倉持由香の仕事術「登れる山がないなら、自分で新しく山を作るしかない」

倉持由香

グラビアアイドルの倉持由香さんは、その戦略的な自己プロデュース術で“グラドル界”を駆け上がっていきました。アピールポイントである「自分の尻」を活かした写真をSNSに多数投稿する自らを「尻職人」と称しますが、その仕事ぶりはまさに職人。極貧時代を経て、「いつかグラビアで売れてタワーマンションに住む」という目標を実際に達成しています。そして、2019年7月からはもともと好きだったというeスポーツでチームのプロデューサーにも就任しました。

そこに至るまでの戦略は、働くすべての人々が真似したいエッセンスの宝庫。自分の強みの見つけ方やメンタルの保ち方、目標を達成するための考え方について語っていただきました。

登れる山がないなら、自分で作るしかない

倉持さんといえば、Twitterで「#グラドル自画撮り部」や「#尻職人」のハッシュタグをヒットさせて以降、ビジネス系のメディアにもよく出演されていますね。

倉持さん(以下、倉持) そうですね。今はありがたいことに、お仕事の割合としてもビジネス系の仕事が増えてきています。まさかビジネス本(星海社新書『グラビアアイドルの仕事論』)まで出させていただけるとは、正直、想定はしていなかったですね。

著書にもありましたが、食費すらままならず、わかめにポン酢をかけてしのいでいたんですよね。それが今やタワーマンションの住人に……。

倉持 貧乏時代に憧れていたタワーマンションに住みたい一心で、とにかく頑張ってきました。10代の頃に所属していた前の事務所では住み込みで働いていたんですが、表に出る仕事はほとんどなくて。お茶くみや事務所のホームページ制作、電話番などをして過ごす日々でした。しかも台所の床に寝袋を敷いて生活してたんですよ!(笑) それで2011年、20歳の時に今の事務所へ移籍しました。

倉持由香さん

倉持 グラビアアイドルが多い事務所に所属したからこれで安泰だ、と思ったら全くそんなことはありませんでした。当時はAKB48さんをはじめとしたグループアイドルの全盛期。週プレ(週刊プレイボーイ)もヤンジャン(週刊ヤングジャンプ)も、先月のグラビアはAKB48の誰か、先週も今週も、そして次週はグループ全員集合、みたいなことが多くて(笑)。グラドルの出る隙なんて全然なかった。

あまりに仕事がないので、「Twitterのフォロワーを増やして知名度を上げよう」と考えました。メディアに出られないんだったら、これはもう自分でメディアを作るしかない、と思ったんです。

自分のTwitterをメディアにしていくんですね。

倉持 はい。自分のTwitterのアカウントを雑誌並みの影響力にしようと、あれこれ工夫を始めました。

当時は積極的にSNSを使う芸能人が少なかった気がします。

倉持 最初は、当時のマネージャーさんに「Twitterに写真を載せまくったら、写真集やDVDが売れなくなるだろ!」って止められました。自分の商品を切り売りするなんてもったいないという風潮だったんですよね。

でも、ただでさえグループアイドルが流行っていてグラドルの需要自体が少なくなっているのに、小さなファン層をグラドルの中だけで奪い合っても不毛なわけです。だったら、写真をたくさん投稿してグラドル界そのものを盛り上げた方がいいんじゃないでしょうか、とマネージャーさんの話は無視して続けました(笑)。その試行錯誤のうちのひとつが、「#グラドル自画撮り部」や「#尻職人」です。

そういえばグラドルとは遠い位置にいる私のTwitterにも、「#グラドル自画撮り部」のハッシュタグが流れてきていました。

倉持 ちょうど「#グラドル自画撮り部」を始める少し前に、「その大きな尻を活かした方がいいよ! 活かさなかったらただの無駄尻だよ!」と知り合いのカメラマンさんに言われたんですよ。自分ではヒップをコンプレックスだと感じていたんですが、その言葉をきっかけに「売りにしていくぞ!」と決めて、タイムラインを尻で埋め尽くしてやろうと5分に1回のペースで載せていきました。飯テロならぬ尻テロです(笑)。

尻テロ(笑)。

倉持 そのおかげで当時3,000人くらいだったフォロワーが、1カ月で1万人、1年で3万人にまで増えて。それが功を奏して、週プレで「尻職人」として撮り下ろしをしてもらえるなど、めちゃくちゃ手応えがありました。

そして、Twitterに自分の写真を載せてこんなにフォロワーが増えるなら、みんなでやればもっとグラドル業界が盛り上がるんじゃないかと考えて、「#グラドル自画撮り部」のハッシュタグが誕生します。参加してくれたグラドルは3日で100人以上! これがきっかけで、グラドルが写真をTwitterにバンバン載せるという文化ができました。

倉持由香

やっていることは自撮りですが、つまりは「グラドルのニーズ自体を増やしてグラドルが活躍する市場を広げる」ということですよね。当時20歳そこそこにしてとんでもない商才ですね……。

倉持 ただ待っているだけでは仕事は来ないので、とにかく自分から尻の存在を広げていこう、と。私はグラドルとしては胸も小さい方ですし、既にあるグラドルの山に登ろうとしても、他のグラドルには勝てません。だったらもう、自分で山を作るしかない。王道のグラドルたちが登る富士山は諦めて、その近くに尻の山を作りました。小さい山でも頂上に立つことが大事なんですよね。

Twitterのフォロワーが増えたことで、AmazonのDVDランキングでも1位を獲得して、「ほら見たことか!」って感じでした(笑)。大人の世界では結果を出さないと否定されるけど、逆に言えば「結果さえ出せば、意見が通りやすいんだなあ」とこの時に学びましたね。

強みを見つけるには、自分が伸ばせそうな部分で「得意です」と言い張る

もともとはコンプレックスだったヒップを、チャームポイントとしてアピールしていくのは、心情としてはそんなに簡単なことではないと思うんです。

倉持 昔はヒップのサイズをマイナス2cmさばを読んでいたくらい、強調したくないと思ったものでした。でも、自分の思う通りにやっていて売れないのだから、他の人の意見を取り入れよう、と考えたんです。コンプレックスに思うというのは「人と比べてズレている」からそう感じるのですが、むしろ「人と違うという武器」なんですよね。

それは芸能の仕事じゃなくても、何にでもいえそうですね。

倉持 自分が良いと思うところと、人から見て良いと思うところって本当に全然違うので、自分本位にならないことが大事だと思っています。グラドルの例でいえば「コンプレックスだからその角度からは撮らないでください!」とかたくなに言っている方を見ることがあって。もしそれで売れていないのなら、そういったプライドは捨てた方がいいんじゃないかと感じるケースも多々あります。

倉持さんの場合は、知り合いのカメラマンさんからの言葉でご自身の強みに気づけましたが、そういう人が周囲にいない場合、どうやって自分の強みを見つけていけばいいと思いますか?

倉持 まずは自分と向き合うことですよね。これは私もよくやるんですが、ノートに「自分はどんな人間なのか」について、キーワードを書き出していくんです。どんな性格で、何が好きで、何が得意で、頭の良さはどれくらいで、見た目は何点くらいで……と自分のスペック表を作ってみる。それをレーダーチャートにして、キレイな六角形になるのか、あるいはいびつな部分があるのかを見てみます。グラフの形がいびつで、へこんでいたり尖っていたりする箇所があるなら、そこが強みに変わり得るかもしれません。

へこんでいる箇所は、自分が欠点だと感じている部分ですよね。

倉持 そうです。ドラゴンクエスト(ドラクエ)のようなRPGでたとえれば、自分は戦士タイプなのか魔法使いタイプなのか、書き出したステータス値で見えてくる。

あと、装備やスキルセットはどうなっているのかも確認しておきたいですね。例えばWordやExcel、Photoshopなどのソフトが使えるとしたら、それをスキル欄に書く。周りの友達や助けてくれる人が持っているスキルは何か、仲間にはどんなタイプがいるのかについても書いてみましょう。それでも仲間がいなさそうだなと思ったら、自分はドラクエ1の勇者*1なんだってことで(笑)。

倉持由香

ノートに書き出してみた結果、「うわ、自分のグラフちっちゃい! スキル全然持ってない!」と逆にへこみそうになったら……?

倉持 上を見ていたらキリがありませんからね。「絵がうまいと言っても、もっとうまい人がいるし……」「文章好きと言っても、他にもうまい人はいっぱいいるし……」って思ってしまう。私のヒップだって、ブラジルに行けば、もっといい形のヒップの持ち主はいっぱいいると思いますし(笑)。

だから、少しでも伸ばせそうな部分があるなら、「これが得意です」とまず言い張りましょう。「好き」とか「得意」とか言うからには後追いで努力も必要ですが、そうやって追い込むことで、「言っちゃった! 言っちゃったからにはもっと知識つけなきゃ! 勉強しよう!」となるはずです。

言ったからには「全然ダメじゃん!」と言われないようにしないと。

倉持 上ばかり見て自信をなくして、RPGでいう最初の街の周りで弱い敵だけと戦っていても、何も進まないんですから! そういう意味でも、自分をRPGの主人公として俯瞰して見るのは効果的です。うまくできなくて傷ついたとしても、RPGの主人公がダメージ受けたな、と思えるので。私もへこんだ時はいつもRPGのキャラを操作している気分で、「おっ、倉持がちょっとダメージ受けてるな~。ちょっとホイミ*2やっとくか」って感じで考えています。

それは今すぐにでも使いたいテクニックですね。誰かに何か言われたり、ミスしたりしても、自分だけがダイレクトに引き受けなくて済むのは気が楽です。

倉持 そして、いきなり自分のステータス表を作ろうと思っても、何も出てこないケースもあるかもしれません。そういうときは、周りの友達に聞いてしまいましょう。恥ずかしいかもしれないけど、どうしよう、自分には何ができるんだろう、とずっとモヤモヤとループしているくらいだったら、聞いた方が早いです。

そうやって書き出していったら、あとは最終目標の姿を思い描いてから逆算していきます。最終的にそこに到達するために、「今年はこんな姿になろう」「今月はこうしよう」「今週はこういうふうに動こう」と、大目標、中目標、小目標を決める。

会社のプロジェクトを進める際によくある方法のひとつですね。なんだかお話を伺っていると、グラビアアイドルと話しているということをだんだん忘れそうになりますね……。

倉持 それで、目標を達成するために必要なスキルは何かを考えます。そのスキルとは、資格なのか、容姿を磨くことなのか、本を読むことなのか、など。どうしてもクリアできそうになかったら、ゲームの攻略本を読むかのごとく周りに相談したり、お手本となるプレイヤーの動画を見たりして解決していけばいいんです。

そういう地道な努力が続かずに辞めてしまう人も多いと思うのですが、倉持さんが諦めなかったその原動力は何だったのでしょう?

倉持 “見返してやるぞ精神”はかなりありましたね。対象は昔いじめてきたやつだったり、ひどい対応をしてきたプロデューサーだったり……。「いつか絶対にぎゃふんと言わせてやるリスト」はずっと作ってました(笑)。

また、それ以上に「私にはこれしかできない」というのも大きかったですね。今日は8時にここ、明日は16時にここ、と指示されるグラドルの仕事は昔からできていたのに、学校となるとなぜか通えなくて、小学校から高校までずっと引きこもりだったんです。

倉持由香

倉持 何十万円も払った自動車学校もすぐ辞めちゃって、みんなが当然のように持っている自動車免許すら取れないダメ人間で、大学も一浪・一留・中退とダメ三冠。怠けてるわけでもなくて、行かなきゃいけないのは分かっているのに、どうしても毎日同じ時間に同じ場所へ行くことができない。だから、“毎日どこかに通う”ということがない仕事をするしかありませんでした。もっと器用で、人として“当たり前”とされていることがちゃんとできる人間だったら、会社員になっていたかもしれません。

「一軒家を建てる」という新たな目標へ

下積み時代からの憧れだったタワーマンションに住み、ひとまずの目標は達成されたと思います。今後の新たな野望はありますか?

倉持 次は一軒家ですかね……。

新たな目標もやっぱりまた“家”なんですね(笑)。

倉持 1~2年に1回くらいのペースで、自分の給料からするとちょっと背伸びしている家賃の家に引っ越して、当時のマネージャーさんからドン引きされてました(笑)。今は都内の仕事が多いのでまだ先の話にはなりますが、最終的には地元である千葉に戻りたいと考えていまして。先日結婚を発表した*3こともあり、子どもができたら庭付きのマイホームを、と思っています。

ライフスタイルの変化に合わせて、仕事の仕方は変えていくのでしょうか?

倉持 少しずつ裏方寄りの仕事の分量を増やしていきたいと思っています。具体的には、夫がプロゲーマーということもあって、一緒にeスポーツチームを運営したり、メンバーを育てていったりして、eスポーツというジャンル自体を一過性のブームだけで終わらせないよう定着させたいというのが当面の目標です。

「#グラドル自画撮り部」でグラドル業界そのものを盛り上げたときと同じようにeスポーツのジャンルでも。

倉持 そうですね。今手掛けているeスポーツのチームは、ガチガチにうまい人が集まるチームというよりはタレント寄りのメンバーにしているので、バラエティー能力やゲームの面白さをPRできる表現力などを伸ばす、「ゲーマータレント養成所」のような役割を担えればと思っています。

私は仕事をすることそのものが好きなので、辞めるつもりはないのですが、やっぱりグラビアには年齢的なものもありますし、そもそも人妻のグラビアって、みんな見たいのかな?(笑) 需要があればいくらでも尻職人として活動するんですけど。

ファンの方々の反応を見て判断していくことになりそうですね。

倉持 「結婚したからグラビアもうやりません!」と宣言したくはないんですよ。グラビアの仕事はすごく好きですし、「グラビアは嫌々やっていて、結婚にかこつけてやめたのかな?」と思われてしまうのは嫌なので。読者アンケートなどで「どうしても人妻の尻を見たい!」とかがあったら、ここはやっぱり出していかないとって思います。

需要さえあれば一肌脱いでいく方向で。

倉持 そう、一尻。一尻脱いでいこうと思います(笑)

倉持由香さん

取材・執筆/朝井麻由美
撮影/小高雅也
編集/はてな編集部

お話を伺った方:倉持由香(くらもち ゆか)さん

倉持由香

グラビアアイドル。特技は、絵を描くこと、足でゲームをすること(スーパーマリオ8面までクリア)。グラビア好きなグラビアアイドルがTwitterで行う部活動「#グラドル自画撮り部」の発起人・部長。写真集に『台湾驚異的美尻集』(ワニブックス)、『ふなばしり』(学研)など、著書に『グラビアアイドルの仕事論』(星海社新書)。
Twitter:@yukakuramoti

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*1:RPG「ドラゴンクエスト」シリーズ1作目では、ゲームの主人公は終始一人で行動する。

*2:ドラゴンクエストシリーズに登場する回復の呪文。

*3:2019年11月5日に、ブログとTwitterでプロゲーマー・ふ〜どさんとの結婚を発表。