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出版社の記者からエンジニアへ転身――Zaim代表取締役・閑歳孝子さんの働き方

閑歳さん
今回『りっすん』がインタビューしたのは株式会社Zaimの代表取締役、閑歳孝子(かんさい・たかこ)さん。もともと出版社で記者として働いていた閑歳さんがエンジニアとしてのキャリアをスタートさせたのは29歳のとき。その後、個人で開発した家計簿アプリ「Zaim」がヒット。2012年、33歳のときにはZaimを法人化し経営者となったという、異色の経歴の持ち主です。エンジニアへの転身に至るまでのこと、家計簿アプリを作ろうと思ったきっかけ、Zaimの今後についてなど、詳しく伺いました。

出版社の記者から、29歳でエンジニアに転身

インターネットの業界に入る前は別の業界・職種で働いていたんですよね。

閑歳孝子さん(以下、閑歳) そうなんです。大学卒業後に出版社へ入社し、記者を約3年半していました。

違う業種へ転職することに迷いはありませんでしたか?

閑歳 正直、数ヶ月悩みました。勤めていた出版社は大きい企業でしたし、職場の環境もよかったので。仕事に不満があったわけではないから、どうしようかなと。本当にいい会社だったので、退職する人も少なかったんですよ。なので、私が転職すると聞いた同僚は、みんなびっくりしていましたね。

不満がないという中で、転職を決めたのはなぜでしょうか?

閑歳 当時、SNSの業界が盛り上がってきていて面白そうだなと漠然と思っていたんです。というのも、大学時代に課題の一環で、SNSに似たサービスを友人と作ったことがあって、そのときの楽しかった記憶がよみがえってきたんです。そんな時期、たまたま大学時代の同級生が作った会社から「大学のときに作っていたようなサービスを私の会社でも立ち上げてほしい」と声を掛けていただいて。それで、インターネット業界に転職をしました。

閑歳さん

「大学時代に作ったサービス」はどういうものだったのでしょうか?

閑歳 研究室の先生がNTTの研究所長をしていて、当時開発されたばかりの「iモード」が使える機種の携帯をたくさん持ってきたんです。「これで何かサービスを作ったらこの携帯をあげよう」と提案されて、「携帯ほしい、やろう!」となって(笑)。

それで、「キャンパス内で手軽に友達と連絡をとれたら便利だよね」という発想から、大学内でのみ使えるエリア限定のサービスを作りました。「特定の友達と連絡をとる」というよりかは、「つぶやき」みたいな形で、自分が今どういう気持ちや状況なのかというのを伝えるもので、今思うと、まさにTwitterみたいなサービスでした。大学内でみんなすごく使ってくれていましたし、「便利」と言ってもらえるのは嬉しかったですね。

このサービスを使っていた同級生が後に会社を立ち上げ、閑歳さんに声を掛けたんですね。

閑歳 そうです。ただ、当時の私はプログラミングに関する経験も知識もなかったので、いきなり何かを作るということはありませんでした。会社や企業を対象とした受託開発系の会社だったので、エンジニアと営業の間をつなぐような仕事をしていました。いわゆる、ディレクターのような役割です。

でも「プログラミングをやってみたい」という気持ちもあったので、仕様書を作るとか、簡単なデザイン変更とか、エンジニアの手を煩わせるプログラミングは私が行うようにしていたんです。徐々にその作業が面白くなってきて、趣味でサービスを作るようになりました。

趣味で作ったものの中で、印象に残っているサービスは?

閑歳 「携帯で撮った写真を特定のメールアドレスに送れば、結婚式で使うようなスライドショーが作れる」というサービスでした。嬉しいことに、多くの方に使用してもらえて、メディアでも取り上げていただいたりして。このサービスがきっかけで、29歳のとき、BtoB向けのツールを作るベンチャー企業にエンジニアとして転職しました。

そこで一から教えてもらって、エンジニアとして一通りのことができるようになりました。自社サービスの開発や、当時はTwitterやFacebookなどが盛り上がってきた時期だったので、それらに関連するサービスやbot*1を作ったりしていましたね。

閑歳さん

お話を聞いていると、プログラミングへの関心度がもともと高いように感じました。何かきっかけはあったのでしょうか?

閑歳 なぜだかわからないですけど、もともとそういう性質を持っていたみたいです(笑)。インターネットやPCも、ずっと好きで。小学生のころから、家のワープロを隅々まで使っていたり、「草の根BBS」というインターネットが普及する前の通信を使ってみたりしていました。

あとはゲームも好きでした。小学生時代にはスーパーファミコン用の衛星放送受信機アダプタのモニター募集に応募してみたりもしてましたね。「サテラビュー」といわれるものなんですが、当時、衛星放送を受信するというのはかなり珍しかったんですよ。とにかくゲームと通信に異常な興味を示す子どもでした。私は田舎育ちだったんですが、田舎にいながらいろんな情報が手元にやってくるという体験は、とても夢があってワクワクすることだったんです。

自分を追い込みながら個人でZaimをリリース

Zaimを企画・開発しようと思ったきっかけについて教えてください。

閑歳 仕事だけでなく趣味でもSNS関連のサービスを作っていたとき、私の中で「便利だけど、なくなっても困らないサービスだよな」という点がひっかかっていたんです。使っていて便利だったり、楽しかったりするかもしれないけど、真剣にそのサービスを使っているかというとそうではない。そこで、もっと人の生活に入り込めるようなサービスを作っていきたいなと思うようになりました。「なくなったら困る!」というサービスを作らないと、自分自身が成長していけないように感じたんです。

その思いからZaimが誕生したんですね。

閑歳 そうですね。「Zaimを作りきれなければ、社会人として終わる……!」と自分を追い込みながら、2011年の7月ごろにZaimをリリースをしました。このときは、仕事とは関係なく、趣味の一環として作っていました。

閑歳さん

Zaimを開発するとき、お金以外にもテーマの候補はあったのでしょうか?

閑歳 家計簿か、匿名サービスか、Q&Aサービスの3つで悩んでいました。匿名サービスでいうと今っぽい「2ちゃんねる」みたいなものはまだそんなにないよなとか。Q&Aサイトだと、「Yahoo!知恵袋」のようなサービスからそんなに進んでいないよなとか考えていました。その中で、どれが作りやすいかなと考えたときに、自分の身近にあったのが家計簿だったんです。家計簿は一人暮らしのころからつけていたので、使う人の気持ちがわかると思って、家計簿を選びました。

それと、Zaim開発当時は、スマホやアプリがちょうど一般の人にも普及しはじめたころ。ガラケーからスマホへとデバイスが変わることによって、今まであったサービスの概念も変わるだろうという考えもありました。

個人でZaimをリリースしたということですが、そこから起業したのはなぜでしょうか。

閑歳 Zaimを個人でリリースして1年経った段階でダウンロード数が数十万になっていて。個人情報を預かるので、ユーザーに安心して使ってもらうためにも法人の運営にしようということで、会社を立ち上げることにしました。当時のメンバーは私1人でしたが、仲間を集め、少しずつ大きくなっていき、今に至るといった形です。

経営者になってみて、働き方に変化はありましたか?

閑歳 会社員時代はずっと平社員で現場が好きなタイプでした。そこからいきなり経営者になったので、社員だったころの気持ちを生かして、「経営者はこうあるべき」というよりかは「自分が社員だったときに、経営側からされた嫌なことはしないようにしよう」ということに重きを置くようにしていましたね。

ただ経営側になって、「経営者も嫌われたくてやっているのではなくて、ちゃんとした理由があってそうせざるを得なかったんだな」という、社員のときはわからなかったこともわかるようになりました。

代表取締役となるとなかなか現場に出られないと思うのですが、エンジニアとして手を動かしたくなることはありますか?

閑歳 がっつり仕事でサービスを作り上げることはできないので、本質ではないところでちょくちょく作るようにしています。例えば、弊社のエントランスにある受付のシステムは私が作りました。タッチパネルを操作すると社内チャットに来訪者が来たと通知されるシステムになっていて、来訪者が迷わないようにシンプルな作りに仕上げました。社内のエンジニアにも「電話に出る手間が省ける」と、なかなか好評です(笑)。

あとは、社内専用のタイムカードや経費精算のシステムを作ったりしています。

会社受付画面

閑歳さんが開発した会社受付画面

Zaimで気持ちよくお金を使ってもらえるように

現在提供しているZaimのサービスで意識されていることは?

閑歳 サービス側からのメッセージは、極力ポジティブになるように気をつけています。「お金足りませんよ」とか「このままではまずいですよ」というようなメッセージはあまり出さない。ネガティブなメッセージは悲しいし、やる気をなくすじゃないですか。実際に、利用者の主婦の方にヒアリングをしたときに「毎日頑張っているのに家庭ではあまりほめられない」という意見があったんですよね。

なので、夜に使ったら「今日もいい日だったな」というポジティブな気分で1日を終えられるアプリになるように意識しています。毎日更新したらスタンプがもらえるんですが、それも「応援しています」とか、「よく頑張ったね」というスタンスのものを使っています。

たしかに、応援してもらえるとやる気も湧いてきますよね。

閑歳 「お金を使いすぎ」という情報を出すのも時には大事なんですが、私たちはお金を使うことも大事だと思っているんです。必要以上に貯めてもらうのではなくて、適切にお金を使ってもらうことを志しています。

あの瞬間がなかったら今の自分はないという出来事があったら教えてください。

閑歳 私は人との出会いやタイミングにすごく恵まれていて。そう感じる瞬間はけっこうありましたね。

例えば、出版社からインターネット業界に転職するとき。その日は雑誌の校了日で、すごく忙しかったんですが、友人から「どうしても今から会って話がしたい」と何回も電話がかかってきて。「校了なので無理だ」と断ったんですが、その後も電話が続いたので、根負けして友人に会いに行ったんですよ。そこで、のちに転職する会社の方と出会って。あのとき電話に出なかったら今はないでしょうね。

閑歳さん

「りっすん」では女性の働き方を主なテーマにしています。Zaimでの、女性の働き方について教えてください。

閑歳 弊社では今年の5月に初めて育休明けの社員が戻ってきました。それまでは前例がなかったんです。

本来弊社はフレックスタイム制ではないのですが、育児と介護の場合はフレックスを採用し、時短勤務以外にも育児のために現在フレックスで働いてもらっている社員もいます。会社の規模があまり大きくないというのを生かして、本人と話し合いながら働き方については柔軟に対応していきたいなと思っています。まだ手探りの部分はあるのですが、弊社は女性社員も多いので、そのあたりは考慮していきたいですね。

最後に、今後の展望を教えてください。

閑歳 Zaimはこれからもアップデートをしていきます。このアプリを夫婦で使って、2人でお金の管理をしてもらうとか、お子さんと共有して、「ひとつの家族が暮らすにはこんなにお金がかかるんだよ」というのを知ってもらうとか。そんなふうに使ってもらえるようになりたいと思っています。家族と共有することで、「お小遣いもう少し増やせるね」とか、「大学へ行くにはお金がかかるからバイトを始めよう」とか、いい方向に行動を変えたり、お金を気持ちよく使うためのお手伝いができたりすると嬉しいです。

ありがとうございました!

取材・執筆/石部千晶(六識)
撮影/小高雅也

お話を伺った方 閑歳孝子(株式会社Zaim 代表取締役)

閑歳さん

2012年に株式会社Zaimを設立。小学生のころからワープロやゲームが大好きで、大学時代には友人と共同でSNSに似たサービスを作る。初めて購入したPCはWindowsの「コンパック」。これまで一番衝撃を受けたWebサービスは「Orkut(オーカット)」というSNSサービスで、現在は将棋(主に藤井四段)とスマホアプリの「Walkr - ポケットの中の銀河冒険」にハマッている。

次回の更新は、10月18日(水)の予定です。

編集/はてな編集部

*1:操作を自動で行うプログラムの総称。Twitterでは手動ではなく機械によって自動的に投稿をするプログラムを指す