人に好かれるために「雑魚」になるのをやめた|長井短

 長井短

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誰かの「やめた」ことに焦点を当てるシリーズ企画「わたしがやめたこと」。今回は、モデル・俳優として活躍する長井短さんに寄稿いただきました。

長井さんがやめたのは、人に好かれるために「雑魚」になること

初対面の相手に「なんか気取っている」と警戒されることの多かった長井さんは、あるときから外見と内面のギャップを解消するため、自ら率先して「雑魚キャラ」を演じ始めます。しかし、次第に演じることに「痛み」を感じるようになり、思い切ってやめてみると途端に視界が開けたそう。

今では「思いたいように思ってください」とまで思えるようになったという長井さんに、これまでの「スーパー雑魚キャラ劇場」を振り返っていただきました。

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生まれてから27年がたって、片時も離れずに一緒にいるものはかなり少なくなってきた。一緒に寝ていたぬいぐるみとも、暮らしていた実家とも、育ててくれた両親とも離れて過ごすようになった。それでも離れずに一緒にいるものの中に、私のビジュアルがある。そりゃそうだ。私と私のビジュアルが離れることは多分生きている限りない。ずっと一緒に生きていくのだ。

だけど、私のビジュアルとの向き合い方は、ずいぶんと変化があったように思う。一時は私のビジュアルが与える周囲の先入観に勝ちた過ぎて、自ら「雑魚キャラ」を演じ自分を卑下してきたけど、最近はそんな自分と綺麗さっぱりお別れできた。「普通の私」でその場にいられるようになったのだ。

「イメージの私」に苦しめられた

27年もこのビジュアルをやっていると、「初めまして」で言われることはほとんど予想できるようになってきた。「ハーフ?」「背が高いね」「変わった目だね」。この3つは大抵言われる。物心ついてからずっとだ。

最近は言われ過ぎて、相手に言われるよりも先に言いたいっていう意味分かんないフェーズにすら入ってきた。でも、多分こういうのって大事な最初の世間話なんだろうなと思って、グッと我慢している。

ただ、これらはシンプルに見た目の感想とそこから生まれる疑問だから言われても何も思わないんだけど、そこから派生して生まれた「イメージの私」には大変苦しめられております! 小学生の頃から頭がおかしくなるほど持たれ続けた私への先入観。まずはそのトップ3を大発表〜!

  • 1位:なんか落ち着いてて大人っぽい
  • 2位:気取ってる
  • 3位:クール

小学生の持つ大人っぽさってなんだよって話だけど、実際私はその先入観のおかげで、小学生の時履いていたDC*1のスニーカーをシャネルのスニーカーだと思われていたことがあります……。「長井さんそれシャネル? さすが!」って声をかけてくれたあの子とは、その後第一印象のちゃぶ台返しが成功してマブダチになれたからよかったけど、ちゃぶ台を返せず敬遠されたまま終わってしまった人もたくさんいる。当時の自分にとって「大人っぽい」「クール」と見られることは、仲良くなれるはずの人たちを遠ざけてしまうものだった。

実際の私は、大きな声でふざけるのが大好きな子供で、大人になってもそれは変わっていない。静かにしているよりも騒ぐ方が好きで、六本木よりも赤羽が好き。落ち着きも大人っぽさもなくて、卑屈で黙っているのが苦手。要するにすごくありきたりで平凡な人間なのだ。

でも、どうやらビジュアルと性格にギャップがあり過ぎるらしい

私がただ静かにそこに立っていると、本当の私の姿がまるで見えてこないことに気づいたのは、お笑い芸人になりたいのにモデルになれと言われた8歳の時。今でもよく覚えている。

幼いながらに、これは良くないと焦った。隣のクラスのあの子がいつも私を睨んでくるのは、私がお喋りでお調子者の年相応なクソガキだってことを知らないからで、本当の私を知ってくれればきっと、睨むのをやめてくれるだろうと考えた。

思い立ったら即実行。そこからざっと18年間、私による私のためのスーパー雑魚キャラ劇場が上演され続けるのです……。

「ゴミクズニート」と自分を卑下した日々

誤解を解くのは大変だから、ならば誤解される前に、自分の望む第一印象をもたらそうと考えた私は、とにかく声がデカい人間になりました。だってほら、大人っぽくてクールな人ってあまり声を張り上げなそうでしょ? まずはその逆をいく声量。

それからとにかくめちゃくちゃなことを言うこと。ビジュアルの印象を凌駕するトンチキなことを言えば、注目が外見から内面に移ると思ったのだ。「キウイの真ん中ってバナナなんだよ」が私の4番。自分でも意味は分かっていません。

大人になるにつれて、今まで「友達」しかなかった関係性コマンドに「気になる人」「好きな人」など恋の欄が加わってきたときには、もう大混乱。どんなキャラを演じればいいのかが分からない。結果、やっぱり気になる人が相手でも、静かにしてるとお高く止まっていると思われてしまうから、できるだけ安く安く、相手が緊張しないような人間でいることを心がけた。できないことばかりの、情けない人間。警戒する必要のない存在。

その後、歳をとっても変わらないビジュアルの印象に加えて、肩書きにモデルが乗ってしまった私は、もう誰がどう見ても「なんか雰囲気出してる女」で、それがとても居心地悪かった。

少しおしゃれをするだけで「めっちゃ気合入ってる」と言われ、芝居を見に行くと「なんかモデルらしいよ、つまんなそう」と囁かれる。その全てが嫌で、私はとにかく「ガバガバであること」を目指した。隙があるなんてレベルじゃなくてズロズロ。プライベートで化粧は絶対にしなかったし、二言目には「いや、クズなんで」と自分を卑下する。「ゴミクズニートですよ」と笑顔で言うと、面白いくらいに相手の態度は柔らかくなった。

長井短さん写真1ズロズロすぎてクソダサポーズを取る私

次第に飲み会に誘われることとか仕事を振ってくれることも増えてきて、「あぁやっぱりこの振る舞いで正解だったんだ」と自信がついてくる。「どうせ暇でしょ?」と言われるのがうれしくて、みんなにもっと舐めた態度で私に接してほしかった。伝染したタイツをはいて出かけると「ねぇ〜やば過ぎ〜!」と笑ってもらえるし、できないダンスをすればみんなが私を馬鹿にしてくれる。終電なんて逃すものだと思いこんでいた。もう飲みたくないと思っても、モデルだから身体に気を使ってると思われるのが嫌で飲み続けた。

大きな声で馬鹿なことを言ってお腹を見せ続ければ、私は自分のビジュアルに勝てるんだって実感が押し寄せてくる。みんなの私への印象と実際の私の性格にほとんど齟齬がなくなってきたように思えて、この調子だこの調子。こうやってもっと、ビジュアルなんて吹き飛ばしてしまえ。上演時間が延びるにつれて、当初は本当の自分を知ってもらうためだったその振る舞いはどんどん大袈裟なものになっていった。

そんなあるとき、飲み会で私のことを「長井は女として見れない」と笑う男性がいた。私はそれが本当に、心の底からうれしかった。私にはその言葉が「友達だよ」って言葉に聞こえたの。だけどその後の女性の一言で喜びが揺れる。

「わかる〜、私の彼氏も長井とは付き合えないって言ってた」。

この人は、私のいないところで、私のことをどんなふうに話しているんだろう。会ったことのない貴方の恋人に、無理と言われる私って。一度考え始めると気になって仕方がない。「暇でしょ?」って連絡してくるあの人は、「化粧しないとかヤバ過ぎ」と笑うあの人は、「こんな人だったんだ〜」って驚く貴方は、私をどんな人だと思っていますか?

みんなが笑っても「私だけ」笑えなくなった

私はどうしてもビジュアルに勝ちたくて、手を尽くした。その結果、ほとんど自分の理想的状況に持ち込めた。誰も私を睨んだりしないし、気取ってると思われることもない。私は実際の私通り、やかましい普通の人間だと思われている。

でも、目的を果たしたのに自分がどこにいるのかわからないのは何故だろう。気を使わないでほしいとずっと思っていた。怖がらないでほしかった。それが叶ったことの証明が、みんなの私への態度だ。馬鹿にしてくれるのも、邪険にするのも、みんなが私をお高く止まったモデルだと思っていないからで、それはうれしいはずなのに、大きな声で象の勃起の話をしている自分を好きだと思えない。ひどい目にあった話をしてみんなが笑ってくれていても、私だけはうまく笑えない

完成前のかさぶたを剥がして見せればみんなが笑ってくれるけど、私は痛いのだ。痛さに気づくと、理想の私が何か分からなくなってくる。めちゃくちゃ血が出てるけど、その状態って本当に理想だろうか。「普通の人」だと思われたかった発端は、人に好かれたいっていう気持ちだったはずだけど、その「人」の中に、私は含まれてないの?

私は、私に嫌われても私以外に好かれればオッケーなのだろうか

それは嫌だ。だけど、それを認めたら今までの自分を全部否定することになりそうで怖かった。じゃあ、これからも血を出したまま生きる? どうするの? 簡単に答えは出ないし、突然居方を変えることもできない。培っちゃった関係性があって、クソ雑魚ナメクジ人間から大ジャンプでシリアスな存在にはなれないのだ。

けっきょく、これでいいのかなって気持ちのまま2年も過ごしてしまった。今までなら無邪気に笑えた「バカじゃないの」って言葉にうまく笑えなくて、かさぶたも剥がせなくて、だけど誰も私の変化を知らない。「どうせ暇でしょ」って言葉に「その日は無理です」って返すと、光の速さで目配せが起きたのを見た。

ちょっと自我を見せるとすぐこれだ。やっぱり、頭のおかしい巨人でいないと睨まれる。でも、みんなは悪くないのだ。みんなは、ただ私が手渡した取扱説明書に乗っ取って、私を馬鹿にしているだけ。自分で書いた説明書の責任は自分で取らなきゃいけないと思ったし、だから2年も踏ん張ったけど、ごめんやっぱ無理。だって、私は雑魚じゃない。

相手のために血を流すことのないモデルの現場

雑魚として関係性を作ってしまったがんじがらめのコミュニティに身を置く一方で、モデルの現場は淡白な関係性の上に成り立っている。ショーの当日に集合して、終わったら帰る。フルネームも知らないし、分かるのはインスタのアカウントだけ。あまりにもシンプルな関係だからか、そこで出会う人たちはみんな屈託がなかった。

ショーの最中、舞台裏で着替えながら「さっきの衣装すっごく似合ってたね」って褒めあったり、「ねぇ、それ羽出てない?」って股間を指差しあったり、「オーディション全然受かんねーな」って笑いあったり。

私はただそこにいるだけで、誰かを笑わせなきゃとか、安心させなきゃなんて気持ちには全然ならなかった。相手のために血を流すことのない場所はとても穏やかで、「ここと、あそこは、何が違うんだろう」と考えるようになった。私はどうして、あっちではそのままの私でいられないんだろう。

いつだったか珍しく、仕事終わりに飲みに行ったことがあった。その日初めて会ったモデルの女の子とノリで居酒屋に行ったのだ。さっきまでは楽しくおしゃべりできてたけど、ここからはどうしよう。せっかく一緒に飲んでくれるんだから何か楽しい話題を提供しなきゃってかさぶたに手をかける。だけど、ここでかさぶたを剥がしたらいつもと同じだ。この、目の前にいる女の子は、いつものクソ雑魚ナメクジの私のことなんて知らない。それなら、さっきまでと同じようにただ普通に喋ってみてもいいんじゃない?

「なんかさ、私子供の頃からずっと背高いんだけど」
「あたしも〜」
「だからかさ、すごい怖いやつだって思われること多くて」
「めっちゃ分かる〜」
「どうしてる?」

私よりずっと、堂々と飾り気のない立ち姿の彼女なら、何か答えを持ってるんじゃないかと思って、思い切って相談してみた。

「ん〜嫌だなって思ってる時期もあったけど、最近は無視してるよ」
「え、すご」
「だってさ、結局本当はどんな人かって分かんないじゃん。どうせ分かんないんだから、もう好きにすれば〜って思って。いろいろ考えるのもダルいし」

気怠げにタバコを吸いながらそう言った彼女はこの話題に大して興味がないみたいで、「てか事務所どう? いい?」と仕事の話に切り替わる。私は、確かに今自分に雷が落ちた感覚があったけど、とりあえずそれは置いといて、ただ目の前の彼女と喋った。思ったことを、思ったように。連絡先も交換せずにバイバイした彼女は、今頃どうしているだろう。

全ての場所から同じように見えるものなんてない

今思えば、「どうせ分からないんだから、好きにすれば」ってのは全くその通りで、どうしたって私は貴方のことを、貴方は私のことを分からない。

それだけは分かっているはずなのに、貴方が私に抱く第一印象を操作しようとするのはちょっとやり過ぎだったかもなと思った。分かり合えているつもりの友達が抱く私のイメージだって、本当の私とぴたりと一致しているとは限らないのだ。

私が「こう思われたい」と考えるのと同じように、相手だって「こう思いたい」って意思がある。「冷たそう」とか「スカしてる」とか思う人は、はなから私を嫌いなのかもしれなくて、それならそれで仕方ないじゃんね。私を嫌いな人に好かれようとしても意味ないもんね。「どうぞ、好きなように私を見てください」って気持ちで毎日を過ごしてみると、途端に視界が開けてくる。

私は、第一印象を操作しようとするのをやめた。人に好かれるために雑魚になることもやめた。もちろんやめたことでギスギスもしたし、雑魚として付き合ってた人たちからは「なんか調子乗ってない?」って目で見られたり敬遠されたりもしたけど、これでいいのだ。

思いたいように思ってください。調子に乗ってると貴方が感じるなら、きっと貴方の中の私は調子に乗っている。でも私の中の私は調子に乗ってなくて、ただ普通にそこにいるだけ。座席によって劇の見え方が変わるのは当たり前で、全ての場所から同じように見えるものなんてない

長井短さん写真2楽しいから「普通に」笑うようになった現在の私

スーパー雑魚キャラ劇場を終演して友達が減ったし、自分を大切にしたいからフットワークも重くなった。でも、そこからゆっくりだけど、私はまた新しい人間関係を築けている。

過剰に面白かったり、過剰に近しくなるんじゃなくて、目を凝らさないと分からないグラデーションの中に生まれる少しの面白さとか柔らかい平凡さ。そういう、ありきたりとも取れる時間を楽しむ私を見て「結婚して落ち着いたんだね」って言う人もいるけれど、どうでしょうね。やっぱり、思いたいように思ってください。



※2021年1月13日17:15ごろ、記事の一部を修正しました。ご指摘ありがとうございました。

著者:長井短

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1993年生まれ。東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍中。読者と同じ目線で感情を丁寧につづりながらもパンチが効いた文章も人気があり、様々な媒体に寄稿。恋愛メディアAMにて「内緒にしといて」、yom yomにて「友達なんて100人もいらない」、幻冬舎プラスにて「キリ番踏んだら私のターン」を連載中。ドラマ「真夏の少年」、FOD「時をかけるバンド」に出演中。
Twitter:@popbelop

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編集/はてな編集部

*1:DCシューズ。アメリカのスポーツ用品メーカー