やる気に溢れていたはずのローカルプレイヤーが疲弊してしまっている……最近、そんな話をよく耳にします。

 

例えば、地域が抱える課題の改善案を提案してもことごとく却下され、だんだんと気力が消え、言われたことだけをこなす都合のいい存在になってしまっていたり。

新しい物事を興して少し目立つと、どこからか湧き出した根も葉もない噂が駆け巡り、肩身が狭くなって活動を続けづらくなったり。

 

これらは、ローカルプレイヤーと現地住民との間に数々の「見えない溝」が存在するために起きてしまう問題だと思います。

では、この「見えない溝」とは具体的に何なのか? どのようにして埋めていくのか?

 

こんにちは。和歌山県湯浅町田村地区出身のかっしーと申します。

 

僕は高校卒業後に地元を飛び出し、都内のベンチャー企業で営業職を経験して、約10年ぶりに地元に帰ってきました。

その後は実家のみかん農園のサポートをしながら、株式会社CHARLL’Sという地元企業の手助けをする会社を立ち上げ、活動しています。

 

僕が生まれた田村地区では一次産業が活発です。しかし人口減少が著しく、若者の流出によって後継者不足に陥り、耕作放棄地が年々増加しています。

 

そこで僕は、総務省の補助金を活用し、遊休施設となっていた民宿を改装して、新しいコミュニティスペースを立ち上げるために動き出しました。

 

田村を持続可能な地域にしていくために。そして子どもたちが幼少時代から地域内の異世代の人と関わることで、自分の住む村を知り、誇りを持つキッカケを作れるような拠点を作ろうと考えたのです。

 

地域のコミュニティスペースとして改装予定の建物。元は海岸沿いの民宿だった

 

1階部分には、全世代間の交流が自然と生まれ、地域への愛着を育む機会を生むことができるカフェ・ワークスペースを。

2階部分は、後継者不足を解決する糸口をつくるため、一次産業の体験希望者や移住検討者が滞在できる施設を。

 

しかし物事はそう簡単には進まず、先述の「見えない溝」に陥りました。このコラムでは僕が陥った数々の溝のうち、特に大きかった3つの「見えない溝」をお伝えします。

 

今まさに頭を抱えていて、漠然とした不安に襲われて夜も眠れないローカルプレイヤーたちに、僕の経験が少しでも解決の糸口になれば嬉しいです。

 

「持ち回りシステム」が生む意識のズレ

田村全域。海を臨む、小さな山あいの集落

 

コミュニティスペース立ち上げの補助金を活用するためには、集落全体の合意が取れていることが大前提。そこで、もう1人のローカルプレイヤーを巻き込み、合意形成を取るための作戦を練りました。

 

小さな集落では、自分たちで勝手に事業を進めることはご法度。この村の役員に合意と許可を得ることが先決です。

 

そのため、まずは地域の各部門の長たちに集まってもらい、今回のプロジェクトと僕の展望を共有し、会議を重ねて意見を交換しながら合意形成を図っていくことにしました。

 

2018年11月下旬、最初の会議に集まってくれた地域の長は、町議会議員、区(村)長、副区長、農業組合長、漁業組合長、当該施設オーナーの6名。さまざまな意見や改善案をもらいながら、とても前向きな雰囲気で会議を終えることができました。

 

僕の地元は、12月に入ると特産物であるみかんの収穫シーズンに入ります。そこで次回の会議は、収穫が落ち着いた翌年1月に開催することに決まりました。

 

そして迎えた、2019年1月。

会議を実りあるものにするには、地域住民全員の意見が必要。そこで僕たちは、事前に丸4日間かけ、この件に関しての説明とアンケートを全戸配布・回収していました。

 

時期を同じくして、区長が交代していました。1年単位でほとんどの役員が持ち回り制で交代していく…小さな集落ではよくあること。僕たちは新区長の自宅へ挨拶と今回のプロジェクトの説明に向かいました。

 

しかし、僕たちの話を静かに聞いてくれていた新区長からの返事は驚きの内容でした。

 

「区としてはこの件には関わらない。だから、区長としては否定も肯定もしない。全ては君たちが勝手にやるものとして処理してほしい」

 

とても柔らかい口調で、はっきりと突き放されたのです。

 

1年サイクルの持ち回り制で役員が交代するということは「共通の正義感を持った人が役員になるとは限らない」ということ。

ゴリゴリと変革を推し進めていく人もいれば、平穏な地域を大切にする人もいます。

 

人それぞれ正義観の違いがあるのは当然のことで、どちらが良い悪いの問題ではありません。もし問題があるとしたら、持ち回りのシステム自体でしょう。

 

僕たちは「この村の未来を考えたプロジェクトだから、当然、新しい区長も真剣に考えてくれるだろう」と思っていました。しかし新区長のほうは「この地域の平穏をかき乱すような、面倒なことを起こさないでほしい」という考えでした。ここに大きな溝が生まれていたのです。

 

しかし、ここで引き下がるわけにはいきません。何度も新区長とコンタクトを取り、なんとか合意をもらえないかと説得を重ねました。しかし、新区長の考えは変わらず「否定も肯定もしない。君たちが勝手にやること」。

そしてついに、こんなことも言われてしまいました。

 

「十数年間もこの村を離れていた君のことを覚えている人は少ない。君が何をしようと動いても、住民は協力してくれないだろう」

 

何をやるか?ではなく、誰がやるか?

田村で1000年以上続く例大祭

 

ここに2つ目の溝がありました。

 

僕は地域外の高校へ進学し、県外の大学へ進学し、東京で就職し、13年ぶりに地元へ腰を下ろしています。

僕を知るのは幼馴染や年の近い人たちだけで、大人たちは僕がどんな人間かなんて知るわけがない。それでも、正義をふりかざせば誰もが当然のように応援してくれると思っていました。それが大きな間違いだったのです。

 

このような集落は、他の自治体よりも多くの部分が信頼関係で成り立っています。だから、何か新しいことを起こすとき、全てを決めるのは「誰が関わっているか」。

 

突然地元に帰ってきた素性の知れない僕は、自分が思う「正義」を理由に、この街の「変わらない」平穏をかき乱そうとしている、ただの不審者になってしまっていたのです。

 

「未知」が引き起こす理由のない反対

以前、各部門の長に集まってもらい、世代間の交流が生む効果の大きさについて説明した際、一人の男性がこう言いました。

 

「君の言っていることがよくわからない」

 

ひとつひとつ時間をかけて説明したつもりだったのに、この一言で頭は真っ白になりました。これ以上どうやって説明すれば伝わるのか、当時の僕にはわかりませんでした。

しかし、よくよく考えてみると当たり前のこと。

 

僕たちはみんなそれぞれ別の人生を歩み、それぞれの世界で生きています。僕の場合は、日本中を飛び回って各地域のまちづくりを目で見て、地域住民の交流が生む大きな効果を身をもって感じていました。

しかし、地元でずっと暮らしていた人たちにとって、「世代間の交流から生まれる可能性」は完全なる未知の世界だったのです。

 

僕が「高齢者と子どもたちの交流を生めば、子どもは村と住民のことを深く知り、結果的に地域に愛着を持つことに繋がる」と説明する。

すると「高齢者と子どもたちを交流させる必要性を感じない。そこからは何も生まれない」と、突き返される。

 

実際はもっと噛み砕いて説明しています。ですが、どこをどう噛み砕いても未知は未知。僕は村の人たちにとって、別の言語を喋る存在だったのかもしれません。

 

そうしたすれ違いは質問や意見を投げかける意欲を消失させ、無関心や警戒心を助長させ、理由のない反対を生みます。だからこそ、外から来たローカルプレイヤーと地元住民の溝が生まれてしまうのでしょう。

 

僕自身、こうした地元との意識のギャップを修復するのに、かなりの時間と労力がかかりました。では、もっといい方法はなかったのか?

 

「見えない溝」を見つけて埋めるために

さて、ここで僕が経験を通じて学んだ、見えない溝を埋めるための心得を紹介します。

 

①地域の特性を深くまで知り、関わる人たちの心情を察する

先述の通り、地域にはさまざまな役割を持つ人が存在しますが、その全てが能動的な姿勢であるとは限りません。

各々が持つ「責任感」にはいろんな形があり「地域を荒立たせない」というのもまた一つの責任感の形なのです。

 

何かと小うるさいあの人も、いつも怖い顔で気難しく思えるあの人も、ひとつの思いからそれぞれの正義が伸びているだけで、みんな自分の住む街を大切に思う人たちです。

 

役割をもつ人たちの心情を察し、それを踏まえて行動することで、溝の広がりを最小限に食い止めることができるのです。

 

②「影響力」を持つキーマンと、地域住民を「安心」させるキーマンを味方につける

これらのキーマンは地域の役に就いているとは限りません。年代も関係ありません。

 

地域住民に「この人が言うのなら間違いない」「この人が賛成しているのなら自分も賛成しておこう」と思わせられる、絶対的な存在がいる場合があります。

例えば、長年地域に根ざして活動をしていた年長者や、多くの奥様方に顔がきく「地域の母」的な存在の女性。大人たちに好かれている「みんなの弟」のような若手、など……。

 

これらのキーマンの存在は、誰も教えてくれません。自分自身が積極的に地域との関わりを持ち、生の空気感を掴み取って初めてわかります。

そのためには想像しているよりもう一段階深く、地域の方々と交流を持ち、懐に入り込んでおくことが大切です。

 

さらに、そうしたキーマンと繋がることなく、心強い仲間が十分に集まらないまま行動に移せば、少数で茨の道を歩むことになります。

 

③じっくり丁寧な説明で想いを伝える

身勝手な付け焼き刃の説明では、想いはほとんど伝わりません。相手に合わせた言語を用いて、丁寧に説明することを心掛ければ、ボタンの掛け違いを防ぐことができます。

 

どこかでひとつ認識がズレてしまうと、間違った解釈やありもしない噂がまたたく間に地域に広がりかねません。

それを防ぐためにも、ひとりひとりに合わせて、丁寧に想いを伝える必要があるのです。

 

変化することに慣れていない地域で新たな事業に取り組むときは、その地域の住民たちのライフスタイルを変えてしまうかもしれない。そのことを念頭に置く必要があります。

 

僕自身、これらのことに気付いてから、事態は好転してきています。まだまだ乗り越えなければいけない壁はありますが、少しずつ仲間が増え、10代から80代まで輪が広がりました。

 

どこまでも「無関係」を貫いていた区長も「一区民として応援している。何かあったら報告してほしい」と話してくれました。

 

表立った「賛成するよ!」の声はまだまだ少ないですが、小さな「応援してる!」という声がたくさん耳に入るようになりました。ひとり、またひとりと輪が繋がり広がり、やっと前途洋々な空気を感じています。

 

おわりに:地域が前進を始めた合図

ついに工事が始まった新拠点

 

今回僕が書いたのは、当然のようなことばかりかもしれません。しかし、目的を持って走り出したときについ見落としてしまいがちな話として、お伝えしたいと思いました。

各地のローカルプレイヤーで現状に苦しんでいる方がいたら、一旦立ち止まって、ゆっくりと周りを見渡してみてください。

 

地域のことがちゃんと見えているだろうか?

誰かを置き去りにしていないだろうか?

その地域のペースに合わせてじっくり進めていけば、理解者が増え、何かトラブルがあっても必ず誰かが手を差し伸べてくれるはず。

その瞬間こそ、地域が前進を始めた合図です。

 

僕も、皆さんの力になりたいと思う一人です。地域が違っても、自分の好きな街をもっと素敵にしたいと思う気持ちは同じです。

 

各地域で立ち上がっているローカルプレイヤーの方々と情報交換しながら支え合い、将来的には地域と地域をつなぐ役目を担えたらと考えています。お気軽にSNSなどを通じてご連絡いただけると嬉しいです。

 

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イラスト:藤田マサトシ