私にとって銭湯は、自分のための時間を作り心身を満たす場所(文・はせおやさい)

 はせおやさい

※本記事は2020年3月初旬に企画し、原稿は緊急事態宣言が発出される前に書かれた内容です。日々刻々と変わる状況ではありますが、この事態が終息した際、銭湯という場所を訪れていただきたいという思いから、本文については執筆時の内容をそのまま掲載しております(編集部)



銭湯にハマって10年以上になるというブロガーのはせおやさいさんに、銭湯の魅力を紹介いただきました。

「お風呂に入る」以外にもさまざまなよさがあるという銭湯での時間の過ごし方。毎日慌ただしく過ごす中で、ほっとひといきつける時間を持つことで、心穏やかに過ごすひとときにもなっているのだそう。

今回は、はせさんの銭湯への想いほか、銭湯初心者が押さえておくといい「銭湯を利用するときの手順」と、都内で利用しやすい銭湯を紹介いただいています。

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(はせ おやさいさんによる追記)新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、銭湯も公衆浴場という位置づけから休業要請の対象になっていないとはいえ、自主休業を行う場所も出ています。

銭湯とその文化に愛着を持つ身として非常に心苦しく、悩ましい状況ではありますが、この状況が終息を見せたとき、読んでくださった方が「そういえば……」と思い出し、生活の楽しみのひとつとして銭湯を選んでくれたら、と思います。

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大きなお風呂に入る、ただそれだけの魅力

銭湯に通い始めて10年が過ぎた。家にお風呂はあるけれど、それでも銭湯に通ってしまうのには、いくつかの理由がある。

まず広い湯船。熱いお湯でたっぷりと満たされた湯船へ贅沢に体をひたす瞬間は、何ものにも代えがたい気持ちの良さがある。

そして天井の高さ。湯船につかって顔を上げると、高い天井の先に、湯気抜きのための小さい窓が見える。見上げたときの開放感は、自宅のお風呂ではなかなか味わえないものだ。

さらに掃除不要の手軽さ。自宅でお風呂に入ろうとすると、掃除やメンテナンス、準備の時間が必要だ。特に冬場は寒い脱衣所や冷たい浴室の床に体を縮こまらせなければいけないが、銭湯にはそれがない。暖房が効いた脱衣所で服を脱いだら、何も考えずにそのままシャワーを浴びられる気楽さ。

独身時代は毎週日曜日の夜には銭湯、と決めていた。これといった予定がない日は昼からスポーツジムに通い、汗をかいたジャージのまま銭湯に向かってお風呂に入る。お湯でのんびり体をほぐしたあとは持ってきた新しい服に着替えて、夕方の風に当たりながら家まで帰る。なにげないルーチンではあるけれど、平日は仕事や他人に振り回されている自分が、自分のために時間を使い、好きなように過ごせるという意味でとても豊かな時間だった。体をメンテナンスできているという実感は、精神の安定にもつながっていたのではないだろうか、とも思う。

さて、思いつくまま書いてみただけでもこれだけの魅力がある銭湯だけれど、ただ「お風呂に入る」以外の良さもたくさんあるのをご存じだろうか。

自分の体や体調とじっくり向き合える時間

銭湯の魅力の一つは、さまざまな種類のお湯と、水風呂やジェットバスなどの設備だ。たっぷりの熱いお湯で体を温め、水風呂で体を引き締める「交互温浴」は、自律神経のバランスを整える効果が期待されている。水風呂が苦手な人はたっぷりのお湯につかるだけでも、しっかり体を温めることができるだろう。

さらに、そういった銭湯本来の効果以外にも魅力なのは「スマホが持ち込めない」という点ではないかと思う。

スマホを持っているとつい情報収集をしてしまったり、なんとなくSNSを眺めて精神がざわついたりしてしまう経験は誰にでもあるように思うのだけど、銭湯では強制的にそれができない。脱衣所では脱いだ服と一緒にスマホをロッカーへしまい、鍵をかけてしまう。体一つで浴室に入ると、そこはただ「体をリラックスさせる」ための場として機能してくるのだ。

個人的にはこれがとても大きな魅力の一つで、同時に最初は戸惑ったことの一つでもあった。お風呂に入ると、気持ちがいい! この気持をシェアしたい! という感情が湧いたりする。他にもぼーっとあれこれ考えていると、あれ? これって何だっけ? ググりたい! という衝動に気付いたり。手元にスマホがないと、自分が思っている以上にスマホに依存していたことに気付く。

それが全て悪いわけでもないけれど、疲れる原因にもなって体には良くなさそうだし、何か思いついたときすぐインターネットに接続するのではなく、じっと自分の中で思考を巡らせたりする時間もあったっていいじゃないか、と思う。

短くても20〜30分、デジタルから切り離され、ただ体を洗い、湯船につかるというアナログな作業をしていると、過剰に摂取していた情報から切り離されて、ただシンプルに自分の体や体調と向き合える気がしている。最近太ったな、とか、肩こりがなかなか治らないなといったような、小さい体のサインを見逃しにくくなるのだ。

「個」から「地域」への接続点

そんなふうに銭湯を楽しんでいたので、引っ越しのたびになじみの銭湯を作るようにしていた。もちろん「こんにちは」と自己紹介をして仲良くなるわけではないけれど、毎週毎週通っていると、お互いにおのずと「あれ、この人……」という感じになってくる。特に番台(受付)さんは気付いてくれるのが早い。

「今日は冷え込みますね」「外はずいぶん風が強いみたいで」など軽い雑談を交わして、ああこの人はこんな声をしてこんな話し方をするのだなあ、と思うだけでも「知らない人」から「知ってる人」へスタンスが変わる。脱衣所でもなんとなく声をかけたりかけられたりして、話の流れから近所のおすすめの内科を教えてもらったことがあり、引っ越してきたばかりだった自分にはとてもありがたかった。

とはいえ、子供が生まれてから銭湯通いがなかなかできなくなって寂しいなと思っていたところ、ひょんなことからご縁がつながり、現在、高円寺の『小杉湯』という銭湯で月に1回『パパママ銭湯』というイベントをやらせてもらっている。

これは月に1回、毎月第3日曜日の営業時間内にボランティアスタッフが脱衣所に待機し、子連れのパパママの入浴をサポートしますよ、という企画なのだけれど、ありがたいことに遠方から来てくださる参加者も少なくない。

最初はお母さんと一緒に入らないと嫌だと泣いていた子供が、最後は一人で浴室探検をして地域の人に声をかけられたりしているのを見ると、とても心が温まる。場所に緊張して泣く子供を抱きかかえたお母さんに、地域のマダムが「赤ちゃんは泣くのが仕事だから、気にしなくていいのよ」と声をかけてくださったり、「うちの子も20年前はこうだったのよ〜」とお話ししてくださったり、子供を持つ親としても泣ける場面が多い。人は風呂上がり、なんとなく他人にも優しくなれるのかもしれないなと思う

そういうふうに、「地域のつながり」への入り口としても機能していると思うと、銭湯にはさまざまな側面があり、非常に興味深いなと思う。

覚えておきたい、銭湯の入り方の流れ

さて、ここまでわたしが感じた銭湯の魅力を書き連ねてきたけれど、いざ銭湯へ、と思ったときに、覚えておくと良い「手順」のようなものがある。

難しくはないのだけれど、「お風呂をみんなでシェアする」という場所ならではの、お互いへの気遣いのようなものだ。銭湯によってはローカルルールもあって面食らうこともあるけれど、そこは鷹揚(おうよう)に構えて受け入れていけると良いと思う。

◯湯船に入る前には「かけ湯」をするか、体を洗おう
湯船はみんなで使うものだから、汚れを落とした状態で入りたい。また熱いお湯にいきなり入る前に体をお湯に慣らしておく意味でも、髪や体を先に洗うのをおすすめしたい。

また、浴室に入ったら桶と椅子を持って空いているカランを探して着席するが、用が済んだら桶と椅子を片付けておくのも、後から来る人への気遣いとして覚えておきたい。

◯長い髪の毛はお湯につからないよう、まとめて入ろう
これも前述の通り、みんなの湯船だから、気持ちよく使いたい。髪の毛が長い人はだらりと垂らしてしまわないよう、結んで入るのが良いと思う。洗ってあって清潔な髪の毛でも、湯船に誰かの髪の毛が浮いているのは気持ちがいいものではないから、一緒に使う相手への気遣いとして。銭湯によっては、番台でヘアゴムを借りられたり買えたりもする。フェイスタオルで髪の毛をまとめておくのも良いと思う。

◯脱衣所に上がる前には体を拭き、水気を切ろう
濡れたタオルでも、よく絞れば体を拭くことができる。一番手軽なのは手ぬぐいを持ち込んで、体を洗うのも髪をまとめるのも、最後に体の水気を拭くのも手ぬぐい1枚で済ませてしまうことだ。フェイスタオルでも十分だと思う。脱衣所に上がる前、足の裏までしっかり拭いて、床を濡らさないように気をつけたい。床が濡れていると転んだりして危ないので、特にしっかりと。

生活に「ちょっとしたお楽しみ」を

毎日は忙しい。

日々の仕事や雑事であっという間に時間が過ぎるし、睡眠時間を確保するなら、のんびりお風呂につかるよりシャワーで手軽に済ませた方が圧倒的に早いのも分かる。普段の生活ならそれで十分かもしれないけれど、ただ生きるためだけに生活をしているわけでもない

日々にちょっとしたお楽しみを見つけたり、工夫を楽しんだり。忙しい生活の中で、自分のためだけに時間を使うことがあってもいい。そういう時間を持てること、持とうとすることが、「時間を豊かに使う」ということなのかもしれない、と最近は思う。

そういう「毎日を楽しく生きるコツ」のようなものが、「あと少しだけ生き延びるため」の勇気をくれるのではないかと思うのだ。

はせさんがおすすめする都内の銭湯3つ

■小杉湯(高円寺)

昭和8年創業。清潔さと、豪華すぎるほど行き届いたアメニティーが魅力。特に女性は化粧水から乳液まで準備があり、メイク台まであるので気軽に行けるのではないだろうか。JR高円寺駅から徒歩5分。2020年の春には『小杉湯となり』という複合施設も隣接してオープンしたので、お風呂上がりに寄るのも楽しい。

▶ 小杉湯のサイト

■清水湯(南青山)

こんなところにあったんだ…と思わず言ってしまう、表参道駅からほど近くにある「清水湯」。高濃度炭酸泉やシルク風呂など、お肌に優しいとされるお湯があるのもうれしい。また売店が充実しており、洗顔料や化粧水のパウチが販売されているので、荷物少なく足を運べるのが良い。風呂上がりのビールも楽しめる。

▶ 清水湯のサイト

■蒲田温泉(蒲田)

昔ながらのレトロな建物が魅力で、天然温泉に入れる銭湯。黒褐色のお湯が特徴で、肌はツルツル、体はポカポカに。シャンプーなどのアメニティー販売だけでなくオリジナルグッズの販売もあるので要チェック。

▶ 蒲田温泉のサイト

※施設の営業状況については、各公式サイトよりご確認ください

著者:はせおやさい

はせおやさい

会社員兼ブロガー。仕事はWeb業界のベンチャーをうろうろしています。一般女性が仕事/家庭/個人のバランスを取るべく試行錯誤している生き様をブログに綴っています。

ブログ:インターネットの備忘録

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編集/はてな編集部

写真協力/小杉湯