仕事帰りの平日夜、休日のリラックスタイムにお酒を楽しむという方も少なくないのでは。でも、いつも同じお酒ばかり選んでしまって冒険できない……なんてことも。いつもよりちょっと贅沢気分を味わいたいとき、普段選ばないようなビールを楽しんでみるのはいかがでしょうか。コンビニやスーパーでも比較的購入しやすい「ちょっとリッチ」なビールを、ビアライターの富江弘幸さんに紹介していただきます。
こんにちは。ビールライターの富江弘幸と申します。
キンキンに冷やして、ゴクゴクとのどごしを楽しみ、飲んだ後はプハーッとやる。ビールはそんな楽しみ方だけではない、ということを伝える活動をしているライターです。もちろん、ゴクゴクプハーもひとつの楽しみ方ではあるのですが、ビールのおいしさ、楽しさは無限大。その無限大のほんの一部を、著書『教養としてのビール』(サイエンス・アイ新書)にまとめています。
皆さんは、普段どんなシチュエーションで、どんなビールを飲んでいるでしょうか。特に銘柄も気にせず飲んでいる方もいるでしょうし、お財布のことを考えて発泡酒を飲んでいる方もいるでしょう。
だんだん気温も上がってきてビールがよりおいしく感じられるようになってきましたが、そんな季節を有意義に過ごすために、ビールの選び方や飲み方についてご紹介したいと思います。
ビールは苦いのでちょっと……と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなビールばかりではないということをまずはお伝えさせてください。
甘いビール、酸っぱいビール……ビールの楽しさは味わいの多様性にあり
ビールは多様性のあるお酒です。甘いビールもありますし、驚くほど酸っぱいビールもあります。ビールとはこういう味という先入観を捨てて、楽しんでみてください。
でも、ビールの味も分からないし、何をどう選んだらいいか分からない、という方も多いでしょう。
そこでまず、「ビアスタイル」について知っておいてほしいのです。
ビアスタイルとは、ビールの味わいや製法での分類です。原料や製法を変えることで、フルーティーなビールやロースト感のあるビールなど、さまざまな味わいになるのですが、その味わいの種類によってビアスタイル名が付けられています。
ビアスタイルを知っていれば好みの味わいにたどり着きやすくなるので、まずはスタイルも合わせて覚えてみてください。
今回は、ビール初心者の方でも覚えて損はない、以下のスタイルと、ちょっと「リッチ」な気分になれるビールを紹介したいと思います。
・ピルスナー
・ペールエール
・IPA
・ベルジャンホワイト
・スタウト、ポーター、シュヴァルツ(黒ビール)
ちなみに、ビアスタイルは百数十種類にも分けられます。ここで挙げたものは代表的なもので、このビアスタイルを知っておくだけでも、ビールの世界がグンと広がるはずです。
では、それぞれの特徴を解説していきます!
ビールといえばこれ! 親しみやすい味わいのピルスナー
まずご紹介したいのはピルスナーです。
ビールと聞いてまず想像するのがこのピルスナーの味わいだと思います。アサヒスーパードライ、キリン一番搾り生ビール、サッポロ生ビール黒ラベル、ザ・プレミアム・モルツなど、大手ビールで思い浮かぶ銘柄のほとんどが、ピルスナーというビアスタイルです。
黄金色に白い泡。ゴクゴク飲めて、後味にホップの苦味を感じるのが特徴。「ゴクゴクプハー」を楽しむには最適なスタイルです。また、すっきりした味わいで口の中をリフレッシュさせることもできるので、味の濃い料理や油分の多い料理と一緒に楽しむのもいいですね。
クラフトビール*1と呼ばれる銘柄の中にも、ピルスナーがありますので紹介したいと思います。
コエドブルワリーは、埼玉県の川越市にある醸造所(醸造施設は東松山市)。レギュラー商品として6種類*2のビールを販売していますが、そのうちのひとつがピルスナーのCOEDO瑠璃-Ruri-。
鼻を近づけると、さわやかで清涼感のあるホップの香りが漂います。口に含むと、軽い酸味と舌を引き締める適度な苦味が。口中にホップの香りがあふれ、じんわりと苦味を感じてフィニッシュ。もう一口、そしてまたもう一口とついつい飲んでしまう後口のよさ。ゴクゴク飲んでもいいのですが、まずはじっくりと味わってみてください。
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こしひかり越後ビール(エチゴビール)
新潟県産のコシヒカリを副原料として使用したビール。米を使用することで、すっきりとした味わいに。
Web:エチゴビール株式会社
小樽麦酒 ピルスナー(北海道麦酒醸造)
有機麦芽、有機ホップを使用したオーガニックビール。シャープな苦味が特徴の、さわやかで飲み飽きない味わい。
Web:北海道麦酒醸造株式会社
エールの基本といえばペールエール
ビールは酵母の違いによって、ラガーとエールに分けられます。ラガーの代表的なビアスタイルがピルスナーで、ラガーは全体的にすっきりしている傾向があります。
一方、エールは香りが特徴的なのですが、ペールエールがエールの基本と言ってもいいビアスタイルなのです。ペールエールは柑橘系の香りが主流で、麦芽の甘味や旨味も感じられ、苦過ぎもせず、甘過ぎもせず。
ピルスナーから一歩踏み出したいけど、あまりクセの強いビールはちょっと……と思っている方は、まずペールエールから試してみてください。
バランスのとれたこのビアスタイルを、ピルスナーの次に押さえておきたいところです。
ヤッホーブルーイングは、長野県佐久市にある醸造所。ビールにあまり詳しくない方でも、よなよなエールという銘柄は聞いたことがあるのではないでしょうか。よなよなエール以外にも、僕ビール、君ビール。やインドの青鬼、水曜日のネコ、など、ユニークなネーミングが目に付きますが、ビールのクオリティは抜群。
よなよなエールは、ヤッホーブルーイング創業当時から造られているフラッグシップともいえるビールです。特徴はホップによるシトラス香で、その香りを十分に楽しむためには、キンキンに冷やすのはNGです。推奨温度は13度。冷蔵庫から出して、10分くらい置いてから飲んでみましょう。
グラスに注ぐと、シトラスとカラメルを思わせる香り。飲み口は軽めですが、ほのかな麦芽の甘味とグレープフルーツの白い皮のような苦味が徐々に存在感を増してきます。ゴクゴク飲むのではなく、一口ずつゆっくりと味わってみると、口の中に広がるシトラス香にうっとり。
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キャプテンクロウ・エクストラペールエール(オラホビール)
フルーティーな柑橘香。エクストラというだけあって、ペールエールの中でもしっかりした苦味が感じられます。
Web:オラホビール
シエラネバダ・ペールエール(シエラネバダ・ブリューイング)
アメリカンペールエールの先駆け的存在。カスケードというホップを使った、シトラスアロマが魅力のビール。
Web:日本公式サイトなし
ガツンとくる苦味がやみつきになるIPA
いまのクラフトビール人気を牽引していると言われるのがIPA。インディア・ペールエール(India Pale Ale)の頭文字を取ったものです。18世紀末、イギリスがインドに住むイギリス人のために、船の長い輸送に耐えられるよう、防腐効果のあるホップを大量に入れたビールを造ったのがIPAの起源。
ホップは香りと苦味のもととなるものなので、IPAはホップの香りと強烈な苦味が特徴となっています。苦味があまり好きではない人にはオススメできませんが、この苦味にハマってしまう人が続出しているのです。
苦味は強烈ですが、柑橘系の香りと麦芽の甘味もあるので、ただ苦いだけではありません。苦いビールが好きという方は、ぜひ一度試してみてください。
長野県東御市にあるオラホビールが造るIPA。東御市は江戸時代の最強力士である雷電の出身地でもあり、雷電とその禁じ手「閂(かんぬき)」をモチーフにしています。雷電の隈取りと鮮やかな色合いで、ついつい手にとってしまう缶のデザインも魅力。
缶を開けると、グレープフルーツやパッションフルーツ、青々とした若草などを思わせる複雑な香りが鼻に飛び込んできます。一口飲めば、まずしっかりとした苦味が感じられます。その後は軽い酸味と相まって、シトラス系のフルーツのようなフレーバーも。そして、後味にはどっしりとした苦味。これぞIPA。
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パンクIPA(ブリュードッグ)
世界的に人気のIPA。苦味が強いだけでなく、麦芽の甘味、ホップのグレープフルーツ香のバランスが秀逸。
Web:日本公式サイトなし
フライングIPA(エチゴビール)
エチゴビールの一般的なビールの2倍以上のホップを使用。軽い口当たりながら、ガツンとくる苦味。
苦くない! フルーティーさが魅力のベルジャンホワイト
ビールの苦味が得意でない方にはこのビアスタイルをオススメします。
ベルギーが発祥のビアスタイルで、苦味はほとんどありません。一般的なビールの原材料に加え、小麦とオレンジピール、コリアンダーシードを使用することが多いビール。すっきりしていてフルーティーな味わいが特徴です。
ベルジャンホワイトは名前の通りベルギーが発祥のビールですが、このブルームーンはアメリカのブルームーン・ブリューイングカンパニーが造るビール。もともとはメジャーリーグの球場にある醸造所で造られていたものですが、人気になりいまや世界中に輸出されています。
グラスに注ぐと、ベルジャンホワイトというビアスタイルの通り、ここまでに紹介したビールと比べて、やや白濁しているのが分かると思います。
鼻を近づけるとさわやかなオレンジの香り。コリアンダーシードも副原料として使われていますが、フレーバーとしてはアクセント程度。少し口に含むだけで、軽いオレンジフレーバーが広がります。甘さはほのかに感じる程度ですが、いわゆるビールらしい苦味はほとんど感じられません。
普通に飲むだけでも十分おいしいビールですが、カットしたオレンジを添えて飲むのもオススメです。よりオレンジ感が増して、ジューシーかつリッチな味わいに。ぜひ一度試してみてください。
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水曜日のネコ(ヤッホーブルーイング)
白濁していないので、ベルジャンホワイトの中でも比較的すっきりした味わい。缶のデザインもかわいい。
ホワイトエール(常陸野ネストビール)
一般的なベルジャンホワイトの原料に加え、ナツメグとオレンジジュースも使用。さわやかでありつつクリーミー。
Web:常陸野ネストビール
ローストした風味がチョコやコーヒーを思わせる黒ビール
この記事では、「黒ビール」として紹介していますが、実は黒ビールとはビアスタイルの名前ではありません。黒い色合いのビールを総称してここでは黒ビールとしたいと思いますが、ビアスタイルで言えば、スタウト、ポーター、シュヴァルツなどがそれに当たります。
それぞれのビアスタイルとしての特徴はあるのですが、黒ビールに共通しているのがローストの風味。黒い色は麦芽をローストしたことによるもので、ローストすることでチョコレートやコーヒーを思わせる風味を出すことができます。
ゴクゴク飲むのではなく、じっくりと飲んでデザートと合わせるのもアリです。
黒ビールといえばギネスを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。缶のドラフトギネスの特徴は、中に入っているフローティング・ウィジェット(缶を持ってみるとコロコロと何か入っているのが分かります)によって、クリーミーな泡を作り出せること。
また、色が黒いと飲みにくいと思われるかもしれませんが、色のイメージに反して、軽い味わいでスムーズに飲めます。とはいえ、ドラフトギネスもゴクゴク飲むのではなく、じっくり飲んでいただきたいのですが、オススメしたいのがバニラアイスとのペアリング。
ドラフトギネスを買ったら、一緒にバニラアイスも買ってください。そのバニラアイスの上にドラフトギネスをかけてしまうのです。ロースト感は甘味との組み合わせが抜群で、アフォガートのような味わいになります。
他の黒ビールでも同じように楽しむことができますので、大人のデザートとして楽しんでみてください。
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スタウト(箕面ビール)
チョコやコーヒーのアロマとスムースな飲み口。すっきりした中にも軽い甘味があり、何杯でも飲めそうなスタウト。
Web:大阪・箕面(みのお)で生まれた地ビール 箕面ビール ::: MINOH BEER
アンカー ポーター(アンカーブリューイング)
口当たりなめらか。麦の甘味も感じられて飲みごたえはありながらも、後味はすっきりと軽い印象。
Web:日本公式サイトなし
コンビニやスーパーでもリッチな気分を味わえるビールが楽しめる!
ここ数年で、コンビニやスーパーにもいろいろな種類のビールが置かれるようになってきました。普段、あまりお酒売り場をチェックしていない方もいるかもしれませんが、気になったビールがあれば、ぜひチェックしてみてください。ここで紹介したビアスタイルを覚えておけば、自分の好みの味わいを見つけやすくなると思います。
取り扱いビールの種類が比較的多いのは、成城石井やローソン、ナチュラルローソンといったところ。もちろん店舗にもよるのですが、イトーヨーカドー、イオン、ヤオコー*3といった大きめスーパーも、今回紹介した商品を見つけられる可能性が高いです。
ちょっと疲れた仕事帰りにコンビニに立ち寄って、いつもとは違うビールを楽しんでみてはいかがでしょうか。いつも飲んでいるビールに100円〜200円ほどプラスするだけで、新しい世界が見つかります。
それでは、よいビールを。乾杯!
著者:富江弘幸
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編集/はてな編集部