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「代案を出すよりも感情をリクエストしろ」コルク佐渡島庸平の作家を信頼した編集術

原宿 インタビュー 仕事論 東京都 関東地方

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こんにちは、オモコロ編集長の原宿です。昨日に引き続きまして、コルク佐渡島さんとの対談の後半戦をお送りいたします。

 

今回も“編集”という仕事を考える上で、めちゃくちゃ重要なキーワードが散りばめられた内容になっておりますので、ものづくりに関わる人もそうでない人もぜひお読みいただければと思います! 

 

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作品が面白くない時はどう言う?

 

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前半で「思ったことを率直に言うことで関係を作っていく」ということをおっしゃっていましたが、作家さんの作品を読んで「ダメだな」と思った時も、ありのまま全てを伝えるということですか?

 

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「ダメだな」とは思わないんですよ。僕は作家の才能を信じているので。ダメだなというよりは、「何でこうなっちゃったんだろう?」という気持ちに近いですね。だから自分が原稿を面白くないと感じたとしても、「ダメですね」とは言いません。「何が今回面白いと思ったんですか?」って聞き方をします。

 

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それも結構キツイと思いますけども!

 

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いや、純粋に知りたいんですよ。こんなに才能のある人が、この原稿のどこが面白いと感じたのか? っていうのを。僕がそう言うと、作家が「いや、面白くないですか? この部分がこうなってるのが」って説明してくれるんですけど、それを聞いても釈然としなかったら「なるほど。じゃあどうしてそこが面白いと思ったんですか?」って、さらに深堀りしていくんです。そういう会話をしている内に面白いと感じる言葉がふっと出てきたりして、「いやそれ超面白いじゃないですか!なんでその言葉入れなかったんですか!」と。

 

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すごい! 作家と編集のやりとりから、新たな面白さが生まれてくるんですね!

 

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そうなんです。編集者にとって、作家が面白いっていうのはもう“絶対”なんですよ。だから面白くない原稿が出てきたのであれば、まだ深く考えることができていないか、うまく表現できていないかのどちらかだと思います。

 

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はああ~。編集の仕事って、作家の才能に対する絶対的な信頼から生まれるんですね。逆に佐渡島さんから作家さんに、「こうした方がいい」的な提案をすることはありますか?

 

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しないですね。原宿さん、もしかすると作家から原稿が上がってきて、「もっと工夫すれば面白くなりそうだな」と思った時に、自分に代案がなければ修正を依頼してはいけないと思っていませんか?

 

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思ってますね。こっちに具体的なアイディアも無いのに否定するのもどうなのかな……と。

 

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代案がなくても言うんですよ。

 

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言うんですか!?!?!?!?!?!?

 

 

 

編集者は“感情”をリクエストしろ!

 

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編集者が言うべきなのは、「読者としてこういう感覚になりたい」ということなんです。作家に対して、読んだ後の感情のリクエストはしていいんですよ。

 

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感情のリクエスト…とは具体的にどういうことでしょう?

 

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例えば「悪くはないけど、もっと笑いたいなあ」と感じる原稿を読んだとしたら、「あなたの原稿なら、途中で三回はクスっとしたいんですけど、今回は笑うことなくサラ~っと読んじゃいました。しっかりクスッとさせるところまで、三ヶ所笑えるところを考えられませんか?」って言い方をするとかですね。

 

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な、なるほど! 僕はその先というか、「じゃあどうやって笑わすか」まで編集者が考えないといけないのかと思ってました。

 

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もし編集者が作品の代案を出せるんだったら、すべての作品の影の作家になるしかなくなりますよね? アイディアを考えるのは、あくまで作家の仕事で、編集者は作家の作品を読んだ後の、感情面の代弁者なんですよ。それを思っておくだけで、急にアドバイスしやすくなると思いますよ。

 

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そうだったのか……。前半冒頭の話に戻りますが、代案を出すというのも、作家と編集者の「短期的に楽な道」なのかもしれませんね……。

 

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編集者は代案出しちゃダメなんですよ。その方が作家のいいところを引き出せますからね。編集者が代案を出して作品をよくしても、作家のいいところを引き出したことにはなりませんよね?

 

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確かにそうですね。常に「この人のいいところを引き出すのが自分の仕事だ」という思考でいれば、逆に自分が代案を出すなんてできないですね。「作家のいいところを引き出す」という意味で、他に意識していることはありますか?

 

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作家のゴールを設定するということですね。僕が安野モヨコさんにいつも言ってるのは、「ノーベル文学賞の選考に漫画も入れるべきじゃないかって議論を安野さんの作品で巻き起こして、できれば生きてるあいだにノーベル賞とりましょうよ」ってことなんです。

 

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ノーベル漫画賞を設立するってことですか?

 

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というより、ノーベル文学賞の選考で小説と漫画を分ける必要あるの? 漫画が入ってない理由ってあるの? ってことですね。「漫画も小説も、文学という枠で同じように評価できるね」って、世間に気づかせるような漫画を描きませんか? ってことを僕は安野さんに言ってて。そうやって生まれたのが、今彼女が描いてる「鼻下長回顧紳士録」という作品なんです。

 

安野モヨコ

安野モヨコ

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  • エンターテインメント
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 ↑「鼻下長回顧紳士録」は、安野モヨコ公式アプリで配信中。

 

 

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なるほど! 佐渡島さんの中には、関わる作家さんごとにそういうゴールのイメージがあるんですね。「テンプリズム」の曽田正人さんだとどうなるんでしょう?

 

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曽田さんだと、やっぱり「め組の大吾」とか、「シャカリキ」にあるまっすぐな感じは、僕は世界的にウケるだろうと思っていて。曽田正人という作家は、こっちの心を熱く、気持よくさせるのが本当にうまいんです。だから戦ってる時って熱くなりやすいから、戦いがあって世界的にウケるファンタジー作品を作りましょうよ、ということを言ってますね。

 

 

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「作家の資質が世界的にウケる」という確信があったからこそ、ファンタジーという世界観を選択したってことですね。最近、ダ・ヴィンチ・恐山が佐渡島さんのすすめで書いた小説「止まりだしたら走らない」が刊行されましたが、彼の場合のゴールはどこなんでしょう?

 

 

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以前にダ・ヴィンチ・恐山さんが、「中央線は自殺が多い」ということに関してつぶやいたツイートがあったんですけど。僕はその140文字足らずのツイートを読んで、「あ、これは色んな小説家と勝負できるレベルの文章だ」と思ったんですよ。

 

 

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確かにグッとくる文章ですね。

 

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これ以外にも自分なりの表現論のようなものを語っているツイートがあって、そこにも何か突き抜けたものを感じたんですね。こんな短い文章でこれほどのものが書ける人は、超一流の作家になれる可能性があるなと。だから僕は彼に小説を書いてもらって、一緒に超一流の作家を目指したいと思ったんです。

 

 

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この2つのツイートからそこまでイメージが広がったんですね。

 

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恐山さんこと品田遊さんは、まだゴールを目指す道程の入り口に立ったばかりですけどね。それぞれの作家さんに対して、自身では思いつかないような成長のイメージを言ってあげて、そこに行くための道を一緒に考えましょうというのが編集者の役割だと僕は思っています。まぁ道を歩くのは作家自身なんですけど、僕は横をついていきますよと。強引に引っ張るんじゃなくて、作家と並走するイメージです。

 

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作家と編集者で同じ夢を見るって、すごくいい関係ですね。作家さんのゴールのイメージって、どういう時に「あ、これだ」って思いつくんですか?

 

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僕の場合は、「この作家さんのこと、すごく好きだなあ」と思うと、自然とその人の大成功のイメージが湧いてくるんですよ。

 

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無理して考えるようなものではない、と。

 

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そうですね。恋愛に例えるなら、ある女の子とは食事をしたいと思ったり、ある女の子とは劇を観に行きたいと思ったり、ある女の子とは海外旅行したいなと思ったり、相手によって一緒にしたいことがちょっとずつ変わる場合があるじゃないですか。それと同じことが作家の才能に対しても起こるというイメージですね。

 

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なるほど、恋愛かあ……。僕もオモコロに参加してくれるライターさん達と、真剣に恋愛してみようという気持ちになってきました。ちょっと気持ち悪いけど。



 

佐渡島庸平ならオモコロをこう変える!

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最後にめちゃくちゃ個人的な相談になっちゃうんですけど、オモコロって平日毎日更新でやってまして。作り手としては、100%面白い記事だけを出したいって気持ちはあるんですけど、毎日情報を発信し続けるという立場上、100%じゃないマズマズの記事を出すときも…まぁね! まぁあるんですよ! そういう運営を変えていきたいと思ったら、どうしていくべきですかね…?

 

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雑誌とか新聞でもそうなんですけど、空白を埋めていくタイプのビジネスをやっていると、結局は「どんなコンテンツでもいいから、とりあえず埋めよう!」って発想になるんですよ。全てのマスコミにおいて改革が進まないのは、その発想や体制を変えられないってことが根底にあって。僕はそれが嫌だったんで、コルクという会社を起ち上げて、出版社ではなく作家のために働く「エージェント」という職業を作ろうと思ったんです。

 

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「空白を埋める」という発想を持たないことが、前提になってくるんですね。めちゃくちゃ例えばの話ですけど、佐渡島さんがオモコロの編集長になったら何をどう変えますか?

 

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僕的な仕事の仕方をするのであれば、まずは自分が面白さを信頼している人にだけ原稿を依頼して、それをすぐに掲載せずストックしていきますね。そうやって編集する余裕がある体制に変えるだけで、メディアの見え方がまったく変わるんですよ。かなり恣意的な運営もできるようになってきますから、「この記事の後、これをやったらもっと話題にできるな」みたいな戦略も立てやすくなるんです。

 

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そうすることで、編集者と作家の関係も変わってくるんでしょうか?

 

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ストックされてるコンテンツだと、より面白いものになるまで直すってことも許されるし、時間的余裕があることによって許される“最後の粘り”は、必ずコンテンツのパワーに繋がっていくと思います。そうやってどんどんいい作品ができてくると、作家からの信頼度も上がって、「編集さんに言われて頑張ったから、こんなにいい作品が描けました!」って好循環が生まれてくるんですよ。

 

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美しい世界だな~。そうやってクオリティの高い作品を通してつながるのが、作家と編集の理想的な形なんですね。

 

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なので半年分ぐらい、「これはいつでも出せるぞ」って原稿を溜めておいて、それからメディアの掲載ペースを決めるようにしたら、全然人間関係変わると思いますよ。タイムリーなことを勝負にしてないメディアは、自分たちで変わろうと思えば変われるわけですからね。そういう運営の仕方をすることによって、コンテンツの力が本当に出るようになりますよ。

 

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これちょっと本当に目指すべき方向が見つかったかもしれないです。本日はお時間をいただきありがとうございました!

 

 

 

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以上、前後半合わせて目からウロコが8万枚ぐらい落ちたインタビューになりました。お話したのは1時間弱ほどだったんですが、「何回ぐらい座右の銘にするレベルの言葉出てきたんだよ!」って感じで、終わった後はしばらくボーッとしてしまいました。

 

IT技術の発達により作家と編集者が新しい時代を迎える今、個人的にもこれからコルクと佐渡島さんの動き方には注目していきたいと思います! あと「宇宙兄弟」はこれからマジで盛り上がっていく展開だから、みんなで読もう!

 

ライター:原宿

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株式会社バーグハンバーグバーグ所属。ご飯をよく噛むオモコロ編集長として活動中。Twitter:@haraajukku

 

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