アナウンサー、コラムニスト、ラジオパーソナリティ、コスプレイヤーなど、さまざまな領域で活躍する宇垣美里さん。今年の3月には5年間務めたTBSを退職し、さらに活動の幅を広げようとされています。
火曜パートナーを務めるラジオ『アフター6ジャンクション』では、筋の通った言動から"宇垣総裁"の異名を取るなど、注目を集める彼女。常に他者からの評価にさらされる厳しい世界に身を置きながらも、なぜ宇垣さんは“自分“を見失うことがないのでしょうか? 正解探しをしていたという新人アナウンサー時代から、話題を集めた「マイメロ論」のその後、そして宇垣さんの思う「自分らしさ」などについて伺いました。
共演者の一言で正解探しをやめた
宇垣美里(以下:宇垣) もともと書くことが好きで、国語の成績がほかよりも良かったりもしたので、文章を書く仕事に就くのかなと漠然と考えていました。大学に入ってからは、世界の政治にまつわる勉強にも面白さを感じるようにもなって、これは記者だろうと。
宇垣 アナウンサーって、全然身近な仕事に見えないじゃないですか? だから、自分には縁遠い仕事だと思っていて、そもそも選択肢になかったんですよね。ただ、もともとテレビは好きだったので、記者になるならテレビ局がいいなとは思っていました。
転機は、テレビ局の就活セミナーに参加したとき。セミナーのひとつにアナウンススクールがあったんですけど、参加してみたら楽しくて(笑)。どうせ受かる確率は低いんだから、それならどちらも受けてみようと。キー局の中ではTBSアナウンサーの試験がどこよりも早いんですけど、結果的に最初に内定をいただけたので入社を決めました。
宇垣 本当は報道の仕事がしたくて、海外派遣も希望していました。ただ、自分が求めていることと、求められているものにはギャップがあるなと。ひとつは自分で思っているよりも、自分の見た目が子どもっぽく、可愛らしい部類に入り、報道向きではない顔をしているらしいということ。それはテレビでは大事なことで、ルックスと発言内容に違和感があると伝わるものも伝わりませんから、入社直後に「あぁ、私は報道には行けないんだ」と悟りましたね。
宇垣 でも、納得はできました。諦めではなく、「いまは無理だけど年齢を重ねて、落ち着きや説得力が増せばチャンスもあるかな」と割り切れたというか。というのも、アナウンサーという職業は、自分が主体的に仕事を選ぶというより、「あなたにはこれがいい」と周囲から勧められたものが、結果として一番合っていると思うんです。もちろん、どうしても自分の信念と異なる場合は断ることも大切だと思いますが、バラエティやワイドショーに呼ばれたときは、「合っていると思われているなら、とりあえずやってみよう」と素直に受け入れられたんですよね。
宇垣 そうですね。最初はすごく正解を探してしまうところがあって、常に「なんて言えば喜んでもらえるだろう?」「どんなリアクションを取るべきだろう?」と考えていました。わりと受験をがんばった人にありがちのような気もするんですけど、何かと最適解を求めてしまうというか。通勤時の服装ですら、先輩方に「何を着るべきですか?」とよく質問していたのを覚えています(笑)。
宇垣 そうですよね。それで、私の場合は当時担当していた番組のMCの方に「あのとき、なんて言えば良かったのでしょうか?」とよく相談していたんです。そうしたら、あるとき「お前はいつも正解がなんだったのか聞くけど、正解なんかないから自由にやれ。正解を求めようとすること自体が怠惰で、思考停止だ。正解は自分で作り出せ」と言われて目からウロコが落ちて。
宇垣 その言葉によって、正解探しの呪縛から解放されたような気がします。実際にその方は、私が生意気なことを言ったり、その方と異なる意見を言ったりしても、「それが本心から出た言葉なら」と喜んでくださって、本当に助けられました。
自分を嫌いになる場所からは軽率に離れる
宇垣 イラッとくる一言ってあるじゃないですか。飲み会での「お酌しろ」とか、「彼氏作れよ」とか。内心、うるせえな!って感じですけど、そこでいちいち食ってかかっていたら、こっちの体力が持たない。だから、自分にマイメロを憑依させて、「私はマイメロだよ〜☆ 難しいことわかんなーい」って思うことで、目の前のことを無力化するという(笑)。
宇垣 私は、「自分を嫌いになる場所にいる必要は絶対にない」と思っています。人生にはいろいろなことがあって、嫌な思いをすることや、どうしてもうまくいかないこともたくさんある。でも、そういう苦しいときにできることは、自分が好きな自分でいることだけだと思うんです。
もし自分を嫌いになるような場所にいるなら、軽率にそこを離れればいい。私が怖いのは、人に嫌われるよりも何よりも、自分が自分を好きでいられなくなることなんです。自分を好きでいられなくなること以上のマイナスなんてないから。
宇垣 つい最近のことなんですけど、囲み取材をしていただいているときに、いきなり全く関係のない恋愛の質問をされたことがあって。そのときは笑って受け流しちゃったんですけど、楽屋に戻ってから受け流した自分のことが許せなくて、しばらく悶えていました(笑)。
おそらく、その場を丸く収めるという点では正解の対応だったと思うんです。でも、あまりにも無遠慮な質問だと思いますし、全然令和っぽくない! 質問された相手がどんな気持ちになるか、もっとさまざまな可能性を想像するべきだと思うんです。それなのに、私はそれを笑って流したことで、その質問を是とすることに加担してしまった。激しく後悔しましたね。
宇垣 「答える必要ありますか?」ですかね。いずれにしても、「私はその質問が好きではない」「答えたくないからというだけではなく、誰に対してもその質問をすることが許されると思ってほしくない」という気持ちを伝えたかった。ときには受け流すのではなく、NGの意思表示をすることも大切だなと最近は思います。もちろん、言える人が言えばいいだけで、みんながみんな「本音を言うべき」とは思いませんが、私は比較的心が強い方ですし、それを否定できる立場にもあったので。
宇垣 所詮、私は泡沫のような存在ですが、主張すべきところは主張できればと思っています。ちなみに恋愛質問の件は、連載コラムに書いて発散しました(笑)。
「書いた言葉」だけは自分を裏切らない
宇垣 私は、「書いた言葉」が一番正確に自分の考えを伝えられると思っています。言葉を口にするとニュアンスがうまく伝わらなかったり、怒ってないのに怒っていると誤解されたり、勢いで思ってもないことを言ってしまったりしますよね。でも、文字に起こして、誰かに読んでもらうまでに推敲を重ねる中で、一番確かな自分の声が見えてくる。書いた言葉だけは、少なくとも自分を裏切ったことは一度もないです。
宇垣 自分の想いも含めて、何かを言語化するのが好きなんです。言葉にすると色や形ができるというか、感情が把握できるようになるんです。なので、日記もつけていますね。例えば、舞台を見に行った感想とか、書かないと何が良かったのかも分からないから、なるべく言葉にするようにしています。刹那的な想いも残せば永遠になるので、あの時こう思ったとか書き残しながら振り返って読んでいます。
宇垣 毎週コラムがあるので、思ったことはそこに書けばいいと思っているのと、不特定多数に何かを公開したいという欲がないんですよね。変に自分のイメージを固めたくないし、「こういう人でしょ?」と言われたら真逆なことをしたくなる性分で(笑)。だから、ずっと「どんな人なんだろう」と思われる、謎の人でありたいんです。ある意味、カテゴライズに抗う一つの方法というか。
宇垣 それこそ私がTBSを辞めた理由の一つに、「何にもなりたくなかったし、何でもやりたかった」というのがあるんです。実のところ、いま肩書きにも悩んでいます。アナウンサーはアナウンサーなんですけど、文章も書くし、コスプレもするし……どうしましょう(笑)?
「本当の私」に対する執着がなくなり、これからもっと自由になれる
宇垣 睡眠時間が2時間で、ゾンビみたいな顔でもメイクさえすれば生気を帯びられるなんて、メイク最高じゃないですか(笑)? ピンク系のときは優しく、青系の時にはキリっとクールビューティみたいに、メイクによって自分の性格が変わるような気がするのも楽しくて。誰かのウケを狙うとかいう発想ではなく、完全に自分のために楽しんでいますね。
宇垣 そうですね。やはりあまりに派手なメイクは、視覚ノイズになってしまうと思います。ただ一方で、その中にも一つ抜けポイントをつくることもありました。例えば、自分の好みの赤めのアイブローにしてみたり、グリーンのマスカラをつけてみたり。ちょっとしたイタズラごころもありましたが、そうすると「だって今日まつげ緑だし!」ってギリギリのところで自分を支えてくれるんですよね。
宇垣 私は、自分らしさって相対的なものだと思っているんです。絶対的な自分らしさなんてなくて、多面的なもの。だから、自分を映す鏡である他者がいないと自分は存在できないと思っています。いまこの場でインタビューを受けている私、テレビに出ている私、友人といる私、家族といる私、全て違っていて当たり前だし、全てが自分だと思っています。
宇垣 そうですね。そういえば、TBSの内定が出たばかりの頃、「ぶりっこキャラ」って書かれたんですよね(笑)。最初はびっくりしましたけど、その記者さんから見たらそうだったんだろうなと。ただ、それを"私の全部"として引き受ける必要はないと思っています。
今は、「自分という人間を好きに切り取ってもらえればいいや」と達観しています。私をこう見てほしいとか、本当の私はそんな人間じゃないとか、そういった執着がなくなりました。
宇垣 まだ明確なことは分からないし、別にそれでいいとも思っているのですが、常にもっと広いところには向かっていきたいなと。最近、周りの人から、「30歳になったら肩の荷が降りて楽になるよ」とめちゃくちゃ言われるので、本当かな?と思いながらも、楽しみにしています(笑)。30代に突入したら、もっと自由になれるのかな、それっていいなって思っています。
撮影/小野奈那子
編集/はてな編集部
お話を伺った方:宇垣美里(うがき みさと)さん