キャリア形成にあたり、転職は重要なカード。やりがいや収入、異業種へのチャレンジなど、転職願望の背景は十人十色ですが、いずれも現状を打破したい、未来をよりよいものにしたいという思いが根底にあるはずです。
また、もともとは転職願望がなくても、周囲がステップアップしている様子を見て、自分も一度は転職した方がいいのかも……と漠然した不安に駆られる人もいるかもしれません。そこで今回は、転職経験者と未経験者の女性4名に集まっていただき、それぞれの転職にまつわる経験談や考えを語ってもらいました。
<<参加者プロフィール>>
人間関係に疲れるも、職場でリセットされるのも不安
Rさん 私はディレクターとしてニュース番組をメインに担当しているのですが、テレビ局ではなく制作会社の社員として働いています。いろいろな現場に派遣されるので業務量も千差万別なんです。大変な現場だと徹夜が続くこともあったり、上司の一存で夜遅くまで飲みに付き合わされたりと、ちょっと不満が溜まることも多くて……。
Rさん 悩んでいる時期に、別会社に勤めている同業の人に話を聞く機会があって。そしたら、うちの会社は残業代も出るし、業界のなかでは割と待遇もいいことが判明したんです。そうこうしているうち、異動で環境が向上したのと、やっぱり仕事自体は好きなので、今に至ります。
Mさん 私は半年で辞めた会社が毎日深夜まで働いて、金曜日は朝まで……みたいな環境だったので、早々に根をあげましたね。
Rさん それは正解だと思います。私の会社では定期的に異動があると分かっていたので何とか持ちこたえられたのかな、と思いますし、そうじゃなかったら本気で転職活動をしていたかもしれません。実際、過酷を極めていたときには鬱っぽくなっていて、電車のホームでふらつきながら「もうだめだ」みたいなことがありましたから。
一同 えー! それやばいですって!
Nさん 私は真逆で、これまで2回転職していますが、定時であがる人生を続けてきた人間なんです。デザイン事務所の事務職として働いていた頃は、デザイナーは夜遅くにクライアントから直しがきて、深夜まで仕事をする――の繰り返しだったので、自分だけ安全地帯にいるようで申し訳なさを感じて、こんなんでいいのかなと思ったことはあります。
Oさん 私はまだ1年目ですが、チームの皆さんがちゃんとフォローしてくれて、本当にいいメンバーに恵まれているなと思います。深夜残業が発生することもありますが、このご時世、こんなに人柄のいい人たちばかりの職場ってなかなかないよなと思って。本当に運がいいと思っているので、このチームにどれだけいられるかばかり考えています。これがもし別のチームに飛ばされて、メンバーが変わると転職が浮かんでくるのかなぁと。
Nさん まさに私ですね(笑)。前職は社長含めデザイナーが9割の職場で、私だけ事務職だったんです。なので、仕事で悩みを抱えたときとか、判断に迷うときに相談できる相手がいなくて。人間関係が嫌というよりは、疲れてしまって辞めました。同じ職種の人が複数いたり、人事異動があるような大きな会社だったりしたら、また違っていたかもしれませんが、そのときは環境を変えようとしか判断できませんでしたね。
Mさん 人間関係は難しいですよね。人事異動が珍しくない会社だったら、とりあえず異動の希望は出してみて、それでもダメだったら、転職を考えてみてもいいかもしれません。
Oさん 私はできれば一つのところで長く働き続けたかったので、就活のときに人間関係はかなり重視していました。私にとって何より大事なのは趣味のオタク活動。プライベートな時間を仕事で邪魔されるのは嫌だなと。「休日に社員でピクニックとか無理です」みたいなことは面接で伝えていましたし、その価値観を分かってくれる会社であれば、同じような考え方の人が集まっているはずだし、サバサバした人間関係が築けそうと思っていました。
Nさん 転職すると人間関係はいちから築かないといけないので、それはそれで大変ですからね。特に不満がなければ、同じ会社に留まることでの「人間関係の楽さ」というのもあると思います。あと、キャリアアップのための転職ならアリですが、業種や職種を変えるような転職だとキャリアがリセットされて下っ端からのスタートになる可能性もありますし……。
Oさん リセット! 転職するデメリットについて考えたことがなかったので新鮮です。
Nさん 新卒入社で勤続年数が長い友人は、その会社でしっかりキャリアを積んでいますし、部下を持つ人もいます。部下がね~という話をされると、謎の焦りが生じることもしばしばです。でも、Oさんのようなエンジニア職はスキルが評価されると思うので、職種を変えない限りそれまでの経験がゼロになることはなさそうです。
Mさん 確かに職種を変えるといろいろなことがリセットされがちですよね。私は最初に勤めたのが占い本をつくる出版社で、占いコンテンツばかりを手掛けていたので、「企画」と「女性向けコンテンツ」という2つの軸をぶらさずに転職先を選んできました。転職にあたっては、経験を生かせる職場かどうかを意識していたかもしれません。
Nさん 個人的に、職種を変えるなら第二新卒までなのかなというイメージがあります。私は今28歳。これからは己の経験だけが武器になるフェーズに入っている気がするので、漠然とした不安はあります。というか不安でいっぱいです!
Mさん 私は未経験ジャンルに挑戦するんだったら、30歳までかなと、なんとなく感じていました。同じ職種であれば、30歳を超えても大丈夫だと思うんですけど。ある程度、新しいことにチャレンジするなら20代のうちかなって。
Rさん 実はテレビ業界以外だと出版や広告に興味があって、ふんわりと転職を考えたこともありました。でも、新卒じゃないと転職のハードルが高い業界だな、と思って具体的には動けていません。さらに、今33歳なので、年齢的にも転職をしていないということは、一生この業界にいるのかな……と感じています。
あと、私自身に社会的な常識が身に付いていない気がするというか……テレビ業界、特に制作会社って服装もジーパンにパーカーですし、この歳から全然違う雰囲気の業界に入って、なじめるのかどうかみたいな不安もありますね。
Mさん 私自身はこの10年転職をしていませんが、趣味を持つ前の20代の頃は「こんな会社にいつまでもいていいのか」という飢餓感のようなものがあったかもしれません。だから、わりと短いスパンで転職していたように思います。ただ30代に入って一人旅や登山という趣味を持ったことで「仕事で成果をあげる」ことの優先順位が下がった感じがします。ちょっとぐらい嫌なことがあっても「でも休みを取れるからまあいいや」と考えて割り切れるようになったのかな。だから、私の場合は年齢というよりは、趣味を持ったことで仕事に対しての優先順位の付け方が変わったことが、転職する・しないに関係しているかもしれないです。
同じ職場で長く働く難しさを実感することも
Mさん 今の会社は旧態依然としたメーカーの風土が残っていてるように思います。女性は長く働いても基本出世は難しい。逆に早く結婚して子どもを産んで、時短でそこそこのパフォーマンスで勤めることはできますし、それが勝ち組的な見られ方をするところがありますね。なので、勤め続けることはできると思いますが、働き方は変えないといけないかもしれません。
Nさん 私はそういったことをあまり考えていなくて……。ただ、今の職場環境はとても合っているので、この職場でできるだけ続けたいな、と思っています。でも今の会社では長く在籍している女性がおらず、ロールモデル的な人がいません。そうした意味での不安はあります。
Oさん 私は、同じチームの直属の先輩が、社内恋愛を経て同僚と結婚されているんですけど、お互いバリバリ仕事しているのでいいなって思ってます。しかも、私と同じくバリバリのオタクで、すごく要領がよくて毎日定時で帰るのに生産性がとても高くて評価されているという。実は私も、今社内に好きな人がいるので、模範にしたいです。
Rさん そんな先輩がいたらいいですよね。私は逆にすごく優秀な女性ディレクターが、結婚してから別の仕事に回されてしまって。上司にも子どもが生まれたらどうなるか、とちらっと聞いてみたんですけど、「時短になると一番忙しい時間帯に現場にいられないから事務職になるだろうね」と言われ、ちょっとモヤっとしましたね。
Nさん ワークライフバランスを求めて転職するにしても、具体的に「こんなサポートをします」と明示している企業って少ない気がします。制度は書かれていても、「蓋をあけてみたら」なんてこともありそうで。
Rさん 私は子どもが欲しいと思っているので、年齢的にもそろそろちゃんと考えなければなりません。ただもし子どもを持つことになったら、現状だと今の仕事を続けるのは、なかなか難しいよな……とも思っています。
モヤモヤしている人は職務経歴書を書いてみるのもあり
Mさん 友人の中にも会社の愚痴が多かったり、転職したいと話したりする人がいます。でも、結局はずるずると働いているので、どうアドバイスしたらいいのかなといつも悩んでしまうんですよね。転職にはパワーが必要ですし、不満を持ちつつも会社に残る気持ちも分かるので……。
Nさん 「なんとなく転職」を考えているけれど、特に行動に移していないという人は、とりあえず転職サイトやエージェントに登録してみる、くらいでいいんじゃないかな。とにかくまずは自分のスキルや求めていることを棚卸したり、客観的に自分の能力を測って相談に乗ってくれる人に会いに行ったりした方がいいと思います。本当に転職するとして収入はどう変化するかとか、辞めてからのことが見えるんですよね。
Mさん 職務経歴書を書いてみると、自分のキャリアを客観的に見つめることができるんですよね。今はネットで探せば書き方も載っていますし、書いてみると自分の現在地が分かるような気がします。
Rさん 転職未経験者から見ると、転職経験者の皆さんはやっぱり身軽ですし、視野が広くてうらやましいなと思いますね。私はどうしても、今の会社しか知らないので、ここでどれだけやっていくかというのが前提になってしまいがちです。転職するときには、それまでの経歴が評価されて、その上で「自社に必要だ」と思われているわけですから、すごいなと。
Nさん 実際に動いてみないと分からないことってたくさんありますしね。モヤモヤしていたり、将来の展望が持てなかったりしたら、転職活動してみて自分の価値を測ってみるといいと思いますよ。そうすると、もしかしたら今の会社の良さに気づいて、前向きに踏みとどまることもできるかもしれないですし。
Oさん 私はまだ入社して間もないですし、今の職場が気に入っているので、できれば定年まで勤めあげたいと思っています。でも、長い社会人生活で何が起きるか分からないので、今回の座談会で知った転職のメリット・デメリットをしっかり胸に刻みたいと思います。
撮影/小野奈那子
※座談会参加者のプロフィールは、取材時点(2018年11月)のものです