コールセンターはきつい? それとも楽? プロのオペレーター・榎本まみが「働きやすさ」を解説


コールセンターの仕事に「きつそう」というイメージを持っていませんか。

「クレーム対応」の印象が強いですが、その業務内容は業種によって大きく異なります。育児や趣味などのライフスタイル、在宅勤務、短時間シフトなど希望に沿ったフレキシブルな働き方ができる職場も。

自身も長らくオペレーターとして勤め、これまで1,000人以上の後輩を育成し「督促OL」として広報活動も行う榎本まみさんに、その実態を教えていただきました。


はじめまして、榎本まみと申します。新卒で信販会社の督促を行うコールセンターに就職し、多種多様なコールセンターで働いてきました。

現在もSV(スーパーバイザー)として現場オペレーターの指導・育成・管理などを担いながら、コールセンターにまつわる漫画やコラムを書いています。

今回は、意外と柔軟に働けるコールセンターの仕事の実情や、私が考える「コールセンターに向いている人」についてご紹介します。子育てが落ち着き仕事復帰を考えている人や、転職を考えている人の参考になればうれしいです。

怒鳴られる仕事とは限らない

初めて出会う人に「コールセンターで働いています」と自己紹介をすると、ほぼほぼ苦笑いと共に、大変ですねぇという反応が返ってきます。目をキラキラさせて「すごいですねぇ! 憧れます!」というような反応をされたことは残念ながら一度もありません。

世間ではコールセンターの仕事といえば、クレームなどでストレスが多い、離職率が高いといったネガティブなイメージが強いようです。

ですが多くの仕事と同じように、ひとえにコールセンターと言っても世の中にはさまざまな職場・業務内容が存在します。お客さまの属性や取り扱う商材・商品によって、コールセンターの雰囲気は全く違ってきます。「えっ!? こんなコールセンターあるの!?」とびっくりしてしまうような、個性に富んだ職場もあるんです。

分かりやすいのは、対企業向け(BtoB)の専用コールセンター。たとえクレームの電話だったとしても、相手は「企業の人間」として問い合わせてくるので、冷静かつビジネスライクに話が進みます。ただし、こういった窓口を担当するオペレーターには、しっかりとしたビジネスマナーや専門知識の蓄積が求められます。

さらに、コールセンターと名前がついているけれど、待機しているオペレーターは1人だけで、一日に数本しか電話がかかってこないようなところもあります。

業種によっては24時間電話がつながる窓口の設置を義務づけられており、その場合、問い合わせの数が少なくても必ずオペレーターが待機しておく必要があります。私が知っているあるコールセンターは、待機時間に漫画が読み放題なんだそうです(小声)。

自分の特性に合った環境・業務内容のコールセンターであれば、ストレス無く働くことだって可能なのです。

柔軟な働き方ができるから、子育てと両立しやすい

コールセンターでは子育て中の人がたくさん働いています。

なぜなら、コールセンターはシフトの自由が利きやすく、残業も少ないので「育児と仕事のバランス」が取りやすいから。

そういった環境が昔から続いてきたからこそ、かつて妊娠、出産、育児を経験してきた女性オペレーターが多く「大変ね~私も経験があるから大丈夫よ!」と、子育てにまつわるあらゆることで融通が効きやすいんです。

他業種に比べて時給が高い傾向があるので、シングルマザーのオペレーターも多め。私も、コールセンターに20年近く勤め、一人でお子さんを育て上げた方を知っています。お母さんの背中を見て育ったお子さんが、成人してコールセンターに就職をしたケースもありました。

もし育児中で「コールセンターの仕事が気になっている」という方は、オペレーターが大人数で、ある程度のバッファがあるコールセンターがおすすめです。お子さんが熱を出して突発的に休まなければいけない場合も、比較的容易に休めます。

また先に書いたような「柔軟な働き方」ができるため、育児中だけでなく多種多様な人が在籍しており、その懐の深さがコールセンターの魅力でもあります。

とあるコールセンターのセンター長は、元アルバイトのオペレーターでミュージシャンを夢見て頑張っていましたが、年齢を重ね夢を諦める決心をし、そのままコールセンターに就職。正社員となり収入が安定したことで結婚も決意できたという人でした。

苦労や挫折を知っている人が多いからこそ、みな温かいのです。

在宅勤務、短時間シフト。どんどん変わる業界


上記のようにもともと「それぞれの生活リズムにあわせて働きやすい」という点が大きな魅力だったコールセンターの仕事ですが、近年はさらにそのメリットが増大しています。

変化の起点となったのは、コロナ禍による在宅ワークの爆発的な普及です。コールセンターで使用するシステムも一気にクラウド化され、自宅にパソコンがあれば電話が取れる時代になりました。

出勤という縛りがなくなったことでシフトがより柔軟に組みやすくなり、育児や介護、また自身の闘病などで長時間働けなくなってしまったオペレーター向けに、9~11時、15~17時など1日の中で複数の短時間勤務を組み合わせるシフトなども生まれました

コールセンターには電話が集中するピークタイムと、人が余剰してしまうアイドルタイムがあるため、1日の中で勤務時間を分散させてピークタイムのみシフトインしてもらえると、職場と働く人の双方にメリットがあります。

また配偶者が遠方に転勤になるなど、それまではコールセンターを辞めるしかなかった状況でも、引っ越し先にパソコンを持っていけば在宅勤務で続けられるようになりました。

南の島に移住して、サーフィンの合間に電話を取っているオペレーターもいます。ずらりと並んだブースでひっきりなしにかかってくる電話を受け付ける、そんなコールセンターの風景は、過去のものになりつつあるのです。

これだけ自由な働き方が許されているのは、コールセンターにとってオペレーターの存在は「宝」と言っても過言でないから

これまでコールセンターのメリットをたくさん話してきましたが、コールセンターは「離職率が高い」職場でもあります。新人オペレーターの離職率は、体感で30%~50%くらい。みなさんのイメージするような「クレームが多い職場」ももちろんありますし、それぞれが各々の事情を抱えているからこそ、退職を選ぶ方も多いのです。

しかし、電話を取ってくれるオペレーターがいなければコールセンターは成り立ちませんし、一人のオペレーターを育て上げるにはとても長い時間がかかる。できるだけ長く勤めてほしいし、業務知識があり、応対も良く、電話もたくさん取れるようなエースオペレーターなら、なんとしてでも職場に留めておきたい。

そんな気持ちから「在宅でも時短でもいい、だからうちのコールセンターを辞めないでくれ!」とばかりに、どんどん環境を整えていく職場が多いのです。

実は「人と話すのが苦手な人」の方が向いている?

ではどんな人がオペレーターに向いているかというと、まずは「意志が強く自分の世界を持っている人」

例えば「子どもを育てる」という目的がある、夢を叶える中での副業と割り切っている、推しのために資金を貯めたいといった人は、仕事が続くケースが多いです。

感受性が豊かだけどタフな人、推理力や観察力のある人。そして意外と、プライベートでは話すことやコミュニケーションを取ることに苦手意識を感じている人も向いています

しゃべりっぱなしなイメージのあるコールセンターですが、大事なのは「お客さまが何の目的で電話をかけているのか」を汲み取ること。コミュニケーションが得意でない人は「思っていることを人にうまく伝えられない、分かってもらえない」という経験があるからこそ、なかなか自分の要望を上手に伝えられないお客さまに対して寄り添うことができるのです。

もちろん全てのケースに当てはまるわけではありませんが、個人的には、上記のような人はコールセンターの仕事を長く続けられる傾向にあると感じます。

一度スキルを身につけると、転職もしやすい

コールセンターは大変そう、話すことが苦手な自分にできるだろうか?

働く前はそんな不安があると思いますし、もちろん大変なこともたくさんあります。

けれど、一度オペレーターのスキルを身に付ければ、どんなコールセンターに行っても活躍できるので転職先が見つかりやすく、意外と“潰し”が効くのがこの仕事のいいところ

私も離婚や病気でキャリアが断絶した経験がありますが、柔軟な働き方ができるコールセンターに救われました。

窮地に立った時こそ、仕事のスキルは自分を裏切りません。

話すことが苦手でも、短時間しか働けなくても、世の中にはたくさんのコールセンターがあります。求人情報をしっかりと見て、自分に合ったコールセンターを見極めれば、きっと楽しく働くことができます

必ずあなたに合ったコールセンターはあります。

こんなコールセンターの世界に、足を踏み入れてみませんか?

イラスト:榎本まみ
編集:はてな編集部

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著者:榎本まみ

榎本まみさんプロフィール画像

新卒で信販会社の督促コールセンターに配属。次々と辞めていく同僚を見て、コールセンターを世に知ってもらえるよう活動を始める。著書「督促OL修行日記」。コールセンター専門誌にて4コマを11年連載中。
X(Twitter):@n_mototkol