育児が自分ごと化できなかった私。3カ月の育休を「とるだけ育休」にしないため、夫婦で決めたこと

 下村光輝

子供と一緒に撮影した様子

こんにちは、下村光輝(しもむらみつき)と申します。関西のとある製造業で会社員をしています。

私たち夫婦の間には、2020年2月に第一子となる娘が出生しました。それを機に、3カ月間の育児休業(育休)を取得しました。

男性の育休取得は、世間一般にはまだまだ浸透していません。取得したとしても育児・家事にうまくコミットできず、「とるだけ育休」になってしまうことも多いと聞きます。

かく言う私も、とある出来事があるまで育休を「自分ごと化」できていませんでした。

今回は、そんな私が育休を取ろうと思ったきっかけと、私自身が「とるだけ育休」にならないために、夫婦で何を考え、実行していったかということ、また実際に育休を取得して何を感じたかということを振り返ります。

最初は「育児」にも「育休」にも当事者意識を持てていなかった

私は今の会社に大学新卒で入社し、ちょうど5年目を迎えた日から育休を取得しました。

勤務先はファミリーフレンドリーな企業で、子どもが親の職場を見学する「こども参観日」というイベントにも力を入れています。

しかし、そんな会社であっても男性の育休取得率はさほど高くなく、全国平均をやや下回る程度。私自身、共働きの妻が妊娠した直後は「育休」を自分ごととして考えることはほぼありませんでした。

そんな私が「育休」を意識したきっかけは、出産予定日の半年ほど前、久しぶりに会った同期との会話でした。彼も配偶者が妊娠しており「俺、育休を半年取得する予定やねん」とのこと。

育休って半年も取れるんだ!」と率直に驚いたのを覚えています。


同僚との会話をきっかけに、育休にまつわる会社の制度や法律を調べ始めました。そのうち、産後うつや産後クライシス、とるだけ育休など、育児にまつわるさまざまな問題を認識し、ようやく「育児」や「育休」が現実味を帯びて、自分ごと化できるようになったのです。

同時に「軽い気持ちで育休を取得しても、こういった問題は解決できない。育休中にどう過ごすか、しっかり考えなくては」と使命感も生まれました。

「育休を取ろうと思う」と伝えると、妻はとても喜んでくれました。

子どもが生まれることで「生活」がどう変わるかを考える

家族3人の手元

共働き世帯が増え、夫婦で家事を分担する考え方は少しずつ浸透してきています。しかし、積極的に家事分担をしている夫婦であっても、育児となると「主に母がやるもの」と考えがちではないでしょうか。

私たち夫婦も、それぞれのワークライフバランスを保ちたいという思いで普段から家事を分担していたものの、私は「出産」や「育児」には当事者意識を持てずにいました

また妻自身も、初めての妊娠・育児で不安な気持ちが大きいにもかかわらず、無意識のうちに「育児は女性が担うもの」という性役割にとらわれていたそうです。

「共働き」に「共家事」、そして「共育児」をどのように実現するか。私の解は「男性である私も育休を取得し、早期から育児にコミットすること」でした。


私の場合は、偶然ともいえる同僚の育休取得をきっかけに育児や育休を自分ごと化できるようになりました。が、そんな機会がなく、妊娠が分かり出産が近づいても「男性の育休取得」に当事者意識を持てないままの方は、男女ともにいると思います。

まだまだ身近でない男性の育休取得を自分ごと化するのは、正直なところとても難しいと思います。男性の育休について、会社や国がもっと具体的にアピールしてくれれば認識が変わるかもしれませんが、そう簡単にはいかないのが現実です。

なのでそういう方はまず「乳幼児が1名増えること」で毎日の生活にどう影響があり、どんな変化がありそうか、夫婦で考えて話し合うことから始めてみてほしいです。

乳幼児は、1人では何もできません。朝起きてから夜眠りに就くまで……いえ、夜中も泣いて起きるので、24時間ずっと誰かのサポートが必要になります。夫婦2人だけであれば、それぞれが最低限自分の世話さえしていれば何とか家庭は回りますが、乳幼児が1人増えると「お世話」のタスクが山のように積み上がり、自身のことすら十分にできなくなります。

夫婦のうち、どちらか一方だけにその負担が偏るとどうなってしまうのか。「生活」という身近なものがどう変わるのか。パートナーはその影響をどう捉えているのか。まずは話し合ってお互いの認識を共有しあってみてください。

「とるだけ育休」にならないために必要なのは“話し合い”

我が家の場合は妻が里帰り出産し、1カ月ほど実家で過ごしたあと、私の育休スタートにあわせて3人での生活を始めることにしました。せっかく取得を決めた育休が「とるだけ育休」にならないために、まずは育休中をどのように過ごすか事前に決めておくことにしました。

そうして妻と相談して決めたのが「あえて家事・育児の役割分担を細かく決定しない」でした。

「早期から育児にコミットする」という思いから取得を決めた育休でしたが、「コミットする(=責任を持って関わる)こと」だけではなく、「育児の全てを私もできるようにしておくこと」が重要と考えたからです。


理由は、例えば片方が入院したときや出張に行くときなどの「対応力」を高めるため。いまのところそのようなケースは起きていませんが、妻の指揮がなくても私は全部の育児や家事ができるようになりました。

またそれぞれのタスクの「重み」を知っているからこそ、「◯◯やってくれたんだね、ありがとう」とお互いを気遣うことができるようになったのも、とても良かったと感じています。

以下は育休中のとある1日のスケジュールです。

育休取得中の1日のスケジュール

役割分担を決めていないため、育児、家事の担当は日によって変わります。この日は娘の寝かしつけや部屋の掃除機掛けは妻にお願いして、入浴や食事の準備片付け、洗濯は私が担当しました。

「母にしかできない育児」といえば授乳ですが、我が家では直母(乳房から直接母乳を与えること)ではなく搾授乳(搾乳器などを使い母乳を搾り、哺乳瓶で与えること)を選び、序盤からミルクも積極的に利用していたので、私もかなり担うことができました。

それぞれのタスクについては「気付いた方がやる」というものも多かったです。

「気付いた方がやる」は、「気付く人」にタスクが偏ってしまうデメリットがありますが、一方で「気付くポイントやレベル」がそれぞれ違うというメリットもあります。

我が家はどちらかというと私の方がきれい好きで、部屋を整理整頓して保っていたいという思いから、掃除や後片付けはすぐ着手します。しかし娘のことは、妻の方がアンテナを鋭く張っていました。

「見えない家事(育児)」とよく言いますが、当初私が見えなかったのは「朝起きたときに顔を拭いてあげる」「気温に合わせて服装を調整してあげる」などの娘の細かいケアでした。

気付くポイントが違うからこそ、2人で「やった方がいいこと」を再確認しながら、両者の育児・家事能力を高めていけたことも、このスタンスならではと感じました。

また、2人で育児や家事を分担するにあたりいくつかコツがあります。まずは相手ができてなくても許す寛容さがとても重要。そして疲れなどで「できない」と思ったときは、早い段階で相手にヘルプを出す心構えも大切でした。

もちろん、そのためにはお互いを信頼し、何でも話し合える関係になっておくことが前提。我が家がこの方法でうまく行ったのは、育休期間にどのようなことをやるか、夫婦で事前にしっかりと話し合ったからこそだと思います。

子供と一緒に海を見ている様子

職場への影響を最小限にするため、すり合わせは丁寧に

「育休」の取得に必要なのは、家庭での話し合いだけではありません。もちろん、職場への申請や仕事の調整も必要になります。

そもそも育休は、育児・介護休業法という法律がもとになっている制度です。

育児・介護休業制度ガイドブック(厚生労働省)(PDF)

労働者の権利なので、対象者が申し出れば必ず取得できますが、そうは言っても男性の育休取得率は7.48%(2019年度時点)とまだまだ低い現状にあり、上司や同僚の驚きも少なからず生じます。

人がひとり抜けるため、職場の労働力も必ず低下します。私は、職場へ与える影響がゼロではない以上、丁寧な擦り合わせが望ましいと考え、育休を取得したい意思を出生予定日の半年前に上司に報告しました。

先にも述べた通り、私の勤務先は比較的ファミリーフレンドリー。上司や同僚からの反対はほぼなく、特に育児を経験した女性社員からは「奥さん絶対助かるよ!!」と言われ、言葉の重みと説得力を感じました。

一方で男性社員は、時代的な背景もあり「男性も育休を取得できるなんて、良い時代だね」「俺のときもあったら取ってたわ」など、子どもがいる人でも好意的ではありながらも育児を他人事だと考えているようなコメントが印象的でした。

また少数ではありますが、他部署の人に「落ち着くまで休まないでよ」と言われたこともあります。

というのも、ちょうど育休開始時期に組織変更の予定があり、引き継ぎの担当者がなかなか見つからなかったのです。少しショックでしたが、そういった感情を持つ方がいらっしゃるのも仕方ないのかなと思いました。

育休取得による影響を最小限に抑えるべく、引継ぎを徹底的にやるつもりで担当者をなるべく早く決定してもらうようにお願いしていましたが、最終的には最後の1カ月強で引き継ぐことに。

引継ぎ用の資料を作成し、それを元に担当者と毎日30分のミーティングで共有しながら引き継いでいくというスタイルでなんとか乗り切りました。

花を撮影

育休取得のためにこのような調整をする中で感じたのは、働く人みんなの負荷が恒常的に高いこと。

育児だけでなく、介護や病気など、さまざまな理由で「休まざるを得ない」ことは誰にでもあることです。しかし、今持っている業務に加えて、休業を取得する人のタスクを担う余裕がない。これでは「休む人」も「休む人をカバーする人」も大変。

また、私が育休を取得したのは入社5年目という、まだ「若手」とも言えるころ。キャリアを積めば積むほど、育休取得時の業務分配の労力、周囲の抵抗感が大きくなっていくはずです。

男性の育休取得がもっと広がるためには、本人の意識のほか、労働環境の改善も大切だと実感しました。

さらに、私がそうだったように、育休が法律により労働者に与えられている権利であるということを知らない人も多いと思います。または、存在としては知っていても、その内容までは詳しく知らない、という方もいるでしょう。

もちろん、会社が法律を遵守しないつもりはないはずですが、「知らぬが仏」といった具合に、積極的に従業員へ示すことは多くありません。「制度」の存在や内容自体を伝えていくことも必要だと思います。

育休取得は育児・仕事の両方にメリットがあった

3カ月間の育児休業を取得して良かったことをまとめてみます。

【1】余裕があったからこそ育児・家事に全力を注げた。

娘は特に生後3カ月ごろまで「夜泣き」が強烈で、夫婦2人で交代して起き、おむつやミルクをチェックし、それでも泣くときは寝付くまで抱っこし続けました。長いときには深夜なのに2時間も寝ない、ということも。翌日は寝不足で日中ほぼ動けず。

育休を取っていなかったら、このころの日々はさらに過酷だったと思います。

また、保活に参加できたのもとても良かったです。近所の保育園を見繕い、平日にどのような保育を行っているか見学しに行きました。

保育園への送迎を担当している男性は多いと思いますが、保活にも積極的に関わったことで、自分の子の進む先を見られたのはとても良かったと思っています。

【2】私ひとりでも娘の面倒が見られるノウハウと自信を得られた。

おむつの在庫はどこに入れてあるだとか、離乳食はどのように作るだとかも含めて、育児の全てを私もできるようになりました。これにより妻に日常的にかかる負担・使命感を大きく減らせました。

また、ある程度長い期間娘に向き合ったことで、育児に対する自信がついたことも大きいです。

【3】育児・家事含む日常の全てを妻と共有できた。

育休中はずっと妻と一緒にいるので、あらゆる話をします。育児方針を考えたり、時事問題についての意見交換をすることも多くありました。

長期間を夫婦で共に過ごすということは、それだけパートナーシップが育まれるということ。私たちは以前から仲が良かったですが「共育児」を経て、さらに強い絆で結ばれたと感じています。

【4】同僚が私の業務を担えるようになった。

育休を取得した立場から「メリット」に挙げるのは、少々筋違いかも知れませんが……。しかし、組織のためには、従業員が1人減ることを「厳しい」と捉えるのではなく、他の従業員の能力開発のチャンスと捉えられるかどうかが大切だと思います。

もちろん、私が不在にした3カ月間、業務を引き継いでくれた同僚へは足を向けては寝られません。その方は当時培ったスキルを存分に生かし、いまも活躍しています。育休取得も積極的に考えられているそうなので、そのときは私が業務を引き受けたいと思っています。

育休を経て、家族がもっと愛おしくなった

子供と一緒にベンチで

3カ月の育休。始まる前は長いかもと思っていましたが、いざ始まってみると充実した日々が続き、終わる頃には3カ月では物足りないという気持ちに。

6カ月までなら育児休業給付金の額も変わりませんので、もっと長くても良かったと思います。


私はもともと仕事人間ではなく、どちらかというと“家庭人間”。仕事に対する情熱も特別高くないので「仕事を忘れそう」という不安や「昇進が遅れる」といった焦りはありませんでした。

しかしそんな私でも、同僚に迷惑をかけてしまうことに対するうしろめたさや、残してきたプロジェクトに後ろ髪を引かれる感覚は少なからずありました。

また、新型コロナで孤立しがちな環境下での育児ということもあり、妻は「社会に置いていかれる」という不安が強かったようです。そんな不安にいち早く気付けてケアできたのも、夫婦ともに育休を取得していたからこそだと思います。


育休を経て、私はもっと家族のことを愛し大切にしていきたいと思うようになりました。育休が終わった今も、妻と考えを擦り合わせながら、育児と家事に取り組んでいます。

家族のこれからのために、3カ月間の育休は欠かせない時間だったと改めて感じています。

著者:下村光輝 (id:sheldonia)

下村光輝

関西の製造業に勤める。2020年2月に第一子が誕生、3カ月の育児休業を取得する。そのときの体験から、男性育休推進派としてブログやSNSでの発信活動中。

ブログ:育休しましょう Twitter:@split_kicker

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編集/はてな編集部

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