新型コロナウイルスの影響で、多くの人が働き方を変えざるを得なかった2020年。特に、4月に発令された緊急事態宣言によって、さまざまな企業が在宅勤務(リモートワーク、テレワーク)を導入したり、時差通勤を推奨したりするようになりました。
働き方の急激な変化に伴い、離れた相手といかに円滑にコミュニケーションしていくか、リモートワークのための仕事環境をどう整えるか、出社が必要な場合はどうするかなど、一度にたくさんの課題に向き合いながら、新しい働き方を模索してきたという人は多いでしょう。
5月末の緊急事態宣言解除から約半年がたった今は、以前に比べリモートワークも浸透し、企業によってはさまざまな働き方の選択肢が用意されつつあります。そこで今回は、企業で働く3人の女性による座談会を実施。ここ半年間の働き方を取り巻く変化について伺いながら、これからの働き方について考えました。
【参加者プロフィール】
※取材はリモートで実施しました
オフィスで働くのが当たり前の状況から、完全なリモートワークに移行
長野さん(以下、長野) 今は週5フルでリモートワークをしています。
山口さん(以下、山口) 私も2月から完全なリモートワークになりました。コロナ流行後、出社したのは1~2回です。
木下さん(以下、木下) 私は1月に転職を決めて、4月から今の会社で働き始めました。転職後は数回出社しましたが、以降はほぼリモートワークです。
長野 制度としてはあったものの、利用できるのは何か事情がある場合で、全社的にも「オフィスに来られる人は来ようね」という雰囲気でした。私の場合は妊娠中に初めてリモートワークの制度を活用し、復帰後も子育てのために週1回程度利用していました。
木下 コロナ流行前は、会社に行く働き方が当たり前でしたよね。私の前職でもリモートワークは「介護や育児などの特別な事情がある方がイレギュラーで使う制度」という認識だったので、私自身は利用したことがありませんでした。
山口 うちの会社では、将来災害などで長期出社できなくなることを想定して、意識的に「リモートワークという働き方に慣れていこう」という取り組みがあったように思います。とはいえ、出社ベースの働き方をしている人が大半ではありました。私自身は消防設備点検の立ち会いや、荷物の受け取りがある時など、以前から必要に応じて月に数回程度リモートワークにしていました。
仕事部屋、メリハリのつけ方……自宅で仕事をしやすくする環境作り
山口 自宅で作業できる環境はありましたが、わが家は夫もフルリモートになったので、それぞれ別々の部屋で仕事できるように環境を整えました。Web会議があるときなど、お互いに気を使わなければいけないので。
長野 当初からいつまでこの状況が続くか分からなかったので、自宅での仕事環境をどこまで整えるべきなのか迷いました。結局、今もダイニングテーブルにパソコンを置いて作業しています。
木下 リモートワークを開始した時は都心で一人暮らしをしていたのですが、最初の数日は、ローテーブルで床に座っての作業でつらかったです。その後机と椅子を購入して、在宅で作業できるようにしました。
長野 そうですね。一人暮らしの同僚には「自宅にインターネットすら引いていない」という人もいました。
山口 知人の会社では「社内では大きなデスクトップパソコンを使っていたので、まずはシステム部がみんなのノートパソコンを買いに走った」などという話もあったと聞きました。
長野 私はいつでも働ける状態だと働き過ぎてしまうタイプだと気付いたので、それぞれのタスクに目標時間を決めて、メリハリをつけるようにしました。あと、お昼休憩中は必ず外に出るようにして、気分を切り替えています。
山口 フルリモートになってから、通勤時間が気持ちの切り替えに一役買っていたことに気がつきましたね。家では集中力が途切れると、コーヒーを入れて一息ついたりしています。あとは、夕飯を食べてからまた仕事に戻る、といったことはしないようにしました。
木下 私も集中できないときは割り切って、無理に残業などしないようにしました。あとは集中できる曲のプレイリストを見つけたり、気分転換に好きな飲み物を用意したり。
互いの顔が見えづらい、リモートワーク下の働き方で工夫したこと
木下 リモートワークの長期化が見えてきた5月上旬に、希望者へモニターの配布がありました。
山口 うちの会社では、まず環境設備のためという名目で特別手当金が全員に支給されました。また、半年に一度支給されていた定期代が廃止となり、代わりにリモート補助金が毎月支給されています。
木下 毎月の補助金、いいですね! うちは定期代は廃止されおらず、従来のままの運用です。まだ出社を必要とする部署の方もいるため、新しい制度を作るにしてもなかなかサポートを平均化しづらいのではと思っています。
長野 うちはモニターなどリモートワークのために購入したいものがある場合、申請が通ればその分のお金が支給されるというシステムでしたね。
あとは制度ではありませんが、子供の保育園が登園自粛になった時、働ける時間が短くなることへの理解があったのが助かりました。
山口 社内システムはクラウド上で動いているので、インターネット環境さえあれば自宅からでもつないで仕事することができ、スムーズでした。
長野 うちも日常的にSlackなどのチャットツールに慣れていたので、同僚とのやり取りが滞ったことはなかったですね。ただ、採用活動だったり、4月に新入社員が入ってきたりしてからは、全社的に「どうすれば一体感を出せるのか」と悩んでいた時期はありました。
山口 今年は新人研修などがリモート下になり、例年のようにいかずに難しい面がありましたね。うちの会社でも、新入社員にはOJT担当とメンターが各自ついて、なるべく細やかにケアしていました。例えば上司とは必ず週に一度は1on1で会うようにする、Slackに専用チャンネルを作って何でも相談しやすい環境にしておく、などです。私も普段から、なるべくささいなことでも自ら社内チャットで発信するようにしています。
長野 うちも新入社員のために、ずっとつなぎっぱなしにしているZoom部屋がありました。特に緊急事態宣言の時にはメンタルのケアを気にしていましたね。夜はそのZoom部屋で飲み会をしたり……。
木下 お二人の会社の新入社員の方がうらやましい! 私も今思えば、実家に帰る前は少し鬱(うつ)っぽくなっていたのかもと思います。もともと家族の仲がいいので、実家で過ごすようになってからは精神的な面でも支えられています。
木下 特に入社した当初は、上司や同僚に分からないことをたずねる時、口頭で聞けば30秒で済むものをSlackで「お忙しいところすみません」と質問していました。意思疎通は難しく感じましたね。
長野 リモートワークになってから、やはりオフラインでの偶発的コミュニケーションは仕事に生きる場面があったな、とあらためて感じました。ただリモートワーク下でも、意識的な交流を心がけてはいます。例えば私の場合は「会議中」「休憩中」など、自分のステータスがみんなに分かるようにオープンにしています。「会議行ってきます」「今日のお昼は何を食べます」などとやりとりすることで、一緒に働いているという雰囲気を共有できるので。
山口 会議の時間については、要件をまとめて話すだけなのでコンパクトになった気がします。ただ、短縮されて良い面もある一方で、前後の雑談がなくなったのはさみしいところです。
木下 クライアントとオンラインでワークショップをしたときに、ツールの使い方から説明をする必要があったり、ネット環境が不調でなかなか進まない、といったことはありましたね。
山口 私は職種柄クライアントと接する機会が多いんですが、特に初めのうちは、使いたいツールが相手の会社の都合上使えないなどいくつかのハードルがありました。ただ時間がたつにつれてどの業種の方にも、徐々にリモートワークの環境が浸透してきているなという実感はあります。
山口 そうですね。実は地方の企業の方が、リモート体制の導入がスムーズな印象でした。もともと往訪がないことに慣れているのでWeb会議にも抵抗なく、オンラインでのやり取りがしやすかった気がします。
アポイントも格段に取りやすくなりましたね。往訪にかける時間がない分、良くも悪くも、件数的には詰め込むことができるようになったと思います。
長野 タスクの種類によりますね。黙々とコードを書くとか、分析をするだけのデスクワークは自宅の方がはかどります。逆に他部署と調整が必要な業務などは、出社の方がスムーズです。
木下 集中したい内容の仕事は、私もリモートの方がいいなと思います。
長野 会議はやはり、細かい内容になってくればくるほどオンラインだと難しい。現場にいると、リアルタイムでホワイトボードに図を書いたり、全身を使って空間を共有しながら話せるじゃないですか。Zoomでもホワイトボードのような機能はありますが、なかなか伝わりづらい。うちの会社のあるチームでは、各自スケッチブックに書きながら説明したりして工夫しています。
出社とリモートワーク、それぞれの良さを柔軟に選択できる社会に
木下 通勤時間を別の時間に当てられるようになったり、体調が悪いときにも、自分のペースで仕事がしやすいのはよかったです。あと、これまでは都内の便利なエリアに住みたいと思っていましたが、出社がデフォルトでなくなると「都心部に住まなくてもいい」と思うようになり、居住地の選択肢が増えました。実家に帰るという判断ができたのも、そのおかげですね。
山口 実は個人的なことですが、最近妊娠していることが分かったんです。このような状況下なので、在宅で働けて安心でした。
長野 私の場合、リモートワークは子供の送迎時間の短縮になるので、本当にありがたいと思います。あとは休憩時間にサッと買い出しに行けるのも助かっています。あと、これまでは持ち帰ってきた仕事を夜遅くまですることもありましたが、今はその時間を自分のために使えるようになりました。スキルアップのために英会話を始めたり、開発言語の勉強をしたりしています。
長野 実は今回肌で感じているのが「フルリモートで働く私たちはまだまだ少数派」ということです。知人や友人の会社で、部分的にリモートということはあっても、フルリモートで働いているという話は今もあまり聞かなくて。
木下 私もそうです。友人の会社では「緊急事態宣言が解除された翌日から出社に戻った」という話も聞きました。
山口 出社せざるを得ない業種の方がたくさんいるのは理解しています。他にも家庭の背景や生活環境などのさまざまな事情により在宅で仕事しづらい方もいるので、リモートワークに対する温度感の違いは当然出てくるかなと思います。
長野 私は週2出社、週3リモートくらいがバランス的にいいなと思います。やはり出社すると発見があるし、仲間と同じ空間で働くことも大事。将来的には、子どもの成長に応じて出社できる時間を増やしていけたらなと思います。
木下 私も出社は週2くらいがベストかなと。リモートワークの良さも実感しましたが、日常に戻れば終業後に同僚と飲みに出かける楽しみなどもあると思います。そしてそういう状況になれば、また都心で生活をしたいと思うのかもしれません。
山口 今年は花粉症の時期に出社しなくてよかったし、梅雨も長かったので、リモートワーク中心の生活で助かった部分もたくさんありました。ワーケーション(※編集部注:リゾート地などでリモートワークをしながら休暇を取ること)を駆使している方の働き方にも刺激を受けましたね。季節や状況に応じて、その都度働きやすいところで働く、という選択肢があればいいなと。今回の経験を生かして、そういったことに柔軟に対応できる社会になっていけばいいなと思います。
※座談会参加者のプロフィールは、取材時点(2020年12月)のものです