「在宅勤務になってから、なんとなく作業効率が落ちた気がする……」「オンオフの切り替えができなくて困っている……」
急速に普及していったテレワーク(在宅勤務・リモートワーク)。通勤時間がなくなり朝時間にゆとりが生まれたなどメリットも多くある一方で、万全な準備もなくスタートしたことから、家で仕事をするうえでの悩みを持つ人も少なくないのでは。
そこで今回は、長年在宅勤務を経験してきた3人の方に、改めて在宅勤務をする上で意識しておきたいことや、在宅でもしっかりと仕事に集中するために意識しておくといい点を中心にお聞きしました。
<<参加者プロフィール>>
※取材はリモートで実施しました
なんだか「集中できない」と思ったら。まずは「換気」を意識
壽 リモートワークを推奨しているIT企業で、広報として働いています。2016年からほぼ毎日在宅で仕事をしていて、月2~3日必要なときだけ出社するというスタイルです。在宅での働き方についてTwitterや記事で発信していて、昨年「リモートワーク大全」という著書を出版しました。
壽さんの著書『リモートワーク大全』(ポプラ社)では、リモートワークの基本はもちろん作業環境の整え方、ツールやアプリ、会議・打ち合わせの効率的なやり方、家族や子どもとの接し方まで、リモートワーク・テレワークをする上で知っておきたい105の情報が網羅されています
佐藤 地元である静岡県の伊豆でリモートワークをしています。大学在学中にフリーライターさんのアシスタントを始め、卒業してすぐ、フリーランスとしてWebメディアの制作進行やライティング、編集に携わるようになりました。学生時代も含めると、リモートワーク歴は5年半くらいですね。
芳崎 漫画家としてデビューしてから30年以上、ずっと在宅で仕事をしています。今まではアシスタントさんたちに仕事場まで来てもらって作業をお願いしていたのですが、最近はオンラインでやり取りすることが増えています。
壽 私の場合は、子どもが学校に行っている間しか集中して仕事ができないんですよね。だから娘を学校へ送り出すと「よし、やるぞ!」とスイッチが入ります。今までは通勤時間の間で無理やり「仕事モード」に切り替えていた人も、何かきっかけのようなものを作れるといいのかなと思います。家だといろいろできることがあるんじゃないかな。例えばアロマオイルを焚くとか、音楽をかけるとか……。
あとは簡単にでもいいので、身支度をする。それだけでも仕事モードに入りやすくなると思います。
佐藤 寝間着のままだと、どうしてもだらっとしちゃうの、分かります。ビデオ会議などがない日でも、着替えるだけでなんだか少ししゃきっとする感じがします。
ただ私はどちらかと言うと、オン・オフを意識しないタイプかなと思います。就業時間の縛りがないフリーランスということもあり、以前は自分の中で始業時間みたいなものを決めて取り組んでいたのですが、だんだんと「きちんとしなきゃ」という気持ちがプレッシャーになってきてしまったんですよね。最近は、その日の自分のコンディションに合わせ、「今、いけそう!」というタイミングで仕事を始め、疲れたなと思ったら休憩したり終わらせたりする感じです。とはいえ、取引先とのミーティングは午前中にあることが多いので、それが軸となってある程度リズムが整っています。
芳崎 やらなければならないことや、人と顔を合わさなきゃいけない用事を早めの時間帯に持ってきておいてリズムを作るのはいいですよね。自分に軽く鞭打つというか……(笑)。
芳崎 仕事柄、アシスタントさんに来てもらう日もあります。その場合は、8時くらいから作画作業に入って、11時と18時から1時間ずつ食事休憩を取って、21時前後に作業を終える……っていうスケジュールがパターン化しています。でもそれは、人に来てもらっているからで。一人で作業するときは、もうぐちゃぐちゃです(笑)。
壽 私も子どもが夏休みで、朝も寝かせておけばいいか……っていうときは、スタートが遅くなりがちです。普段は子供の都合やミーティングに合わせてルーティンを作ってはいるけど、完全に守れているわけじゃないんですよね。日中も煮詰まったときに、ちょっとお皿を洗ったり、洗濯物を干したりすることもあるし。
佐藤 分かります! 私も仕事していると、急に「あ~、お皿洗いたい!」って思うことがあります。 普段は家事、あんまり好きじゃないんですけど……(笑)。お皿洗いみたいにやることが決まっている家事って「無」になってやれるし、休憩として合間に挟みたくなるのかも。
芳崎 気分転換の手段とはちょっと違うかもしれませんが……私は「水分補給」と「換気」って、すごく大事だと思っています。
壽 完全に同意です! 水分補給って意外と見落としがちな気もしますし、加えて換気も、オフィスで働くことが多かった人はピンとこないかもしれません。多くのオフィスビルには自動換気システムが完備されているんですが、閉めきった自室に長時間こもっているとすぐに二酸化炭素濃度が高くなっちゃうんですよ。ガスファンヒーターなど、何かを燃やす暖房器具を使っていると、さらに高まりやすいんです。
佐藤 換気をしないと、なんだか眠くなってきますよね。頭がボーッとしてくると言うか……。私も最近換気の大事さに気づいて、朝起きたらまず換気するようにしています。日中も眠くなったら「これは眠いのではなく、二酸化炭素濃度の問題なのでは? 怪しいぞ」と思って、また窓を開けたり。あとは、ちょっとだけ散歩するのもいいですね。
芳崎 「朝起きたら換気する」っていう習慣をつけるといいかもしれません。水分補給に関しても、すぐにお湯が出るポットを準備したりして、周りの環境を整えることが大事かなと思います。以前すごく落ち込んでパニックになっていたときに、お茶を一杯飲んだだけですごく落ち着いた経験があるんです。人間の気持ちや体調って、ちょっとしたことで乱れもするし、整いもするものなんだと思います。
オフィスでも自宅でも「長時間集中」はそもそも無理
壽 私は集中できないなと思ったら、カフェやコワーキングスペースで仕事をすることが多いんですが……仕事の内容的に、自宅でないと仕事ができないという方もいらっしゃいますよね。
佐藤 これは向き不向きがあるかもしれませんが、私は「mocri(モクリ)」っていう作業通話アプリを使っています。同じように作業したい人と通話しながら作業ができるアプリなんですが、私は基本的にはお互い無言で、監視の目を作るような形で使っていますね。一緒に作業している人がいるっていうだけで、比較的スイッチがオンになりやすいんですよ。
佐藤 まさにそのタイプなので、こういう仕組みづくりを頑張っています。あとは「香り」も効果的だと思います。外に出かけるときに付けていた香水をつけたり、ファブリックミストをすっきりした香りのものに変えたりすると、集中できる気がします。
芳崎 あとは好きなBGMをかけられるのも、リモートワークならではかなと。私はFMラジオを流すと集中できたので、一時期ずっと聞いていました。集中するときに障害になるものは、温度だったり照明だったり人それぞれで、それを自分で理解して環境を整えられたら、すごく楽になるんじゃないかな。
芳崎 前提として、人間そんなに長時間集中できないと思うんです。45分仕事をしたら、15分休憩を取る……くらいのリズムでちょうどいい気がしますね。「ずっと集中しなきゃ」と思わないのが、在宅での作業効率を上げる一番のポイントなのかもしれません。
佐藤 私も作業するときは、25分作業して5分休憩とか、40分作業して10分休憩というサイクルで作業することがあります。
佐藤 あとはやっぱり、急にリモートワークが始まったこともあって、しっかりした作業環境を自宅に確保するのが難しく、作業効率が下がった、集中できなくなった、と感じる方も少なくないと思うんです。そんなときは自宅の中で、こまめに移動してみてもいいかもしれません。PCやスマホで仕事ができるという人は、ちょっとしたメールの返信をするときにはリビングで、ベッドの上で……と、メインの作業場所とは違うところで特定の業務をやってみるとか。そういった、気分を切り替えられる場所やシチュエーションの選択肢は持っておくといいかもです。
芳崎 寝っ転がって作業しても怒られませんですしね(笑)。
壽 リモートワークだからこそできる集中の仕方を見つけられるといいですね。家だと、自由にできることも多いので、例えば観葉植物をたくさん置いたり、推しのフィギュアに囲まれながら仕事をするのもいいかも。
仕事の内容によっては、リモートワークの方が集中できることも
佐藤 今までは顔合わせや契約、近況報告がてら雑談するために、2か月に1回程度東京へ行っていたのですが、それがなくなりました。取引先の方とは、Slackやチャットワークを使ってやり取りしています。あとは時々立ち会っていた取材も、ほとんどオンラインになりましたね。
芳崎 編集さんとのやり取りが、ほぼオンラインになったのが一番大きな変化でした。今までは直接お会いして打ち合わせをすることが多かったのですが、最近はメールや電話でやり取りすることが多いです。
壽 私はコロナ禍以前からリモートワークだったので、あまり大きな変化はありませんでした。ただ、取引先の方で初めてリモートワークをされるという方もいらっしゃったので、それが一番の変化だったかもしれません。
壽 私個人としては特になかったのですが、他社の方からお話は聞くことはありましたね。毎日顔を合わせていたメンバーといきなり会えなくなって、すれ違いが生まれたところも多かったようです。あとはリモートワークをする上でのルールが厳しい会社もあって……。「仕事は自宅でのみ、仕事をする部屋には家族も入ってはいけない」など。みんな自宅に仕事用の書斎を持っているわけじゃないのに、無理な相談ですよね。
佐藤 実際にお会いしたことがない方とテキストのみでやり取りする機会が増えましたね。ただ仕事柄、原稿をより良くするためのすり合わせや進捗確認もするのですが、意味の捉え違いがないようにと、私は普段話すときよりもはっきりとした文章にすることが多くて。文章でやりとりした後に、初めてビデオ通話をする機会があると、「思ってたよりふんわりした方なんですね」と言われたこともあります(笑)。
佐藤 特に編集の仕事をするときは、今まで一切関わりのないライターさんの記事を編集することもあるんです。こちらの指摘にライターさんが委縮してしまったり、「言うことを聞かなきゃ」と思われるのはよくないなと思って、相手によってはテレビ電話などで顔を合わせてのコミュニケーションもしていました。
壽 確かに関係性が出来上がっていない相手と、最初からリモートで仕事するとなると、すれ違うこともありますよね。相手の状況や希望に合わせて、「直接、顔を合わせた方がいいかどうか」を判断するのも大事だと思います。
佐藤 そうですよね。対面でのコミュニケーションが煩わしい方もいると思うので、最初の段階で「どっちがやりやすいですか?」とできるだけ聞くように心がけています。
芳崎 私もアシスタントさんに仕事をお願いするとき、仕事の内容でリモートワーク向きか、そうでないかが分かれるなと思います。どうしても一つの作品を数人で作り上げていくという仕事の特性上、細かい作業などは同じ場所にいて、対面でどんどんお願いする方がうまくいくように感じます。ですが、逆に時間をかけてやってもらいたい作業だと、リモートワークの方がじっくり取り組んでもらいやすい気がしますね。
構成/芦屋こみね
イラスト/ナカニシヒカル
編集/はてな編集部