
夢だった映像制作ができず、何度も辞めようと思った

━━八木さんがマネージャーをしているのは、社長の鶴の一声だったんですよね。本当は映像の仕事をするためにタイタンに入ったのに、ちょうど爆笑問題・田中さんのマネージャーが抜けたのでそこに入ることになり、そのままマネージャーとして今に至ると……。
「そうですよ。制作会社の内定を辞退して、映像制作として雇ってもらうはずだったのに、話が違います(笑)」
━━入社してから何年も映像の仕事ができなかった間に、「もう辞めよう」とは思いませんでしたか?
「思いました、けっこう」
「あ、そうなんですね」
「親に『辞めようと思う』と話したこともありますけど、結局踏みとどまりました」
━━なにが八木さんを踏みとどまらせたんですか?
「いろいろタイミングが重なったんですよ。最初は爆笑さんの専属マネージャーをしていたんですが、『もう辞めよう』と思ったくらいで担当を外れることになって。急に、若手芸人を売り出さなきゃいけなくなったんです。
そうなったとき、自分がマネージャー業のほんの一部しか知らなかったことに初めて気付いて。爆笑さんは仕事のほうからやってくる状態でしたけど、若手の場合は全然違います」

「それこそクリエイティブに芸人の価値を生み出して局に売り込むという仕事になって、これが楽しかったんですよ。この行為を続けていく先に『自分にとってプラスになることがあるのかも』と思って踏みとどまりました。
で、このタイミングでテレビディレクターの仕事が決まったんです。瞬間メタルという芸人を売り出すにあたり映像資料をつくって局に持って行ったら『自分でつくったの? じゃあディレクターやってよ!』と依頼が来て」
「すごいなぁ」
「こうやっていろんなことがグルグルっとまわったタイミングで、踏みとどまったんです。あのとき辞めなくて良かったですね」
━━この依頼を会社はOKしてくれたんですか?
「最初は上司から『厳しいかもな……』と言われたんですが、社長にも話を上げてもらった結果、『ひとつのことにとらわれなくて良い』という意向もあって、OKになりました。これはありがたかったですね」
ダメ元で応募したコンテストで受賞し、夢の映画制作へ

━━その後、2020年に映画『実りゆく』で監督デビューされるんですよね。
「そこまでにも色々ありました。マネージャーとして何年もやってきたんで、ここからほかの人と同じように修行しても、監督になるのは不可能だと思って。じゃあいきなり監督になるしかない、しかし自主制作する余裕はない。でも予告編だったら勝機があるかも、ということで、『未完成映画予告編大賞』(※)へ映像を出したんです」
※未完成映画予告編大賞……堤幸彦、大根仁らが所属する映像制作会社・オフィスクレッシェンドが主催する賞。商業未公開の映像作品の、3分以内の予告編映像を募集し、グランプリ作品に対して賞金と制作費を提供する。
━━応募したときは、自信があったんですか? もしくはダメ元?
「半々でしたね。このコンテストでダメだったら映画の道は諦めたほうが良いのかなと、ちょっと思ってました。結局グランプリは獲れなかったんですけど、『堤幸彦賞』を受賞できて。社長が『面白そうじゃん、長編やってみたら?』と言ってくれた。ほんと、タイタンだから実現できたことです」
「社長は新しいことに全ベッドしてくれる感じがありますよね。『怪獣ヤロウ!』に出てくる、何も変えたくないという伝統主義の市長の正反対」
「社長がすごいのは、現場にいらっしゃらなかったことですね。映画は全編、岐阜県で撮影したんで、社長に『現場いらっしゃいますか?』と聞いたんです。そしたら『私は行かないわよ。だって私が行ったら現場が大変じゃない』と。この一言で全部伝わるというか、僕も『じゃあこっちで頑張ります』と」
「気遣いの人ですからね。自由にやらせていただきました」
二面性のあるまち・岐阜県関市

━━『怪獣ヤロウ』の撮影現場となった岐阜県関市は、八木さんの故郷ですよね。自分のふるさとで仕事をしたことで、関市の見え方は変わりましたか?
「映画をつくったことで、僕は関市の一部しか知らなかったんだなとわかりました。地元の人が持っているパワーを感じましたね。自分が生まれ育った場所だから言いますけど、関市って田舎だし、人がいないし、パッとしないなとずっと思ってたんです。
でも暮らしている方々や商店街でお店をやっている方、行政に勤めている方、みんなが『関市を盛り上げたい』っていう熱い想いを持っていて。『このまちの映画を作ります』と言った瞬間、ぶわーっと盛り上がった感じがすごかったです」
「関市で最初に行ったのが、『刃物まつり』っていうイベントだったんですよ。関市って、日本刀・包丁・爪切りとか刃物が有名なまちなんで、まつりでは出店がいっぱい並んでみんな刃物を売ってるんです。
コミケくらい人が来るまつりなんで、もし誰かひとりでもここで変な気を起こしたら……と怖すぎて。でも『みんな武器を持ってるから良いのか』とも思ったり(笑)」
「15万人くらい集まるんです」

ぐんぴぃが手にしている刀は、岐阜県関市で購入。なかなかいいお値段だったという
「でも、まつりが終わるや否や、誰も歩いてない。自分の足音がカツンカツンとはっきり聞こえるくらい、ゴーストタウンのようになるんです。で、立ち止まると……」
「無音過ぎて耳がキーンとなる」
「さっきの雑踏はなんだったんだ、と狐につままれたような感じになりました。二面性のあるまちなんですけど、楽しい場所ですね。撮影しながらいろんな魅力を見せてもらいました。すごく懐の広いまちだからこそ、もし映画が良くなかったら八木さんが故郷で酷い目に遭うんじゃないかと……。ムラのいじめが一番怖いですから」
「この映画がコケたら、ふるさとには帰れないんじゃないかと思ってました」
「現場では『八木さんがまた故郷の地を踏めるように良い映画をつくろう』と、本当に言い合ってました(笑)」
「昨年に関市で関係者向けの試写会イベントがあったんですが、みなさんから『おもしろかった』と言ってもらえて、ほっとしましたね」
『怪獣ヤロウ!』はぐんぴぃを売り込む壮大な映像資料

━━映画の撮影を通じて、ぐんぴぃさんの変化を感じることはありましたか?
「いや、逆に『変わってない』のが良さだと思いました」
「変わってないですって……?」
「絶対に偉ぶらないんですよ。どこに行っても誰に対しても丁寧に接するし、人の名前をちゃんと覚えるし、人の目を見て話すし。これは最初に行ったYouTubeの現場から今まで変わっていないところで、すごい。見習いたいですね。変わったところで言うと、芝居力はめきめき成長してます」
「ありがたい」
「自信をもって各所へ売り込めます」
「この映画自体が、売り込むときの映像資料になるんですもんね」
「そう、これで仕事をガポガポとってくるのが、僕のマネージャーとしての仕事」
「すごいマッチポンプ。事務所としても『映画がプロモーションになるんだから良い』という、すごいバランスで成り立ってますね」
━━『怪獣ヤロウ!』が完成した今、八木さんの次の展望はなんですか?
「ゆくゆくは本物の怪獣映画を撮りたいですね。元々、ゴジラに心を奪われて映画の道を志したんですよ。小学校2年生のときから、怪獣映画を撮るという夢は変わってないですね。
あと、この映画でぐんぴぃが演じた主人公の山田君は、市役所の職員として映画を撮ったわけですが、このあとどんな人生を歩むんだろう? ここにも興味があるので、『怪獣ヤロウ!』の第2弾、第3弾もできたら良いなと」
「おお~、すごいな」

(C) チーム「怪獣ヤロウ!」
━━八木さんのように身近に夢を叶えている人がいると、タイタンの芸人さんも刺激を受けそうですね。
「そうですね」
「でも、ぐんぴぃこそ何輪もの仕事を同時に実現してますからね。とんでもない」
「この何輪もある感じ、誰にも共感してもらえない孤独だと思ってたんですよ。でも実は、八木さんとわかりあえるんですよね」
「たしかに。ぐんぴぃに人生相談することもありますよ(笑)」
「飲みに行くのがマネージャーで一番多いのは、八木さんですね。そういえば、映画の話を最初に聞いたのが阿佐ヶ谷の小さい焼き鳥屋でした。
そんなところで『主演をやってほしい』と言われたんで、こんなところで聞く話は取るに足らないに決まってるだろうと一回断っちゃったんですよ。喫茶店で聞く『儲かりますよ~』ぐらいの話に聞こえたんで」
「(笑)」
「こんな場所で聞く話が、良い話なわけないだろうと……(笑)」

映画『怪獣ヤロウ!』
公式サイト:https://www.kaijuyaro.com/
公開日:1 月 24 日(金)岐阜先行公開、1月31 日(金)全国公開
映画オリジナルグッズ販売URL:
https://charazz.com/SHOP/246600/list.html
撮影:尾藤能暢
編集:森ユースケ(路地裏書店)





































