東京での就職を夢見ていた私の「迷い」と「決断」

 あやや

あややさんイメージ

今でも覚えている。よく晴れた日の渋谷駅。青空にそびえたつ109のビルを横目に、私はリクルートスーツに身を包んで渋谷にあるとある会社の最終面接に向かっていた。もうすでに60社落ちている。ここで働くしかないという覚悟で向かった最終面接。しかし面接中、その会社の社長は私に一瞬も微笑んでくれなかった。また落ちた。

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大学進学と同時に私は高知から上京した。ひどい地方コンプレックスを抱いていた私は、大学は絶対に東京に進学すると決め上京。大学卒業後もそのまま華やかな東京の街で、ドラマに出て来るようなキャリアウーマンとしてバリバリ仕事をこなすのだと思っていた。私だけはなく周りの友人たちも、私はそうやって生きていくものだと、当たり前のように思っていた。

また、アイドルが大好きな私は、アイドル現場に通うにも東京にいた方が都合がよく、東京で働く以外の選択肢を考えていなかった。しかし蓋を開けてみると、世は就職氷河期。来る日も来る日も面接を受け続けたが、東京は私を欲していなかったのだ。

働くあてがなければ生きていけない。私は泣く泣く地元高知に戻ることにした。

アイドルの現場は遠くなるし、長らく憧れていた華やかな東京のキャリアウーマンにはもうなれないのだと絶望的な気持ちになった。

とは言え今後もアイドルを愛でていくにはお金がかかる。現場が遠くなった分の交通費・宿泊代は地方のヲタクには付き物。休んでいる暇はない、ととにかくまずはお金を稼ぐために高知でも就職活動をし、一社目の会社に就職した。

「やりがいがなさ過ぎる」が私にとってストレスだった

一社目の会社では毎日必ず定時の17時15分に帰れた。

帰宅してから十分に自分の時間が取れるのは健康的でとても良いことだと当初は思っていた。しかし「定時に帰れる」という響きは良いものの、日中の半分以上他のことを考えていてもこなせるような仕事内容だった。私はこんなふうに働きたかったのだろうか。東京でバリバリと仕事をこなすキャリアウーマンを夢見ていた私と、地方でゆったりした時間の流れの中で仕事をしている実際の私との落差にくらくらした。

ある日、体中に原因不明の蕁麻疹が出た。仕事中に痒みが止まらないため早退して病院に行ったら「働き過ぎじゃないですか」とストレスを疑われた。

そんな訳がない。

私は毎日定時で帰って好きなアイドルの情報を好きなだけ追いかけられる生活を送っているし、仕事も私のキャパシティの3分の1くらいの量しか振られない。もっと仕事が欲しいと願い出てもやる仕事がない。そんな私が「働き過ぎ」を疑われる資格なんてない。けれどもこの蕁麻疹がストレスからくるものであるならば、一つだけ心当たりがある。「働き過ぎのストレス」の真逆で「やりがいがなさ過ぎるストレス」だ。

毎日こなしている仕事には驚く程にハリがない。この蕁麻疹の原因はもしかしたら他にあったかもしれないが、このことがきっかけで自分には「仕事の充実度」が必要だったことを改めて実感し、私は転職に向けて動き出した。

転職活動で重視したのは、やはり第一に「仕事の充実度」。一社目は、東京での就職活動がうまくいっていなかったこともあり、

  • とにかく就職させてくれるところ
  • お金を稼げるところであればどこでもいい

という気持ちで決めてしまったところがあったが、1日の3分の1の時間をあててやる仕事が充実していないと、生活全体の充実度にもかなり影響を及ぼすということが一社目で身に染みて分かった。

そして第二に「東京とのつながり」もポイントに置いた。高知に帰って来たものの、東京への憧れの気持ちにまだ決着はついていない。東京に本社や支社がある会社に入れば、また人生のどこかのタイミングで東京へ挑戦できるチャンスが巡ってくるかもしれない。その二つを軸に転職活動をし、晴れて両方の基準を満たした会社に就職した。

二社目も一社目と同じく基本的には定時で帰れた。しかし一社目と違ったのは、毎日次から次へとやるべき仕事があり、他のことを考えている余裕はほとんどなかった。毎日くたくたになって帰宅していたが、それは良い意味での疲労感で、自分のキャパシティの中に適切な仕事量がはめ込まれている充実感があった。

一社目の悔しさをバネにコツコツと働いていたら、入社半年で成績一位を取ることができた。ようやく自分の能力を数字で示すことができ、自分自身が一番安堵していた。東京に欲されなかった自分にもう価値がないのではないかと思っていたけれど、「そんなことはない」ということを自分に対して証明しておきたかったのかもしれない。

再び転職を考えるも、辞めないことを決める

「仕事の充実度」「東京とのつながり」で選んだ二社目だったが、仕事の内容に注視するとやりたかった仕事とは少しズレていた。仕事の充実度はあるものの、果たして今後もこの仕事をずっと続けていける程楽しめているかというと、そうではなかった。

転職してまず自分の自信を取り戻すことができた。仕事の基本的なマナーや要領も覚えた。ここで培った力でもっと自分のやりたい仕事に挑戦してもよいかもしれない。二社目に入り3年がたった頃、私は再び転職を考えていた。

学生時代のアルバイト先で人を育てることの楽しさを覚え、人材育成の仕事を自分の将来的な選択肢の一つにずっと入れてきた。しかし東京での就職活動中、私は人材育成関連の会社を何社も受けて落ちていた。

そんな直後、人員枠の少ない社内の人材育成部署への異動が決まった。

上司からは異動にあたって、今よりも業務は忙しくなり残業が増える可能性が高いという説明を受けていた。これまで月に数えられる程度にしか残業がなかったが、そこから倍以上の時間残業することになると、自分の趣味にかける時間が大きく減ってしまう。

今ですら趣味にかける時間が足りないと思っているのに、果たして私は自分自身を保てていけるのだろうかという不安はあった。

でも、会社でコツコツと働いてきた姿が認められ、この話を頂けたのであれば、転職するよりもこの異動を受けた方がいい。私がもし朝ドラのヒロインならば、ここでこの話を受けないなんてない。

私は異動の話を受け、この会社で働き続けることを決断した。

異動してからは毎日定時で帰ることは難しくなった。今まで当たり前のようにできていたアイドルの番組をリアルタイムで見る、好きなDVDを繰り返し見る、その感想をブログに書く、それらはもう当たり前にできなくなり、毎日少しずつ娯楽にあてる時間は短くなっていた。

しかし一社目でアイドルを追う時間は沢山あれど、充実していない仕事をやり続けていた時のつらさを思うと、やりたい仕事をして充実感のある今の生活の方が断然自分のことを好きなままでいられた。

アイドルヲタとして、お金が稼げれば仕事は何でもいいと考えていた時期もあった。けれど、今後の人生アイドルヲタとして生きる時間よりも、社会で働いている時間の方が恐らく圧倒的に長い。私は、仕事にやりがいを求める気持ちをなくすことはできなかった。

「転職しない」決断をして、東京と和解した

あのときやりたい仕事をする決断ができていなかったら、ずっと自分に自信が持てないまま不甲斐なさを抱えて生きていたのではないかと思う。

幼い頃から将来のためにと勉強できる環境を整えてきてもらったのに、それが自分のやりたい仕事をするための武器として全く生かせていないことが長らく苦しかった。

何のために時間とお金をかけて勉強してきたのだろう、人生の選択肢や可能性を増やすためじゃなかったのか、自分が好きなものを好きなタイミングで選ぶためじゃなかったのか。東京で全く太刀打ちできなかった時に自分のこれまでの経験は何て脆いものだったのだろうと感じた。それがようやく、報われた気がした。会社を転々とするよりも、二社目でコツコツと結果を出し続けたことが良かったのかもしれないと今になって思う。

大学四年生の時の私は東京に欲されなかったけれど、「いつか東京に呼ばれる人間になろう」という思いで仕事をし、今の部署で東京出張も何度か経験した。スカイツリーに登って東京の街を一望した時に、少し東京と和解できた気がした。これも「東京とのつながり」がある会社を選んでなければ、ずっと心にわだかまりが残ったままだったと思う。

そして今も東京で働くという選択肢が全くなくなった訳ではない。東京への強い憧れの気持ちは、好きなことを仕事にできていることでだいぶ緩和されているけれど、またもしそういうタイミングがきたら、一度きりの人生、また東京にお世話になるのもありかなと思っている。

あのときリクルートスーツを着て渋谷を歩いていた私は、「自分にはもうやりたい仕事はできないのだ」ということをそろそろ自覚しないといけないと思っていたけれど、いつからでもどこでもやりたい仕事はできるよと教えてあげたい。

社会人人生まだまだ先は長い。これからも迷うこと、決断を迫られることは沢山でてくると思うけれど、自分で自分を騙さず正直に、やりたいことを選択していきたいと思う。







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著者:あややid:moarh

はるな檸檬さん

2001年夏、堂本光一さんプロデュースのジャニーズJr.内期間限定ユニット「☆☆I★N★G★進行形」を見てジャニヲタデビュー。高知在住。
Blog: それは恋とか愛とかの類ではなくて

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編集/はてな編集部