親の介護で重要なのは「自分の生活」を守ること。「働きながら介護」への不安を和らげるために知っておきたい情報

介護・暮らしジャーナリスト 太田差惠子が教える「知っておきたい介護の情報」

「うちの親はまだ元気そうだけど、介護のことも考えておかないと……」「離れて暮らしている親になにかあって、もし介護が必要になったら働き続けられるんだろうか」

ふと、そんな不安が頭をよぎることはありませんか。そこで今回は介護・暮らしジャーナリスト 太田差惠子さんに、「ゆくゆくは親の介護をするつもり」である方に向け「介護に漠然とした不安を抱く前に知っておいてほしい情報」を教えていただきました。

長らく介護の現場を取材してきた太田さんは親の介護について「親のために体力とお金を捧げるようなことはしてはいけない」「親の介護はまず、自分自身の生活を守ることが重要」と提言しています。

自分の生活を守りながら介護に向き合うために、どんな方法やサービスを利用できるのでしょうか。

* * *

お話を伺った方:太田差惠子

介護・暮らしジャーナリスト。1993年ごろより老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」 等の視点でさまざまなメディアを通して情報を発信する。1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化。現理事長。「親の介護で自滅しない選択」(日本経済新聞出版社)、「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」ほか著書多数。
公式サイト

自分を犠牲にしない介護のあり方とは?

まず、多くの人は「親の介護=実家に通って入浴・排泄・食事の介助をする」というイメージを持っているかと思います。しかし、それは介助。介護とは、生活環境から社会的な面でも親の自立を目的としたサポートです。だから子どもの役割としては、プロジェクトの司令塔として介護全体をマネジメントしていくことが大切です。

お伝えしたいのは「どうか自分の人生を第一に考えて」ということ。本当は働きたいのに介護のために仕事を辞めるなど、自分の人生を犠牲にしないようにしてほしいのです。

そもそも、親の介護は義務ではありません。できなかったとしても罪悪感を抱く必要はないんです。

それに、親との関係性によっては、親と距離を置きたい人もいるはず。たとえ親から「同居してほしい」と申し出があった場合も、したくない・できない場合は断った方がお互いのためになると考えます。

この記事では「自分の時間やお金を犠牲にせず、プロの手を上手に借りながら介護をマネジメントしていく」という考え方を前提にした『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』から介護に不安を抱く前に知っておきたい情報を紹介していきます。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』

知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門

親と自分のお金&時間を守るには? 介護保険の基本から介護サービス、離れて暮らす親のサポートまでを、介護歴約20年の安藤なつ(メイプル超合金)と介護・暮らしジャーナリスト・太田差惠子との会話形式で解説する本。

▶『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(安藤なつ、太田差惠子) - KADOKAWA

【はじめに:この記事で紹介していること】

☘️ 親の言動に不安を感じたら地域包括支援センターに相談&便利帳を入手
☘️ 介護が必要そうだと判断したら、要介護認定審査を受ける

 要支援の場合:引き続き地域包括支援センターと連携
 要介護の場合:ケアマネジャーと連携

親の介護が頭をよぎりはじめたら、まずは「コミュニケーション」を密に

そもそも親に対して「そろそろ介護が必要かも?」と判断するタイミングって難しいですよね。親と離れて暮らしている方はなおさら。

なので親が高齢になったり、気がかりなことが出てきたりしたら、まずはコミュニケーションを密にして観察の目を向けてみてください。

今の親世代は「子供に迷惑をかけたくない」と思っている方が多いと感じます。子どもに心配をかけさせまいと不調を隠してしまう方も多く、必ずしも「便りがないのは元気な証拠」とは言いきれません。

親本人が不調を訴えなくても、なんとなく行動範囲が狭まっているとか、話しかけても反応が鈍いとか、そういった変化から親の衰えを察知できるといいですね。

「65歳以上」「離れて暮らしている」のであれば、ささいな変化でも「支援開始」の判断を

親の言動に対してなにか気になることがあった場合、親が65歳以上で、離れて暮らしているなどすぐに会えない状況であれば「そろそろ何らかの支援サービスを使うタイミングかも」と判断していいでしょう。

そんなとき、まずとってほしい行動が以下の2つです。

(1)地域包括支援センターに相談する
(2)親が住む自治体の「便利帳」を手に入れる

それぞれ詳しく解説していきますね。


(1)地域包括支援センターに相談する

親について心配なことが出てきたら、まずは親が住む地域を担当する地域包括支援センター(以下、地域包括)に相談しましょう。まだ介護が必要ではない場合であっても、センターに所属する社会福祉士・保健士・主任ケアマネジャーなどの資格を持つ職員が、いろんな困りごとの相談に無料で乗ってくれます。

直接出向かなくてもいいので、まずは電話で気軽に問い合わせてみるといいでしょう。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』P37「地域包括支援センターの役割」の図
『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)より

こういった「外部への相談」を提案すると、当事者である子どもから「介護が必要な状態になるまで親を放置したことを役所に怒られるんじゃないか」「同居して介護してくださいと言われるんじゃないか」といった不安をよく耳にしますが、「よくぞこのタイミングで相談してくれましたね」と親身になってくれることの方が圧倒的に多いです。怖がらず、遠慮なく相談してくださいね。

(2)親が住む自治体の「便利帳」を手に入れる

自治体にはそれぞれ、その地域で高齢者が受けられる介護サービスの一覧をまとめた「便利帳」が用意されています。必ずしも「便利帳」と呼ばれているわけではありませんが、それに該当する印刷物はどの自治体にもあります。

これを見れば見守りや配食、健康相談など、さまざまなサービスが存在することが分かります。「たくさんのサービスがある」ということを知るだけでも、何も知らないよりは安心できるのではないでしょうか。

「便利帳」は地域包括でももらえますし、自治体によってはウェブサイトからダウンロードできたり、郵送対応してくれるところも。介護という言葉に拒否反応を示す親には、介護という言葉を使わず、便利帳を参考に「こういうサービスもあるよ」と情報提供するといいかもしれませんね。

地域によって行なっているサービスが違うので、ぜひ確認してみてください。

「介護が必要かも……」と思ったら、まずは要介護認定を受けて

介護サービスを受けるには、自治体に申請をして要介護認定を受ける必要があります。要介護度には「要支援1」から「要介護5」までの区分があり、区分は下の図の通りです。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』P47 要介護度の区分の図
『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)より

また、介護サービスを受けるまでの流れはこのようになっています。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』P49 介護サービスを受けるまでの流れ
『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)より

認定の申請は、地域包括の人にお願いできる「申請代行」があるため、家族が行かなくても大丈夫。その代わり、原則立ち会ってほしいのが訪問調査です。

訪問調査では「身体機能」「生活機能」「認知機能」「精神・行動障害」「社会生活への適応」などを調べる74項目の質問をされます。この74項目はインターネットで検索すると出てくるので、あらかじめ目を通しておくことをおすすめします。

訪問調査項目について | 八尾市(例:大阪府八尾市のサイト)

なぜ訪問調査に立ち会った方がいいのかというと、ほとんどの親は「〇〇できますか?」と聞かれると普段できていなくても「できます」と答えたり、家族以外の前だと普段できないことができてしまったりするからです。

なので、親の様子が普段と異なるようなら、親のプライドを傷つけないよう、親の目につかないところで調査員に伝えてみてください

とはいえ口頭で伝えるのはなかなか難しいため、普段から気がかりなことがあれば内容と日付をメモしておくと便利です。

例えば、親がコンロの火を消し忘れてお鍋を焦がした……なんてことがあったら、焦がした鍋を写真に撮り、日付とともにメモしておく。そうして溜まったメモを訪問調査のときに渡せばスムーズですし、医療機関に相談するときも有効です。

親の言動に気になることが出てきたら、ぜひ始めてみましょう。

介護の頼れる味方、ケアマネジャー

訪問調査のおよそ1カ月後に要介護度が決まります。要支援なら、引き続き地域包括支援センターに相談を。要介護であればケアマネジャーを探し、どんな介護サービス(訪問介護やデイサービスなど)をどのくらいの時間受けるかを計画したケアプランを作成してもらいます。

ケアプランができたら、それに則って介護サービスがスタートします。

ケアマネジャー(以下ケアマネ)とは、介護のマネジメント業務を行う人。これから家族と二人三脚で介護をしていく、さまざまな困りごとについて一緒に考えてくれる頼れる存在で、ケアプラン作成後も月に一度は親の家を訪問してくれます。

信頼関係が大切なので、毎回ではなくても一度は顔を合わせて話したいものです

ケアマネさんとの相性を心配される方も多いですが、後日申し出ればケアマネさんは変更可能です。同じ事業所に複数のケアマネさんがいる場合は他の方にお願いしたり、事業所ごと変えることや地域包括への相談も視野に入れていいでしょう。まずはケアプラン作成を進めることです。

また、「親とケアマネ」「子とケアマネ」の相性も、前者がうまくいっていれば「成功例」だと考えます。後者を理由に変更を希望される方もいるのですが、まずは「親とケアマネの相性」を重視してみてくださいね。

仕事や育児に忙しく頻繁に帰省できない場合、ケアマネさんと電話やメールで連絡をとるなど、リモートでやりとりする方法もあります。海外在住で日本国内の親を支えている方もいるので、「介護はなんとかなるもの」という認識で、できることからやるようにしてみてください。

きょうだいとどう介護を連携する?

きょうだいがいる場合、全員が同じ負担感で介護するのはなかなか難しいもの。特に男女のきょうだいは、女性が介護を押し付けられるといった話をよく聞きます。

今の親世代はまだ「精神的な頼りは長男、お世話の頼りは娘」と思っている方が多いのも事実。娘が「ヘルパーさん頼もうよ」と言っても耳を貸さないのに、たまにやってきた長男が同じことを言うとすんなり承諾するなんてことも……。

腹が立つこともあると思いますが、ここはわりきって「長男は言いにくいことを言う係ね」などと役割分担できないか考えてみてください。また、きょうだいのうちひとりが頻繁に親元に行くのなら、行けない人が代わりに交通費を負担するなどもいい方法だと思います。

そういったことも事前に話し合いをしておかないと「何で自分ばっかり……」と不満が膨らんでいき、いずれ爆発してしまいます。冷静なうちに、きょうだい間の分担について話し合うようにしてみてください

介護っていくらくらいかかるの? 知っておきたいお金の話

まず、介護にかかるお金のほとんどは介護保険や医療保険でカバーできます。ただし介護保険でまかなえる介護サービスの月ごとの利用額には上限があり、これを支給限度額といいます。

支給限度額は要介護度によって異なります。自己負担が1割なのか2割、3割なのかは、親の所得によって変わってくるので確認しましょう。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』P57 介護サービスの支給上限額
『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)より

介護費用は親のお金でまかなうことを前提に考える

「親の介護費用をいつか自分が負担するんじゃないか」と戦々恐々としている方はとても多いと思います。

でも、そもそも論として「親の介護にかかるお金は親本人が負担すべき」と私は思います。親が自分で介護費用を捻出できないのであれば、生活保護や実家を売却する選択肢もありますよ。

親の介護費用を負担しない代わりに、30年後の自分の介護費用は自分で出すと考えてみてもいいでしょう。遠距離介護の場合は交通費を親からもらう、という方も多いですよ。いつか相続でもらえそうならなおさら、親が生きている間に介護費用として使う方が、ずっと生きたお金の使い方だと思います。

親のふところ事情を知っておく

介護は「いくらかかるか」ではなく「いくらかけられるか」。ケアマネさんに予算を伝えれば、それに応じたケアプランを組んでくれますよ。

そのためには親にいくらお金があるかを知っておく必要があります。「親にお金のことなんか聞けない」という方はいきなりかしこまって貯金額を聞くのではなく、雑談がてら「どんな保険に入ってる?」「年金っていくらくらいもらってるの?」と聞いてみるところから始めてみてくださいね。

『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』P121 知っておくといい、親のフトコロ事情
『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA)より

親のふところ事情を把握しておくと、親が元気な状態でもなにかと便利です。

例えば骨折して入院した親が「個室にしてくれ」と言ってきた場合、入院保険で個室代をまかなえるのか、貯金や年金から支払えるのかが分からないと不安になりますよね。親がどんな保険に入っているか、どのくらい蓄えがあるか、知っておくと安心です。

また、よくみなさんが後悔するのが、親に延命治療の有無を聞かなかったこと。聞いておけばよかったと思っても“そのとき”になったらもう聞けません……。

日本人は、家族で膝を突き合わせて話す文化があまりない印象があります。でも、親と話し合っておかなかったことで最終的に困った人を、私は山ほど見てきました。話し合いの場を設けて……となると身構えてしまうので、日々の中で、折にふれて少しずつ聞いていきましょう

働きながらの介護も「なんとかなる」

介護がどんなものか分からないと、得体の知れない不安がつきまといます。いきなり介護について深く知る必要はないので、まずはさらっと全体像を把握しておきましょう。「仕事と介護の両立に不安を感じる」という人も、全体像を知っているのと知らないのとでは、気持ちがぜんぜん違いますから。

何度もお伝えしましたが、自分のお金や時間を犠牲にする必要はまったくありません。介護はチーム戦。制度やサービスを利用すれば必ずなんとかなっていきます。介護するなら働き方や日々の暮らしをガラリと変えないと……ではなく、自分の人生を第一に、自分にできることをやっていきましょう。

ですから、どうかあまり介護を怖がらないでください。この記事を読んで「なんとかなるんだ」と思っていただければ幸いです。

聞き手・構成:吉玉サキ
編集:はてな編集部

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