ライターから未経験でエンジニアに異業種転職。やり切るために必要なのは「自分の納得感」だった


フリーランスのライターから、Webエンジニアへ異業種転職をした菊池百合子さん。

かねてより「エンジニア」という仕事に興味を抱きながらも勉強を始めては挫折……を繰り返していましたが、あるとき「半年以内に転職する」と具体的な目標を決め、勉強と転職活動に全力を注いだことで、転職を実現。

転職から1年がたった今、目標をぶらさずにやり切れた理由を振り返っていただきました。


2022年の夏にエンジニアになってから、1年以上の時間が流れた。

友人から転職について相談されることも増え、少し時を置いた今だからこそ、転職のことを落ち着いて振り返れるようになった。

後から思えば、あの行動が異業種転職につながったのかもしれない。そう思うアクションがいくつかある。当時も今も手探りで進んでいる状態だけれど、転職できるか分からなかったあの頃の自分に伝えられたらいいなと思うことを、ここでお話できたらと思う。

プログラミングの勉強を始めては、挫折してきた

転職の話をする前に、少し時間をさかのぼり、ライターをしていた頃の話を。

私は書くことそのものを目的にしていたわけではなく、伝えるための手段として「書くこと」を選び、ライターになった。

インタビューして記事を書く仕事に、自分なりの思いを注いできた。一方で、ライターだけを一生の仕事として続けるイメージはずっと持っておらず、むしろ「書くこと」以外にも人の役に立てる手段を増やしたいと思い続けてきた。

仕事を通じてさまざまな職種の方のお話を伺うことで、結果的に、自分はどのように人の役に立ちたいのかを考えるヒントをいただいていたようにも思う。

ライターを続けるなかで興味を持ったのが、Webエンジニアの仕事だ。人の思いを形にできる点がライターと共通しており、さらに一歩踏み込んで、技術によって課題を解決できる点に惹かれた

そこでまずは、エンジニアを長く続けている知人に、仕事において必須となるプログラミングをどのように勉強するのか、どのようなプロセスでエンジニアになっていくのか、話を聞きに行った。

しかしせっかく勉強方法を教えてもらって始めてみたものの、いつのまにか教材に触れなくなっていた。その後も「エンジニアになりたいのか」すらぼんやりしたまま勉強を始めては、気づいたら勉強しなくなっている……そんな挫折を何回も繰り返した

少なくとも私の場合、まずは「エンジニアになる」と明確に目標を決めなければ、勉強が続かないんじゃないか。そう気付いた頃にはライターになって4年がたっており、これまでライターを続けてきた日々に対して、自分なりの達成感を持てるようになっていた。

「そろそろ次の選択をするタイミングなのかもしれない」

本腰を入れて、エンジニアになるための準備をしようと決めた。

だから精神論になってしまうけれど、私がエンジニアになるために最初にやったことは「腹を括る」ことだったんだと思う。ここでようやく、ライター専業の生活に終止符を打つ、という決断をした。

「週40時間勉強し、半年間で転職」明確な目標を立ててスイッチを入れた

もう二度と挫折を繰り返さないためには、自分の行動を変える必要がある。そこで私は、転職支援スクールに入ることにした。一人でやり切れないなら、誰かの力を借りるしかないと思ったからだ。

転職準備のために購入したノート
転職準備のために購入したノート。転職活動が終わるまで毎日使っていた


スクールの目標は「半年で転職を達成すること」。応募条件には「勉強のために週25時間以上確保できること」とあった。

25時間なら仕事と両立してもなんとか確保できるかなと思っていたところ、実務未経験でエンジニアに転職した経験のある講師から「週30時間でもギリギリですね……理想を言えば40時間は確保してほしい」と入会前の面談で言われた。

正直に言えば、以前の私は週10時間の勉強でも「まあまあやっている」と思っていた。自分の認識があまりにも違っていたことを、スタートラインで突きつけられたのだ。

ここはもう、やりきるしかない。自分にとって大きな金額を払い、仕事を続けながら毎週40時間を勉強のために確保すること、そして半年間で転職活動を終えることを、自分に課した

ここまで読んでくださったら伝わっているかもしれないが、私は決して、一人でストイックに頑張れるわけではない。

痛みがある出費をして、心が折れそうなときでも「あんなにお金を払ったし……」と思える状態になったこと。自分の行動を常に見てもらえる環境に身を置いたこと。そして、周囲の人と期限を共有したこと。この3つが揃って初めて、自分を変えられた。

あえて自分を「ひとり」にする時間をつくった

こうして走り出した半年間の転職準備で、一つだけ意識していたことがある。それは「相談する相手を絞ること」だ。

なぜなら「エンジニアになる」という選択の理由を、周りの人にうまく伝えられる気がしなかったから。近しい人から「なぜエンジニアになるの?」なんて聞かれると自分の意志が揺らいでしまいそうだったから、誰かの声に影響されないようにしたのだ。

だから転職準備の期間は知り合いに会わず、会ったとしても転職の話はせず、できるだけ自分を「ひとり」にするようにしていた。そうでないと、仕事をしながら週40時間を勉強に充てられなかったという面もあるけれど。

ただ、誰にも相談しなかったわけではない。具体的に欲しい情報があるときは、自分が進みたい道をすでに歩んでいる経験者に話を聞きに行った

私が転職準備をしていた当時、実務未経験者にとってWebエンジニアへの転職は、なかなか狭き門だった。そこで、未経験者は書類選考で何割程度が落ちるのか、通過するためにどんな準備が必要なのか、スクールの講師から実体験を通じて教えてもらった。おかげで実際にたくさんの不採用通知が届いても不安にならず、自分のやるべきことに集中できた

加えて、採用のための面接とは別に、さまざまなキャリアを重ねているエンジニアの方々に面談を申し込んだ。複数社を経験している方にはそれぞれの会社選びの理由を、役職に就いている方には今のキャリアに至るまでの経緯を聞かせていただいた。

エンジニアになったその先に広がるキャリアステップは、人の数だけあると知れたことで、転職の先に続いていく「エンジニアとしての自分の歩み」に思いを馳せることができた。

そして未来を思い描けたからこそ、目の前の内定を承諾するかどうか、自分の意志で選んで決められたのだ。

勉強漬けの毎日の癒やしは、散歩中に出合う猫たち
勉強漬けの毎日の癒やしは、散歩中に出合う猫たち

誰かに納得してもらうことを優先しなくていい

面接に至らなかったケースも含めれば50社近い企業から不採用通知を受け取ったものの、なんとか目標どおり、半年間で転職活動を終えた。

入社したのは、自社サービスの開発事業と、他社のシステムを開発する受託事業を手がけるベンチャー企業だ。ここで私は入社以来、バックエンドの開発担当として、毎日プログラミングに向き合う日々を過ごしている。

実務未経験のエンジニア志望者は、エンジニアとして採用されてもプログラミングをさせてもらえないケースがある、と聞いていた。だから「プログラミングができる」ことが、私にとって転職の絶対条件だった。

他にも、こういう会社で働きたい、こういう会社は合わない、といった条件を面接を受け始める前に一通り書き出していた。自分の希望を明確にしていたことで、条件に合致する今の会社への入社をすんなり決められた。

転職から1年以上がたった今でも、その選択が間違っていなかったと思えるのはやはり、他人の声に振り回されず、自分の納得を最優先にしたからなのだと思う。

***

異業種転職をしようとすると、周りからの「なんで?」という問いにさらされ続ける。でもその疑問に答えられなければ、転職を選んではいけないのだろうか。

もちろん、面接担当者の「なぜエンジニアになりたいのか」の問いには答える必要がある。私も、面接のための回答は念入りに準備した。

でも本当のところ、選択の背景は、一言では言い尽くせない。納得してもらおうとすると体力がいるし、会話しているうちに自分の意志が揺らいでしまうことだってあるだろう。

それなら、周りの人に納得してもらうことは少し横に置いておいて、「自分が納得すること」を最優先にする時期があってもいいんじゃないか。

私の場合、今でも「なんでエンジニアに?」という問いにうまく答えられない。それでも自分で選んだ道を歩いている今、これだけは胸を張って言える。
この選択をして、本当によかった、と。

編集:はてな編集部
トップ写真撮影:土田凌

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著者:菊池百合子

菊池百合子さんプロフィール画像

2018年からライターになり、インタビュー記事を中心に、Webメディアや雑誌で執筆。2022年夏に異業種転職をしてWebエンジニアへ。現在はプログラミング言語を書く傍ら、文章を書くことも続けている。関心のあるテーマは「地域」。
X(Twitter):@kikuchi410
note:@kikuchi410