桃山商事・清田隆之|「女性のことはわからない」からこそ、背景を想像して話を聞く

清田隆之さん

夫に愚痴を聞いてもらおうとしただけなのに、不要なアドバイスをされてしまう。恋人が男性同士の集団に入ると急に女性蔑視的になる──。男性のパートナーや友人、同僚に対し、そのような悩みや不満を持ったことのある女性は少なくないのではないでしょうか。

そんな女性から見た男性への疑問や不満を収集しまとめた本、『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』の著者である清田隆之さんは、恋バナ収集ユニット「桃山商事」の代表として、大学時代から1,200人以上の女性たちの悩み相談を聞いてきた経験の持ち主です。

女性と男性がすれ違いを起こしてしまう背景や男性が陥りがちなホモソーシャル問題、そしてパートナーや同僚など、身近な異性とコミュニケーションを取る上で清田さんが心がけていることなどについて伺いました。

男性が陥りがちな“失敗”に焦点を当てた理由

清田さんは、2001年から「桃山商事」として恋バナ収集の活動をされているんですよね。

清田隆之さん(以下、清田) もう20年近くになることに驚きますが……もともとは大学時代に始めたサークル活動のようなものでして、当時は身近な女子の恋バナを聞いて、恋愛に苦しんでいる人をひたすらもてなす、みたいなチャラチャラした感じだったんです。恋愛やジェンダーの問題を発信するというような意識はまったくなくて。

では、途中から活動の方向性が徐々に変わってきたんでしょうか?

清田 恋愛だけに向いていた関心が、徐々に他の分野にも広がっていったという感じが近いですね。社会人になっても桃山商事として恋バナ収集活動を続けていたんですが、いろんな女性の話を聞いてきたことを何かの形で発信できないかと思い、2011年からはポッドキャストを始めて。そのあたりから活動が「恋バナを聞く」と「聞いた恋バナを発信する」という2つの軸になっていき、だんだんと恋愛にまつわるコラムなどを書かせていただく機会も増えていって……という。

その中で、悩み相談にくる女性の話を聞いていると、それぞれ別々の男性についての悩みのはずなのになんだか既視感があるな、と思うことが多かったんです。本にも書きましたけど、例えば「男同士になるとキャラが変わる」「上下関係に従順過ぎる」という悩みとか。

必ずしも男性だけの問題ではないとは思いますが、確かに現状、そういった男性は少なくないように感じます。

清田 そうですね。主語が大きいと言われてしまうかもしれないですが、1,200人くらいの女性の話を聞いてきた中で、やっぱり実感としてそういう話がとても多かったんです。しかもそういうふるまいって自分も身に覚えがあるし、周りの男性にもそういう人は多いなと……。ということは、もしかして男性がそういった行動をとってしまいがちになる構造のようなものがあるんじゃないか、という問題意識が芽生えていって、それはつまりジェンダーという領域で研究されていることに非常にリンクするな、と。

そこからジェンダーへの意識と恋愛への関心が結びついていって、ここ5年くらいは男性性に関することを書く機会が増えました。そして、女性たちから聞いてきた「男性への疑問や不満」にまつわる800以上のエピソードを大きく20個の問題に分類し、当事者としての経験を踏まえながらその原因や背景を考察したのがこの本です。

『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』

本書では「人の話を聞かない男たち」「プライドに囚われる男たち」など、これまでの恋愛相談の中から共通する点を20の項目にし紹介している

個人的には、「お金の使い方が意味不明」とか「シングルタスクになりがち」など、これ、自分もやりがちだな……と反省する項目も多かったです。

清田 傾向としては、実は女性からそういった感想をいただくことがほとんどだったんですよ。もっと「こういう男ってたくさんいる、本当に腹立つ!」みたいな感想が多いかと思っていたんですけど、実際は自分の身を省みられる方が多くて。一方で男性は「身に覚えがある」という方もいましたし、「男をひとくくりにするな、自分は違う!」とめちゃめちゃ怒っている方もいて、感想が完全に二極化してますね。

共感とは、「相手のうしろに回って一緒に景色を見る」こと

これも「男をひとくくりにするな」と言われてしまうかもしれないのですが、男女間で起きがちなすれ違いの原因のひとつに、「男性が自分の話にアドバイスはくれるけれど、共感しようとしてくれない」問題がありますよね。清田さんも「人の話を聞かない男たち」という章で取りあげられていました。

清田 よく聞く話ですよね。男性上司に仕事の相談をしたら途中からなぜか説教されるはめになった、とか、夫に愚痴を話したいのに興味なさげに対応され、不要なアドバイスばかりされた……とか。

“人の話に共感する”ということをあまり重視していなかったり、苦手意識を持ったりしている男性はおそらく多いのかな、と思います。これまでたくさんの方の話を聞いてきた清田さんが思う、人の悩みや愚痴を聞くときのコツってありますか?

清田 基本的に「その人の悩みはその人にしかわからない」と思っているので、アドバイスとかはしないようにしています。することがあるとしたら、その人が今、何に悩んでいて、そのポイントがどこにあるかというのを整理した上で、「今あなたがいるのはこういう状況だから、差し当たって行動を起こせるとしたら、この部分をこうするしかなさそうですよね」と提示するくらいです。感覚としては……将棋棋士の加藤一二三さんっているじゃないですか。

ひふみんさんですね。

清田 ひふみんさんは対局しているときに対戦相手のうしろに回って、その人の目線から盤面を見るんだそうです。「ひふみんアイ」って言うんですけど、それに近いイメージではないかと勝手に考えています。今自分に話してくれている相手からは恋人や職場、世界がどう見えているんだろう? というのを、その人のうしろに回って一緒に見ている感じ。これがつまり“共感”ということだと考えているんです。海外の言葉で言うと、“エンパシー”というものになると思うんですけど。

清田隆之さん

共感と聞くと“シンパシー”を思い浮かべますが、それとはまた違う言葉なんですね。

清田 シンパシーはどちらかと言うと「同情」や「同意」を意味する言葉なんですが、エンパシーは、その人から世界がどう見えているかを想像したり理解しようとする能力のことなんだそうです。例えば、女性特有の生理や妊娠にまつわる悩みって、僕ら男性はどうしたって身体的には経験できないわけで、シンパシーを感じることは原理的に無理だと思うんです。

例えば「恋人のことが人間的に尊敬できないのだけれど、妊娠のリミットを考えるとその恋人となかなか別れられない。子どもができないことで、毎月毎月、卵子が自分から無駄に放出されている気持ちになる」という悩みを女性から聞いたことがあるんですが、僕が「その感覚がわかる!」とか言ったら、やっぱり嘘になると思うんです。

そうですね……。

清田 でも、その別れられなさの背景にある気持ちを理解することは、読解力と想像力を駆使しながら相手の話を丁寧に聞いていけば、できないことはないかもしれない。その人に見えているビジョンにできるだけ近い形で理解を試みようとする、というのがエンパシーだと思っていて、そういう話の聞き方を訓練してすこしずつ身に付けていくというのがコツかもしれないですね。

今「共感(エンパシー)には訓練が必要」というお話がありましたが、清田さんご自身は最初から人の話を聞くのが好きだったんですか?

清田 人とおしゃべりするのは好きだったんですが、昔は人の話を聞くことが全然できなかったですね……。桃山商事の活動でも、恋愛で落ち込んでいる人を盛り上げる、というのを目的にしていたので、面白いことを言って笑わせるのが自分たちの役目だと思ってたんです。だからベラベラ自分のことばっかり喋って……。そういうのも数十分なら楽しいかもしれないですけど、なんか、だんだん相手も自分も疲れてきちゃうんですよね。

ああ、すごく想像できます……!

清田 なんであんなに盛り上がったのに帰り道はこんな無言が続いているんだろう、っていう(笑)。そういう失敗を繰り返しながら、人とおしゃべりをしたり誰かにインタビューをしたりして、少しずつ話の聞き方が今の形になっていったというのが実際のところです。

清田隆之さん

集団になると茶化さずに話ができなくなる男性たち

書籍の中では「1対1では優しい恋人が、男友達がいる場だとなぜかオラつき始める」「職場の男性たちは集団だと女性軽視的な発言が増える。1人のときはいい人なのに」といった、いわゆるホモソーシャル(男同士の連携)に関連する項目が描かれているのも印象的でした。ただ実際は男性の中にもホモソーシャル的なコミュニケーションのとり方があまり好きじゃない、という方は少なくないように感じます。

清田 そうなんですよね。そういったことが嫌な人もたくさんいると思います。僕自身、飲み会などで風俗に行ったとか下ネタの話題とか、そういう話ばっかりだとしんどいなあと感じるようになりました。仲の良い男友達とかだったら話題を変えたり嫌みを言ったりできるんですけど、一方で彼らは男だけの中で好きでそういう話をしてる可能性もあるんだから、その価値観を自分が正さねばみたいな正義感を持つのは、それはそれでマッチョな思想なんじゃないかと葛藤したりもします。

ホモソーシャルについてのお話、おそらく男女を問わず悩まされている人も多いと思います。

清田 いわゆる女性蔑視的な価値観を持っている人の発言を黙認するのって、そういった考え方を自分が助長させてしまっているんじゃないかと罪悪感を覚える方もいると思うんですよね。それに関しては、あんまり自分を追い詰めていくとキリがなくなってしまうな……とも感じます。

自分ひとりだけでその環境をどうにかしなきゃ、とは思い悩まない方がよさそうですよね。

清田 現状難しいですよね。でも、「この話題、気持ち悪いな」とか「嫌だと思ったのになにも言えなかった」みたいな気持ちはひとつの経験として自分の中に積み上がっていくと思うので、そう感じることは決して無駄にはならないと思います。その経験のおかげで次からは違う態度がとれるかもしれないですし、「あの人もああいう話題は苦手そうだったな」みたいな相手を見つけて、集団の中の個人にアプローチしていくこともできるかもしれないし。

確かに、そうやってすこしずつ自分の味方を増やしていくことはできる気がします。

清田 もちろん本来はそういったふるまいをする側に(自覚しにくい)問題があるわけで、指摘する側がその場の空気を壊さないように気を配る必要なんてないんですけどね……。でも、技は技として身に付けておいて、自分がいる場ではできるだけそういう方法をとる、ということを個人的にはしています。アハハ、とか苦笑いしてやり過ごしちゃうこともときどきあるんですが、すこしずつ仲間を増やしていって変わっていけばいいかなって。

清田隆之さん

「恋人や家族は、自分とは違う価値観を持つ他人」と思うこと

さきほど「女性からは『本に書いてあることは私にも当てはまる』という感想が多かった」という話もされていましたが、女性側にも改めるべき点はあると個人的には感じます。自分自身、「なにも言わなくても察してほしい」みたいなコミュニケーションをとりがちなので。

清田 コミュニケーションの問題はもちろん男性に限った話ではないと思いますし、男女を問わずそういった方はいると思います。

一方でやはり、さきほど清田さんがおっしゃったような女性の妊娠・出産の問題や男性でいうホモソーシャルの問題は、なかなか男女間で理解し合うことが難しいとも思います。男性と女性がお互いにあと一歩ずつ理解を深めて関係をアップデートするためには今なにができるんだろう、というのを考えているんですが……。

清田 確かに相互理解が大事だと思う一方、個人的には女性に対して「男を理解してくれ」とか「ここを変えてほしい」とかは正直言いづらいなと思っていまして……。というのも、自分は男性なので、例えば「男同士の集団の嫌なところ」とかだったら実感としてわかるので、いくらでも自分自身の身に置き換えて批判もできるんですけど、女性の言動に疑問があったとしても、それは一体なぜなのかと想像することしかできない。

自分としては、女の人にとやかく言う前に、男は自分自身のことをもっと知って、いろんな部分を言語化していくべきだろうと考えています。

それは女性側も同じかもしれないですね。男性特有の悩みを聞いても、想像して「そういうこともあるのかもしれないな」としか思えないですし。

清田 現実的には、パートナーや同僚、友人とのあいだになんらかの問題や悩みが生じたときって、男も女も一旦関係なく「その問題をできる限りお互いの合意点に近づけるために今できることはなんだろう?」という想像力を持つことが大切になってきますよね。そのためには、異性に限らず「他人のことはわからない」という前提に立ってコミュニケーションをとる必要があると思うんですよ。

これは劇作家の平田オリザさんが言われていることなんですが、どれだけ親しくて自分に近しい相手に対しても“他人”という認識を持たないと、コミュニケーションは成り立たないっていう。その上でどうするといいのか、を考えることが大事だと思います。例えば家族だから同じ価値観を持っているだろう、という前提でコミュニケーションをとると、どこかですれ違いが生じたときに「なんでわかってくれないの」という気持ちになってしまう。

家族を“他人”と思うのってなかなか難しいようにも感じるのですが、そう思うことが相手に対して想像力を持てるようになるための第一歩かもしれないですね。

清田 本当に、家族や恋人のことを「この人は自分とまったく違う価値観の持ち主なんだ」と思うのってすごく難しいと思います。親しい人に対して自分とは決定的に相容れない部分を見つけてしまったときってすごく寂しくなったりショックを受けたりはすると思うんですけど、それを乗り越えていく、というのがコミュニケーションを一歩前に進めるためのポイントなのかもしれないですね。

清田隆之さん

取材・執筆:生湯葉シホ
撮影:小高雅也
編集:はてな編集部

お話を伺った方:清田隆之さん

清田隆之

1980年、東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。著書に『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(ともにイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)。
Twitter:@momoyama_radio

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編集/はてな編集部