大きな転機が絶対あるわけじゃない。ただ、「飽きない」工夫で日々を楽しむことはできる

 GAMEBOYZ

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仕事やプライベートで大きな変化となるような「転機」はありますか?

「異業種への転職をした」「子どもの誕生は、働き方や生活リズムも見直す転機になった」など、人によって「転機」はそれぞれ。ただ一方、「同じような日々の繰り返し」「仕事もプライベートも、大きな変化はない」と自分の中で転機らしい転機がない、と感じる人も少なくないように思います。

はてなブロガーのGAMEBOYZさんも「平凡な日常を生きている」と感じている一人。就職活動を経て社会人になったこれまでの生き方を「淡々とした日常」と語ります。そんな中でも、日常を飽きないような工夫をすることで見つけた、自分なりの発見や、変化について寄稿いただきました。

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「雪が溶けたら、何になりますか?」

就職活動中、とある玩具の卸問屋の最終面接で、最後に社長からこう質問された。私は質問の意図を理解しないまま、

「雪が溶けたら、水になります。」

と答えた。ここで終わりにしておけば良かったものを、

「水は川となって海へ流れます。栄養塩を多く含む水は生物の命を育みます。」

と余計な説明まで付け加えた。一言で終わるのはNG。面接のマニュアル本にはそう書いてあった。

回答を聞き終えたところで社長はにっこり笑ってこう言った。

「雪が溶けたら、春になります。」

……へ?

一瞬空気が固まった。すかさず周りの幹部陣がドッ!と笑ってフォローした。私も慌てて愛想笑いで取り繕ったが、あまりうまくは笑えなかった。

数日後、届いた通知は不採用だった。

「好きを仕事に」と思っていたけれど

 
中学生の頃から、夢は「おもちゃ屋さんになる」ことだった。映画『トイ・ストーリー』にどハマりしたことをきっかけに、アメリカの子供部屋のようなポップでカラフルでごちゃごちゃした部屋に憧れ、トイ・ストーリーをはじめ、シンプソンズ、サウスパーク、スポンジボブといった海外キャラクターのおもちゃを集めることに没頭していった。

高校、大学へと進んでもおもちゃに対する熱は冷めやらず、就職活動もおもちゃ関連の企業に片っ端からエントリーした。当時の私は「できることは何か」よりも「好きなことを仕事にしたい」気持ちの方を優先していた。
 
就職活動は難航したが、特に病んだりはしなかった。なんだかんだ何とかなる、やっていけそうと楽観的に考えていた。自分に自信があったわけではない。むしろ「そう簡単に決まるわけがない」と、自分を低く見積もっていた。それは謙遜というよりも、ある種の自己防衛に近かった。自分に過度な期待しなければ、叶わなかったときのダメージが少なくて済む。

しかし、まさか最終面接の最後の質問で「とんち」が求められるとは……。この企業が求める人材は「ポエマー」もしくは「なぞなぞ王」なのか。面接で審査される側の人間なのに、社長からの質問内容に憤慨していた。

就活中にこうした変化球の質問を投げられるのは珍しいことではなかったが、とっさにうまい返しをすることができず、反省する度に「就活は弁の立つ人、自分を大きく見せることがうまい人がきっと有利なシステムだ…」と不条理には感じていた。

「好きなもの」と「できること」の間で揺れた就活

 
はじめて内定が出たのは、6月末。気がつくとリクルートスーツで外に出るには汗ばむほどに蒸し暑い季節になっていた。

おもちゃ関連の企業を手当たり次第受け続けた甲斐もあり、おもちゃの販売業を営む企業から内定を頂いた。長年の夢だったおもちゃ屋さん。

もうこれで就活を終わりにしようと、内定レポートを提出しに向かった就職支援センターで、たまたま手に取ったのが今の就職先のパンフレットだった。募集要項を見ると、

締切日……今日じゃん!

なんとなく縁のようなものを感じた私は、急いで申込用紙を書き上げて汗だくで郵便局へ駆け込んだ。

「大学で専攻していたことに直結する仕事」であったこともあり、選考は順調に進み、二つ目の内定は案外すんなり手中に収まった。「好きなもの」に囲まれて働けるおもちゃ屋さんと、「できること」を生かせそうな職場からの内定。どちらを取るか多少の迷いはあったけど、私はおもちゃとは全く関連のない後者の職場で働くことを選んだ。

あの日の面接で「雪が溶けたら水になる」と答えた私は、奇しくも海に関わる仕事に就いた。時間はかかったが、ようやくオチを回収できた。

もちろん最終的な決め手になったポイントはそこではない。二つを天秤にかけたとき、後から出た内定の方が決まるまでのプロセスに疾走感があった。このままの勢いで社会人編に突入してしまった方がいろんなことがスムーズに進むような気がした。
 

希望していた業界でなくても、仕事を楽しむことはできる

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仕事では船に乗って数週間、海の上で働くこともたまにある。業務についてあまり詳しく書くことはできないが、テレビもネットもつながらない閉鎖環境に身を置くのは社会から切り離された感じがして面白い。「自分が地上にいなくても世界は何事もなく回っていく」ということを実感するのは、寂しくもあるが、案外気持ちが楽になる。自分という存在は、自分が思っているほど大したことはない。

社会人4年目のときに参加した業務は、朝は4時から働き始め、夜は22時過ぎまで作業を続けるようなサイクルが続いていた。なかなか過酷な業務であったが、水平線から昇る朝日や沈む夕日、夜空に輝く無数の星々…、船上から見る自然が織りなす光景には、海で働く者にしか味わうことができない美しさがあった。

都会の喧騒を離れ、だだっ広い海の上で働く数週間。なかなかできる体験ではないと思う。希望して就いた仕事ではなかったけれど、これはこれで面白い。

そもそも自分は、飽き性な人間である。

好きなものに対してはとことんハマり、時間もお金も躊躇することなく注ぎ込んできた。かと思えば、突然ぱったり興味を失ってしまうこともある。

そんな私が珍しく続けられていることのひとつに、今の仕事がある。新卒で入って8年目。とりあえず3年働いて、合わなければ辞めればいいと思って飛び込んだ職場であったが、未だに飽きることなく働けている。

もし逆に希望していた業界に入っていたとして、思い描いていた理想とのギャップに苦しんでいたかもしれない。それに、今の仕事は2〜3年に一度のペースで異動があり、業務や人の配置が変わるので、適度に新鮮な気持ちを保つことができている。

淡々とした日常の中で「飽きない」工夫をする

就活中、自己分析をほとんどしてこなかった私であったが、淡々とした日常の中に楽しみを見つけることが実は得意なのかもしれない。あるいは、非日常的なイベントを組み込んで、あえて日常をぶち壊したりすることが好きなのかもしれない。
 
私生活では、29歳でボクシングのプロテストを受けて合格した。元々ボクシングジムに通っていてその流れで受けることを決めたのだが、この話をすると同僚や友人たちにはびっくりされ、「なんでプロボクサーを目指そうと思ったの?」と聞かれることが多い。そのときの経緯や心情についてブログを書いた。

すると記事を読んだ人から

「結局ボクシングを始めた動機については全く分からなかった」

というコメントがあった。その通りで、動機については触れていない。というよりも、自分でも正直よく分かっていない。ただ、ボクシングを始める前の私は、人生に飽きてきていたように思う。悩みもなければ刺激もなく、ぼんやりとした日々を過ごしていた。「プロテスト合格」という目標を設定することで、同じことの繰り返しだった毎日に何かしらの変化を生み出したかったのかもしれない。
 
プロテストに合格したからといって、それが私にとっての転機になったか、と聞かれると難しく、これまでの生活や価値観が激変したというようなことはない。相変わらず淡々とした日常を過ごしている。

ただ、飽き性な私が(仕事においては)飽きずに続けられているし、私生活では自分の手で変化をつくることだってできた。最近は、就職活動のときみたいに自分を必要以上に大きく見せようとすることも、卑下することもなくなったように思う。「他の人にどう見られるか」より「自分が自分のことを認めてあげられるか」の方が私にとっては大事であると、最近になってそう思えるようになったように感じる。
 
飽き性な性格はそう簡単に直りそうもない。引っ越し癖があるのはそのせいだし、安定感のあるアイドルよりもデビューしたての新人にすぐ目移りしてしまう。ボクシングだって、いつまで続けられるか分からない。

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飽き性な性格だからこそ、飽きることなく続けられている今の仕事は簡単に手放してはいけないと思っている。数年後にはまた考え方が変わっているかもしれないけれど、そのときはそのときで、そのときの私がなんとかするだろう。
 
これまで自分のために働いて、自分が好きなように時間もお金も使ってきた。けれども最近は「誰かのために働く」のはどういう感じなのだろう、守るべき家族ができると仕事に対するモチベーションも上がったりするのだろうか。そういうことについても、少しずつ意識するようにはなってきた。

今年で一人暮らしも10年目。どうしようもなく煮詰まってきたら何かしらの突破口を探しつつ、「飽きない」暮らしを続けていきたい。

著者:GAMEBOYZ

1989年生まれ。週5でボクシングジムに通い、月2のサウナで疲れを癒しています。
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編集/はてな編集部