「カウンセリングを受ける」が日常になったら、「自分」との付き合い方が分かってきた|土門蘭

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手軽に受けられるオンラインカウンセリングで「当たり前にカウンセリングがある生活」を送るようになってから、自分との向き合い方が変わったという作家の土門蘭さんにインタビューしました。

悩みや不安を抱いていても「人に言うほどつらいわけじゃないし」「言葉にしづらいし」と、一人で抱え込んでしまう人は少なくないと思います。

土門さんは子どもの頃からぼんやりと「死にたい」という気持ちを抱きつづけ、悩まされてきたそう。しかし定期的にカウンセリングを受けるようになってから状況が好転し、3年ほどたった今では自分で自分の気持ちと向き合い、ケアできるようになってきたと話します。

カウンセリングは「抽象的な悩み」を話してもいい場所

土門さんは2020年の春ごろから、継続的にオンラインカウンセリングを受けているそうですね。きっかけは何だったのでしょう。

土門蘭さん(以下、土門) もともと私は子どもの頃から、漠然と「死にたい」と感じることが多かったんです。特別、日常生活に支障があるわけではないんですが、常にぼんやりとその気持ちを抱えていて、日によって強くなったり弱くなったりする。しかも、その波を予測することができないので、ひどいときにはただ時間が過ぎるのを待つしかありませんでした。

さらに、カウンセリングを受けた当時はフリーランスになったばかりだったのですが、そこにコロナ禍が重なって仕事がほとんどなくなってしまったこともあって、ちょっと参っていたんですよね。

そんなとき、知人のSNS投稿を通じて、あるオンラインカウンセリングサービスが無料体験キャンペーンを実施していると知って。一度使ってみようかなと思い、気軽な気持ちでサイトに登録したのがきっかけです。

それはつらいですね……。医療機関での受診は選択肢にはなかったのでしょうか。

土門 心療内科に足を運んだこともあったのですが、問診で事情を話すと「それはうつ病ですね。脳が疲れているんです」と言われ、脳を休ませる薬を処方されました。もちろん、原則的には処方された通り服薬すべきですし、過去にうつを経験したときには服薬で症状が改善したこともありました。

ただ「死にたい」という感情を消したいと同時に「なぜ、私はずっと死にたいと思っているのか?」という理由も知りたかった私は、その薬をどうしても飲めなかったんです。何より「書く」ことができなくなるのでは、という不安もありました。別の医師の友人に相談したら「納得していない薬は無理に飲まなくてもいいと思うよ」と言われ、家族にも相談して服薬は見送りました。そこで出会ったのが、オンラインカウンセリングでした。

心身に不調を感じたりモヤモヤを抱えていたりしても、「カウンセリングを受けるほどではないし……」と線を引いてしまう人は少なくないように思います。土門さんは、自分自身のことを誰かに話すという行為に抵抗を感じませんでしたか?

土門 抵抗が一切なかったわけではないですね。メンタルの不調って、もともとの自分の性格によるものなのか、一時的な体調不良によるものなのかがあいまいなところがあると思うんです。だから、本当に専門家にかかるほどなんだろうか、という多少の疑いはありました。

ただ、それまでに心理学関連の本を読んでみたり生活習慣を変えたりといろんな方法を試して、それでも調子がよくならなかったので、カウンセリングで何かが変化するのではないかという期待の方が大きかったですね。

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なるほど。実際に受けるとなると、カウンセラーとの相性を気にする方も多そうですが、土門さんはどんなポイントを意識してカウンセラーさんを選びましたか?

土門 私は性格的に「期待されていることを言わなきゃいけない」と身構えて一方的にサービス精神を発揮してしまうところがあったので、答えるのに時間がかかったとしても待っていてくれるようなやさしい雰囲気の方がいいなと。それから、同年代で同性の方の方が感覚が近い部分もあるかなとも思っていました。

私が利用しているサービスは、サイトに登録するとまず自分が相談したいことを項目別に選ぶことができて、思い当たる悩みにチェックを入れるとカウンセラーさんの候補やプロフィールが見られるという形だったんですね。

結果的に私がカウンセリングをお願いすることになったのは本田さん(仮名)という方なのですが、プロフィールに「漠然と慢性的な虚無感を抱えていらっしゃる方も、まずはお話をお聞かせください」というメッセージが書かれていて、抽象的な悩みを相談してもいいんだな、と思えたのが大きかったです。

友人でも知人でもない「他人」だからこそ何でも話せる

実際にカウンセリングを受けてみて、どう感じましたか。

土門 最初はイニシャルしか名乗らず、画面もオフで音声だけでカウンセリングを受けたので、相手からすればめちゃくちゃ警戒している感が出ていたと思います(笑)。匿名であれば、本当のことを全部言えるかもしれないと考えたんですよね。

それでも本田さんは困った様子を見せず、穏やかに話を聞いてくださって、45分間のカウンセリングの最後に「もしよければこれからもあなたのパートナーとしてお話を聞いていきたい。なぜ死にたいと思うのか、一緒に考えていきたいと思っています」と言ってくれたんです。それがとてもうれしくて。

友人や知人に相談するのとは、また違った感覚でしょうか。

土門 そうですね。これまで私は「死にたい」なんてことを相談したら、一緒にいる相手を傷つけてしまうんじゃないかと本当のことを言えなかったんです。親しい、ある意味でウェットな関係だからこそ、自分の話したことで相手に影響を与えてしまうのが怖かった。

でも、本田さんの「パートナー」という言葉からは、カウンセラーを一つの「道具」として使ってもいいよ、と許可してもらえたような空気を感じました。私と相手との間には境界線があるから、私が何を話してもこの人は怒らないし傷ついたりもしないだろうなと。

そういう乾いた関係性だからこそ、安心して自分本位になれるというか、何でも言いたいことを言える空間に居心地の良さを感じて、1週間に1度カウンセリングを受けるようになったんです。

『死ぬまで生きる日記』(生きのびるブックス )

2年間にわたるカウンセリングでの対話を記録した1冊

むしろ壁があるからこそ、本音を言えると。その後、本田さんとの関係は2年以上続く長いものになったそうですが、カウンセリングはどのような形で進んでいきましたか。

土門 基本的には日々の悩みや違和感を話し、その上で本田さんから投げかけられた質問に対して、私が答えを探していくという形で進みました。

例えば、印象的だったのは「『死にたい』という言葉を他の言葉に置き換えるとしたら?」という問いかけ。どうしても「死にたい」気持ちって一緒くたにされてしまうところがあると思うんです。ただ、実際にはおそらく一人ひとりに異なる「死にたい」気持ちがあるはずなので、私だけの「死にたい」気持ちを整理していこうと。

気持ちと向き合い、言語化して整理していくのはしんどくもありそうです。

土門 もちろん、問いに対して言葉がすぐに見つからないこともありました。ただ、本田さんは私が悩むのをじっくりと待ってくれて、言語化できなかったらいくらでも考えていい、という姿勢でいてくれたのが大きかったですね。

それに、そうして自分の内側に潜って見つけてきた言葉や感情が、たとえ砂だらけであろうがガラスの破片であろうが見せてもらって大丈夫ですよ、という寛容な態度を一貫してとり続けてくれたので、自分のペースで問いに向き合うことができました。

嫉妬や不安な感情も否定しなくていいと思えるようになった

途中、カウンセラーさんの交代もありつつ、変わらず現在もカウンセリングを続けているとのこと。カウンセリングをごく当たり前に生活に取り入れたことで感じている変化はありますか?

土門 今は2週間に1度の頻度でカウンセリングを受けているのですが、定期的にカウンセリングの時間があるという事実がいまや自分の大きな支えになっています。たとえ死にたさや不安を感じても、「今度カウンセラーさんに話してみよう」と思うことで気持ちがかなり落ち着くようになりました。

それと、自分の抱えている違和感や不安を相手に受け入れてもらえる、という作業を繰り返すことは、私にとって「その感情は否定しなくていいですよ」と言ってもらってるような感覚で。どんな自分の感情も受けいれていいんだと思えるようになり、自分との関係も他者との関係も徐々によくなってきたのを感じています。

「自分との関係がよくなってきた」というのはどういうことでしょう?

土門 以前だったら「みっともないから嫉妬なんかしちゃだめだ」「そんなことで悩むなんてダサい」と思っていたようなことでも、自分に対して「そうだよね、そういうふうに思うよね」と受け入れられるようになったというか。

自分の感情を受け入れてもらうことを繰り返す中で、カウンセラーさんがやってくれていたことを自分でもできるようになってきたのかなと思います。

自分の気持ちを、自分自身でケアできるようになったんですね。

土門 あとは、これまではひとりでいると仕事や家事のような「やるべきこと」をしていないと落ち着かなかったんです。たぶん、自分が自分と一緒にいることが不安だったんですよね。それは自分が自分を受け入れられていなかったからだと思います。

でも、最近はひとりの時間を楽しめるようにもなりました。この前出張で東京に行ったときには、ラフォーレ原宿にあるセーラームーンストアに行って、グッズを買ったりもして。

私、実はファンシーなものが大好きなんですが、以前の自分は「大人になった私がセーラームーンのグッズを部屋に置くのってどうなんやろ?」とかつい考えてしまっていたんですよね。「こういうのが今も私は好きなんだな、じゃあ買って帰ろ」と素直に思えるようになったのは大きな変化だと思います。

ご友人やご家族など、周囲の方から「変わったね」と言われる機会もありますか?

土門 すごく言われます。家族が一番早く変化を感じたようで、「前よりも明るくなったよね」と言ってもらえたのは私もうれしかったです。

久しぶりに会った友達からは「前まではこの人ギリギリのところで生きてるなって思ってたけど、雰囲気が柔らかくなった」とも言われました(笑)。

いままでは友達とお酒を飲んだりご飯を食べに行ったりしたあと、疲れて寝込んでしまったりお腹を壊したりすることが多くて。積極的にしゃべらなきゃとか、沈黙を埋めなきゃとかすごく気を張っていたんですが、カウンセリングを始めてからは、「これが自分だしな」と気が楽になりましたね。

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再び不安に襲われることがあっても、焦らなくて大丈夫

そういった変化をご自分で実感できるようになるまでは、どのくらいの時間がかかりましたか。

土門 2年半ほどでしょうか。よく心理学の本などに、自罰的な気質を持っている人は、「大切な友人に接するように自分にも接するようにしましょう」と書かれていたりしますが、頭で分かっていても実際にやるのは難しいですよね。その点、カウンセリングで人と話すことは思考だけでなく実際の行動を伴うので、そうした「対話」という行為を繰り返すことにより徐々に思考も変化していったのかなと思います。

それと、私は自分からお願いして、日々の生活で取り組むべき「宿題」をカウンセラーさんから出してもらっていたんです。例えば、他人の評価を気にせず、自分が楽しいと思える行為だけをまとめた「自己満足リスト」をつくってみたり。自分が食べたいと思ったものを用意する、自分が気持ちいいと思うことをしてみる、そんな些細なことでも実際にやってみることで、自分との関係性が変化していきました。

カウンセリングは自分の変化を教えてもらえる「定点観測」の場でもあるので、「自分がどう変化したのか」を実感しやすいように思います。

逆に、変化を焦る気持ちはありませんでしたか。

土門 ありました。カウンセリングを始めてから「死にたい」と思う日の間隔がすこしずつ伸びていったんですが、以前のようにひどい死にたさに襲われることもまだやっぱりあって。そういうとき「結局何も変われてないやん」とついつい自分を責めがちでした。

そんなとき、本田さんが「人は直線的にではなく、螺旋的に変化していくんですよ」と教えてくれたんです。ぐるぐると同じところを通っているように見えても徐々にその高さは変わっているのだから、安心していいですよ、と。その言葉に救われて、変化を焦る気持ちは徐々になくなっていったように思います。

改めていま、土門さんにとってカウンセリングはどういった時間や場になっていると感じますか?

土門 自分に集中する時間、でしょうか。他者のことを考えず、ただただ自分に目を向けることができる、ものすごく自分ファーストな時間だなという感じがします。

「書く」という行為が自分の中心にある自分ひとりの部屋でするものだとしたら、これまではその部屋と、人に会って交流するための大きなステージという、ふたつの対照的な空間しか自分の中に存在しなかったんです。

でもいまは、自分ひとりの部屋とステージとの間に楽屋のような場所があって、その楽屋では文章を書くでもなく仕事をするでもなく、のんびりと素のままでリラックスしてコーヒーを飲んだり、「今日はちょっと疲れたな」と言ったりできる……というようなイメージですね。

仕事に限らず、育児や家事、友達と会うにしても、楽屋のような場所がないとたぶんしんどいんですよね。だからカウンセリングはこれからも継続的に続けていきたいし、私の人生に必要なものなのかもしれないなと最近思うようになりました。

ただもちろん、いろいろなカウンセラーさんがいらっしゃるし、私はたまたま自分と相性のいいカウンセラーさんを見つけられたのかなとも感じるので、このカウンセリングこそが正解、とは思いませんが……。どんなカウンセリングも唯一無二だと思うので、漠然としたモヤモヤを言語化してみたいと感じている方がいたら、カウンセリングという選択をしてみるのもおもしろいかもしれませんよ、とはお伝えしたいですね。

取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部

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お話を伺った方:土門蘭(どもん・らん)さん

土門蘭さんのプロフィール写真

1985年広島県生まれ。小説・短歌などの文芸作品や、インタビュー記事の執筆を行う。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』(文鳥社)、インタビュー集『経営者の孤独。』(ポプラ社)、小説『戦争と五人の女』(文鳥社)、エッセイ集『死ぬまで生きる日記』(生きのびるブックス)がある。

X:@yorusube