いつもと様子が違い、何か困りごとがありそうな部下に「どうコミュニケーションをとったらいいか分からない」と悩んでいませんか。
今回お話を伺ったのは、映画やドラマ撮影の現場をサポートする「インティマシー・コーディネーター」の西山ももこさん。安心できる環境作りのため、パワーバランスの差がある監督や俳優の間に入り調整役を担っています。
繊細さや気遣いを要する仕事で培ってきたノウハウを元に、困っている部下への「声かけ」のスキルについて伺いました。
- 相手との「パワーバランスの差」に気付いていないケースは多い
- 部下への声掛けのコツ【1】「大丈夫?」と聞かない
- 部下への声掛けのコツ【2】「できない」理由は追求しない
- 部下への声掛けのコツ【3】自分と他者の“線引き”を大切に
- 「良い上司になろう」と気負い過ぎる必要はない
相手との「パワーバランスの差」に気付いていないケースは多い
- 立場や年齢、経験、性別によって上下関係や力の差は生まれるが、無自覚な人も多い
- 自分も「強い側」にいるかもしれないという意識を常に持つ
- 「嫌」と言い出せず「大丈夫」と答えることもある
西山ももこさん(下記、西山):映画やドラマ、舞台といったエンターテインメント作品において、性的なシーンやヌードなど「身体の露出がある場面」をどう表現するか、監督や俳優の間に入り調整する仕事です。
まずは監督にどんな演出をしたいのか細かく聞いて、それを俳優さんに共有し「できること」「避けたいこと」など意向を丁寧に確認していきます。必要があれば代案を提案しながら、俳優が安心して演技ができる環境を整えます。
特に若い俳優は「“できない”と言ったら、次の仕事が来なくなるかも」と考え、本当はやりたくなくてもつい「できます」と言ってしまいがち。
監督と俳優の間には、無自覚な「パワーバランスの差」があることを常に念頭に置いて、「NO」なら「NO」と安心して言える雰囲気づくりが求められます。
西山:多くの人は自分のパワーに気付いておらず、無自覚なんです。でも立場や年齢、経験、性別によって、上下関係や力の差はどうしても生まれてしまうと私は考えています。
だからこそ日頃から「自分も無意識に強い側にまわってしまう可能性がある」という前提を持ちながら、相手と接してみてほしいです。

大事なのは「自分がされたらどうか」ではなく、「相手はどう感じるか」を考えること。例えば、「電話」というコミュニケーション方法一つとっても、負担が大きいと感じる人もいます。
もちろん「相手はどう感じるか」は直接聞いてみないことには分かりません。パワーバランスの差があるからこそ、ちゃんと相手の意向を確認する姿勢が大切だと思っています。
西山:ただ、どれだけ丁寧に意向を確認しても、それでも「嫌」と言い出せない人もいると思うんです。
たとえ相手が「大丈夫です」と答えたとしても「本当は嫌かもしれない」「無理しているかもしれない」と常に頭の片隅に置いておく。
意向を確認したから「OK」ではなくて、「パワーバランスの差がある」と自覚し続けることが大事だと思っています。
部下への声掛けのコツ【1】「大丈夫?」と聞かない
- 「大丈夫?」ではなく、進捗や期限など具体的に質問する
- 仕事では「曖昧さ」をなくすことがお互いの安心感につながる
- 「できない」と言える関係性は結果的に自分を守る
西山:「大丈夫?」と聞かないこと。
つい反射的に「大丈夫です」と答えてしまう人が多いので、「来週の打ち合わせまでにここまで進められそう?」「この仕事、この日までで無理はない?」などできるだけ具体的な質問を心掛けてみてほしいです。
特定のタスクや期限に絞った質問であれば相手も「それなら大丈夫」「それは難しい」と具体的に答えやすくなるのではないでしょうか。
また今は「大丈夫」でも後で「やっぱり無理かも......」となるケースもあると思うので、一度「OK」と言われても鵜呑みにし過ぎず、時間を置いてから都度確認するようにしています。

西山:その気持ちはすごく分かります。ただ、業務上必要なことであれば「何度もごめんね」と前置きしながら、ためらわず聞いてしまってもいいのかなと。
本人が「大丈夫」と言うならある程度見守ることも必要ですが、自分の憶測で事を進めるより、聞いた方が早いし確実なケースが多いと思います。
これがプライベートだったら話は別かもしれませんが、仕事においては「曖昧さ」をなくした方が双方の安心感につながるのではないでしょうか。
何度も声をかけることにハードルの高さを感じるようであれば、「今は大丈夫でも後で変わることもあるだろうから、そのときはすぐに教えてね」とだけ伝えておくというのも良いと思います。
西山:一番避けるべきは、締め切りギリギリや当日になって「実は大丈夫じゃなかった」と発覚すること。そのタイミングだと、巻き取る側の負担が非常に大きくなってしまいますよね。
少しでも早い段階で「やっぱりできません」と言ってもらえた方がマシだと私は考えています。
安心して「できない」と言える関係性でいることは、結果的に自分を守ることにもつながるんです。
部下への声掛けのコツ【2】「できない」理由は追求しない
- 理由を求められると「責められている」と感じる人も
- 最初から話を深掘りしようとしない
- 相手が自己開示し始めたときは“聞く”に徹する
西山:「そうなんだね、了解」と受け取り、理由は追求しないように心掛けています。そして「できない部分はどうするか」と、一緒に代替案を考えます。
人は理由の説明を求められると、責められているように感じてしまうもの。「大丈夫じゃなかったら言ってね」と伝えておきながら「結局、責められるんだ......」と受け取られると、不信感が生まれてしまいます。
西山:「話を聞いてほしい」と言われればもちろん聞きますが、仕事においては相手の話をじっくり掘り下げるのがいいとは限りません。
私も過去に、良かれと思い掘り下げて質問したら「答えたくない」「そういうことは聞かないで」と言われてしまったことがあって。
どんなコミュニケーションを求めるかは人によって違うので、最初から深掘りしようとしない方がいいのかなと。

西山:そういうときは、あまり自分の話はしないように心掛けています。
つい「私のときはね」とか「私もこんなことがあったんですよ」と自分の話を重ねてしまいそうになるのですが、そこはぐっと我慢。
まず「そうなんだね」と一旦受け止めて「じゃあどうしたい?」とか「どうしてほしい?」と聞く側に回ることが大切です。
でもこれがなかなか難しいんですよね。「今日も自分の話ばかりしてしまったな......」と、私もよくひとり反省会をしています(笑)。
部下への声掛けのコツ【3】自分と他者の“線引き”を大切に
- 「間違った!」と思ったらすぐに謝る
- うまくいかないときは距離を置いたり第三者に任せる
- 「自分ができることには限りがある」と自覚し、一人で背負い込まない
西山:私はあまり重く考え過ぎず「ごめんね、次は気をつけるね」とすぐに謝るように心掛けています。
コミュニケーションに正解はないですし誰でも間違えることはあるので、そのくらいのカジュアルさも必要だと思うんです。
それでも関係がうまくいかないようなら、少し距離を置くことも大切です。個人間で抱え込むよりも、第三者に任せた方がスムーズに進むこともあるでしょう。

西山:そうだと思います。大切なのは「自分がしてあげられることには限りがある」と自覚すること。
私も昔は人の荷物まで背負い込んでしまうタイプで、一緒に働いてきたスタッフが業界から離れる決断をしたとき、「私のせいかも……」と自分を責めてしまったことがありました。
でも、カウンセリングを受けたときに「それはあなたの問題ではないですよね?」と指摘されて、ハッとしたんです。
たとえ上司であっても、彼らの人生や選択まで背負うことはできません。ですから「できる範囲で」と割り切って、過度に気を使ったり、無理して仲良くなろうとしたりする必要はないと思います。
「良い上司になろう」と気負い過ぎる必要はない
- 上司の仕事は「部下の味方をすること」ではない
- だから、「何でも相談される上司」を目指す必要はない
- 「必要な仕事」を全うするだけで、周りからの信頼は得られる
西山: そうですね。ただ「気遣いって大変だなぁ......」とプレッシャーを感じる必要はないと個人的には思いますね。
インティマシー・コーディネーターは、弱い立場の人の味方ではなく、あくまで「良い作品づくり」のためにいる存在です。それは「上司」も同じで「部下の味方をすること」が本来の目的ではきっとないですよね。
部下に頼られる存在というのは、あくまで「良い仕事」をするために必要な要素であって「何でも相談される上司になろう」と気負う必要はないと思います。

西山: インティマシー・コーディネーターも特別なコミュニケーション能力が求められる仕事だと思われがちですが、良い作品づくりのために必要な業務をきちんとこなせることの方が私は大事だと思っていて。
上手にコミュニケーションを取ることで得られる信頼もありますが、業務や確認といった「地味だけど必要なこと」を丁寧に全うすることでも、周りからの信頼は十分に得られると考えています。
取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

