家事や育児、体調に振り回されながら「仕事もちゃんとやらなきゃ」と考える。でも、全てを完璧にこなすのは難しく、できない自分を責めたり、苦しくなってしまう……。そんな経験はありませんか。
今回お話を伺ったマンガ家・コラムニストのカレー沢薫さんは、最新エッセイ『〆切は破り方が9割』(小学館)で「原稿の9割は催促されてから書いた」とつづっています。
そんな自分の「ちゃんとできなさ」にどのように向き合ってきたのでしょうか。
「ちゃんとできない」のはあなただけじゃない
- 「できて当たり前」がうまくできない人もいる
- できないことがあると自分を責めてしまいがち
- 仕事の「つらさ」や「度合い」は人それぞれ
カレー沢薫さん(以下、カレー沢):社会の中で「できて当たり前」とされることが、うまくできない人もいる。そのことが伝わったらいいな、と思って書きました。
私は昔、会社員とマンガ家を兼業していたのですが、会社で働いているときは「どうしてこんなこともできないんだろう」と自分を責めてしまう瞬間がたくさんありました。
特に、複数人との報連相(報告・連絡・相談)を求められる仕事がとても苦手で。相手にどう伝えればいいか、考えるだけで時間も体力も消耗してしまっていました。
かといって、やらなければ周りに迷惑をかけてしまいますから、いつもぐったりと疲れていて......。
「自分を嫌いにならずに生きる極意」をつづったエッセイ集
▶『〆切は破り方が9割』(小学館)
カレー沢:仕事のどんなところにつらさを感じるかも、つらさの度合いも人それぞれですよね。中には、外で働いたり人と接したりするだけでも、心や体に負担がかかる人もいます。
それを「私だけちゃんとできない......」と考えてしまうと苦しいですから、本書では私の身の回りに起きた数々の「ちゃんとできない」エピソードを盛り込んで、「あなただけじゃないよ」と伝えられたらいいなと思いました。
「少なくともここに1人いるよ」と。
どんな仕事でもしんどい。だからマシなものを選ぶ
- 仕事を変えたら働くのが楽になった
- 自分に合う仕事は“消去法”で選ぶ
- 仕事は生活のためにするもの。楽しくなくてもいい
カレー沢:かなり楽になりました。マンガ家は報連相ができなくても、〆切を守れなくても怒られにくい仕事だと私は考えていて。
もちろん「いい作品を出し続けなければならない」という別の大変さはありますが、会社員より私にとってはよっぽど楽ですね。
今同じように苦しんでいる人がいたら、苦手なことを無理に克服しようとせず「苦手なままでも働ける環境」を探してみるのもいいんじゃないかなと思います。
カレー沢:「マンガ家になりたい」という気持ちはずっとありましたが、マンガを描くことが特別得意だったわけではないんです。
ただ会社員にもあまり向いていなかったし、他にできることがなかったので......。
今でもたまにマンガ家の仕事がつらいと感じることもありますが、「じゃあまた会社員に戻れる?」と考えると、やっぱり厳しいんですよね。外で働くことや、人と働くことが苦痛だった過去を思い出すと「じゃあ、マンガを描くしかないな」と思うんです。
「どの道を選んでも仕事はしんどいものだ」という前提で、「よりつらくない方はどっちだろう」と消去法で選んでいます。
カレー沢:もし自分の得意なことや好きなことが明確にある人だったら、それを少しでも仕事に生かす方法を考えてみるのが良さそうですけど、私のように「得意・好きってほどのものがないんだよな......」という人は、いったん「何もない自分」をそのまま受け止めるところから始めてもいいのかなって。
仕事は生活のためにするものであって、別に楽しくなくていいんですよ。
「何もないな〜自分」とフラットに受け止めて、そこから少しでもマシなものを選んでいくのもありなのかなと思います。
自分が「できない」のではなく、社会が厳しい
- 自分を責めてしまうとき=疲れているときなので、まずは休む
- 仕事の「できない」を自分の問題として抱え込み過ぎない
- 給与をもらえるだけで「自分は役に立てている」と考える
カレー沢:体が疲れていると考え方がどうしてもネガティブになりがちなので、自己嫌悪を感じるようになったら「あ、ちょっと疲れてるのかも」と考え、まずは休むのが大事だと思っています。
その上で、私のエッセイもそうですが、世の中には失敗をユーモアに変えて表現している作品がたくさんありますから、そういうものに触れて少し気持ちを落ち着かせています。
あとは、仕事での「できない」を必要以上に個人の問題として抱え込まないことでしょうか。
「その人の力をどう生かすか」を一緒に考えることも職場や社会の大事な役割ですから、「私がダメ」ではなく「社会の方が厳し過ぎる」と思うようにしています。
カレー沢:あとは、組織の中にいると自分の仕事が誰のどんな場面で役に立っているのかが自覚しづらいですよね。「仕事をして給与が入る=自分は誰かの役に立っているんだ」と思ってみてほしいです。
もし給与で実感するのが難しかったら、趣味やプライベートなど仕事以外でいいから、人から直接褒められたり感謝されたりする機会を持つのもいいと思います。
例えば、誰かに料理を作って「美味しい!」と言ってもらえるだけでも、結構うれしいものですよね。
私も自分のことを「ダメ」と考えがちだったのですが、マンガ家になってからは読者から感想をいただいたり本が売れたり、誰かの役に立っている実感を得やすくなって、自分を肯定できる瞬間が増えた気がします。
年を重ねれば、昔のように働けなくて当たり前
- 「昔の自分」と比べず「今の自分」を受け入れる
- 「昔みたいに頑張れない」と感じるのは、これまで頑張ってきた証
- 今の年齢や体力、ライフスタイルに合わせてギアを変える必要がある
カレー沢:「昔の自分」と比べると、どんどん気持ちが沈んでしまうので「これはどうしようもないことだ」と、まずは認めることを大事にしています。
私も40歳を過ぎてから体力の低下を感じ始めています。こなせる仕事量が減るとついネガティブになってしまうんですよね……。
昔のように面白いアイデアが浮かばなかったり時間がかかったりして、自分の才能が枯渇したんじゃないか……なんて思うこともあります。
でも、年齢を重ねれば当たり前に体力は落ちますし、育児や介護で働く時間が限られれば、できないことが出てくるのは自然なことです。
だから「頑張れていない」と自分を責めるのではなく、「自分に合った働き方を選べる年齢・環境になった」と考えてみるのはどうでしょう。
実際にはまだそんな立場じゃなくても、そう思うだけで十分です。「ペースを少し落としてもいい立場になったんだ」と考えると気持ちがふっと楽になるかもしれません。
カレー沢:「昔みたいに頑張れない」と感じる人ほど、若い頃に一生懸命やってきた証だと思うんです。だから、これまでの努力をいったん認めてあげて、今の年齢や体力、ライフスタイルに合うようにギアを調整してみてはどうでしょうか。
これからも長く働けるように、仕事との向き合い方を柔軟に変えていけるといいですよね。
取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

