「やっと地域の人になれた」異例ずくめの挑戦を続けるローカルテレビ局が見つけた、メディアの新しい役割

2021.03.31

「やっと地域の人になれた」異例ずくめの挑戦を続けるローカルテレビ局が見つけた、メディアの新しい役割

NHK北海道で2020年1月にスタートした旅番組「ローカルフレンズ出会い旅」。局内でも異例ずくめの企画だったものの、2021年度から「ローカルフレンズ滞在記」と「ローカルフレンズニュース」として年間100本もの番組が制作されることに。『ほっとニュース北海道』のキャスター・瀬田宙大さんと、ディレクター・大隅亮さんに、番組の裏側を取材しました。

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    地域にも局内にも仲間を増やしたら、番組継続が決まった

    「最初のトライアル放送以降の流れがこんな感じです。いろいろあったので、表にまとめてもらいました」

    「番組としては、とにかく苦戦しているんだよね」

    「こんなに新しいことにチャレンジしているのに、同じ改革プロジェクトから生まれた他の番組だけが評価されて、僕らはずっと悔しい思いをしてきました」

    「なぜほかの番組だけが評価を……?」

    今思えば、組織の中の人に魅力を伝え切れていなかったことも大きいと思います。あとは視聴率が総じて悪かったから。ひとりのディレクターとしても、スコアが悪いのはダメージ大きくて」

    「やっぱり視聴率が重要なポイントなんでしょうか?」

    「これまでと違う取り組みだから、指標が視聴率じゃないことは、僕もわかっていました。でも、この番組でおきていることを制作に関わっていない人たちにどう伝えられるのか、全くわからなくて。その価値を理解してもらえないから、局内での風向きがどんどん悪くなるんです。肩身の狭い思いをしながら、ずっと悔しかったですね」

     

    2020年度は、ローカルフレンズの公募からスタート。手を挙げてくれた3名とは、オンラインミーティングで顔合わせ。ここから2020年度の番組制作が始まった。

    オンラインミーティングは2週間に1回開かれ、毎回10人ほどが参加。「僕らが取材先の方とつながり続けられることなんてなかった。長期的なつながりをつくれることに、すごく可能性を感じる」と大隅さんは語る

     

    「それでも、公募したローカルフレンズとの定例ミーティングを通じて、取材先と関係性をつくる可能性を感じはじめて。

    実は、コロナ禍で旅番組を諦めようとしていた私たちに、このミーティングでフレンズから『こんなときだから旅をしましょう』と提案があり、2020年5月放送の『#オンラインで旅してみた件』が生まれたんです。あれがなかったら、今はないです」

     

    「その結果、『番組そのものよりも、制作手法に可能性があるよね』と局内で言われるようになり、突破口を探すために考え続けていました。それで若手ディレクターに『こういう価値を体現したい』と相談したんです」

     

    2021年春から新しくスタートする『ローカルフレンズ滞在記』。この新ビジュアルもフレンズが描いたもの

     

    「そのときに一瞬で返ってきたのが『ローカルフレンズ滞在記』(以下、『滞在記』)のアイデアでした」

    「これまでの『出会い旅』との違いは、どんなところにあるんですか?」

    「最大の違いは、地域のことをもっと知るために、ディレクターが1ヶ月その地域に滞在して取材すること。これまでの『出会い旅』では2泊3日くらいしか滞在していなかったけれど、若手ディレクターが『僕はもっと滞在したいです』と言ってきたんです」

    「瀬田さん、大隅さんの熱が確実に伝播してますね……!!」

    「若手のディレクターが言っていたのが、『これまでの旅で見せてきたのは点だけれど、人間関係を面で見せたい。もっと長い時間をかけて地域と向き合って、旅がうまくいかない時間やフレンズの迷いも見せてもらえたほうが、僕はリアルだと思っています』と。旅番組がリアルじゃなくなってきている、という感覚を彼も持っていたんでしょうね」

    「たしかに1ヶ月も滞在できたら、地域で見つけられるものが変わってきそうです」

    「その案を他のディレクターに言ったら、『それ、ぜったいやりたい』と、若手が結集したんです。それで試しに『滞在記』のコンセプトを企画会議に出してみたら、想像以上にいい反応で。

    その後のフレンズミーティングで緊張しながらフレンズに聞いたら『おもしろいですね』と背中を押してもらえて、ほっとしたのを覚えています。

    多くの人が関わってくれた結果、2021年度は『ローカルフレンズ』シリーズ全体で100本やるという、ものすごく大きな決定になりました」

     

    「あんなに継続が危ぶまれていたのに、蓋を開けたら、放送枠が5倍以上ですからね(笑)」

    「2021年度の『ほっとニュース北海道』のキャッチコピー“超ローカル宣言”とあるように、『ローカルフレンズ』は重要なコンテンツですね」

    「しかも今関わっている制作メンバーを見ると、みんな若いんですよね。最初のロケでは、ベテランチームだったのに。そのあたりの変化もおもしろいなと思います。若手が結集したあのときを境に、ようやく局内の空気が少し変わったのかもしれません」

     

    メディアの役割を担うために、「伴走」し続ける

    「NHKさんにとって新しい番組のつくり方を通じて、ローカルにおいてメディアはどんな役割を担えると思いましたか?」

    「メディアの持っている力で情報を届けて、新しい関係のハブになれるんだな、と実感した1年でした。

    しかも、フレンズには若い世代が多くて、その方たちがいちばんつながりを持ちたいのは、もっと上の世代なんですよね。その世代の方々と、ローカルプレイヤーとの間にNHKが入ることで、地域に新しいつながりを還元する術が見えたような気がしています」

    「そのハブの役割は、幅広い層の方が見るNHKさんならではかもしれませんね」

    「さらに、気付いたらフレンズ同士が地域間を行き来するようになっていて、世代だけでなく地域を越えた仲間の輪ができていることに、このプロジェクトの可能性を感じました

     

    「ローカルフレンズに関わるようになってから、気づいたことがあって。個人的にはずっと『ローカルの人と関係を築き続ける』つもりで仕事してきたんです。でもそれって、『つもり』でしかなかったんだな、と」

    「奮闘してきた瀬田さんでも……?」

    「そう。その先があるんだよ、と教えてくれたのはローカルフレンズでした。彼らは地域の方に対して『ちゃんと伴走し切るんだ』と覚悟を持っているんです。

    伴走するために、何百キロも運転して会いに行くし、何年も付き合いを重ねていく。そんな彼らを見たときに『これが関係を続けるということなんだな』と実感しました」

    「それでも、NHKの職員として、同じ動きをできるわけじゃないですよね」

    「そうなんです。じゃあ僕は『放送』という強みを使ってどうやって伴走しきれるだろう、と考えたときに、『出会い旅』でつながった方たちが、もう1回番組に登場する仕掛けがほしいなと思ったんです。それが『ローカルフレンズニュース』でした」

     

    2021年度からの新企画。以前出演してくれたフレンズが、最近の取り組みについて紹介する。瀬田さんは「旅や滞在だけだと、関係が1回で終わっちゃうかもしれない。これは僕なりの、『地域に伴走したい』と思う覚悟の見せ方であり、地域への恩返しのあり方です」と語る

     

    「だからローカルフレンズの本質って、番組じゃないんですよね」

    「というと……?」

    「メディアとローカルプレイヤーが関係を構築していくこと。これがいちばん重要だと思っているんです。その結果として、たまたまテレビ番組を出せているのがNHK北海道で。だから他の場所でも実現できるはずだし、それが見てみたい」

    「どうすれば、他の地域でも同じ仕組みを実現できると思いますか?」

    「まずは、地域に本気で貢献したいと思っているメディアの人がいること。あと2つ大事な要素があると思っていて、1つは、僕のような外から顔が見えやすい人が介在すること。もう1つは、組織の中と外の仲間がちゃんとつながること

    「外から顔が見えやすい瀬田さんがいることが、なぜ強みに?」

    「マスコットになれる存在だからです。スーツを着た“遠くにいる人”が普段着で目の前に現れることで、少し距離が縮まるんですよね。すると、その人がまたテレビの中に戻っても、以前とは感覚が違うはず。

    その連続の結果、応援の声がいろいろと届くようになるんです。ローカルフレンズへの感想でもSNSでも、『瀬田がよかった』と書いてもらえるわけですよ。

    すると局内の人も、番組のアイコンである人が地域とつながることの意味を、深く考えてくれる。それが、結果として物事を進める大きな力になるんです」

    「なるほど! より親しみが持てる存在になることで、仲間も増えるんですね」

    「ただ、僕と同じような動きをしたいキャスターがどれくらいいるのかというと、まだわかりません。だからこそ、2021年度に『ローカルフレンズ』シリーズに賭けたNHK北海道の大きなチャレンジを成功させることが必要だと、僕は思っています」

     

    「ローカルフレンズの全国展開は、ぜひやりたいと思っているんですよ。ローカルのディープな情報を発信し続けることは、NHKが旗を振らなくても、別のスタイルでできるはず。例えば新聞社やコミュニティラジオ、NPOが『ローカルフレンズ』の企画をやったっていい。NHKはひとつの回路にしか過ぎませんから。

    誰かだけが勝つ、生き残る時代じゃない。地域とともに未来をつくる仕組みが各地にできたらうれしいですね」

    「たしかに、いろんな『ローカルフレンズ』の回路が生まれれば、地域もおもしろくなりそうですね」

    「だから、いずれはNHKが運営するのではなく、『ローカルフレンズ北海道』というメディアの連合体にしていくのが理想なんです。そしたらどこでも、この仕組みを発足できますし、他のエリアの連合体とNHK北海道がタッグを組めると思っています」

    「メディアとローカルプレイヤーが手を携えて、一緒に地域の可能性を広げられる。たしかにこれは、ローカルフレンズが教えてくれた共創のあり方だな、と実感しました」

    僕は札幌に赴任して4年目なんですけど、ローカルフレンズのおかげで、自分がやっと地域の人になれたと思っているんです。それまでは、どこに足をつけて生きていくのかなとか、不安もありました。転勤族で根無し草で、地元という感覚を持てる場所がないですから。

    でも北海道で、『僕はここで生きていきたい、生きていくんだ』と覚悟を持てた。それは、地域の方と本気で関われたから。そうやって関わってくれた彼らに対して、僕はどんな伴走ができるのかを模索しながら、これからも一緒に走っていきたいです」

     

    これからも、メディアが担える役割を担うために

    ローカルプレイヤーの発信力が高まった今、外から地域を切り取るメディアが担える役割なんて、あるのだろうか?

    全国各地の取材を続けてきた2年間、常に自分に問いかけてきました。

     

    メディアとローカルプレイヤーには、大切にしてきた価値観においても、思いを形にする手段においても、たくさんの違いがあるでしょう。反発し合う部分もあるかもしれません。
    それでも、「彼らと一緒に、新しい価値を創りたい」。その意志があれば、両者の間に橋を架けられる。その先に、まだ誰も見たことのない可能性を広げられる。

     

    「ローカルフレンズ」が灯してくれたそんな希望を胸に、瀬田さんや大隅さんの背中を追いかけながら、メディアが地域と共創できることを私も模索していきたいと思います。

    私たちメディアが引き受けたい役割が、ローカルにあるのだから。

     

    NHK札幌放送局のみなさんと

     

    【2021年度のローカルフレンズ放送予定】

     「ローカルフレンズ滞在記」 毎週木曜日の『ほっとニュース北海道』にて(NHK総合・18時10分~)

     放送予定の内容:3月28日(日)~4月23日(金)は宗谷エリア稚内でゲストハウスを営むローカルフレンズ・尾崎篤志さんのもとに、NHK札幌局の越村ディレクターが滞在します。放送は4月1日(木)、8日(木)、15日(木)、22日(木)

    ※放送後1週間は「北海道NHK NEWS WEB」に掲載予定

     

    「ローカルフレンズニュース」  毎週金曜日の『ほっとニュース北海道』にて

    ※最新情報は公式HP / 公式Twitter から

     

     

    ☆この記事はエリア特集「北海道大探索」の記事です。

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    この記事を書いた人

    菊池百合子
    菊池百合子

    編集者・ライター。2018年からフリーランスとして、インタビュー記事を中心にWebメディアや雑誌で執筆している。神奈川県で生まれ育ち、2018年に滋賀県へ、2020年に沖縄県へと引っ越し。北海道が好きです。

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