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仕事と私生活、二つの“リモート”を経て感じた「信用の貯金」と「発信」の大切さ

 灰色ハイジ
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photo: hmsk

結婚を機に、アメリカと日本の二拠点生活をすることになった。思いがけない生活の変化によって働き方や気持ちにも影響があった。仕事面での一番の変化は、リモートワークになったことだ。そんな様子をつづりたいと思う。

◆◇◆

「リモート」は私生活から始まった

私の社会人生活に転機が訪れたのは2015年のこと。サンフランシスコに旅行をした際、現地に住む友人に突如プロポーズされたことだった。

すぐにアメリカへ引っ越しー、というわけにはいかなかった。夫はサンフランシスコでの仕事や暮らしが気に入っていたし、それは友人だったころから、私も応援していたことだった。同じように、私も日本でデザイナーとして続けていたい仕事があった。

結婚を機に、どちらかの都合でどちらかが仕事を辞めて相手について行くなんてことは、きっと世の中にたくさんあるだろう。ただ、私たちはお互いに好きな仕事をしていてほしかったし、働く姿が好きなところでもあった。だから自然と、それぞれの仕事の拠点であるサンフランシスコと東京を行き来する遠距離恋愛(後に遠距離結婚)をすることになった。

私はこれを「リモートライフ」と呼び始めた。ちょうど新たな働き方の形であるリモートワークという言葉をよく見かけるようになったころで、議論が重ねられる中、徐々に受け入れられている様子にリモートライフを重ね、前向きに考えられるようにしたかったのだ。

自宅では、それぞれ時刻が違う場所にいる夫と当たり前に話せるわけではないから工夫が必要になった。Dropbox Paperというドキュメント共有サービスを使って交換日記を始めたり、話題のきっかけとなるようにお互いの日常の生活風景の写真を共有したり。お互い部屋をビデオ通話で常につなぎっぱなしにして同じ部屋にいる様子を再現しようとしていた。

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部屋をビデオ通話でつないでいるときの様子

「リモートライフ」はどうやら間違っていなかった

夫とリモートライフを始めたころ、私は転職したてでもあった。この私生活の状況は入社初日の自己紹介で伝えていた。あくまでも日本で働きながら、有給休暇を使って定期的にまとまった休みを取り、アメリカを訪れる計画を繰り返すつもりだった。

しかし、7ヶ月ほど経つと、離れて暮らすのが正直なところしんどくなっていた。これが単身赴任であれば任期が決まっていることも少なくない。そういう先の予定が立っているものだったら平気だったかもしれない。でも、夫は現地の企業に勤めているから帰国予定があるわけではなかった。

「あれ? これって一生このまま離れて暮らすのだろうか?」

と思うと急に不安になったのだ。だからと言って「夫と暮らしたいから会社を辞めます」なんて、結婚によって仕事を諦めるようなこともしたくなかった。

悩んだ末に、私は勤め先の社長に「海外からリモートで働かせてもらえないでしょうか」と提案をしたのだった。会社ではリモートワークの前例はあったけれど、制度として整っているわけではなく、議論を何度か重ねた。大変ありがたいことに、最終的には私の人生を応援してもらえることとなった。

「リモートライフ」などと自分の生活をあらわしていた本人が、今度は本当のリモートワークをすることになったのだ。

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最近は日本にいるときは地元の新潟でのんびりと過ごしたり、ゲストハウスに泊まったり。
日本滞在中の方が旅行感が強くなってきた?

顔を合わせて話す機会も必要だということで、3ヶ月ごとに日本に帰ってくることが条件となったが、有給休暇を使っての渡米だとせいぜい1週間弱しか滞在できなかったので、3ヶ月も夫と一緒に暮らす時間が持てることは本当に嬉しかった。

就職が結婚やプロポーズに例えられることがあるけれど、働き方についての議論やリモートワークの仕方を設計する場面に向き合うと、リモートライフとリモートワークでやっていることは大して変わらず、家庭も会社も、うまくいくコツは同じなのではないかと思うことがある。

仕事もプライベートも、コミュニケーションをとる相手と離れていて何が一番つらいかと言うと「雑談」が難しいのだ。笑いが生まれることで心理的障壁が低くなり、相談がしやすくなるし、何より心の距離が縮まる。そのきっかけはたわいもない雑談だったりするのだけれど、離れていると偶然生まれることがあまりない。

リモートワークでは、業務以外の日常の様子も織り交ぜながら社員全員が見ることのできる場に日報を共有することで、会話が生まれやすくなった。これは交換日記や写真の共有など夫とのリモートライフ上で意識してやっていたことと全く同じだった。また、バーチャルな場だったとしても、Skypeなどのビデオ通話で人と話し、空間を共有したことも同様だった。

「リモートライフ」でやっていたことは、どうやら間違っていなかったのだと思う。

「丁寧さ」と「温度差」に注意する

私は転職と同時にフリーランスの仕事も始めていた。副業が認められている会社であることが転職の条件でもあったのだ。振り返ると結婚、転職、個人事業の開始……とにかくいろんなことが大きく変わる年だった。どれも新しいステップにワクワクしていた。

しかし、いろいろとフリーランスの仕事をいただけるようになってきたタイミングで、リモートワークを始めることとなり、大きな不安を抱いてしまった。

「1年の半分ほど日本にいないというのはフリーランスの仕事として成り立つのだろうか……?」と。

依頼をする側からしたら近くで顔を合わせられる人の方がいいに決まっている。実際にまだ日本にいたころ、フリーランスの仕事の打ち合わせが毎日のように入っていた。会社が渋谷にあったので、ランチ休憩の際や、夕方の定時後に打ち合わせを入れていたのだ。

でも、私がアメリカと日本を行ったり来たりすることになっても仕事をくれる人がいた。以前一緒に仕事をした方が継続で依頼をくださったり、自分のブログで発信した働き方についての記事を読んでくれた方が連絡をくださったり。

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サンフランシスコでの作業環境。夕方にようやく日本は朝

私は、リモートワークになってから意識していることが二つある。

まず、提案資料を対面でのコミュニケーションが可能なとき以上に丁寧に作るようになった。直接会って話せば済むことも、離れているために何往復もやりとりをしてようやくコミュニケーションがとれた……ということが起こり得る。資料のそばに私がいないような状況でも事細かに情報が伝わるよう補足を入れたりといったことを、対面のとき以上に心がけている。これは、東京で働き始めたころに培ってきたことで、「情報を整理する」というデザイナーにとって大事なスキルが身についていたからできたことかもしれない。

次に、コミュニケーションに温度差を作らないために気をつけているのは時間だ。MacとiPhoneそれぞれに日本とアメリカの時刻がすぐに見られるように設定して、アメリカにいるときでも日本時間を常に意識するようにしていた。私が起きている間は、なるべく先方がこちらの時差を意識しないように連絡へ応答するようにし、そうでなくても日本の翌朝までには返信するように心がけている。打ち合わせの時間を決めるときも、日本の日時で候補を出すことで相手が時差を気にしないで済むように意識している。

直接顔が見えないからこそ、仕事の丁寧さとコミュニケーションには強く気を使わねばと思う。それらが私の印象をほとんど決定づけるものになるのだから。

今は打ち合わせは遠隔になる旨を了承してもらえることを前提に仕事を受けているのだけれど、それでも依頼をもらえたときに“私”に依頼してもらえたんだ、ということはいつも純粋に嬉しく、自信につながっている。

逆に、「誰でもいいからデザイナーという肩書の人を欲しています!」「この期間、東京で打ち合わせに毎週参加できるデザイナーを探していて……」という感じの案件は来なくなった気がするし、拠点を理由に断りやすくなった。拠点の差異を越えても私へ仕事を依頼しようとしてくれるかが浮き出るようになったのだ。なんて使いづらいフリーランスのデザイナーなんだろうかと自分でも申しわけなくなる反面、ありがたいと思うに尽きる。

大事なのは「信用貯金」と「発信」

リモートを前提としたフリーランスでの仕事については「信用の貯金」と、ブログをはじめ、今も実存している証明としての「発信」が大事ではないだろうか、というのがこの2年ほどやってきた中での結論だ。

二拠点での生活になってから、人との接点が前よりも減った。そのため意識的に何かを発信しないと、仕事以前に自分の存在が失われていくような気持ちになることがある。また、新しい人間関係の構築も大事だけれど、近い距離で働いていたころの人間関係や、過去の実績に助けられることが多かったからだ。

そして忘れてならないのは、このリモートワークが決して私だけの力ではなく、例えばプロジェクトの規模によっては日本にいる人がクライアントとの打ち合わせを調整してくれたりなど、とにかく多くの人の協力によって成り立っているということ(本当にいつもありがとうございます)。

私は2016年に30歳になった。正直言うと20代のころは30歳という年齢に漠然と不安があった。でも、20代に積み上げてきたものが少なからずあるからこそ、30歳を迎えてこのような二拠点生活を実現することができているのだと思うと、これから先の人生がもっと楽しみになってきた。

著者灰色ハイジid:haiji505

灰色ハイジ

デザイナー&プランナー。アメリカと日本を行ったり来たり。緑茶とお米と夫が好きです。
ブログ:灰色ハイジの観察日記
ポートフォリオ:http://haiji.co/
Twitter:https://twitter.com/haiji505

次回の更新は、9月27日(水)の予定です。

編集/はてな編集部