「所有者不明の橋」の犯人を追ったら…収拾がつかなくなった話

2017.05.16

「所有者不明の橋」の犯人を追ったら…収拾がつかなくなった話

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    こんにちは。散歩おじさんのヤスノリです。

     

    今日は、確固たる決意で、神奈川県川崎市高津区にある「噂の現場」に来ております。これ、何だかお分かりになりますでしょうか。 

     

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    簡単ですか、そうですよね。

    じゃあせーのでいきましょう、せーの! 「移動動物園!」「ルンバ実演ゾーン!」「ベイブレード世界大会会場!」

    全然揃いませんでした。間違えた皆さん、魂の没シュートです。

     

    www.asahi.com

    これは、多摩川沿いに流れる人工用水路・二ヶ領用水にかかる「所有者不明の橋」です。2017年3月14日の朝日新聞デジタルで取り上げられていたので、見た方も多いんじゃないでしょうか。

    記事によれば、橋が危険な状態になっているのですが、市で作ったものではないので修理できず、さらに所有者が不明ということで、困っているそうです。取材時は、歩行者のみ通行できるようになっていました。

    所有者不明の橋だって。わくわくするよね。そもそも橋を所有って何よ。あなた、人生において橋を所有したことあって?

     

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    確かに、穴が空いて鉄筋が見えてます。イナバ物置の社員が100人乗ったら落ちそう。イナバ物置の社員がここに来てイナバポーズ決めませんように!!

    ところで、この勝手橋が掛けられている二ヶ領用水というのは、神奈川県内では最古の用水路です。作られたのは江戸時代初期。

    昔は農業用水としてこのあたりの農村を潤していました。その後工業用水に転用され、今では、環境用水として市民の憩いの場になっています。

     

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    さて、一体誰がこんな勝手な橋を作ったのか?

    僕は決めたんです。この謎を解くまで帰りません。

    神奈川住みのお散歩おじさんにとって、二ヶ領用水は庭のようなものなのです。庭じゃないか。水路だもんな。じゃあなんだろ。おふろ? おふろのようなものです。 

     

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    捜査の友であるところのあんぱんもいっぱい買ってきました。

    がんばるぞ!!!

    さて、捜査といえば、まずは聞き込みですよね!!! 近くの人に聞いてみましょうか。

     

    f:id:tmmt1989:20170509020534p:plain「すいません、この橋いつからあるんですか?」

    f:id:tmmt1989:20170509020543p:plain「ん、あー、確かねえ、昭和50年くらいですよ」

    f:id:tmmt1989:20170509020534p:plain「意外と最近! じゃあ、出来た瞬間を知ってるんですね」

    f:id:tmmt1989:20170509020543p:plain「知ってますよー。見てたもん」

    f:id:tmmt1989:20170509020534p:plain「ヒャー。じゃあ誰が作ったかも知ってる……」

    f:id:tmmt1989:20170509020543p:plain「そりゃあ、だって見てたから」

    f:id:tmmt1989:20170509020534p:plain「宅地開発とかの業者の方ですか? 」

    f:id:tmmt1989:20170509020543p:plain「いや住人住人」

    f:id:tmmt1989:20170509020534p:plain「ちなみに、誰……」

    f:id:tmmt1989:20170509020543p:plain「こんな騒ぎになっちゃったらモゴモゴ、みんなで住んでるからモゴモゴモゴーン……」

     

    わー! ノンフィクションでよくある、地元住民は犯人知ってるパターン!
    いきなり解決したズコー!

     

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    終わりです。

     

     

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    残ったあんぱんです。

     

    ほかの私設橋も見てみよう

    さて、ここで終わりでも良いんですけど、実は、この近くには、住民が作った私設橋がほかにもいくつかあるんです。見たい? 見ましょう!

    ああ、その前にまず、公式な橋から見てみましょうか。

     

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    これは、市が作った二子塚橋。

     

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    こんな感じでね、竣工年が書いてあったり、間違いなく公式です。
    では、これはどうでしょう。

     

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    これ怪しいですよね。まず、鉄板置いただけっていうね。あと、橋の名前が無い。
    多分これは私設橋じゃないかな。欄干は鉄管でしょうか。

     

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    ガシっとしたやつで、ガシってなってるから大丈夫だと思います!

     

    次これ。

     

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    何かを転用して作った、DIY感あふれる橋です。

    欄干、フェンスに立てかけてあるだけじゃない? 大丈夫? って思ったのですが、

     

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    ご安心ください。フェンスに溶接してあります。

    次、これはどうでしょう。

     

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    もう書いてますからね。私設橋って。自己申告型の私設橋です。

     

    ところで、この橋は川沿いの工場の私設橋なんですけど、許可を取ったことをものすごくアピールしてます。そうなんです。私設橋を作っても即死刑で首を橋の下に晒されるってわけじゃないんですよ。その青龍刀をしまってください。区の河川課に許可を取れば、自分で橋を作ることができるんです。

    しかもここ「一般通行可」って書いてます。優しい〜。一休さんはこれ見たらどんなとんちで切り抜けるだろう。あっ切り抜ける必要ないわ。普通に通るわ。

     

    ところで、なぜこんなにマイ橋作るのが流行ってんの? 付近の住民向けに毎月ディアゴスティーニから橋パーツでも送られてくんの? って話なんですけど、あのねえ、公式橋が少なすぎるんですよ。

     

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    こことか、見て。長いこと橋無いですからね。

    向こう岸に5兆円落ちてたとして、取りにいくのめんどくさくて諦めるレベル。これは不便ですわ〜。お話を聞いた住民の方も、私設橋はなくなると困る、と仰っていました。

     

    残る疑問、そして真犯人は!?

    さて、いろいろな私設橋を見て参りましたが、例の問題の橋、改めて見ると、よく出来てるんですよ。

     

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    建築レベルが高いってのもそうなんですけど、あのですねえ、この立地がとても秀逸なんです。

    先に見てきた私設橋は、橋が少ない箇所に無理やり掛けた感じが否めないのですが、この橋は、両岸の道を自然にうまく繋いでいて、(今は車両通行止めですが)車が往来していたんですから。

    ちなみに直進すると府中街道へ出られます。こんな便利な道に、橋が掛かったのが昭和50年なんて、信じられる?

    お散歩おじさんの直感ですが、この道は、古い気がするんです。もっと前から橋があって、この道は人の往来があったんじゃないかなあ。

     

    ということで、冒頭の住民の話は一旦忘れて、古い地図で、この橋の起源を調べることにしました。さて、歴史を紐解く前に、ひとつだけ頭に入れておいていただきたいことがございまして…。

    実はですね、その昔、二ヶ領用水の場所は、ここじゃなかったんです。

     

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    これは、現・二ヶ領用水のちょっと南にあるのですが、見る人が見ればピンときますよね。お察しの通り、この道は”もと”川で、「旧二ヶ領用水」です。かなり蛇行して流れていたんですね。

    付近が住宅街になって農業用水が不要になったこと、川下の川崎方面で工業地帯が生まれたことなどの影響で、二ヶ領用水を工業用水に転用することになったんですって。そのとき、流れをまっすぐにつけかえたんですね。二ヶ領用水が今の場所になったのは、昭和16年だそうです。

    そして、今のまっすぐの二ヶ領用水は、もともとは、二ヶ領用水から引いた水を田んぼに流す細い用水路だったようです。

     

    さて、それを踏まえて本題です。橋と道は、いつからあったのか
    明治・大正の地図では、残念ながらその存在を確認できませんでした。でも、旧日本軍の陸地測量部が作成した昭和初期の地図を見ると……

     

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    (昭和3-11年 陸地測量部 1万分の1地形図)

     

    下のほうで蛇行している太い水色が旧・二ヶ領用水です。現・二ヶ領用水はまだチョロチョロした波線として描かれています。

    そして、見えますかね。チョロチョロ破線にかかる橋。赤線は小径で、府中街道に抜けられそうなところも今と同じ。やっぱり、この橋と道、昔からあったんですよ

    ですので、犯人は誰? と聞かれたら、うーん、昭和初期にチョロチョロ川に橋かけた人、なのかなあ。でも当時はおそらく私有地でしたし、まったくもって合法なんですけども……。

     

    ついでに橋のその後を追ったら……

    さて、調査ついでに、その後を追ってみました。

    先に申し上げておきますと、収拾つかなくなりました

    このあと、昭和16年に、このチョロチョロ波線のほうが二ヶ領用水の本流になります。
    昭和20年以降の航空写真はわりと鮮明なので、写真で橋のその後を追ってみましょう。

     

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    (米軍撮影の空中写真 昭和22年撮影 赤丸は筆者)

    んんー。ちょっと見づらいけど、橋は未だに健在のようです。

    そして、これ見てくださいよ。問題は38年ですよ。この頃は二ヶ領用水の整備が進んで川幅が広がっているのですが……

     

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    (国土地理院撮影の空中写真 昭和38年撮影 赤丸は筆者)

     

    増えてね?

    お〜い、便利そうですな〜。橋が複数ある安心感よ。改心前の刀狩り弁慶がひとつの橋で待ち構えても別の橋を渡って難を逃れることができます。橋はそれぞれ、あぜ道に掛かっているように見えます。 

     

    さて、冒頭の住民の証言が正しければ、このあと橋は一旦無くなります。ただ非常に残念なお知らせなのですが、昭和40年代の空中写真が見つからず、ここは確証がありません。

     

    なぜ橋が無くなったのか? ちょうど田んぼが住宅街に変わる時期と重なるのが気になります。あぜ道が不要になったので、田んぼの持ち主が壊したのかもしれませんね。

    そして、昭和50年ころ、今の橋が出来た、ということになりますが、昭和54年の写真、これ見て。

     

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    (国土地理院撮影の空中写真 昭和54年撮影)

    怖い怖い!

    橋がさらに増殖しているんですよ。5本? 6本? 橋のカンブリア紀です。世間的に橋をかけることがカジュアルになったんですかね。そんな文化ありましたっけ。月9で橋かけるドラマみたいのありましたっけ。

     

    しかし平成になると、問題の橋は突然1本に落ち着きます。

     

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    (国土地理院撮影の空中写真 平成21年撮影) 

    逆に怖いわ。その、消えたやつに何があったんだよ。急に増えたのも怖かったけども、急に減るのも怖い。あと残った一本が太くなってるのも怖い。キングスライム方式?

    そして、お気づきでしょうか。なんだかんだで昭和初期の姿に回帰しているんですね。周囲の風景が変わっても、多分この土地には、ここに橋をかけざるを得ない圧力みたいなのがあるんですよ。

    最初にチョロチョロ川に橋かけた人もさあ、自分の橋がこんな風に脈々と受け継がれて新聞に載るなんて想像してなかったよね、きっと。

    まさに、時代の架け橋。増えたり減ったり無くなったりしながらも時を超えて何度も蘇る、不死の私設橋なのでした。

     

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    それよりも、あんぱん旨いですよ。
    現場からは以上です。

     

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