
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回おすすめスポットを教えていただいたのは、東京は代田橋にある「バックパックブックス」の店主、宮里祐人さん。
7年ほど前に住みはじめた代田橋に、書店がないという思いがオープンのきっかけになったバックパックブックスは、今度の3月で5周年を迎える。
古本をはじめ、新刊、ZINEなども並ぶ、3畳という大きさながら、じっくり棚を眺めたくなるお店だ。
一昨年からはお店の2階のスペースを使って、トークイベントや読書会、映画の上映会なども開催している。
すきまのまち、代田橋
京王電鉄京王線「代田橋駅」の出口を出てすぐのところにバックパックブックスはある。お店で本を選んでいると、店内BGMと電車の音が混じり合う。
隣接する「omiyage」は、ミュージシャンのロボ宙さんが営むレコード店。
「本当は裏路地にある店だと思うんですよ。代田橋だから駅前にこの2店が居られるというか。ちょっと変だと思います」と宮里さんは笑う。
代田橋は、笹塚と明大前の中間地点にある、宮里さんの言葉を借りると「すきまのまち」。
オフィスが少ないので、日中は街全体がのどかな、ゆっくりとした時間の流れ方になる。
街に点在する個人店は、お客さんが3〜4人入ればいっぱいになる、小さな、しかしいい店ばかり。バックパックブックスも、3畳ほどの小さな書店なので、宮里さんは基本的にお店の外にいる。元は、八百屋の冷蔵庫置き場として使われていたスペースだそうだ。
宮里さんに街を案内してもらいながら歩く。ここ変で好きなんですよね、と、地下道や変な建物など、確かに変な、ささやかなスポットをいくつも教えてもらう。
バックパックブックスからほど近いエジプト料理店「Baba Meena」でお昼を食べていると、いっしょにいたお客さんと雑談になる。笹塚に住んでいるという方で、代田橋のいいところを聞くと「冒険しがいがあるところだね」と返ってきた。
バックパックブックス 宮里さんが教えてくれた、代田橋のお気に入りの場所
Baba Meena
バックパックブックスから徒歩1分もかからない場所にある、エジプト料理のお店「Baba Meena」。
以前はキッチンカーでケバブなどを販売していたノウル・アハメンドさんが、店舗を持ちたいと物件を探していたところに、空き物件の情報を持っていったのは、キッチンカー時代からのお客さんだった宮里さんだった。

宮里さんのおすすめは、ひよこ豆のコロッケ「ファラフェル」。ほんのり甘いトルティーヤにファラフェルとキャベツを巻いて食べる。

スパイスと砂糖を煮詰めて淹れるエジプトコーヒーは、スパイシーでパワーが出る味。
Baba Meena
東京都世田谷区大原2-17-15
「名もない公園」

Baba Meenaをこえた先にある、玉川上水緑道の途中にベンチが置かれた、ちょっとした公園。
宮里さんはベンチで休んだり、本を読んだり、テイクアウトしたごはんを食べたりする。
緑道を挟むように植えられているのは桜の木。「鉄道会社に勤める知り合いが、代田橋を通過する時に見える桜が一番美しいと思う、と教えてくれました」と宮里さん。
omiyage

「omiyage」は、バックパックブックスのすぐ隣にある、ミュージシャンのロボ宙さんが営むレコード店。
「ロボ宙さんは、バックパックブックスの開店当時からちょくちょく来てくれていて。隣の物件を気にしていたので『ここ、空いてますよ』と言ったら、本当にお店を開いてくれたんです」
レコードやカセットテープ、HipHopにまつわる雑貨などが置かれている。上で紹介したバックパックブックスの2階のスペースは、omiyageと共同で運営している。

omiyage
東京都世田谷区大原2-17-12
https://www.instagram.com/omiyage_daitabashi/
代田橋で読む、おすすめ本 3選
『ラブ・ゼネレーション』早川 義夫

歌手であり、「早川書店」の店主としても知られる早川義夫。本書は、彼がリーダーを務めたジャックス解散後、ソロ活動を経て音楽活動を一時休止するまでの1968年〜1972年に書き綴ったエッセイを収めた一冊だ。
このエッセイが綴られた時期、早川は代田橋に住んでおり、収録されている写真もその付近で撮影されたものが多い。
「僕は、早川義夫の中年期の著作はよく読んでいたのですが、20代の文章はまた違ったよさがあります。すごく尖っているんですよね。書いている内容はそんなに変わらない、というか一貫していて、それもすごいと思うんですけど。自分の文体が出来上がる前のエッセイという感じがして、すごくいいんですよね」
僕は何を言いたかったのだろう。一九六八年「友よ」という歌に代表されるように、みんなで合唱すること、みんなが同じ思想を持って行動を起こすことに、当時から僕は肌寒さを感じていた。全員が一人の女性を愛すことがないように、全員が同じ思想を持つことは、嘘なのである。
(増補版あとがき より)
「早川は『連帯感』に違和感を持っていました。みんな一回は一人になるべきだと思っていて、それは、流行りの歌へのカウンターでもあった。まずは自分に響くものをつくろうよ、というメッセージだと僕は受け取っています。
他にも好きな部分があって。『かっこいいとはなんてかっこ悪いんだろう』(1969年に発売された早川義夫のソロアルバム名でもある)というエッセイは、ふとした時に思い出すことがありますね。
これは勉強をして音楽の分類をしたり偉そうなことを言ったりすることが、”かっこいい”とされていることに対して物申している一篇です。『歌い出すことの出発は歌いたいことがあったからなのであって、音楽のお勉強をしたからではない』なんて良いですよね。なにかを作りたいとかやりたいと思う気持ちなんて、ちっぽけで下手したら惨めなものですが、それが『ほんとうはかっこいいんだ』と。だから何でもいい、というのではなくてしっかり自分のことを自分なりに納得のいくようにやらないといけないなと思います」
『ラブ・ゼネレーション』早川 義夫(文遊社)2011年刊行
http://www.bunyu-sha.jp/books/detail_lovegeneration.html
『旅するベッド』ジョン・バーニンガム

ジョージーのあたらしいベッドは、ちいさな古いベッド。そのおんぼろベッドには、「このベッドがあれば、どこへでも旅ができます」と書いてあった。ジョージーがおいのりのもんくをとなえると……。
(版元HPより)
呪文を唱えると旅に出ることができるベッドを買ってもらったジョージーが主人公の絵本。
「ジョン・バーニンガムが子どもと動物を描くだけで最高! なんですよね。さらに翻訳しているのは詩人の長田弘さんで、心地いい言葉のリズムで物語が展開していきます」
ジョージーは、ベッドでいろいろなところへと旅をするが、家族にもそのことを言わない。「それがいいんですよね」と宮里さん。
「ジョージーは自分が見えていることを信じている。それだけでいいんだよなと思うんです。今はいろいろなことをシェアする時代になっていて、自分も少し喋りすぎている気がしていて。でも、自分だけの秘密というか、言葉にせず、誰にも共有せず、胸のうちに大事にしまっておく出来事があってもいいと思うんです」
『旅するベッド』ジョン・バーニンガム 作/長田弘 訳(ほるぷ出版)
https://www.holp-pub.co.jp/book/b485866.html
『語るに足る、ささやかな人生』駒沢 敏器

都会はいっさい通らずに、そこに住んでいる人以外は誰も知らないようなアメリカのごく小さな町 “スモールタウン” だけをつないで全米を横断する旅に出た。
そこで出会った町の人々は、誰もが人生の主人公だった。
語るべき内容と信念を人生に持ち、それでいて声の大きな人物はひとりもいなかった。
大きな成功よりも小さな平和を、虚栄よりも確実な幸福を、町の住民に自分が役立つ誇りを、彼らは心から望んでいるように見えた。
(本文より)
長らく絶版になっていた駒沢敏器の名著『語るに足る、ささやかな人生』が、2026年3月10日に復刊される。著者がアメリカのスモールタウンを巡り、そこで暮らす人々の日々を綴ったトラベローグだ。
宮里さんは、復刊版の解説を担当している。
「最初に読んだのは就職してすぐでしょうか。これから自分の人生をどうしていこうか、と漠然と思っていた時期でした。著者の駒沢さんが旅のなかで出会う人たちの日々が、ささやかで、瑞々しく、それぞれが誇りを持って生きていて。心動かされたのを覚えています」
宮里さんは、選書企画で度々この本を選んだり、バックパックブックス刊行のZINE『Make Some Trips! vol.2』では著者の元担当編集者に取材をしたりしていた。その縁もあり、今回の復刊版では巻末の解説を務めることになった。
また、刊行に併せてバックバックブックスでは『Small Book Talk 〜駒沢敏器『語るに足る、ささやかな人生』〜』も制作。『語るに足る、ささやかな人生』について、複数の執筆者がそれぞれの視点で綴った、映画のパンフレットのようなZINEになっている。
「どんな場所でも、そこに人がいれば知らない文化がある。耳をすませば声が聞こえてきて、未知の世界がだんだんと開けてくる。自分にとって『語るに足る、ささやかな人生』は、そういったことを教えてくれた本でもあると思います。
あらゆる場所が、そこに住んでいる人たちにとって、あるいは旅をする人たちにとっても、目的地になり得る。代田橋なんてぜんぜん観光スポットじゃないけれど、この小さな町にも、いろんな人が生きています。そんな視点とリスペクトを持っていろんな町を旅したいですね」
『語るに足る、ささやかな人生』駒沢敏器(風鯨社)
https://backpackbooks.stores.jp/items/698befbfb62a5fc156e659a9
ZINE『Small Book Talk 〜駒沢敏器『語るに足る、ささやかな人生』〜』とのセット
https://backpackbooks.stores.jp/items/698bf1273ffd8e10e0549c88

5年前、散歩に出た宮里さんは、駅前の八百屋の跡地とその隣のスペースを見つけて立ち止まった。倉庫に使われていたそのスペースを、しばし眺めたあと「ここの家賃が○万円以下だったら、借りて本屋をやろう。○万円以上だったら借りない」と決め、不動産会社を訪ねた。家賃は想定していたよりも少し安かった。それまでも映画の上映会などを開催して、映画に合わせて選書した本を販売していた。その時の屋号が「バックパックブックス」だった。宮里さんは「最初は店舗を持つなんて考えていなかったしできるとも思っていなかった」そうだ。
「家賃のこともそうだし、当時転職して入社したばかりの会社が全く肌にあっていなかったのもあって、やってみない理由がなかったんです。難しければ平日はバイトするとか、それでもダメだったらまたその時に考えようかなと」
宮里さんの旅の話は、日常生活とそう遠くない温度感で語られている気がする。旅に出ても、私たちは食べ、眠り、人と話す。もちろん景色や文化は変わるけれど、やっている基本的なことは普段と変わらないからかもしれない。そうやって息をするように、けれど違う景色を求めながら、バックパックブックスは日々、旅をしているのかもしれない。

バックパックブックス
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