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女の子にも男の子にも、好きに未来を育んでほしい―― 『HUGっと!プリキュア』内藤圭祐さん・坪田文さん

内藤さんと坪田さん

(写真左から)内藤圭祐さん、坪田文さん

2004年放送の『ふたりはプリキュア』以降、毎年新シリーズが制作されているアニメ「プリキュア」シリーズ。初代から一貫して「女の子の憧れ」を描き続けてきました。2018年放送の最新作『HUGっと!プリキュア』では、「子どもを守るお母さん」や「仕事」を主軸に据え、子どもだけでなく子育て世代や働く大人にまで広く共感を呼んでいます。

「子育て」というテーマ設定に至った経緯やそこに込められた思い、また、大人からの反響をいかに受け止めているのか、プロデューサーの内藤圭祐さん、シリーズ構成および脚本を手掛ける坪田文さんにお話を伺いました。

一番大事にしているのは、子どもたちへのメッセージ

HUGっと!プリキュア

©ABC-A・東映アニメーション

『HUGっと!プリキュア』は「子育て」や「仕事」がテーマ。初代プリキュアのスタートから15周年の節目の作品ということで、過去に「プリキュア」に熱中していた“大人の視聴者”も意識されていたのでしょうか?

内藤圭祐(以下、内藤) そうですね。15周年ということで、昔のシリーズを見ていた人たちに再びプリキュアにタッチしてもらいたい、思い出してもらいたいとは考えていました。ただ、一番大切なのは、ターゲットである「3歳から6歳の女の子たち」を夢中にさせること。ですから、テーマ設定に関しても、15周年ということにはあまり縛られずに決めています。ここ数年のシリーズでは「プリンセス(2015年の『Go!プリンセスプリキュア』)」「魔法(2016年の『魔法つかいプリキュア!』)」「パティシエ(2017年の『キラキラ☆プリキュアアラモード』)」など、さまざまなモチーフをテーマとして盛り込んできました。「お母さん」もそれらと同じく、子どもが憧れを抱く対象の一つだと考えると、プリキュアにマッチするのではないかと。

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「子育て」を描くにあたり、気を付けたことなどはありますか?

坪田文(以下、坪田) こちらから子どもたちにこれが「正解」だと提示するような表現は、絶対にしたくないと思いました。子どもを産み育てるのは幸せなことだけれど、“それだけが女性の幸せ”というわけではない。子育てがテーマではありますが、「いろんな形があっていい」ということを伝えたいと考えています。

内藤 そこは、ここ数年のプリキュアが大事にしてきた「多様性」にも通じる部分ですね。また、作中では中学2年生の主人公・はな(野乃はな)が「はぐたん」という未来から来た不思議な赤ちゃんを育てますが、「子どもが子どもを育てる」ことになります。そこをいかに無理なく描くかについては、神経を使いました。中学生が1人で育てていたらリアリティーがないし、そもそも、はなが学校に行っている間はどうするのかと。そこで坪田さんに用意していただいたのが、プリキュアをサポートする妖精の「ハリー(ハリハム・ハリー)」というキャラクターです。ハムスターの姿から人間体に変身すると「イケメンかつイクメンになる」という設定なんですが、彼をはじめ、はなの家族や他のプリキュアたちも含めて「みんなで育てていく」という形になっています。

HUGっと!プリキュア

ハリーやプリキュアたちみんなで、はぐたんを育てている
©ABC-A・東映アニメーション

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まさに、助け合う育児ですね。そんなプリキュアたちの姿は、現代の「ワンオペ育児」の問題に対するメッセージのようにも思えます。

内藤 私や座古明史監督にも幼い子どもがいて、最近の社会の風潮に対して個人的に思うところはあります。ワンオペ育児もそうですし、“騒音”を理由に保育園が作れないとか、ベビーカーと一緒にバスに乗ったお母さんがいたたまれない気持ちになるとか。そういった社会全体にまん延する不寛容さに対し、もう少し温かくなればいいなと。ただ、『HUGっと!プリキュア』に関しては、特別にそこを意識しているわけではありません。もちろん、見た人それぞれに何かを感じてもらえればいいとは思いますが、ことさらに「大人社会へのメッセージ」を込めているわけではないんです。

坪田 社会への問題提起という意識は全くなくて、私たちがこの作品で届けたいのは「あなたが生まれてきたことは素晴らしい」というメッセージなんですよね。それがまず根底にある。その上で、子どもたちに「こういう社会をみんなで作れたら、ハッピーかもね」っていう幸せな図を見せられたらいいなと思っています。

坪田さん

男女関係なく好きなものを好きと言える、自由な社会に

では、もう一つのテーマである「仕事」についてお伺いします。今回、プリキュアの両親をはじめ大人たちが働くシーンも数多く登場しますが、いずれの仕事もポジティブに、また「かっこよく」描かれている印象があります。プリキュアたちの母親は、タウン誌の記者や女優、クレーンの運転士だったりしますね。

坪田 そこは座古監督がとてもこだわっている部分ですね。座古さんって本当に優しくて、とにかく“肯定の人”なんですよ。だからなのか、いろんな人、いろんな仕事の良いところを見つけるのがすごくうまい。今回もさまざまな職業の案を出していく時に、「これはかっこいいね!」「これもすごいね!」って肯定してくれて。あと、これは職業に限らずかもしれませんが、佐藤順一監督が「社会にはさまざまな人がいる。それが当たり前」とおっしゃっていることもありますね。私たちが生きる世界はカラフルなんだなと。

HUGっと!プリキュア

作中では、プリキュアたちもさまざまなお仕事にチャレンジする
©ABC-A・東映アニメーション

それで男女問わず多様な職業が登場するんですね。前期エンディング主題歌『HUGっと!未来☆ドリーマー』の歌詞にも、さまざまな職業が出てきます。

内藤 1つの道に縛られる必要はないし、いろいろなことをやっていいんだと、子どもたちの視野が広がるきっかけになればいいなと考えています。エンディング曲の歌詞についても、そんなイメージで作詞家さんにお願いしました。

歌詞の中には「エンジニア」など、いまだに“男性の仕事”というイメージが根強い職種も出てきますね。

坪田 男女関係なく、エンジニアやクレーンの運転士など、「何を選んでもいいんだ」と感じてもらいたいですよね。社会には今も、女性にとって生きづらい部分が残っているんだと感じます。例えばプリキュアを見ていた女の子が、この先成長してエンジニアになりたいと思っても、誰かに「女性なのに理系なの?」などと言われて悩んでしまうかもしれない。そんなとき、「そういえば昔見たプリキュアで『エンジニア』って歌ってたじゃん!」と思い出して、自分を肯定してもらえたらうれしいです。それが、今回のプリキュアをやっている目的の一つでもありますね。

どんな選択も、どんな生き方も肯定する。作品の根底に、そんな「愛」があるように感じられます。

坪田 そうですね。みんなの魂というか命は自由なんだよ、好きに人生を、未来を育んでいいんだよって。そこは、当初から変わらずスタッフ全員が共有していると思います。

内藤さんと坪田さん

職業の多様性もさることながら、今回は特に、男女の性差に対する固定観念を打ち砕くような、さまざまな価値観、生き方にも踏み込んでいるようにお見受けします。例えば、19話では「男の子だってお姫様になれる」というセリフが登場し、インターネット上でも話題になりました。

坪田 プリキュアは1作目から「女の子だってヒーローになれる」を体現してきましたが、同じように男の子だってかわいいものが好きだったり、お姫様になりたいという願望があったりしてもいいはずです。でも、実際にはまだそこまでは言い出せない空気がある。私、5歳の男の子の友達がいるんですけど、彼はプリキュアを見てくれているのに人前では「見てない!」ってかたくなに言い張るんですよ。理由を聞くと「男が見るもんじゃないから恥ずかしい」と。気持ちは分かるんです。だけど、ちょっと寂しいなって。

好きなものを好きと言える、自由な社会になってほしい。そんな願いも込められているんでしょうか?

坪田 そうですね。先ほどのエンジニアの話と同じく、お姫様に憧れる男の子が「だって、プリキュアで言ってたもん!」って、自分を肯定してくれたらうれしいです。

人生で大事なことは全て「プリキュア」に詰まっているのかもしれません。

坪田 そう。だから全人類に「プリキュア」を見てほしいと思っています(笑)。

HUGっと!プリキュア

©ABC-A・東映アニメーション

大人からの反響はうれしいけれど、左右はされないように

今回のシリーズは特に大人からの反響が大きいように思いますが、どのように受け止めていらっしゃいますか?

内藤 確かに大人の視聴者の方からの反響は届いていますが、だからといって作風を変えることは一切ありません。基本はやはり子どもたちに向けて、何を感じてほしいか、そこだけです。ただ、大人が見ても楽しい要素が詰め込まれていますので、ぜひ家族全員で見てもらって、親子の会話が弾むきっかけになったらうれしいですね。

坪田 私も、大人が見てくれるのはすごくうれしいです。師匠的な人からも「女の子向けのアニメをやるにしても、全人類の視聴に耐え得るものを作りなさい」と言われ続けてきたので、そこは意識しています。ただ、内藤さんが言うように、3歳から6歳の女の子に一番に届いてほしいという軸がぶれてはいけない。ですから、インターネットの反響に左右されないようにしようと思っています。ネットでバズったからといって、それが世論の全てではないと思うので。

実際、『HUGっと!プリキュア』に言及したブログなども多く、SNSでも広く拡散されています。それでも、そこは冷静に受け止めていらっしゃるんですね。

坪田 そうですね。「プリキュア」の記事にはてなブックマークがたくさん付いたりするとうれしく感じます。でも、実際の視聴動向などを見るとそこまで大人の視聴数が伸びているわけではないんですよ。現在、伸びているのは子ども。ですから、今作は大人向けだとよく言われますが、私たちの軸はぶれていないのかなと思っています。

内藤さん

15周年の集大成である映画にも期待

最後に、10月27日(土)から全国公開される『映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』についてお聞きします。お2人が担当されているのはテレビシリーズですが、15年間の集大成でもある映画についてはどのような思いを抱いていらっしゃいますか?

内藤 今回は歴代のプリキュアが全員出る映画です。これまで歴史を紡いできた各監督、各プロデューサーが大切にしてきたキャラクターたちの中に『HUGっと!プリキュア』があるというのは、やはり感慨深いものがあります。当初は初々しかった『HUGっと!プリキュア』のキャストさんたちも、物語の進展やキャラクターの成長に合わせて結束力が高まり、いろいろなことを乗り越えて映画が完成しています。そして、15周年の並み居る先輩キャストたちの中心にいる。そんな姿を見ていると「みんな、よくがんばったね」って思いますね。

坪田 私も映画には直接タッチしていないんですけど、内藤さんが言うように脈々と受け継がれてきた作品の真ん中に自分が担当する『HUGっと!プリキュア』があって、がんばっているのはうれしいです。キャスト・スタッフ陣は大変そうですが、フレフレ、がんばれ~!って、応援しています。

内藤 シナリオなどは確認しているんですけど、一体どんな映像になるのか僕らも分からないので。いちプリキュアファンとして、楽しみですね。

内藤さんと坪田さん

プリキュア15周年記念映画、10月27日(土)公開

10月27日(土)公開の『映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』は、歴代55人のプリキュアたちが総出演する、シリーズ15周年記念作品。プリキュアたちの大切な「想い出」を奪う敵・ミデンが現れ、『HUGっと!プリキュア』と初代『ふたりはプリキュア』が力を合わせて戦います。

取材・執筆/榎並紀行(やじろべえ)
撮影/小野奈那子

お話を伺った方

内藤圭祐さん
東映アニメーション所属の『HUGっと!プリキュア』プロデューサー。2014年から放送された『ワールドトリガー』のアシスタントプロデューサーを経て、2016年に『魔法つかいプリキュア!』、2017年に『映画 キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』のプロデューサーを担当。
Twitter:@minerogenesis

坪田文さん
脚本家。2016年の『魔法つかいプリキュア!』、2017年の『キラキラ☆プリキュアアラモード』にも脚本で参加し、『HUGっと!プリキュア』ではシリーズ構成を担当。ドラマ『コウノドリ』や映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』など実写作品も手掛ける。
Twitter:@tsubofumi

次回の更新は、2018年10月26日(金)の予定です。

編集/はてな編集部