「周囲の同僚がみんな優秀に見える」「私の強みって、なんだろう」……。しっかり働いているはずなのに自分に自信をなくし、何をすべきか分からなくなってしまうことはないでしょうか。
そこで今回は「優秀な集団の中で自分にできること(=強み)」を見つけて伸ばした結果、自分なりの“居場所”や“役割”を見つけられた経験を持つおふたりに対談いただきました。
お話を伺ったのは、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)所属のアイドルグループ「Juice=Juice」の元メンバーで初代リーダーの宮崎由加さん。そして“ポップスピアニスト”としてYouTubeなどの動画配信を中心に活躍するハラミちゃんさんです。
もがきながら前に進み、揺るぎない居場所を得たおふたりは、どうやって「自分の長所」を見つけたのでしょうか。
※取材は新型コロナウイルス感染対策を講じた上で実施しました
宮崎由加さん(以下、宮崎) コロナ禍での自粛期間中にハラミちゃんのYouTubeを知ってからよく見ているんですが、ずっと「こんなすごい人いるんだ!」って思っていました。
耳コピしてから弾き始めるまであっと言う間で、才能がすごいなって。私も小さな頃にピアノを習っていたけれど、全然だったので(笑)。
宮崎由加……スマイレージやモーニング娘。などのオーディション落選を経て、2013年にJuice=Juiceの初期メンバーとしてデビュー。スキルが高い他のメンバーと比較されがちな環境の中で、初代リーダーとしてグループをまとめ、周囲やファンからの信頼を集めた。2019年6月をもってJuice=Juiceおよびハロプロを卒業し、現在はアパレルブランドのプロデューサーやラジオMCを中心に活動中。
Twitter:@yuka_miyazaki42 Instagram:@yuka_miyazaki.official
ハラミちゃんさん(以下、ハラミちゃん) わあ、うれしいです! 私は昔からハロプロが大好きで、Juice=Juiceもデビューのときから見ています……!
ハラミちゃん……4歳からピアノをはじめ音楽大学に進学するも、ピアニストの夢を諦めIT企業に就職。「ついついやり過ぎてしまう」性格から体調を崩し、休職していた期間にストリートピアノに出会う。YouTubeに投稿したRADWIMPS「前前前世」の演奏動画が2週間で30万回を超えたことをきっかけの一つに、ポップスピアニストとしての活動を決意。知らない曲でも“耳コピ”して即興で演奏できる。大のハロプロファン。
Twitter:@harami_piano YouTube:@ハラミちゃん〈harami_piano〉
宮崎 ありがとうございます!
ハラミちゃん 最初はエースの宮本佳林ちゃんに注目していたんですけど、ゆかにゃ(宮崎さんの愛称)さんがリーダーに抜擢されて、気になって……。
ゆかにゃさんはアイドルの中でも特に「アイドルらしいアイドル」というか……。ファンを心から大事にしているイメージがあります。裏では大変な努力をしているはずなのに、それを表には出さないようにしていて。すごく、人として尊敬できるアイドルです。
宮崎 わあ……涙出ちゃいそうです、今。本当に、ありがとうございます。
自分が人より「得意」なことで、誰かの「不得意」をカバーすればいい
宮崎 リーダーって「先頭に立ってグループを引っ張る人」というイメージが強かったので、私が任命されたことに、自分自身、戸惑いしかありませんでした。
Juice=Juiceは宮本佳林ちゃんや高木紗友希ちゃんなど、ハロプロ研修生(ハロプロでのデビューを目指してレッスンを積む組織)としてレッスンを受けていた子ばかりで、みんな歌もダンスもスキルが高い“精鋭”だったので余計に……。
ハラミちゃん やっぱり、プレッシャーも大きかったんですか?
宮崎 はい。最初はできないことが多過ぎて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。「自分のことで精一杯なのに、リーダーなんて私には無理だ」って。
抱いていたリーダー像と自分がかけ離れていたので、いろんな人に「どうしたらいいですか」と相談したんです。そしたら、みなさん「そのままでいいんじゃない?」って。そこで初めて「“私”のままでいいんだ!」と思えて、肩の荷がすっと下りたんです。
「私がリーダーだから」と、しっかり自分自身で意識するようになったら、周りのことも冷静に見えるようになりました。「役職が人を育てる」って、本当にそうだなと。
宮崎 Juice=Juiceは、1年4カ月をかけて全国で225公演を実施するというハードなライブツアーを実施したことがあって、それだけ長くメンバーと一緒にいると、それぞれの良いところも悪いところも、得意なことも不得意なことも、全部見えてくるんです。
そこで「人はそれぞれなんだから、不得意なことは得意なメンバーがカバーすればいい」ということを強く感じて。私の場合は「人の話をきちんと聞く」ことが、他のメンバーと比べてできているなと気付いたんです。みんな、マネージャーさんの話、全然聞いてないんですよ(笑)。
伝達事項をメンバーに共有したり、提出物をリマインドしたりと、マネージャーさんとメンバーの間をつなぐ役割を意識していました。あとは、楽屋を出るときの忘れ物チェック。
ハラミちゃん 地味だけど大事なやつですね(笑)。私がハロプロを好きな一番の理由は、メンバーがそれぞれ切磋琢磨しているところなんです。みんな仲が良いけれど、それ以上に、ひとりひとりが自分のキャラクター、パフォーマンスにしっかりと向き合っているんですよね。
宮崎 (頷く)
ハラミちゃん 私は仕事にモヤモヤ悩んだとき、ハロプロをはじめとするアイドルのみなさんを思い出すことにしてるんです。社会に出ると、色んな人と一緒に働くことになるじゃないですか。そういう意味では、社会人もアイドルグループも、変わらないと思うんです。いろんなメンバーがいる中で、自分の立ち位置を把握して、自分にしかない「強み」を見つけて、目標を叶えて、ステップアップしていく。
そういう姿に「この子、覚醒したな」とか「すごく良くなったし、なにかふっきれたのかな?」とか思いながら自分を重ねると、私も頑張ろう!って思えるんです。
長所を生かして見つけた、自分の居場所
ハラミちゃん 私は小さい頃からピアノだけが得意で「ピアノを弾ける子」というのがアイデンティティで。だからこそ「自分より技術に優れた人がたくさんいる」という理由でプロのピアニストになることを挫折しました。けれど、今の活動を始めてから必ずしも「技術が高ければ高いほど、求められる」ではないかもしれない、と思うようになりました。
もちろん「技術力」はピアニストにとって、必ず必要な要素です。ただ、それよりも一人ひとりにあるその人にしか出せない音やパフォーマンスにちゃんと自分で気付いて、自己表現できる人の演奏が求められるんじゃないかなと。
ハラミちゃん 休職時代に弾いた「前前前世」の動画がきっかけです。
私、会社員時代はぜんぜんピアノを弾いていなくて。あの動画のときも指がなまった状態だったので何度もミスタッチしていて、音大時代だったら絶対に投稿していなかったと思うんです。でも、ノリでUPしたら予想外にバズって。
コメントがいっぱい寄せられて、その中には「ハラミちゃんの音がすごく暖かくて、元気になりました」なんて感想もあって……。自分が想像していた反応とは180度違ったんです。
ハラミちゃん はい。自分が奏でる音を楽しんでくれる人に向けてパフォーマンスすることで、ピアノの魅力を大衆的に伝えたいと思えるようになりました。
私、身近なピアノのお姉ちゃんというか、みなさんの親戚のような存在になりたくて。姪っ子がテレビに出たら、うれしいじゃないですか? そういう気持ちで私を見てもらいたいんです。なので、綺麗めのドレスじゃなくて、あえてサロペットやキャスケットなどを着て演奏していたり。
宮崎 私もアイドルをやって実感したんですが、ファンのみなさんって“好き”がバラバラなんです。ダンスをバキバキに踊る子が好きな方がいれば、優雅に心で踊っているような子が好きな方もいて。私も、ダンスが危ういですけど、応援してくださる方がいますし。
ハラミちゃん いやいやいや! ゆかにゃさん、素敵ですから(首を高速で左右に振る)!
宮崎 ふふふ、ありがとうございます(笑)。私は決して完璧ではないけれど、私が頑張る姿を求めてくださる方に向けて、一公演一公演、心を込めて歌って踊っていました。
そうやってめげずに「頑張れることを頑張ろう」と活動する中で、自分が「何度も繰り返し、地道な作業をコツコツ続けること」が得意だと気付いたんです。その中の一つが「ブログの更新」でした。
毎日休まず、常にグループの情報を発信しようと決めて、ブログの最後には「インフォメーションコーナー」を作り、メディアへの出演情報やコンサートの情報など、活動告知は欠かさず入れていました。
<当時のブログ>
ameblo.jp
宮崎 そうですね。後輩メンバーがしっかりとブログで告知している姿を見ると、私がやり始めたことが、ちょっとでもいい方向に転がったのかな、無駄じゃなかったんだなと思えます。
挫折から学んだ「仕事」への向き合い方
宮崎 Juice=Juiceが結成されてすぐ「私って、こんなにできないんだ!」と実感したときです。メンバーみんな歌もダンスも上手で。加入前は運動も勉強も比較的なんでもできちゃうタイプだったので、結構衝撃で……。
宮崎 まず、できない自分を認めてあげることから始めました。何も出来ない自分だけで悩みを抱えるよりも、マネージャーさんにすぐ相談したり、メンバーに素直に聞いたり、もっと人を頼ることにしました。ハラミちゃんはどうでした?
ハラミちゃん やっぱり、新卒で入社したIT企業を休職して、おうちに引きこもっていた時期ですね。過去の挫折が全部「つながった」経験でした。
ハラミちゃん 私、音大受験のときにストレスで難聴になって、第一志望に受からなかったんです。で、音大に入ったけどピアニストになる夢は諦めて……。そうしてパソコンに触ったこともないのにIT企業に入社したら、周りは「自分でアプリを作りました!」とか「起業経験があります!」といった同期ばかりで……。
ハラミちゃん 多分、人事的には「ピアノを極めたなら、なにかやれるだろう」みたいなポテンシャル枠だったと思うんです(笑)。WordもExcelも何もできない状態だったので、周囲は「なんでこの子入ったんだ?」と思っていたはずなんですけど、本当にいい人たちばかりで……。マイナスのスタートなんだから頑張らなくちゃ! と必死になっていたら、頑張り過ぎて、休職しちゃって。
ピアノでもダメで、会社勤めもダメで。さあ、私は何をしようか? 何ができるんだろうか? と考え込んだ結果、心がポキッと折れてしまったんですよ。
宮崎 一生懸命だったからこそ、つらいですね……。
ハラミちゃん とても贅沢な悩みですが、まだ二十代で「どんな選択のカードでも選びやすい」環境の中で、自分が何を選択してどの方向に向かって走ればいいのか、社会から何を必要とされているかが分からなくなってしまいました。
でも同世代はみんな働き盛りでキラキラしていて、進路に悩んでいるように見える人もいなくて……。
ハラミちゃん はい。落ち込んでいた私を見かねて、仲良しだった会社の先輩が「気分転換に、都庁でピアノを弾こう」と連れ出してくれて(東京都庁では2019年から誰でも自由に演奏できる「都庁おもいでピアノ」を設置)。
久々に鍵盤を弾いた瞬間、すっっっごいアドレナリンが出たんです。こんなにも身体が熱くなるのか!と驚いて。日常にない、新たなよろこびを知りました。
宮崎 分かります、私がライブで歌って踊ってるときも、まさにそうでした!
ハラミちゃん それまで弾いてきた王道のピアノも、就職した会社も、楽しかったんです。でも、ポップスというみんなが楽しく聴きやすい曲を弾くということが、すごく好きになってしまって。
でも、せっかく就職したのに辞めてYouTuberになると言うと、やっぱり周囲からは「え! 大丈夫……?」という目で見られちゃって。他人の目線が気になって悩んでいたときに、都庁に連れて行ってくれた先輩が「人生、笑った回数が多い人が勝ちだと思う!」と背中を押してくれました。
それで一旦、世間体やお金の心配は置いておいて「好きなこと」に真正面から向き合って自分が笑っていられることを優先しよう、この「ハラミちゃん」という活動を続けてみよう、と思えたんです。……その先輩が今のマネージャーです。
宮崎 えええー! すごい!! 一緒に会社を辞めたんですか?
ハラミちゃん そうなんです。「ハラミちゃん」は、先輩とのユニットだと思っているくらい存在が大きいんです。“気にしい”の私と真逆で楽観的でマイペースなので、救われることが多いですね。
宮崎 性格的に、全方向に頑張るのが難しいんです。大好きだったハロプロでデビューできて、周囲はすごい人だらけの中で、「今」の私は勉強をするより真剣にJuice=Juiceをやりたい、という思いが強くなって。
なにより、大学は本気で学ぼうと思えば何歳からでも行ける。お金を出してくれた両親には申し訳ないという気持ちでいっぱいでしたが、父も母も「やりたいことをやった方がいいよ」と応援してくれて、退学を決断しました。
ハラミちゃん 私も不器用だから、いろんなことが同時並行だと頑張れないな……。
宮崎 全部頑張ると、訳が分かんなくなりますよね(笑)。
「できないこと」も諦めるのではなく、「どうやったらできそうか」を考える
宮崎 とにかく、練習しかないです。練習しても結局できないこともあるんですけど、それでも「自分は、絶対できる!」と暗示をかけていました。
あとは「周囲に頼る」こと。分からないことがあれば、積極的にメンバーに助けてもらいました。私はメンバーの中で一番年上だったので、最初は抵抗もあったんですが「できないことをできるようにするためには、自分のプライドなんて必要ないな」と割り切るようにしたんです。一度割り切ったら、素直に「分からない」と伝えられるようになりました。
ハラミちゃん すごい……! ピアノも、一小節を何日もかけて練習するくらい、1音1音のレベルの高さが求められる緻密な世界なんですよ。「こんな細かいところこまで誰も聴いていないんじゃないか……」と思っちゃうような音を極めることこそが、全体のレベルアップにつながるんです。
宮崎 大変な世界ですね……。
ハラミちゃん いえいえ、ハロプロのみなさんも大変かと……。
でも、練習って、実は「量」より「質」だと思うんです。同じように努力を重ねて、同じ量の練習をしても、本番で100%発揮できる人もいれば、50%しか発揮できない人もいる。
私は長年ピアノを弾く中で「人並みの量しか努力できない」と気付いたんです。だから「本番に向けた練習の量」ではなく「本番で自分の100%を引き出す練習方法」を考えて、できるだけ本番に近い環境で練習するようにしました。コンサート本番と同様に、家族に2時間ぴっちり演奏を聞いてもらって、お客さんとしてどう感じたかを全部書き出してもらったり。
自分も本番と同様に弾くと「後半はスタミナ不足で集中力が切れるな」といった、やらないと分からないことに気づけて、本番に向けてさらに対策できるんです。「練習は本番のように、本番は練習のように」がモットーですね。
ハラミちゃん 私にとって「アイドル」って一番尊敬している職業で、崇拝している存在で……。でもゆかにゃさんのお話を聞いて、物事の捉え方や考え方が似ている……というとおこがましいですが、すごく共感できました。今日の対談、財産になりました。
宮崎 わ〜! 私もハラミちゃんのお話を聞いて、すごく考えが近いな、と思いました。仕事をしていると正解がないことも多くていろんなことに悩みますが、こういうふうに「真面目に頑張ってる人がいる」というだけで、自分も頑張ろうと思えるなって、今日改めて感じました。ありがとうございました!
取材・文/小沢あや
写真/曽我美芽
編集/はてな編集部
宮崎由加さん出演情報
▼ TBS「ふるさとの未来」毎週水曜日 24:58〜25:28
▼ FM石川「宮崎由加のPinky Friday」 毎週金曜日 18:00〜18:30
▼ TBSラジオ「Music Palette♪」毎週土曜日 28:00〜30:00
ハラミちゃんさんリリース情報