松永 道路で運ぶ場合は、分割して現地で接合するとさっき話しましたけど、そうすると強度も変わってくるし、クオリティも下がってしまう。あの大きさのフグは、あそこでしかできないものですね。

藤本 地の利を逆に生かして、おもしろい。

松永 フェリーがちょうど横にいて、乗ってる人たちがびっくりしてました(笑)。

藤本 巨大フグがいるわけですもんね。

松永 本来は除幕式までシートで覆って見えないようにするけど、今回は話題になったほうがおもしろいんで、「覆わないでいいですか?」って言ったら、了承してくれたんです。

藤本 そういうところも含めて、「フグをつくってくれ」っていうオファーに対して、どれだけのものを返していくか。最大限の提案をするってことですね。

松永 そうですね。やっぱりお客さんには感動してほしいし、感動が次にもつながっていくので。それがなければつくった意味がないと思うんですよね。

構成:服部由実・山口はるか(Re:S)
撮影:佐藤静香 ※一部除く
編集:友光だんご