仕事のオンオフ切り替えに“朝の散歩”はおすすめ。ベテラン在宅ワーカーが実践する「無理のない散歩生活」

文・イラスト 杉浦さやか

在宅勤務(リモートワーク)が導入されたり、自宅で過ごす時間が長くなったりする中、運動不足を感じる方や、暮らしのオンとオフのメリハリがつきにくいと感じている方は多いのではないでしょうか。

そこへ手軽にできる健康維持の手段として、「散歩」を始めたり試したりした方もいるかと思います。ただ、何となく歩いているだけ、距離を気にするだけでは、次第に歩くことへの飽きが生まれ、続かずにだんだんおっくうに……という結果になるかもしれません。

散歩に関する著書を多く持つイラストレーターの杉浦さやかさんは、「自分ならではの散歩の楽しみ方」のバリエーションを増やした結果、体型の維持や時間の使い方などにいい効果があったとのこと。その工夫について、イラストを交えつづっていただきました。

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杉浦さんの散歩スタイル。持ち歩くものはハンカチ、水に少量のスポーツドリンクを混ぜたもの、財布、エコバッグ。日焼け防止のために帽子は必須

こんにちは、杉浦さやかです。大学4年生のときにフリーランスのイラストレーターとして仕事を始め、それから25年以上、在宅勤務の日々を過ごしてきました。

絵と文章で自分の好きなことを紹介する“イラストエッセイ”のスタイルで、年に1冊のペースで本を作っています。物心ついたときから絵を描くのが好きで基本的には超インドア派なのですが、両親がバイタリティあふれる人たちで、とにかく歩け走れの休日を過ごす家庭で育ちました。お出かけも散歩も長く身に染みついたもので、仕事の一番大きなテーマになっています。『お散歩ブック』(KADOKAWA)、『ニュー東京ホリデイ――旅するように街をあるこう』(祥伝社)など、お出かけや散歩にまつわる著書も多くあります。

リモートワークに切り替わり、生活が一変した方もいることでしょう。運動不足でときおり散歩をしてみるものの、ただ歩くだけでは続かない……というパターンが多いのでは。先日久しぶりに会ったパパ友も、「家にこもってまったく動いてないし、人に会ってないよ」とストレスたっぷりの顔で訴えていました。

こんな時期だからなのか、散歩が好きなはずの私も、半年前まではやる気の起きない日々に悶々としていました。そんな私が毎朝の習慣にした、日々の散歩の楽しみ方を紹介できればと思います

不調の日々、やる気が出なくて「本気散歩」を始めた

散歩の本を何冊も出していますが、しょっちゅう出かけているのかというと、全然そんなことはありません。コロナ禍の前から、2週間以上電車に乗らないことはザラ。家にこもるのはまったく苦ではありません。

私が日常的にしていたのは、ほんの近くのご近所散歩でした。コピーをする際にちょっと遠いコンビニまで。打ち合わせで駅前に出たついでの寄り道。家々の庭先の花を眺めたり、知らない路地に入り込んで古いおうちをちらりとのぞいたり。何気ない日常の散歩が、何よりの息抜きでした。

そんな「ちょっぴり散歩」が、「本気散歩」に変わったのは、ここ最近私を悩ませていた「やる気の出なさ」がきっかけです。

現在8歳になる娘が生まれて以来、夜9時に寝て朝4時前には起きるスーパー早寝早起き生活。仕事をする時間の捻出で必死だった頃に作った生活リズムでした。なのに、朝起きた瞬間になんとなく憂鬱で、まるで仕事のやる気が起きない。

ひとりきりで集中してバリバリ仕事をしていた早朝の時間を、スマートフォンを眺めてダラダラと過ごしてしまうことが続いていました。以前から、仕事へのやる気だけが自分を支えてきたのに。イライラや怒りが抑えられなくなる時もあって、どうやら更年期の症状のよう(当方、50歳目前!)。さらにこんなご時世であることも、気分の停滞に拍車をかけたのだと思います。


Gotoトラベル、Gotoイートを活用し時々外に出ていたものの、冬になり再び自宅にこもる日々が続き体調不良に。このままではいけない、と朝散歩を導入することに

これではいけない、と一念発起して「毎朝歩く」と決めたのが冬の終わりのことでした。コロナ禍以前もときどき娘を学校に送りがてら歩くようにはしていたけれど、仕事が立て込んできたのをきっかけに、すっかり運動不足になっていました。

「朝に散歩する」と決めたら、生活にメリハリがつくようになった

朝に歩くと決めたのは、娘を学校に送るタイミングと合うことと、散歩を“出勤”代わりにしたいから。今まで会社勤めしたことがない私でも、“出勤”的リフレッシュが欲しくなるくらいなので、「朝の決まった時間にとりあえず家を出る」のはかなりおすすめです。

ずっと家にいると気持ちの切り替えが難しく、気分が落ち込んだ時にどうにも打破しにくいもの。部屋着のままボサボサ頭で仕事に取り掛かる……なんてことになりがちです。一度服や髪型を整えて外の空気を吸ったら、大きなメリハリをつけることができます

最初は30分ほどからスタート。早歩きで商店街を終点まで行き、往路は裏道を通って遠回りして帰る。ついでに24時間営業のスーパーで、朝の品出し最中の野菜などを買っていくことも。すいている時間なので、買い物も実に快適です。

歩くのに慣れてきたら30分では物足りなくなって、少しずつ足を伸ばしていきました。最終的には、家から徒歩25分ほどの川まで歩き、川べりを15分ほど歩いて戻る1時間強のコースまでになりました。これで9,000歩ほど。

慣れてくるとマンネリになってくるので、スマホでradiko*1を聴きながら歩くようになりました。ラジオは大好きなのだけど、感覚だけでできる色塗りの時以外は仕事中に聴けないので、これはかなりのお楽しみ。朝のニュースをチェックしたり、お気に入りの番組をタイムフリーで聴いたり。

そして川まで来たら、イヤホンを外します。木々がうっそうと茂る緑地に入ると、木や草、土の香りに包まれる。鳥たちの声、風に揺れる枝の音、葉っぱや草を踏む感触。

「ああ、生き返るなぁ」

これがまぁ、かなりのリフレッシュになるのです。


杉浦さんなりの散歩の楽しみ方。川付近を歩き自然の匂いを楽しむことも

決して無理せず、散歩を日課として続けるコツ

とにかく「無理しない」のが散歩を続けるコツです。長く歩く散歩は体調のいい時に限ります。調子がのらない、疲れている、仕事が立て込んでいる、睡眠が足りない……そんな日は決して無理はせず、ショートコースに切り替える。今日は20分でいいや、と自分を甘やかすのも大切なことです。しばらく同じコースが続いたら、全然違う住宅街コースに変えるなど、自分を飽きさせないための工夫もしています

自分のお気に入りの目的地を探してみる

私の場合は川という大きな目的地が散歩の励みになっていますが、そういう場所がもし徒歩圏内にない場合は、公園や神社などがいい目的地になります。ひとり暮らしで気分が滅入っていた頃には、毎朝神社まで行って境内の空気を吸って帰ってくる散歩を続けていました。

公園や境内、緑のたくさんある場所は、マップで探せば小さくてもきっとあるはず。最初は近くを目標にして、だんだん距離を伸ばしていけば、長い距離を歩けるようになります。あせらずゆっくり、お気に入りのコースを増やしていきます。

決まった時間に散歩することでメリハリをつける

私は朝に決めていますが、時間の都合がつかない場合は、もちろん夕方や夜でもいいと思います。決まった時間帯にお散歩タイムを設けて、日課にしてしまう方が大事。土日はお休み、雨の日はショートカット、と自分を甘やかしながら。とにかく「この時間は散歩をする」と決めると、仕事とのメリハリがつけやすくなるはずです。

決まった時間に歩くのが難しい場合は、歯医者や美容院など普段は自転車で行くような場所に、あえて歩いて行ってみる散歩も楽しいですよ。「こんな素敵な家があったんだ」「感じのいい路地があるな」 なんて、自転車で通り過ぎていた時には気がつかなかった風景に目が止まって、新しい発見があるものです。

自分なりの「散歩の楽しみ」を見つけてみる

散歩を続けるポイントは、自分なりの楽しみを見つけること。私の場合は、花とおうちウォッチングです。

庭先に咲く季節の花を眺めて歩くのはとても楽しい。この間までバラが競うように咲き誇っていたけれど、ヤマボウシの白い花が咲き、アジサイが主役の季節に移り変わって。道端の小さな雑草にも目がいって、知らない花は写真に撮ってアプリで名前を調べます。花も木も草も、名前を知るととたんに親しみが湧いて、自然と視界に入ってくるようになるから不思議です。

色の違うトタンの壁がパッチワークみたいな家、味わい深い木造の古い家、超モダンな家、個性的な家を探して歩くのも大好きです。


無理せず散歩を続ける方法は人それぞれ。杉浦さんなりの散歩の楽しみ方は、花とおうちウォッチングをすること

散歩のモチベーションアップ方法はいろいろ!

私がよくやるのが、なじみのない場所へ外出する機会があった時、帰りにひと駅ふた駅歩いてみる散歩。今やスマホさえあれば迷わずに歩けるのだから、最高です。その昔はポケットサイズの区分地図を持ち歩いて散歩していたもんね。自分が住む東京にも、まだまだ自分の知らない風情の場所がたくさんあるなぁ、とワクワクします。

歩数を測るのもモチベーションアップになります。スマホのアプリでチェックして「平均して5,000歩は歩くようにしよう」と決めたりして。

私の場合は、”体重の増減”も大きな指針です。娘の卒園&入学で写真をたくさん撮った年に、自分のどっしりした姿に驚いて、必死に食事制限をしてせっかく6kgもダイエットしたのに、コロナ禍でじわじわ戻りつつありました。毎朝起きたらまず体重を測っていますが、散歩していると週末に暴飲暴食しても平日にすっと戻るし、体も締まってきたような気がします。

そして散歩を習慣にしてから一番うれしかったのが、朝の時間が足りなくなるためにスマホを見なくなったこと。スマホの目覚ましで起きたら、そのまま玄関の下駄箱の上に置きます。

早朝の時間は無理して仕事をせず、ラジオ英会話の講座で英語の勉強をして、YouTubeを見ながらヨガをするのが日課になりました。英会話はコロナ禍が終わったら、旅に行くときのために。ヨガはホルモンバランスを整えるために。どちらもとても楽しんで取り組めています。歩き始めてみたら、新しい物事に積極的に取り組む気持ちが芽生えるなんて、なんてうれしい副産物。

散歩から戻ったら、コーヒーを淹れて、さぁ仕事開始!

オンとオフの時間にメリハリがつく散歩生活、できる範囲で取り入れてみてはいかがでしょう? 電車に乗っての街歩きは難しいご時世でも、ご近所散歩は毎日できるもの。何かが少し変わるきっかけに、なるかもしれません。




著者:杉浦さやか

杉浦さやか

イラストレーター。日本大学芸術学部在学中からイラストの仕事を始め、人気を集める。独特のタッチのイラストはもちろん、ほのぼのとしたエッセイが読者の熱烈な支持を得ている。著書に『東京ホリデイ』『世界を食べよう!朝ごはん』『すくすくスケッチ』(祥伝社)、『おたのしみ歳時記』(ワニブックス)など。

Twitter:@saa_aya

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編集/はてな編集部

*1:ラジオを聴けるスマートフォンアプリ。