そもそも「疲れを感じてから休む」ではなく、疲れる前にあらかじめ「休む」習慣を持つことが重要だと語るのは、栄養士の資格を持ち、食生活に関するカウンセリングなどを行う笠井奈津子さん。最新刊の『何もしない習慣』では、自分に合った「充電」の方法を知ることや、そのために「自分のトリセツ」をつくることを具体的な方法とともに提案されています。
日々の仕事に追われるなか、どのように休む時間を取ればいいのか。話を伺いました。
※取材はリモートで実施しました
疲れを溜め込む前にあらかじめ「休む」予定を入れる
笠井奈津子さん(以下、笠井) そうですね。仕事を「し過ぎ」るあまり、自分のコンディションを考えることがどんどん後回しになって体調を崩してしまうケースは多いと思います。例えば、少しでも時間が空けば、「何かしなければ」とインプットなどの予定を詰め込んだり。もちろん、それはポジティブなことでもあると思うんですけど、一方で心身の健康という土台が脆くなってしまうことにもつながるように感じます。
特にコロナ禍になってからは、仕事とプライベートが混ざり合うワークライフブレンドのような状態になっている人も少なくないので、つい仕事ばかりしてしまいがち。真面目で上昇志向の強い人ほど、カウンセリングのときに肉体的にも精神的にも疲れが溜まっている人は多い印象ですね。
笠井 おそらく、多くの人はいきなり「何もしないでいい」「休みを取りましょう」と言われても、難しいと思うんです。ずっと仕事漬けの生活をしていた方は特に、休みの日に何もしないでいることに罪悪感を覚えて、耐えられないですよね。
そんなとき、私はまず考え方として、休むことを「充電」、働くことを「消費」と捉えてみてください、とお伝えするようにしています。スマートフォンだって充電しないと動きませんよね。だから、より良く働くためにも、「充電」と「消費」はセットであると考えて、仕事などの消費の予定を入れるなら、そのぶん休んで回復するための充電の予定も入れましょうと。
笠井 そうです。疲れを感じてから休むのではなく、あらかじめ「休みの予定」をスケジュールに組み込んでしまうのがいいと思います。そうすると、自然とそこまでに仕事を終えようという意識が働きますよね。それに、「疲れてから休もう」「時間ができたら休もう」となると、時間がないぶん選択肢が限られるので、結果的にさらに疲れを溜めることにもなりかねないと思うんです。
例えば、疲れが溜まりに溜まり、「もう今すぐ休みを取らないと動けない」という状態になったとして、そこで浮かんでくる選択肢って一人でお酒を飲むことだったり、ひたすらスマホをいじることだったり、あまり幅がないように思います。もちろん、それが回復につながるのであれば良いと思うのですが、仕事の疲れを取り戻そうと深酒して睡眠時間が削られたり、スマホに触れ過ぎて首肩の凝りが強くなったり、結果的にリフレッシュしているつもりが、どんどん疲れを溜めてしまうこともあり得ます。
笠井 行き当たりばったりではなく、能動的に休むことが重要だと思います。例えば、オンラインゲームであれば、「仕事が終わったらログインしよう」ではなく、あらかじめ友達と「金曜の20時に集合ね」と決めておくこと。そうすれば、そこに向けて仕事を終わらせようとするでしょうし、開始時間を決めておくことで、どれだけ時間を使っているかも把握できて、ダラダラ夜更かしすることも少なくなるはずです。
また、休みの日の予定を決めておかないと、つい仕事をしてしまうという人もいると思います。もちろん、時間がある時に前倒しで仕事を終わらせておくのは悪いことではありませんが、他に何もすることがないからと消去法的に仕事をしてしまうと、疲れが溜まっていく一方になってしまいます。そういう意味でも、あらかじめ「休み」の予定を入れることは大切だと思います。
自分的エビデンスを集めるために生活を「見える化」する
笠井 そうですよね。だからまずは、ファーストステップとして自分の24時間の行動を記録し、生活を「見える化」することが大切だと思います。会社員の方であれば、平日と休日1日ずつだけでも、それぞれの起床から就寝までの行動を書き出してみて、そのなかで自分にとっての「充電」につながった行動、「消費」につながった行動に印を付けていくんです。
そうすると、科学的エビデンスならぬ「自分的エビデンス」がたまり、少しずつ自分にとって心地の良い生活を送るための「自分のトリセツ」のようなものができると思います。
『何もしない習慣』より(C)KADOKAWA
笠井 はい。そうした方法を試してみるのは良いと思うんですけど、けっきょく重要なのは実際に自分に合うかどうかですよね。自分の生活を「見える化」し、充電と消費の観点から見直していくと、世間で良いとされている方法で自分がむしろ疲れてしまっていたり、逆に意外な方法で自分がリフレッシュしたりしていることが分かってくると思います。
例えば、私は整理整頓が好きで、片付けをしているときは「充電」できている実感があります。でも、片付けが嫌いな人にとっては逆にストレスですよね。それくらい人によって全く違うものだから、自分的エビデンスに基づいて充電方法をリスト化していくのが大事だと思うんです。そのリストが多ければ多いほど、仕事の合間の気分転換が上手になるし、休日も能動的に充電できるようになるはずですよ。
笠井 すぐに判断できない場合には、私は「睡眠」を一つのバロメーターにしています。それなりの睡眠時間をとれているのに翌朝まで疲れが残っていたとしたら、前日の行動に原因がないか考えるんです。もしかしたら、就寝直前までお酒を飲んでいたり、テレビ画面を眺めたりしたことで睡眠の質が下がっていたのかもしれない。だとすれば、それは自分にとって充電ではなく「消費」になっているということです。逆に、スッキリと目覚められた場合は、前日の行動が自分にとっての充電なんだと気付けることもあると思います。
最新作『何もしない習慣』(C)KADOKAWA
笠井 そう思います。ただ、家事や仕事など、どうしてもやらなければいけないこともあるでしょう。そうしたものは、いまの行動からまず「マイナス1」をしてみるだけでもかなり負担は減るはずです。例えば、料理をつくるのに疲れていたり、時間をかけ過ぎていると感じたら、品数を1つ減らしてみるだけでもいいと思います。
実は私自身も産休明けに仕事に復帰したとき、家事もこれまでと同じレベル感でやっていきたい、やらなければいけないと思い込み、自分を追い詰めていました。特に負担に感じていたのが、保育園まで子どもを迎えにいき、そのままスーパーへ買い物に行くこと。そこで、最初はなんとなく抵抗感があったのですが、試しにスーパーの宅配サービスを利用して家事の負担を「マイナス1」したら、とても楽になりました。
笠井 結局のところ、自分の荷物を軽くすることを自分で許可してあげるしかないのだと思います。自分のエネルギーを使ってしまう余分な行動を引き算してみる。今はどうしてもそこにこだわりがあって手放せなかったとしても、「いざとなれば、この行動はカットできる」と認識しておくだけで、疲れをギリギリまで溜め込んで心が突然折れてしまうような事態は防げるのではないかと思います。
「充電」の時間は生活のなかに隠れている
笠井 忙しく働いている方にとっては、特にそうですよね。だから、まず最初は実験のような感覚で、様々な充電方法を試してみるのがおすすめです。例えば、この1週間は午後に5分でも10分でもおいしいコーヒーを入れて一息つける時間をつくる、と決めてやってみて、その1週間の調子はどうだったのかなとか。そこで、もし自分にプラスの効果が発生したら、もっと探してみよう、生活を振り返ってみようとモチベーションになると思います。
ちなみに、私の充電リストはこんな感じです。
- 夜遅くまで仕事をして疲れた日は、朝起きるのが楽しみになる朝食を仕込む
- 夜にスパイスを使った料理をつくるとすごく気分転換になる
- インテリア系、住まい系の動画を観るとテンションが上がる
- 朝にひとりの静かな時間をつくれると心にゆとりを持てる
- エクササイズはトレーナーよりもヨガウェアでした方がモチベーションが上がる
笠井 そうなんですよ。こんなふうに小さな充電方法を知ることで、休みの日にまとまった時間がなくても、日常生活のなかでうまく自分自身を回復させてあげることができる。例えば、クローゼットに並ぶ洋服を見ているとテンションが上がるという人は、前日の夜に明日着ていく服を選ぶように予定を立て、習慣化していくだけでも小さな充電になるはずです。
だからちょっと面倒かもしれませんが、慣れてきたら少しずつ細かく記録することも大切だと思います。例えば、自分のなかではざっくり「休憩時間」と捉えていても、そこで好きなサッカーの映像を観たのか、スマホでゲームをしていたのかにより、リフレッシュ具合に違いが生まれると思うんです。そういう細かい部分を意識することが、疲れを溜め込まない生活を送ることにつながると思います。
笠井 続けています。ただ、今はそこまで細かくは記録していなくて、寝る前に今日の予定を振り返りながら、「印象に残ったこと」を3つ書くようにしています。自分がどんな行動をして消費したのか、あるいは充電することができたのか。とりわけ、消費の場合は消費のまま書かずに、次はこうしようまで書くようにしていて、それがゆくゆくは自分の充電リストやトリセツに加わっていくようなイメージです。
一方で、どうも調子が良くないなというサイクルが続くときは、やっぱり1週間ほど時系列に細かく振り返っていきます。そうすると、「犯人はお前か!」みたいに原因が分かったり、充電の時間が少なかったりすることに気付けます。続けていくと、ちょっとした宝探しのような感覚になり楽しくなってくるので、少しずつでもぜひ実践してみてもらえるとうれしいです。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
編集:はてな編集部
お話を伺った方:笠井奈津子さん