「無理しない働き方」を選んだ自分への後ろめたさ、を受け入れられるまで

もっと働きたいという執着心を捨て、無理のない働き方を選ぶ自分に”納得”できるまで

かつては「もっと働きたい」と思っていたはずなのに、“無理のない働き方”を続けている。私、このままでいいのかな……?

今回寄稿いただいたコルさんは、そんなモヤモヤを長年抱えてきたそうです。ステップアップのために選んだ転職先で、思いがけずマイペースに働ける環境を手に入れたことから「楽な働き方」に流されてしまった、と振り返るコルさん。

出産・育児や体調不良などで時短勤務を選んでからも、頑張り過ぎない働き方を選んだ自分への後ろめたさは消えず、むしろ「育児や体調を言い訳にしてしまっているのでは」とさらに自分を責めてしまったそう。

たくさん考えた末、40歳を過ぎた今では「それでも、私にはこの働き方があっているはず」と思えるようになったと語るコルさんに、自分の働き方を受け入れられるまでの経緯を振り返っていただきました。


40代、2人の未就学児がいるコルと申します。2度の転職を経て、現在は都内にある社員10人ほどの小さな会社でマイペースに“ひとり事務”をしています。

会社の所定労働時間は8時間ですが、育児や体調面から6時間の時短勤務を選択しています。今では(まだ少しモヤモヤを感じつつも)「自分には無理のない働き方があっている」と思えるようになった私ですが、ここに至るまで「頑張らなかった自分」に対して、たくさんの後ろめたさを感じてきました

§ § §

働き始めた20代の頃は「しっかりとやりがいのある仕事をこなしたい」「もっと働きたい」という気持ちを抱いていた私。

今の会社も“次へのステップアップのため”に転職したつもりが、気づけばもう10年以上在籍しています。

それまでは長時間労働が常態化していた会社で働いていたので、そんなに忙しくなく、働きやすく、給料も悪くない「楽な環境」に身を置いたことでいつの間にか向上心が小さくなり、そのうち育児や体調不良で思うように働けなくなり……。

そうして芽生えたのは「あのときもっと頑張っていれば」という、ステップアップの気持ちがしぼんでしまった過去の自分への後悔でした。

「もっと働きたい!」という気持ちから地元を離れ、首都圏で転職

私は大学を卒業後、地元大阪の証券会社に就職。職種は「営業」で、飛び込み営業から始めました。

当時から性格的には事務の方が向いてると思っていたのですが、「これから厳しい社会を乗り越えていかなくちゃいけないんだから」と、“あえて”の選択でした。仕事に対するやる気に満ちていて「向いてなさそうな営業も経験して根性をつけるべし!」と考えたのです。

数年後、業務内容が変わったことであまり仕事にやりがいを感じにくくなったこと、漠然と「もっと働きたい!」という気持ちを抱いていたことから、転職を考え始めます。

一度は東京で働いてみたかったこともあり、思い切って東京の銀行をターゲットに転職活動を開始。最終的には東京ではなかったものの首都圏内の銀行で法人渉外(営業)として採用が決まりました。


後に先輩から「最初は大阪弁丸出しでどうしようかと思った(笑)」と笑い話をされるほど職場にも言葉にも慣れ、やりがいをもって働いていたのですが、30歳を前にして「この仕事ってずっと続けられるんだろうか」と考えるようになりました

朝早くから夜遅くまでの勤務が常態化していましたし、「結婚や出産を経て働く女性」のロールモデルもいない。

ちょうどこの頃、当時付き合っていた人と結婚を考えており、いつかは子どもが欲しい、でも仕事は辞めずに続けたいと思っていたことから「このままここで働き続けるのは難しい」と判断し、再び転職活動をすることに。

2度めの転職は「ステップアップ」のつもりだったけど……

そうして、女性が結婚・出産しても長く続けられそうな印象があり、自分の性格的にも向いていると感じていた事務職を改めて目指そうと簿記の資格を取得しました。ただ、私が希望した経理職は未経験の求人が少なく、大手の企業ともなるとさらに難しい状況。

そんな中、当時ベンチャー企業としてグンと業績を伸ばしており、人手不足のため経験問わず採用を拡大していた現在の会社を見つけました。希望していた大手ではないですがとりあえずここで少し働いて、「経験者」としてもっと大きい会社にステップアップしよう、と考えたのです。

そうして働き出した現在の会社は、これまでのハードワークが嘘だったかのようにとても働きやすい環境でした。しかも業績が絶好調だったおかげで年齢や職種から考えると給料も良い。

時間に余裕ができたため、次へのステップアップに向け税理士試験の勉強を始めることもできる。やっぱり結婚はまだいいや! と思うほど、仕事へのやる気に満ちあふれていました(そして当時付き合っていた人とは結局別れることに)。

しかし、しばらくたった頃会社の事務スタッフが私ひとりになり、その頃から徐々に働くことへの意欲が変化していきました。

どの仕事も周囲を気にすることなくマイペースでこなせる“ひとり事務員”を続けるうち、若い頃から抱いてきた「もっと働きたい」という気持ちが少しずつ小さくなっていったのです。

やる気に満ちあふれていた頃に受けた税理士試験は、結局不合格のまま。転職するにしても前職のような多忙かつ常に勉強が必要な仕事はもうしんどい。

余裕のある環境に身を置いたことで何もかもをそのうち、そのうちと先延ばし。頭の中では「いつか本気出す!」と考えながら“気楽な働き方”を続けていました。

出産や体調不良を経て「自分の働き方」に焦燥感を感じるように

もっと働きたいという執着心を捨て、無理のない働き方を選ぶ自分に”納得”できるまで

そのうち35歳で結婚し、37歳で第1子、40歳で第2子を出産しました。

第1子出産後に育休から復帰する際、私は「まだ子どもが小さいうちは」と当然のように時短勤務を選択。2人目も欲しかったので、第1子の時短が終了を迎える前に再び産休・育休に入り、第2子出産後も時短勤務で復職しました。

小さい子どもの世話には手が掛かるし、何より第2子出産後しばらくしてからめまいや頭痛、異常な疲労感など原因不明の体調不良に悩まされるようになったことで「働くことへの意欲」はますます小さくなっていました

どの医療機関にかかっても体調不良の原因は分からないまま少しずつ症状がやわらいでいき、次第に体調以外のことを考える余裕も出てきたとき、ようやく「働き方への焦燥感」を感じるようになったのです。

自分は当たり前のように「育児をするなら時短勤務」と考えていたけど、周囲は意外なほど多く「フルタイム」を選択していること。

転職当時にはグングン伸びていた会社は勢いを失い人も業績も業務量も激減し、若い頃はそこそこと思っていた給料も時短で大幅減。小規模な会社なので福利厚生も十分ではないこと。

それらに「あれ、私このままの働き方でいいんだっけ……?」とモヤモヤを感じても、20代の頃のように「じゃあ転職しよう!」とはいかない状況に、気楽な働き方を選んだ過去の自分を責めるようになりました。

隣の芝生の青さに「四十にして惑いまくり」

もっと働きたいという執着心を捨て、無理のない働き方を選ぶ自分に”納得”できるまで

今年5歳の長男

20代の頃は「もっと働きたい」と考えていたはずが、気づけばキャリアとは無縁の一介の事務員。

周りを見回すと、リアルにもネットにも「やりがいのある仕事に就いています!」「仕事も育児も頑張ってます!」と輝いて見える人たちの姿。

「四十にして惑わず」という孔子の言葉がありますが、私は「四十にして惑いまくり」でした。

40歳を過ぎると人生の後半が見えてくる。今のままだとこのまま何となく働いて一生を終えることになってしまうが、それでいいのだろうか


悩んだ私は、改めて「自分の働き方」と向き合い、自問自答してみることにしました。

【自問自答その1:今から働き方の方向転換ができるのか?】

思っているような仕事に就けるか以前に、以前と比べよくなったものの体調もまだ万全ではなく、残業もいとわず長時間働くスタイルは難しそう

忙しいときは夜中や早朝に仕事をすることもあるフルタイムの夫を見ていると、あの働き方は今の私にはできそうにないなと感じます。そもそももし夫婦ともそういった働き方になったとしたら生活を回していくのがかなり困難になってしまいます。

【自問自答その2:そもそもなぜ「もっと働いた方がいいのでは」と迷うのか】

根本的ではありますが「このままの働き方でいいのか」と焦る気持ちがどこからやってくるのかも考えてみました。

単純だけど意外と大きいのは「もっと働いたら、もっと給料がよくなる」から。

子どもが大きくなってきて、かけようと思えばいくらでもかけられる教育費の青天井さに「もう少しお金があればなあ……」と考えることが増えてきたのです。しかしこれはないものねだり。

内面的なことも掘り下げてみて浮かんだのは、

・若い頃目指していた働き方を実現できていないから
・自己研鑽を続けて努力している周囲の人がかっこよく見えるから

のふたつ。

改めて自分とちゃんと向き合ってみて、若い頃の気持ちにしがみついたり、努力して頑張っている人たちに憧れの気持ちを抱いたりするのは、「私もまだ何とかなるかも」と考えることで、“頑張らない働き方”を選んだ過去の自分から目を背けていたんだな、と気付きました。

もっと働きたいという執着心を捨て、無理のない働き方を選ぶ自分に”納得”できるまで

今年2歳の長女

何度も何周も考えて「今の働き方」を受け入れられるようになった

何度も自問自答を繰り返しているうちに、体調面でも気持ちの面でも「今から働くスタイルを変えるのは、私にとっては難しい」という方向性が見えてきました。

「努力すべきタイミングでしなかった過去の自分」を責めたり、後ろめたさを感じたりするのはつらかった……ですが、悔いても時は戻りません。「あの時、“楽”に流されなければ……」と何度も思ううちに、そう思っても今更何も変えられないんだから仕方ないと感じるようになってきました。

結局のところ、私にとっては「バリバリ働くこと」より「無理なく働くこと」の方が性に合っていたのだと思います。

幸い夫を含め、私がこのような働き方を選んでいることを批判する人は周囲にはいません。

となると本当に自分自身の気持ち次第。やっぱり……と気持ちがぶり返すこともないわけではないですが、囚われそうになった時は「あれだけ考えたんだから」と執着心を手放すようにしています

「過去に執着しても仕方ない、過去は変えられない」なんて言葉は、人から言われてもすぐに納得できないと思います。「そんなことは分かってる!でも……!」と返したくなりますよね。

私が「無理のない働き方を選ぶ自分」に納得できるようになったのは、何度も悩んで、自問自答して、何周も考えてたどり着いたからこそだと思います。

自分と向き合うというのは時間がかかるし、しんどいものですが、だからこそ深刻な悩みほど焦らずじっくりと考えてみる方がいいのかもしれません。

もっと働きたいという執着心を捨て、無理のない働き方を選ぶ自分に”納得”できるまで

迷ったらまた考えて、都度“納得”すればいい

もう仕事にやりがいを求めることはないのかと思うと老後のような気になることもあるのですが、そんなとき思い出すのが近所のおばあさんの存在です。

いつも話しかけてくれる同じマンションのおばあさんは、コーラスとピアノとヨガを習いつつ老人会の役員をして、隣駅まで往復徒歩で買い物へ行き、孫の世話までして……とめちゃくちゃ元気なんです!

彼女を見ていると「仕事をしていないからといって気持ちや体が老け込むわけではない」と励まされます。

今は働き方も多種多様だし、仕事以外で自己実現や自分の好きなことに注力する人もたくさんいます。

そこまで積極的にならずとも、例えば新緑や庭の花の美しさに心惹かれるような日々だっていいと思うのです。

そして、今は現状で納得していても、これからまた迷うことはたくさんでてくるでしょう。その時はまたその時。その都度考えて納得いく人生を送っていければなと思います。

編集:はてな編集部

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著者:コル

コル

都内のWebコンテンツ運営会社に事務職として勤め、総務・経理などの事務全般を1人で担う。長男(5)、長女(2)を育てながら時短勤務中。

ブログ:大阪人の東京子育て

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