
「ファッション全体の中で、薬味的な存在になれるもの」「身に着けていて心地よくいられるものを作る」と語るのは、鮮やかな色使いと、繊細なつくりが人気のアクセサリーブランド「LAMEDALICO(ラメダリコ)」のデザイナー・小野桃子さん。2006年にブランドをスタートさせて以来、見ているだけでときめくアクセサリーを数多く発表してきました。デザインと製作、販売まで全て小野さんが手掛けています。
もともとは趣味だったというアクセサリー作りがなぜ仕事になったのか、どうして10年以上ブランドを続けてこられたのか。その答えを探ります。
ブランドのスタートは「流されるがまま」
小野桃子(以下:小野) 名前が小野桃子(おのももこ)なので、5文字かつ、最後を“こ”にしたくて。あとはネットで検索したときに埋もれてしまわないように、造語にすることを決めました。濁音が入っていると耳に残りやすいと聞いたこともあったので、キラキラ光るラメとメダルを組み合わせて、「LAMEDALICO」としました。
小野 29歳のとき、金沢にある金箔屋さんでコンサルティングをしている友人に声を掛けてもらったのがきっかけです。金箔を使ったアクセサリーを作れる人を探していて、私が趣味でアクセサリーを作っているのを知っていたため、軽い感じで話を振ってもらって。当時は専業主婦で、ときどき雑誌のライターをするくらいだったので、(お店に)置いてくれるなら作ってみようかなという感じでした。今ではWebでの販売を中心に展開しています。
小野 流されるがままでした。ただ、同じ頃に友人がギャラリーを始めることになって、そこに一週間展示したことで方向性が決まったような気がします。ブランド名を付けてロゴを作って、ギャラリー展示の準備を進めていくと、どんどん形になっていくんです。その後Webでの販売を始めましたが、最初は人がお金を払って私の作ったアクセサリーを買ってくれることにびっくりしてしまって。うれしいけれど、ちょっと怖さも感じました。
小野 「こんなものにお金を払ったのか」と、あとで後悔させてしまったらどうしようって、すごくドキドキしました。ひとりきりで始めたブランドなので、最初は客観的な視点で見ることができなくて、商品としての基準を満たしているのか自信が持てなかったんだと思います。リピートで買ってくれるお客さまが出てきて、ようやく「気に入ってもらえたんだな」って安心できました。今は客観視できるようになって、自分の中の製品開発部が「これは商品としてアリ、これはかわいいけど修正が必要」と厳しくジャッジしています(笑)。
小野 そうですね。私自身LAMEDALICOを始める前までは販売目的ではなく、趣味で作ったものを友人にあげていました。ただ、モノ作り自体は中学生の頃から好きで。今日履いているサンダルの石も自分で付けたんですけど、ワンピースや靴にちょっとしたパーツを付けたりっていうのは昔からやっていました。
小野 はい。作ってみて、失敗して、次はこうしよう……っていうのを繰り返しています。一応高校を卒業してからデザイン学校に入ったんですけど、その時はあまり勉強しなかったんですよね。服飾の専攻だったのに、未だにパターンも引けない(笑)。

取材日、小野さんが履いていたサンダル
「お洒落は我慢」なんてしなくていい
小野 コーディネートの中で、薬味的な存在になれるものを作ること。主役になるわけではなくて、でも着けていると気持ちが変わるし、ラフな格好をしていても、手もとや耳もとがちょっとキラッとしているとかわいい。そういう役割を担えるアクセサリーでありたいですね。この間ミョウガを食べていて、目指すところはここだなって思いました(笑)。
小野 「花鳥風月部」って呼んでいるんですけど、お花を見たりお香を作ったり、そういう雅な活動を友人とやっていて。2018年の春は梅や桜の開花を追いかけて、いろいろなところに行きました。その期間中はアクセサリー作りの作業は進まないけれど、一段落した後に「こういうのが作りたい」ってイメージが湧くんです。遊んでいたように見えて、自分の中に蓄積があるというか。
小野 お花が綺麗だからお花の形の何かを作ったとしても、本物には絶対に勝てない。だからお花を入れるカゴの形のペンダントトップを作ってみたり、お花をイメージした色使いをしたりといった感じですね。例えば金糸ブレスレットに桃の形の石を使ったり、アヤメの色合いをイメージして青と緑の石を組み合わせたり。
小野 他にも、金色の星が連なるチェーンと青のシルク、緑のタッセルで作ったネックレスは、尾形光琳の「燕子花図屏風」という絵の色が元になっています。金の屏風に青い燕子花(カキツバタ)と葉っぱが描かれていて、すごく好きなんです。

小野 「身に着けていて心地よくいられるものを作ろう」っていうのは意識しますね。例えば重いアクセサリーはあまり長く着けていられないから、できるだけ軽くするようにしています。あとは金属が直接肌に当たるのが嫌で。ネックレスの首に当たる部分をシルクにしたり、ピアスの裏側の耳に直接触れる金属部分に革を貼ったりと、なるべく肌に優しくできればと思っています。金属アレルギーの方もいますし、私自身、特に夏場は金属を直接肌に着けたくないので。
小野 普段アクセサリーを着けない方には金糸ブレスレットをオススメしたいです。細身のブレスレットはシチュエーションを選びません。それに、着物の帯などの刺繍に使う細い金の糸に天然石を通し、かぎ針で編んで作っています。手首にふわりと寄りそう感じがとても軽やかなので、負担なく着けてもらえると思います。
ネックレスやピアスと違って自分で見える位置にあるので、ちょっとした時にブレスレットを見て心が休まったり、「キラッとしてうれしいな」って気分になったりしてくれたらいいですね。

LAMEDALICOの定番アイテム・金糸ブレスレット
キラッとしたものに「ときめく気持ち」を共有したい
小野 キラッとしたものに、キュンとときめく気持ちを共有したいと思っています。「今日は疲れたな」「今週は冴えなかったな」っていう時に見て、うれしくなってくれたらいいなって。アクセサリーには天然石を使っているんですけど、私はあまり石の意味をスピリチュアルに考えることはしなくて。石は石で、意味がなくてもすごく綺麗。メッセージを込めずに、ただ綺麗なものとして私は見たいし、買ってくれる人にも、ただ綺麗であることを楽しんでもらえたらと思っています。
小野 もちろんいっぱい使ってほしいし、「糸が切れそうなので直してください」って送られてきた*1アクセサリーが使い込まれているのを見ると本当にうれしい。でも、あまり使わないけれど、たまに出して「綺麗だな」って見てくれて、キュンとしてくれるのも同じくらいうれしいですね。私自身、結構前に作ったアクセサリーを久しぶりに着けて、「あぁ、これやっぱりかわいいな」って思うこともあるんですよ。アクセサリーを買ってくれた人もそういうふうに感じてくれたらいいなと思います。

小野 手間を掛けること自体は苦にならないですね。もともと繊細なアクセサリーが好きだし、むしろ「もっとこうしたい」というイメージのクオリティーまで到達しない時が一番苦しい。繊細さを残しつつも、強度をどう保つのか。中途半端な仕上がりになることの方がよほどつらくて、両者のバランスにはいつも悩まされています。あとはもっと面白いものが作りたいのに、どんなものが作りたいのかが見えない時期はちょっとしんどいですね。同じものを繰り返し作るだけになってしまうと、楽しくなくなってしまうんですよ。スランプというか。
小野 頑張って作ろうとしないで、気持ちが戻ってくるまで待ちます。無理をしても楽しくないし、手も動かない。その代わり、勢いが付いているときは手を止めずに、ちょっと無理をしてでもやります。
小野 すごく分かります。でも、モヤモヤを受け入れるしかないのかなって思うんです。そういうときに材料を出してみても、結局何もせずに片付けて、余計に悶々としてしまうんですよ。雑誌やネットでアクセサリーを見ても、「なんで私はこういうかっこいいものが作れないんだろう」「こういうアクセサリーの方がいいのかな」って気持ちがぶれてしまう。だからモヤモヤしてダメな時は、「今はそういう時期だな」って諦めます(笑)
小野 そんな気がします。私、2月末の誕生日の直前に毎年落ち込むというか、低調になる傾向があって。その時期はジタバタしないようにしているのですが、特に今年は"花鳥風月活動"に没頭したのがよかったんですよ。梅が咲き始めて春の兆候が見えてくる、その芽吹きの波に乗って、徐々にテンションが上がって調子が戻っていきました。
もしLAMEDALICOをやっていなくても「作る」人生だったと思う
小野 なぜでしょうね……。「辞めないから」としか言いようがないかな。まだ全然やり切ってなくて、もっともっとできることがあるんじゃないかって思っているんです。新しいアクセサリーを作り終えて、それが一番新しいもので気に入っているんだけれども、だからといって気が済むわけではない。別の材料を見たり何かイメージが湧いたりすると、また新たな何かを作りたくなるんです。だから辞めたいと思わなくて、辞めないから、これまで続いているんじゃないですかね。
小野 シルバーやゴールドなど、金属を使ったジュエリーの製作をもっと掘り下げてみたいと思っています。金糸のブレスレットのように素材を見て選びながら頭の中でデザインが固まっていくようなこれまでのアクセサリー製作とは違い、金属はどのようにでもできる素材で、その分立体的なデザイン力が必要。それがまだまだ自分には足りていないと思うし、難しさを感じています。難しいと感じるから、まだまだ続けたいという気持ちが湧くんだと思います。
小野 はい。アクセサリー作りを嫌だと思ったことがなくて、そういう意味では私は果たして仕事をしているんだろうか? っていう気持ちになることはあります(笑)。もちろん楽しいところに行くまでにやらなきゃいけない面倒な下準備はあるんですけど、それにしても好きなことしかしていない感覚がありますね。

小野 もしLAMEDALICOをやっていなかったとしても、料理やお菓子作りなど、何かしら作ることをやっていたと思います。それ以外の仕事はあまりできないんですよ(笑)。
小野 そうだと思います。お花一つとっても、見るのが好きな人もいれば、その花について調べるのが好きな人、育てるのが好きな人など、さまざま。私は、花が咲いた後の実を加工したいんです。家に梅の木があるんですけど、梅の実をどう食べたらおいしいかを調べて、作って、食べるところまでをやるのが楽しいんです。何かしら手を動かしたくなるタイプみたいなので、今後もアクセサリー作りは続けていきたいですし、何かを作るということをずっとやっていくんだと思います。
撮影/関口佳代
お話を伺った方:小野桃子 さん

「LAMEDALICO(ラメダリコ)」デザイナー。デザインから製作、販売までを全て一人で行なっている。LAMEDALICOはブランドのWebショップで購入可能。不定期で展示会も開催している。
Web:LAMEDALICO/Twitter:@lamedalico
Instagram:@lamedalico
編集/はてな編集部
*1:LAMEDALICOでは金色銀糸、本金糸のアクセサリーの修理を受け付けている
弁護士を目指し大学院を志すも、大学卒業2ヶ月前に進路を就職に変える。最初の就職先となるベンチャー企業は、「社長のブログを読んで楽しそうだから」と会いに行き、そのままスカウトされ採用。その後200人規模のゲーム会社、現在勤務するITベンチャーへ転職。ビジネス職として勤務するかたわら副業でライター業もしている。同人サークル「劇団雌猫」メンバーとしても活動中。一人暮らし。