Aマッソが“テレビ”に固執しない理由「売れてへんのやから、捨てるもんは何もない」

Aマッソのお二人

小学生時代からの幼馴染みでもある加納さん、村上さんで結成されたお笑いコンビ「Aマッソ」。近年、その尖った芸風がじわじわと注目を集めています。

テレビでの出演も徐々に増加しているお二人ですが、実は「テレビ」で求められていることに対して違和感を覚えることもあるそう。8月末に単独ライブを控える彼女たちに、テレビで求められることと自分たちの芸風のギャップ、女芸人という枠組みの中で仕事をする上で感じることなどについて伺いました。

テレビで求められることが、全てではない

お二人のコントで「進路相談*1」というのがありますよね。村上さんが将来の夢について相談する生徒役で、先生役の加納さんが偏見に満ちた発言で止めるネタの。このコントが注目され、テレビでも披露してほしい、というオファーもあると聞きました。

Aマッソ「進路相談」

ラーメン屋を開きたいという夢を持つ生徒と先生との掛け合いの中で、「『男女なんて関係ない』なんて言ってるのは大体女」といった加納さんの発言から、「Aマッソ」に関する話題になっていき、昨今の女芸人の立ち位置や、Aマッソが世間からどう見られているかを皮肉るコント。
(内容一部抜粋)
加納「Aマッソってお笑い芸人知ってるか? ああいう女芸人が一番嫌いなんや。見方わかれへんやろ」
加納「女芸人が最近がんばってる、みたいな言われとるがあれ嘘やぞ! テンプレートが蔓延してるだけじゃ!」
村上「先生は考え方が古いんです!」
加納「古くて結構! これが世論じゃ!」

加納 今、あれ(進路相談)が名刺代わりみたくなってしまっているんですが、それも恥ずかしいんですよ。だってあれ、単独ライブでふざけて、最後にこんなんどうかな? って作ったやつだから(笑)。

Aマッソ村上さん、加納さん

写真左から村上さん、加納さん

そうだったんですね! てっきり女芸人としての立ち位置に対する鬱憤を吐き出したネタかと思っていました。

村上 本心でやってると思われがちですけど、そうでもないです(笑)。

加納 ものすごく悩みを抱えてると勘違いされてしまって、「あれをテレビでやってくれ!」と言われて出るんですが、本音を言えば「え、そんな苦悩してる二人に見える? そこまで思ってないけど……」って。

なんというか、皮肉ですね。お二人のネタって基本的に容姿や性別は関係ないフラットなものが中心ですが、ほぼ唯一「女芸人」であることをフォーカスした「進路相談」のネタでテレビのオファーが来るというのは……。

加納 まっ……たく悩んでないしな、と思いながらやらなあかんから難しいんです。

村上 めっちゃ悩んでる感じでいかなあかんからね。

加納 本心は全然ちゃうからなぁ~。「今後もっと、女芸人代表としてどんどん女に噛みついてくれ」とか言われるんですが、それについては「ホンマに違う!!!」って思っていて。

うちらがやってるネタは、ただの「ボケ」でしかなくて「女を斬る」という目的でやってはいないんで。ライブと違って、テレビって「使いやすい、ちょうどいいことを言う」のが求められるんですよね。これライブで言うたらウケんのに、収録で同じこと言うと「変なこと言った」みたいな空気になることも多い。

でもそれは、ライブのハードルが低いっていうわけではないと私は思っていて。たぶん、そのコメントがテレビ的に「必要じゃないから」なんですよ。

番組がほしいコメントじゃないから。

加納 そうやと思いますね。とにかく分かりやすいことが大事で。ボケにもいろいろな種類があるのに、一個ちょっと考えさせるようなことを言っただけで、「不思議ちゃん」とか「独特やなぁ」で片づけられる。それって考えることを止める口実だと思うんですよ。

村上 深夜番組向いてそう、とかな。

加納 「深夜番組でやれ!」とか「自分のイベントでやれ!」とか、よう言われるわ~。いや、そこを経てここ来とんねん! なんでまったく違うことを求められんねん!

それをうまいことやれよっていう話なんですけど……できないんですよね~。MCから期待されている回答を言うのがワンテンポ遅れる(笑)。

ポーズをキメるAマッソのお二人

伺っていると、お二人ともめちゃくちゃ正直でスカッとしますね。

加納 あとは例えば、30代で結婚の話を振られたら、何らかのキャラをやらなあかんことありますよね。「(結婚)できなくて困ってるキャラ」なのか、「したいと思っていないし! というキャラ」なのか。

村上 めんどくさいですね(笑)。

加納 あれめっちゃめんどくさい。そのキャラの前提で喋りを振られるのがしんど~~~っていう。何も思ってないし、ほっといてくれ!

テレビのバラエティって、テンプレ的な役割ごとにキャスティングされていますものね。たとえ本人の本音とは違ったとしても、一定の年齢を過ぎた女性タレントは「結婚できなくてつらーい」という回答を求められがち。

村上 みんなの優しい嘘で番組はできあがっているんです。

女芸人に求められる「笑い」

そういう役割に基づいて、女芸人をやっていると例えばブスキャラとか、セクハラ的なこととかでいじられることってあると思うんですが、それについてはどうお考えですか?

加納 最近それが問題になることも増えましたよね。芸人だけじゃなくて世の中的にも。もちろん、この流れのおかげで救われている人も多いですからいいことなんですけど、個人的にことお笑いに関してはそういういじり方が一概に悪いと言えない部分があると思うんですよ。

というと?

加納 それをセクハラだと主張するには、もうちょっとそれ無しでもオモロならんといけないんじゃないか、と。

正直今は従来のいじり方が勝っちゃってるし、それで笑いをとっている女芸人も少なくないと思う。今後、女性の権利を勝ち得ていざ表に出てみて、笑いの能力が追い付いてなかったら、私やったら恥ずいなって思ってしまいますね。

Aマッソさん

それで言えば、まさにお二人は自分たちから進んで「女芸人」的なところで笑いを取りにいってはいないコンビですよね。

加納 そうですね。ただ、テレビに出るとどうにも……。どこにもポジションがないな、難しいな、と思いますね(笑)。そんなにテレビに出る機会が多いわけではないのですが。

やっぱりテンプレ的な動きをしないと、「深夜番組でやれ!」ってなってしまうんですね。

加納 はい(笑)。とはいえ、どうしたって女芸人的なことをやらなあかんことがあるのも分かっているので、そこは受け入れています。

そうなんですね。じゃあ、例えばMCからセクハラ的な振りをされたとしても割り切っていらっしゃる……?

加納 何にも思わないです。MCが機転を利かせてオモロくしてくれようとした可能性もありますし、それって笑いの種類のひとつやから。お笑いとしてのネタと、世の中における女性の人権の問題については、一緒にせんで、切り離して考えなあかんと思います。

最近ありがたいことに、ライブでMCをやらせてもらうことが増えたんですが、MC中って、もうとにかくその場をどうにかしなあかんとか、この子の良さを生かしたろうとか考えながらやるんですよ。そんな中で、後から考えたらごめん失礼やったなと思えど、その舞台を機能させる上での必要悪というのは正直あります。

村上 あるある。

加納 だからそれが「笑い」であれば否定はしないですね。

もちろん、芸風的にこの方向でいじられるのはかわいそうやな、アカンなって場合もあるので、その女芸人がどんな笑いを表現したいのか、しているのか次第ですよね。

ネアカすぎて悩まない二人

「思ってもいないことを言わされる」ことがしんどいな~と思うことはあれど、基本的には女芸人としての立ち位置に悩んでいるわけではないのが、すごいですね。むしろ……なんで悩まずに済んでいるんでしょう?

加納 悩めよな! 悩めっちゅうねん! なんでそんなに明るいっちゅうねん(笑)。

村上 なんで悩まずに済んでるんだろう……? 今それ言われてハッとした(笑)。

加納 求められたことをできなかった“給料泥棒感”についてはいつもほんまにごめんなさいって思ってるんですよ。「ああ、すみません……金だけもろて。何の仕事もしてないのに。せっかくキャスティングしてくれたのに……」って。

そんな中でも、「テレビに固執する必要はないし、違うと思ったら言ってくれてええから。でもテレビでできることがあるんやったら可能性を探ろう」とキャスティングしてくれるプロデューサーさんもいて、ありがたいんですけどね。

村上 まあ、二人ともめちゃめちゃネアカなんですよ~!

加納 もう基本なんも考えてないんですよ。そもそもコンビ組んだときも、(村上を指して)なんも考えてなかったから(小声)……、乗ってくると思って誘ったら、いけてん(笑)。

村上 就職しようとしてかまぼこ工場にインターンシップとか行ってたんだけど……、やめた(笑)。

加納 釣れたわ。テキトーなルアーで(笑)。

Aマッソさん

お二人は小学校の頃からの付き合いなんですよね。

加納 小学校5年生から同じクラスで中学まで一緒で、高校は別で。

村上 (加納を指して)ウチが行きたかった高校に行きました……。

加納 点が足らんかったんや、学力が(笑)。

村上 C判定やった(笑)。

加納 コンビ組んでからもう12年? ながっ!

村上 ながっ! めっちゃ仲良し(笑)。

苦手なことは苦手、と割り切れる強さ

10年コンビでやってこられて、これからどうしていこうと考えていらっしゃいますか?

加納 今はインターネット番組を二つやっていて、ライブなどのイベントがあって、それで稼げたらいいなと思っているので、もっと大きくしていくのが目標ですね。

やはりテレビよりもネットやライブなどのメディアの方が自分たちに合っているという感覚でしょうか?

加納 そうですね。苦手なことってもう苦手やからね。それにずっと向き合い続けるのも時間の無駄な気もして。

村上 繰り返しになりますけど、思ってもないことを言うのはどうしても苦手で(笑)。それよりは得意なことを伸ばしていった方がね。

加納 収録中に顔にも出ているらしく、カメラマンさんに「ちょっと変な顔してたね」って言われますから!

そもそも売れてへん芸人なんて捨てるもんないんやから、「ゴールデンに進出せなあかん」、「こうせなあかん」と我慢するよりも、得意なことやったらええがなと。

強い。

加納 テレビの道に進んでも、ネタを披露するみたいな番組は今はほとんどないし、現状ではゴールがママタレとかみたいになっちゃうしなぁ。それゴールなんかい、って。

でも、親世代は「今はテレビじゃないから」っていうのは理解できひんから、親は「いつ出んの?」とはずっと言ってきますけどね。「あんたら、テレビ出れてんの?」みたいな。

村上 YouTubeを見せて、「ここに出てます」とかね。

加納 今はテレビ以外にも活躍の場があるの、親には分からへんから。

とはいえ、影響力ではまだテレビが勝つことを考えると、割り切り方が潔いです。

加納 そういう部分での焦りはないんですけど、向こう2年くらいの間にどれだけネタを生めんねんっていう焦りはありますね。自分で納得いくものをいくつ作れるか。だって10年後、今より面白いネタは絶対書かれへんから。脳みそ的に。発想とかも、絶対に今の方がいいはずやから、今のうちに生めるだけ生んでおきたいんです。

村上 ウチも背負ってもらわなあかんからさ……。

加納 重たい(笑)。

ほがらかなAマッソさん

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取材・執筆/朝井麻由美
撮影/小野奈那子
編集/はてな編集部

Aマッソ 第6回単独ライブ 東京・大阪で開催決定

Aマッソパンフレット

<公演概要>
第六回 Aマッソ単独ライブ「欄(おばしま)編集長の逆説」
○東京公演
日程:
2019/8/30(金)19:00開演
2019/8/31(土)13:00開演(追加公演)
2019/8/31(土)18:00開演
会場:東京・伝承ホール(東京都渋谷区桜丘町23-21)

○大阪公演
日程:
2019/9/11(水)19:30開演
2019/9/12(木)19:30開演
会場:大阪・HEP HALL(大阪府大阪市北区角田町5-15 HEP FIVE 8F)

チケット料金:前売3,800円(税込・全席指定)

お話を伺った方:Aマッソ

Aマッソさん

ワタナベエンターテインメント所属。幼馴染みの加納・村上でお笑いコンビ「Aマッソ」を結成、ネタ作りを担当する。キングオブコント2017でセミファイナル進出。また2016年、2017年連続でM-1グランプリのセミファイナリストに。
Youtube:Aマッソ公式チャンネル

*1:DVD『ネタやらかし』収録